ピロリ菌感染診断技術の改良と 胃がん発症予測検査法の開発

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ピロリ菌感染診断技術の改良と
胃がん発症予測検査法の開発
岡山大学 大学院保健学研究科
教授 横田憲治
岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科(医)
教授 岡田裕之 松下 治
助教 喜多雅英
概要(新規性・独自性・事業化等)
ピロリ菌(Helicobacter pylori)感染は、胃に感染し、萎縮性
胃炎、潰瘍、リンパ腫、胃がんなど様々な病気を起こす。日
本人の高齢者は感染率が高く、日本人全体では約半数の人が
感染している。胃がんは、日本人に多いがんであり、萎縮性
胃炎の進行した人に起こる。日本での胃がん検診は、これま
でバリウム検査が行われていたが、近年は、ピロリ菌感染を
確認のうえ、内視鏡検査を施行したほうが、胃がん発見の精
度が高いことが世界的な流れになっている。
今回、和光純薬工業と共同で、ピロリ菌の血清診断の改良
を行なった。様々な遺伝子タイプのピロリ菌抗原を作成し
(右表)、血清と反応させ、診断に有用な抗原を見出した。
こ の 抗 原 を 、 Spherelight WAKOの 自 動 分 析 器 に 導 入 し た
(右:ROC解析) 。
感染者の中から、胃がん発症する患者は、少数であること
から、胃がんを発症するリスクの高い患者を見出す検査法の
開発を試みた。
研究概要図
萎縮性胃炎の中から、胃がんを発症する患者を見出す検査法の開
発を試みた。
1)上記抗原を用いた、菌に対するIgGサブクラスの測定が、早期
胃がんの発症を予期できる可能性が示唆された。細胞性免疫で上昇
するIgG2と液性免疫で上昇するIgG1を測定したところ、早期胃がん
患者では、細菌抗原に対する細胞性免疫の低下が起こっており、胃
がん患者ではIgG1/IgG2比が上昇していることが判明した(右図
上)。IgGサブクラスを調べることにより、胃がんを発症しやすい患
者をスクリーニングできる可能性が示唆された。これを将来的に検
査キットに応用できれば、胃がんのハイリスク群のスクリーニング
ができる可能性がある。
2)また別の早期胃がん患者のリンパ球に発現している分子を見
出した。CystatinAは、マクロファージ内の抗原の処理を阻害する分
子であり、免疫反応に深くかかわっている。早期胃がん患者のリン
パ球でこの分子のmRNAの転写活性が上昇していることが判明した
(右下図)。将来的にこの分子の転写活性を簡単に測定できれば、
胃がん患者の早期発見に役に立つ可能性がある。
今後の研究により更にこれらの検査法の有用性について検討して
いく予定である。
キーワード
ピロリ菌、胃がん、検診、IgGサブクラス、CystatinA
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