津波による堤防等河川管理施設の被害

土木技術資料 53-8(2011)
特集:東日本大震災の津波災害とその復旧復興にむけて
津波による堤防等河川管理施設の被害
服部
敦 * 福島雅紀 **
新 北 上川 に 設置 さ れた 2箇 所 の水 位 観測 所 で観
1.はじめに 1
測された津波遡上時の水位経時変化を図-1に示す。
河川研究室は、本省・東北地方整備局の要請に
な お 、 2観 測 所間 にお いて 痕 跡水 位は 堤防 高を 下
より災害復旧等に資する情報を得ることを目的と
回 っ てい る。 下流 側の 福地 観 測所 では 1波 目の 津
して、北上川、鳴瀬川、名取川および阿武隈川を
波 遡 上 時 に 数 分 で 約 3mと い っ た 急 激 な 水 位 上 昇
対象に被災状況の概括的把握のための現地踏査を
が生じている。また、津波が上流へ伝播する波速
行った。本報では、現地踏査時に得た情報に東北
は 、 2観 測 所 で の 1波 目 ピ ー ク 水 位 間 の 時 間 差 と
地方整備局、国土地理院等による津波遡上の痕跡
観 測 所 間 の 縦 断 距 離 ( 6.37km) の 商 と し て 算 定
や映像など各種データを加えて、水位(川側と堤
すると、約8m/sとなった。
内側)や流れの向きについて整理するとともに、
2.2 河道内および堤内の津波痕跡水位調査結果
それと関連づけて堤防等の被災の形態や程度につ
東北地方整備局が実施した津波痕跡調査の速報
いてとりまとめた。とりまとめにあたっては、今
データを用いて河川研究室において整理した結果
後、さらに検討を深めていく際の糸口を引き出す
を図-2に示す。痕跡調査では、堤防のり面をはじ
ことを目的として、現段階で活用できる個々の現
め、橋梁、水門、堤内地の建設物や山裾部などで
地情報を組み合わせて現象の全体像の解釈を試み
確認された痕跡の標高を測定している。今次の津
た。したがって、以下の内容は現時点での解釈を
波は最大水位が河川堤防高を超えている区間があ
示した速報と位置付けられるものであり、今後の
り、その区間で得られる痕跡は、上記した河川堤
検討の進展に応じて適宜確認するとともに改める
防より高い構造物等に限られるため、データ数が
対象となりうる事項を含むことに留意されたい。
少ない。また、そうした構造物であっても水没し
たと推察されるもの、また山裾に津波が打ち上げ
2.河道内および河川近傍の堤内地における
津波遡上
られた高さ(遡上高)に相当するデータなどが速
報データには含まれている。今後データを精査す
2.1 河道内の津波遡上の概況
るとともに、津波再現計算などを併用して河川に
名 取川 への 津波 第 1波目 の 遡上 状況 を捉 えた 映
沿った川側・堤内側の最大水位の分布を明らかに
像 1) による と、河川 周辺の 堤内陸域 への津 波遡上
し て い く 必 要 が あ る が 、 今 回 、 図 -2の 作 成 に あ
に先行して河道内を遡上している状況が見られた。
たっては、その代わりとして現地踏査時の観察結
7.0
福地&飯野川上流(3/11 14:30~19: 30)
【飯野川上流】:HWL
【福地:8.57k】 1分データ
【福地:8.57k】 10分データ
【飯野川上流:14.94k】 1分データ
【飯野川上流:14.94k】 10分データ
6.0
水位(T.P.m)
5.0
【福地】:HWL
4.0
3.0
地震発生
14:46
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
14:30
図-1
15:00
15:30
16:00
16:30
17:00
17:30
18:00
18:30
19:00
19:30
新北上川における津波遡上時の水位変動観測結果(東北地方整備局よりデータ提供)
────────────────────────
A report on the field survey of the damages to flood control
facilities by the tsunami induced by the 2011 off the
Pacific coast of Tohoku Earthquake
- 22 -
土木技術資料 53-8(2011)
標高 (m)
14
現況堤防高(左岸)
現況堤防高(右岸)
のり尻左岸
のり尻右岸
左岸 河道
右岸 河道
左岸 堤内
右岸 堤内
果を踏まえて最大水位分布をご
く大まかに推定した結果を「大
川側のり面
堤内側のり面
12
破堤 破堤
未調査区間
10 左岸
8
左岸
山張り
出し部
左岸
川側のり面
破堤
右岸
堤内側のり面
きを付した曲線として表示する
山付
こととした。
のり尻舗装
山張り
出し部
右岸
山張り
出し部
国総研による現地視察時
に発見した痕跡に基づく概
略値
右岸
堤防天端高を基準とした堤内
側・川側の水位の高低の組み合
大まかな河道内
水位の変化傾向
6
わせから、河川への津波遡上状
右岸
況 を 図 -3 に 示 す よ う に 大 別 す る
右岸
左岸
4
新北上大橋
ことができる。なお、堤防水没
左岸:大まかな堤内
側水位の変化傾向
2
右岸:大まかな堤内
側水位の変化傾向
堤高
区間であっても、最大水位に達
右岸
するまでの間やそれ以降におい
0
(1)
0
1
2
3
左岸
4
5
6
7
(2)
現況堤防高(左岸)
14
らの越水が卓越する時間帯があ
現況堤防高(右岸)
のり尻左岸
のり尻右岸
右岸パラペット下
左岸 堤内
右岸 堤内
左岸堤内地痕跡
水位(T.P.)
右岸堤内地痕跡
水位(T.P.)
川側のり面
堤内側のり面
12
川側のり面
堤内側のり面
のり尻舗装
て、川側(河道内の津波遡上が
先行する場合)または堤内側か
縦断距離 (m)
(a) 新北上川
右岸 河道
まかな水位の変化傾向」と注書
左岸 河道
ると推察される。
2.3 堤 防 法 線 形 状 と 盛 土 ・ 山 脚
左岸
など高地部が津波遡上に与
右岸
える影響
のり尻舗装
10
標高 (m)
名取川、新北上川、阿武隈川
名取川橋
閖上大橋
右岸
8
の下流部の空中写真 2) に津波遡上
左岸
堤高
6
た も の を 写 真 -1 に 示 す 。 な お 津
右岸
4
右岸:大まかな堤内側水位
の変化傾向
の流向(写真上の矢印)と遡上
状 況 区 分 ( 図 -3 参 照 ) を 併 記 し
左岸
左岸:大まかな堤内側水位
の変化傾向
波遡上の流向は、空中写真から
右岸
判読した電信柱の倒伏方向また
2
は現地踏査で確認した植生倒伏
左岸
0
-1
0
1
2 縦断距離
(m)
3
4
5
から推定している。これら写真
(b) 名取川
標高 (m)
と 図 -2 に 示 し た 痕 跡 水 位 か ら 、
14
余裕高植生部
現況堤防高(左
岸)
川側のり面
堤内側のり面
12
小段簡易舗装
川側のり面
堤内側のり面
のり尻舗装
現況堤防高(右
岸)
左岸
津波遡上状況について以下のよ
右岸
うに整理できる。
( 1) 汀 線 に 対 し て ほ ぼ 垂 直 な 向
低水護岸被災
10
右岸天端パラペット
倒壊区間
のり尻左岸
のり尻右岸
8
右岸パラペットな
し(天端舗装面
高)
左岸河道
6
一部分
倒壊
きに概ね直線的に堤防が延伸す
亘理大橋
津波遡上に
対して外岸側
る場合
右岸
これに該当する代表例として、
左岸
名取川右岸が挙げられる。堤防
左岸
右岸河道
4
右岸堤内
左岸堤内地痕跡
水位(T.P.)
右岸堤内地痕跡
水位(T.P.)
(1.0)
水没区間では、河川堤防を挟ん
左岸:大まかな堤内側水位
の変化傾向
堤高
左岸堤内
右岸
で堤内・川側の両方向へ向かう
右岸:大まかな堤内側水位
の変化傾向
2
や天端舗装の剥離・流送方向等
痕跡が見られた。この区間より
上流では川側・堤内側とも徐々
0
0.0
1.0
2.0
3.0
縦断距離 (m)
4.0
5.0
に痕跡水位が低下するが、その
度合いが川側より堤内側のほう
(c) 阿武隈川
図-2 痕跡水位と被災状況の縦断分布
(痕跡水位・堤防等諸元は東北地方整備局よりデータ提供)
- 23 -
が大きいため、川側からの越水
土木技術資料 53-8(2011)
④
堤防水没区間
堤防水没区間
未調査
⑤
新 北 上 大橋
②
⑦
⑥
堤防越水
区間
閖上大橋
亘理大橋
高地部
(道路盛土)
高地部
(山脚)
堤防高以下
遡上区間
破堤
堤防高以下
遡上区間
今回の区間分 けは、痕跡 水位調 査の速報値 および現地踏
査の観察 に基 づき、概 略 を把 握するために行っ たも のであ
り、今後さらに精査することにより変更となる 場合がある。
(b) 名取川
名取川
(a) 新北上川
新北上川
写真-1
堤防越水区間
(c) 阿武隈川
阿武隈川
名取川橋
堤防越水
区間
堤防水没
区間
凡例:②、④~⑦:写真-2、4~7に示した被災箇所の概ねの位置
各河川の津波遡上状況(空中写真は国土地理院 2 ) から引用)
図-3
河川への津波遡上状況の 3区分
を伴う堤防越水区間、さらに上流には堤防高以下
点)が撮影されている 3)。
名取川の場合、道路盛土より上流では堤内側の
遡上区間となる。
( 2) 盛 土 ・ 山 脚 な ど 高 地 部 が (1)の 河 川 堤 防 に 隣
津波遡上水位が大きく低下している。
( 3) 川 側 の り 面 が 河 口 に 面 す る よ う に 堤 防 が 汀
接する場合
線に対して斜め方向に延伸する場合
これに該当する代表例として、名取川左岸およ
び新北上川左右岸が挙げられる。名取川の場合に
これに該当する代表例として、阿武隈川右岸の
は閖上大橋の道路盛土、また新北上川の場合には
河口から約1kmの範囲(湾曲部より下流の範囲)
山脚部が堤防近傍まで接近している箇所(山脚が
が挙げられる。この範囲では堤防水没区間におい
堤防には接続せず、間に水路が通っている)であ
ても、写真-2に示すように川側から越水によるの
る(写真-1(a),(b)に灰色矢印で示した)。
り面崩壊とのり尻での落堀形成が生じていた。ま
高地部において堤内側を遡上してきた津波がせ
た、堤防天端に設置されたパラペット上の金属製
き上げられて水位を増大させ、これが河川堤防を
手すりには、川側からの越水を示唆する植生の集
越えて川側へ越水したと考えられる。したがって、
積や流送物の衝突によると推察される変形が見ら
高 地 部 よ り 下 流 で は 堤 防 水 没 区 間 と な る が 、 (1)
れた。さらに、一部パラペットが倒壊し、堤内側
との差違は高地部の下流側近傍で川側へ向かう越
に 流送され ていた 3) 。以上 の状況か ら、こ うした
水が卓越することである。
区間では川側からの越水が卓越する場合があると
新北上川の場合、山脚部より上流では堤内側へ
越水する堤防越水区間となった。右岸側ではこの
推察される。
(4)津波遡上に対して外岸側となる湾曲区間
区 間 内に おい て 約 400mに お よぶ 破堤 が 生じ た。
これに該当する代表例として、阿武隈川右岸の
なお、山脚部より上流において堤防に隣接する水
湾曲部が挙げられる。阿武隈川の亘理大橋地点で
路に沿って遡上してきた津波が氾濫したと推察さ
は、左岸に比べて右岸側の痕跡水位が非常に高く
れ る 様子 (左 岸側 河口 から 3番 目の 灰 色矢 印の地
なっている。このデータは亘理大橋の高欄に引っ
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土木技術資料 53-8(2011)
図-4
堤内側の水位急上昇による侵食進行の抑制イメージ
かかった植物を津波遡上による痕跡と判断して得
隅 角 部 と そ の 周 辺 (写 真 -4)、 ② 特 殊 堤 区 間 (写 真 -
たものであり、津波到達を示す痕跡としての判定
3)、および③河道が湾曲している等のため河口か
の 信頼性は 高いと 考えてい る。後藤 ・首藤 4) によ
ら遡上してくる津波に対して川側のり面が向かい
る湾曲部を有する水路内の津波遡上に関する数値
合う形になる区間(写真-1(a))に位置していた。
計算結果においても外岸部で水位増大が生じてお
3.2 土堤部の越水による被災
り、亘理大橋の痕跡はこうした津波波高の変化を
捉えたものと推察される。
堤内側への越水流れによると推定される堤体の
侵食や基礎地盤の洗掘(落堀)は、写真-2に一例
を示したように堤体断面を大きく減じるものがあ
3.河川堤防の被災の特徴
ることから、破堤に次いで程度の大きな被災の一
堤防等河川管理施設の被災・変状等について、
形態と考えられる。これら堤防天端を切り欠く程
現地踏査時結果などに基づいて表-1に示すように
度(表-1の凡例で赤およびオレンジ区分)の侵食
定性的に分類した結果を図-2に併記した。この整
が生じた地点では、痕跡水位から堤防天端で最大
理結果に基づいて、河川堤防を対象として津波遡
1m程 度 ま た は そ れ 以 上 の 冠 水 が 生 じ た と 推 察 さ
上時の水位や流向と被災の形態や程度との関連性
れる。図-1に示した津波遡上時の水位変動に見ら
の観点から、調査対象河川に共通していると考え
れる急激な水位上昇、および河道内の津波遡上が
られる特徴、および個々の事象を組み合わせて全
堤内に先行して生じることを併せて考えると、上
体を俯瞰することで引き出せる現時点での現象の
記した冠水深に近い越流水深での堤防越水が生じ
解釈について整理して示す。なお、個別箇所の被
ていたと考えて良いであろう。このような強い越
災状 況について は写真入り速 報 5) を参照さ れたい。
流を受けながら破堤に至らなかった要因について
堤防・護岸の被災・変状の分類
は、痕跡水位や越水時を捉えた写真などに基づい
表のり
津波遡上流れによる侵食が主
草本植物が流れの作用で倒伏し
ているが、剥離はほとんど見られ
ない
裏のり
越水流れによる侵食が主
草本植物が流れの作用で倒伏してい
るが、剥離はほとんど見られない
て推定される津波越水の状況から、図-4に模式的
植生のり面
草本植物が部分的に剥離する。剥
離した部分は溝状に深く浸食され
る場合がある。
ガリ状の部分的なのり面植生の剥離・
堤体の侵食が生じた状態。落堀の形
成はない、または軽微。
植生のり面
草本植物が全面的に剥がれて裸
地化するのに伴い、のり面に侵食
による凹部が見られる。
全面的にのり面が侵食・崩壊し、鉛直
に切り立った状態。落堀の形成を伴う
場合がある。
植生のり面
草本植物が全面的に剥がれて裸
地化し、堤体土が侵食され元の平
坦なのり面形状を留めない。
のり面が流失し、さらに天端まで侵食・
崩壊が及んだ状態。落堀の形成を伴う
場合がある。
コンクリート護岸
特殊堤
護岸に若干の変状が見られるが、
機能上大きな低下はない程度のも
の
コンクリート擁壁により全面的に覆わ
れた状態を維持。機能上大きな低下
はないと判断される程度のもの。
コンクリート護岸
特殊堤
のり覆工が捲れ上がるなど、流失
した状況
コンクリート擁壁等が流失した状況
該当なし
堤防のり尻に隣接してアスファルト等
の舗装されている区間
表-1
のり面の状況
植生のり面
のり尻舗装
に示すような堤内側の水位の急上昇が考えられる。
新 北上 川の 場合 (写 真 -5)、 氾濫 原は 山間 の平 地
であり、そのため堤防から山地斜面までの距離、
すなわち平地の幅が狭いこと(特に下流側の山付
部 近 傍 )、 そこ に 大 きな越 流 水 深 での 大 量 の越 水
が急激に生じたため、さらに堤防際の水路を遡上
してきた津波の氾濫がそれに加わったため、堤内
地の水位が急上昇したと考えられる。この様子は
津波の堤防越水開始から堤内地が浸水していく状
況を時系列的に撮影した写真 3) から確認できる。
また阿武隈川の場合(写真-2)、河口にごく近いた
め、海岸堤防を越えて遡上してきた津波によって、
3.1 破堤地点
破 堤 に 至 っ た 地 点 は 、「 堤 防 水 没 区 間 」 ま たは
堤内側の水位が急上昇した可能性が考えられる。
「 堤 防 越 水 区間 」 に 分類さ れ る 津 波遡 上 が 生じ た
これら堤内側のり尻近傍の水位急上昇が堤防の
区間であり、かつ①河口部の海岸堤防と接続する
り面の侵食進行を抑制するウォータークッション
- 25 -
土木技術資料 53-8(2011)
写真-2
越水による侵食・落堀
(阿武隈川)
写真-5
越水による侵食・落堀
(新北上川)
写真-3
写真-6
図-5
特殊堤の破堤(鳴瀬川)
写真-4
海岸堤防との接合部での
破堤(阿武隈川)
川側への越水による損傷
(名取川 )
写真-7
遡上流による植生剥離・
侵食(名取川)
のり面の侵食進行に伴う植生の剥離 6)
と し て の 効 果 を 発 揮 す る と と も に 、 1mを 越 え る
あった。この理由としては、河川内の津波遡上が
ような激しい越水をクッション効果なしで受ける
堤内側より先行して生じるため、堤内側からの越
状況をごく短時間に留めたことが、破堤に至らな
水が生じる段階では川側ではある程度水位が上昇
かった要因の一つであると推察される。
しており、これが図-4と同様に越水を減勢するウ
阿武隈川の場合には、天端まで設置された護岸
ォータークッションとしての効果を発揮したため
が天端からさらに川側のり面まで及ぶ堤体侵食の
と推察される。以上より、越流によるのり面侵食
進行を抑制したことも要因として加えられよう。
の被災(破堤を含む)について検討するにあたっ
なお、堤内側から川側に越水した区間(名取川
て、津波遡上に関わる事項として「越流水深の大
(写真-6)) では、川側 のり面 に越流に 伴う損傷 が
き さ 」、「 堤 内 側 の り 尻 の 水 深 ( ウ ォ ー タ ー ク ッ
見られた。ただし、損傷はのり肩部など堤防上部
シ ョ ン の効 果 )」、「 越流の 継 続 時間 」 につ いて 着
で顕著であり、落堀は見られないまたは不明瞭で
目し、比較することが重要であると考えられる。
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土木技術資料 53-8(2011)
3.3 河道内の津波遡上流れによるのり面侵食
津波遡上に伴う流れによる川側のり面の侵食で
津波が遡上する際の流れの作用による土堤川側
は、概して堤防断面を大きく減じるような被災
のり面の損傷で最も著しいものは、全面的に植生
が剥離し、堤体土まで侵食が及んだものである
(名取川(写真-7))。しかし、3.2の越水による侵食
には至っていなかった。
③ 約 1mを 越 え る と 推 定 さ れ る 越 水 を 受 け な が ら
破堤に至らなかった一つの有力な要因として、
に比べると概して侵食の程度は軽微であり、川側
のり尻およびのり面の侵食進行を抑制する
からの侵食によって堤防断面が著しく減じた地点
ウォータークッションの効果を発揮するととも
は見られなかった。植生の剥離は、堤防水没区間
に、越水をクッション効果なしで受ける状況を
で多く見られ、堤防高以下遡上区間ではほとんど
ごく短時間に留めたと考えられる堤内側のり尻
生じていなかった。前者は河口に近いためある程
近傍の水位急上昇が考えられる。
度流速が速く、その継続時間も長めである箇所で
あったためと推察される。
④洪水流に対する堤防植生の耐侵食力の発揮機構
直轄区間のように毎年草刈りを実施している堤
に関する既往知見を適用して、高流速であって
防のり面の場合、植生の耐侵食性は侵食の進行に
もその継続時間が短い津波遡上の場合には、現
伴って地表面に洗い出された地表面近傍の植生の
地調査で確認されたように植生によってものり
根や地下茎が流水の抵抗となり、地表に作用する
面侵食が抑制できる場合があると考えられる。
侵食力が低減されることにより発揮されると考え
また、植生が全面的に剥離した区間において、
ら れ て い る 6) 。 そう し た低 減 効 果 の下 で も 図 -5に
比較的軽微な侵食で留まったのは、堤体土自体
示すように徐々に侵食が進行するため、ある一定
も粘着性があり、相応の耐侵食力を有する材料
の侵食深に達すると植物が根とともに剥離してし
であったことも要因の一つであると考えられた。
まい、植生の耐侵食性が失われる。この剥離が生
じるまでの時間が流速の増加に伴い、小さくなる
ことが実験によって確かめられている。
このような機構を考慮すると、津波遡上のよう
にある程度流速が速い場合でもその継続時間が短
ければ、植生によって十分に侵食防止が可能であ
ると考えられる。写真-7に示した名取川の左岸地
点では、その条件を越えて植生が全面的に剥離し
たと考えられるが、堤体が溝状に凹んだ程度の比
較的軽度の侵食で留まったのは、のり面が粘着性
を有する材料で構成されていたことから、流水に
対して耐侵食性を発揮したためと推察される。
4.まとめ
河川周辺における津波遡上時の水位(川側と堤
参考文献
1) NHK:津波の様子(宮城県名取市)
http://www3.nhk.or.jp/news/jishin0311/
2) 国土地理院:
http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/h23_tohoku.html
3) 東北地方整備局:北上川等堤防復旧技術検討会資料
http://www.thr.mlit.go.jp/Bumon/B00097/K00360/
taiheiyouokijishinn/kenntoukai/shiryou2_1.htm
4) 後 藤智明 、首藤 伸夫:河 川津 波の遡 上計算 、第 28
回海岸工学講演会論文集、pp.64~68、1981.
5) 服 部 敦 : 河 川 堤 防 等 被 害 状 況 現 地 踏 査 速 報 ( そ
の 2)(北 上川 ・鳴 瀬 川・ 名取 川 ・阿 武隈 川の 津波
による被災)、2011.
http://www.nilim.go.jp/lab/bbg/saigai/h23tohoku/
110319kasen.pdf
6) 宇 多 高 明 ほ か: 洪 水 流を 受け た 時 の 多 自然 型 河 岸
防 御 工 ・ 粘 性土 ・ 植 生の 挙動 、 土 木 研 究所 資 料 、
第3489号、1997.
内側)や流れの向きなどの流況、およびそれと関
服部
敦*
福島雅紀 **
連づけて堤防等の被災の形態や程度に関する検討
から得られた主要な結果を以下に示す。
①河川周辺の堤内陸域および河道内への津波遡上
状況を堤防法線形状と盛土・山脚など高地部の
配置によって4パターンに分類した。
②破堤に次いで被災の程度が大きい被災形態は越
水による堤内側のり面の侵食であり、河道内の
- 27 -
国土交通省国土技術政策
総合研究所河川研究部河
川研究室長、博(工)
Dr.Atsushi HATTORI
国土交通省国土技術政策
総合研究所河川研究部河
川研究室 主任研究官、
博(工)
Dr.Masaki FUKUSHIMA