名取川・鳴瀬川・七北田川河口部

平成 27 年 9 月 名取川・鳴瀬川・七北田川河口 豪雨災害調査報告(速報)
田中 仁・三戸部佑太(東北大学大学院工学研究科)
調査日:平成 27 年 9 月 12 日(土),22 日(火)
1. 概要
宮城県の河川河口部は 2011 年東日本大震災津波により大きな地形変化が生じ,河川管理上の問
題が生じている箇所が散見される(平尾ら 1)).津波前の地形には未だ回復していないこの時点に
おいて大出水の影響を受けたことにより,今後の各河川における河口維持に対して大きな影響を
与えるインパクトとなる可能性がある.本報告は洪水直後,およびそれから約 10 日後に実施され
た調査の速報をとりまとめたものである.
2. 名取川河口
名取川河口においては 2011 年東日本大震災津波後に河口砂州の回復が見られず,左岸中導流堤
が海域に孤立する状態であった(盧ら 2)).また,河道内に進入する波浪により海浜の砂が河道に
押し込まれ,治水上の課題であった.そのため,貞山運河合流部の水門の改築に合わせて,堆積砂
の浚渫が行われていた(図−1)
.今回の出水により,左岸の浚渫砂仮置き場が大きく侵食され三
台の重機が水没した(図−2)
.既往研究によれば,名取川河口においては洪水による砂州フラッ
シュ後に 1 ヶ月から 1.5 ヶ月程度で河口砂州が回復していた(渡辺ら 3))
.今後,河口左岸に海岸
堤防建設が行われることから,河口地形の回復過程とこれに伴う河口周辺汀線の変化について注
視する必要がある.
図−1 名取川河口(2015 年 8 月 21 日)
図−2 名取川河口(2015 年 9 月 12 日)
3. 鳴瀬川河口
鳴瀬川河口においても,名取川と同様に 2011 年の津波による河口砂州フラッシュ後,左岸砂州
の回復が見られない(盧ら 4))
.その後,河口部の浅化が見られていたが,今回の洪水により河口
部堆積土砂がフラッシュされた(図−3)
.一方で,河川上流から土砂供給もなされたことから,今
後の地形変化のモニタリングが重要である.
図−3 鳴瀬川河口(2015 年 9 月 12 日)
4. 七北田川河口
七北田川河口では北上する沿岸漂砂により右岸砂州が安定的に発達していた.今回の洪水によ
り右岸河口砂州が完全にフラッシュされた(図−4).東日本大震災後の災害復旧により右岸導流
堤が整備され,一方,左岸には既設の導流堤がある.出水によりこの左右岸導流堤間の全幅にわた
る流路が形成された.なお,右岸河道内に砂の堆積が見られる(図中矢印)
.これは,右岸導流堤・
河川堤防間の不連続な凹部を越波した波による砂の持ち込みによるものと推測される.建設途上
の右岸河川堤防の法尻部が洪水により侵食され,図−5 の 2015 年 9 月 22 日時点では法面の修復
が行われていた.田中
5)によれば,出水でフラッシュされた七北田川河口砂州は約二週間程度で
完全に回復する.図−5 によれば出水後 10 日経過しても右岸砂州の回復は見られない.これは,
図−4 七北田川河口(2015 年 9 月 12 日)
図−5 七北田川河口(2015 年 9 月 22 日)
右岸導流堤による沿岸漂砂の阻止によるものと考えられる.一方,左岸では蒲生干潟との間の石
積み締切堤の前面に砂の堆積が見られる(図中矢印).これにより,蒲生干潟における海水交換が
抑制されている可能性があり,汽水環境のモニタリングが求められる.
参考文献
1) 平尾隆太郎・田中 仁・梅田 信・Nguyen Xuan Tinh・Eko Pradjoko・真野 明・有働恵子:
東日本大震災津波後の河口地形変化の特徴と問題点, 土木学会論文集 B1(水工学), Vol.68,
No.4, pp.I_1735-I_1740, 2012.
2) 盧
敏・三戸部佑太・田中
仁: 東日本大震災津波後の名取川河口地形変化と課題, 土木学会
論文集 B2(海岸工学), Vol. B2-70, pp. I_511- I_515, 2014.
3) 渡辺一也・田中 仁: 第 12 章 名取川, 日本の河口(澤本・真野・田中編), 古今書院,pp.115122, 2010.
4) 盧
敏・田中 仁・三戸部佑太: 東日本大震災津波による鳴瀬川河口地形変化とその回復過程
に関する研究, 土木学会論文集 B2(海岸工学), Vol. B2-71, 2015.(印刷中)
5) 田中 仁: 七北田川において観測された中小河川特有の河口現象, 土木学会論文集, 第 509 号
/Ⅱ-30, pp.169-181, 1995.