研究員 の眼 - ニッセイ基礎研究所

ニッセイ基礎研究所
2016-03-18
研究員
の眼
【人口減少社会・国内市場の縮小】
現状を変えるヒントは「消費者の心を掴
む商品価値」にあり!
井上 智紀
(03)3512-1813 [email protected]
生活研究部 准主任研究員
先月末に公表された2015 年国勢調査の速報集計では、
わが国の人口は1億 2,711 万人となっており、
前回(2010 年)に比べ 95 万人ほどの減少と、人口減少社会に突入したことが確認された。都市部へ
の人口集中が続いていることもあり、まだ人口増加が続いている地域や、5~10 年前の時点で既に人
口減少が始まっている地域など、地域ごとの状況には差異はあるものの、2005~2010 年には7県とな
っていた人口が3%以上減少している地域が 2010~2015 年には 14 県に拡大するなど、多くの道府県
で人口減少の速度は早まっている。今後様々な業界において、人口減少による国内市場の縮小の影響
が現れるであろうことは想像に難くない〔図表1〕
。
図表1 都道府県別人口の増減率
2005~2010年
2010~2015年
-5%未満
-5~-3%未満
-3~-1%未満
-1~0%未満
0%以上
出所:総務省統計局「国勢調査」より作成
一方で、家計の消費支出の状況をみると、このようなマクロでのトレンドとは異なる状況も垣間見
える。通信費はその典型例ではあるが、携帯電話の普及に伴って家計の移動電話通信料は増加傾向が
続く反面、固定電話通信料は減少を続けた結果、2014 年には 70 代以上の世帯においても、移動電話
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通信料が固定電話通信料を上回っている1。このように、元々広く使われてきたモノを代替する商品が
普及することにより、支出が逆転する例にはほかに、眼鏡とコンタクトレンズがある。実際に、家計
の年間コンタクトレンズ支出は、2000 年ごろの 2,000 円程度から 2015 年には約 3,400 円に増加して
いる一方で、眼鏡支出は約 9,800 円から約 5,900 円へと減少している〔図表2〕
。世代別にみると、30
代では 2007 年に、40 代でも 2012 年に、それぞれコンタクトレンズと眼鏡の支出が逆転しており、50
代でも費目間の差が僅差となるなど、若い世代を中心に、視力矯正の手段が眼鏡からコンタクトレン
ズへと移り変わっていく様がみてとれる2。また、眼鏡に比べ歴史は浅いものの、コンタクトレンズは
その素材や機能における開発が進む一方で、カラーコンタクトレンズ(カラコン)のように、視力矯
正を目的としないファッションとしての商品も市場の拡大に寄与している。
図表2 眼鏡、コンタクトレンズ支出の推移
千円
12
10
9.8
8
8.4
7.5
6
8.3
8.2
8.5
8.1
7.7
7.3
6.9
6.6
6.7
6.3
6.5
6.8
5.9
4
2
1.9
2.1
2.1
2.3
2.3
2.7
2.6
2.7
3.0
3.0
3.3
09
10
3.3
3.4
3.5
3.6
3.4
0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
眼鏡
コンタクト
30代(眼)
40代(コ)
50代(眼)
50代(コ)
出所:総務省統計局「家計調査」より作成
(注)30歳未満および70代以上の結果は表記を省略している
11
12
30代(コ)
60代(眼)
13
14
15
40代(眼)
60代(コ)
では、避け得ぬ人口減少に加え、このように代替品に市場を奪われる状況が続く業界には、対抗す
る術はないのだろうか。
前述のとおり眼鏡市場は、全体としては縮小し続けているように見受けられるものの、PCのブル
ーライトカット眼鏡など「視力矯正」とは異なる機能を打ち出すことで機能性眼鏡市場という市場を
切り拓いた会社や、眼鏡フレームのファッション性と低価格を訴求することで支持を獲得している会
社など、眼鏡市場全体の縮小傾向に反して成長を続ける会社も見受けられる。これらの例が示すよう
に、眼鏡やコンタクトレンズは、ファッション性やブルーライトカットという、視力矯正とは異なる
機能を付与することにより、市場の裾野が拡がり、その中で消費者の支持を得た企業が成長を実現し
ている。このことは、既存の、ともすれば縮小傾向にあるような市場においても成長を実現する鍵は、
既存の用途といった枠を超えて商品に新たな意味を付与することで消費者の心をつかみ、支持を得ら
れるような市場をカタチづくることができるかどうかにあることを示している。発想の転換を促す柔
軟な思考が求められているといえよう。
1
移動電話通信料は年代を問わずほぼ一貫して増加傾向が続いており 30~50 代では 2002 年、60 代でも 2006 年に移動電話
通信料が固定電話通信料を上回っている。
2
コンタクトレンズ支出増加の背景には、使い捨てタイプなど使用期間が短い商品の普及拡大もあるものと思われる。
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