2016年3月18日 日本銀行札幌支店 北海道金融経済レポート 北海道における外国人観光客の消費動向と今後の課題 本稿の執筆は日本銀行札幌支店営業課 大島 あゆみ が担当しました。本レポートで示された意見 は執筆者に属し、必ずしも日本銀行札幌支店の見解を示すものではありません。 照会先:日本銀行札幌支店営業課 橋本(TEL:(011)241-5232) 本レポートはインターネット(http://www3.boj.or.jp/sapporo/)からもご覧いただけます。 本レポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行札幌支店までご相談 ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。 1.北海道を訪れる外国人観光客数とその消費動向 ○ 北海道を訪れる外国人観光客数は、2012 年以降増加が続いており、近年はその伸び率 が高まっている(図表1)。また、外国人観光客の宿泊動向をみると、札幌圏のみならず 道内各地で増加しており、幅広い地域で外国人観光客の恩恵を受けている(図表2)。 【図表1】外国人入国者数の推移(北海道) 1,400 【図表2】振興局・総合振興局別の訪日外 国人延べ宿泊客数(前年比) (千人) 1,154 1,200 空知 石狩 後志 胆振 日高 渡島 檜山 上川 留萌 宗谷 オホーツク 十勝 釧路 根室 1,000 800 600 400 200 0 08 年 09 10 11 12 13 14 15 (注)北海道に所在する空港・港から入国した外国人の合計。 (出所)法務省「出入国管理統計」 12年度 22.4 58.9 64.4 36.4 12.4 59.1 6.7 37.1 39.3 43.7 81.9 21.2 54.2 30.9 13年度 13.8 58.5 29.1 53.3 27.7 55.5 ▲27.7 63.1 ▲41.0 29.3 23.2 ▲ 7.6 36.3 15.5 (%) 14年度 68.7 31.8 18.8 28.8 68.3 19.6 90.1 33.6 36.6 16.0 22.8 16.4 18.9 16.6 (出所)北海道「訪日外国人宿泊客数」 ○ 北海道を訪れる外国人観光客の消費動向をみると、全国と同様の傾向がうかがわれ、試 算によれば、消費額は化粧品や医薬品などを中心に大幅に増加している(図表3、4)。 【図表3】北海道における外国人観光客の消費額(前年比) 160 140 (%) 151.0 服(和服以外)・かばん・靴 化粧品・香水、医薬品・健康グッズ・トイレタリー 120 電気製品、カメラ・ビデオカメラ・時計 100 95.1 88.9 合計 80 79.8 60 40 14 13 年 15 (注1)日本銀行札幌支店による試算値。全国と北海道における訪日外国人の消費行動(購入率と購入者単価)が同一で あるとの仮定の下、 「日本滞在中の費目別支出」中の「買物代」の各項目における購入率(全国)と購入者単価(全 国)に、外国人入国者数(北海道)を掛け合わせて、消費額を算出。ただし、2013 年の「化粧品・香水、医薬品・ 健康グッズ・トイレタリー」は、同一項目であり、区分されていなかったため、 「化粧品・医薬品・トイレタリー」 の消費額を使用。 (注2)項目は、2015 年中の消費額が大きい上位5位を抽出。 (出所)法務省「出入国管理統計」、観光庁「訪日外国人消費動向調査」 1 【図表4】外国人観光客の消費の特徴点 A社 当店を訪れる外国人観光客は、特選ブランド、高級腕時計や宝飾品、化粧品など、 (百貨店) B社 東京や大阪などの都市部と同様の品目を購入している。 当店を訪れる外国人観光客は、全国と同様、高級炊飯器やカメラ、腕時計、理美容 (家電量販店) 品などを購入している。 中国人が日本製の商品を自国で買おうとすると、関税等が課され、日本で買うより C社 (小売店) も遥かに価格が高くなるため、日本に旅行に来た際にこうした商品を大量購入して いるようだ。 ○ もっとも、2015 年1月の中国人に対するビザ発給要件緩和1などによって、来道する外 国人観光客の客層に広がりがみられ、世帯年収が相対的に低い層の割合が増加している (図表5)。これに加えて、2014 年 10 月の消費税免税対象品目の拡大2で消耗品が免税対 象となった結果、商品単価が相対的に低い品目の消費額が増加している(図表6)。この 結果、外国人観光客一人当たりの消費単価は、2015 年の第1四半期(1~3月)をピー クに緩やかな減少傾向にあり(図表7) 、実際に客単価の低下を指摘する声が聞かれてい る(図表8)。 【図表5】北海道を訪問した外国人観光客の世帯年収別構成比(%) <2015 年1~3月> 4.6 <2015 年 10~12 月> 3.6 6.2 5.1 500万円未満 500万円未満 37.9 21.2 14.4 500~1,000万円未満 500~1,000万円未満 48.7 1,000~2,000万円未満 1,000~2,000万円未満 28.2 30.1 2,000~3,000万円未満 2,000~3,000万円未満 3,000万円以上 3,000万円以上 (出所)観光庁「訪日外国人消費動向調査」 1 2015 年1月 19 日より、中国人に対するビザ発給要件が緩和され、相当の高所得を有する者とその家族については、1回 目の訪日の際における特定の訪問地要件を設けない数次ビザ(有効期間5年、1回の滞在期間 90 日間)の発給を開始す るなどの措置が取られた。 2 2014 年 10 月1日より、改正「外国人旅行者向け消費税免税制度」が開始され、従来は免税対象となっていなかった消耗 品(食品類、飲料類、薬品類、化粧品類、その他消耗品)について、同一の販売店での購入額が 5,000 円超となる場合に は免税措置を受けられるようになった。 2 【図表6】北海道における外国人観光客の項目別購入者単価(縦軸)と免税対象品拡大前後 の消費額増加率(横軸) (円) 80,000 カメラ・ビデオカメラ・時計 70,000 60,000 50,000 電気製品 40,000 服(和服以外)・かばん・靴 化粧品・香水 30,000 医薬品・健康グッズ ・トイレタリー 20,000 10,000 0 0 (%) 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 (注1)日本銀行札幌支店による試算値。全国と北海道における訪日外国人の消費行動(購入率と購入者単価)が同一で あるとの仮定の下、各項目の消費額を算出。 (注2)購入者単価(縦軸)は、各項目における、2014 年 10 月の免税対象品目拡大前後の2年間(2013 年 10 月~2015 年9月)の購入者単価の平均値。 (注3)消費額増加率(横軸)は、 「日本滞在中の費目別支出」中の「買物代」の各項目における購入率(全国)と購入者 単価(全国)に外国人入国者数(北海道)を掛け合わせて消費額を算出し、免税対象品目拡大前後の各1年間(2013 年 10 月~2014 年9月、2014 年 10 月~2015 年9月)を比較。ただし、 「化粧品・香水」と「医薬品・健康グッズ・ トイレタリー」については、2013 年以前は同一項目であり、区別されていなかったため、2014 年1~9月におけ る各項目の算出結果のウェイトを用いて、2013 年 10~12 月分を試算。 (注4)項目は、2014 年 10 月~2015 年9月の消費額が大きい上位5位を抽出。 (出所)法務省「出入国管理統計」、観光庁「訪日外国人消費動向調査」 【図表7】新千歳空港から入国した外国人観光客一人当たりの消費単価 160,000 (円) 140,000 120,000 100,000 80,000 14/10月 免税対象品目の拡大 60,000 40,000 └ 13 年 ┘ 14 └ ┘ └ 15 ┘ (出所)観光庁「訪日外国人消費動向調査」 【図表8】外国人観光客一人当たりの消費額の低下を指摘する声 D社 (百貨店) 外国人観光客が購入する免税品の売上高は伸び続けているものの、2015 年の夏頃か ら、外国人観光客による 100 万円を超えるような高額の腕時計の購入がやや鈍化し ていることなどから、客単価が低下している。 E社 外国人観光客の購入商品が、カメラや炊飯器等の高価格帯商品のみならず、理美容 (家電量販店) 品や医薬品・化粧品等の低価格帯商品に広がっているため、客単価が低下している。 3 2.今後の課題 ○ 以上から、外国人観光客による消費額が増加しているのは、客層の広がりや購入品目の 変化による一人当たりの消費額の減少を、客数の増加が補っているためであるといえる。 ○ もっとも、外国人観光客の増加を映じて、道内の宿泊施設の客室稼働率(図表9)や、 道内空港着の航空機の搭乗率(図表 10)は、ともに上昇を続けているが、このまま上昇 が続けば、いずれ「泊まるホテルがない」、 「飛行機が取れない」との理由で、外国人観光 客の受け入れに限界が来る可能性がある(図表 11)。こうなった場合、今後、一人当たり の消費額の減少を、客数の増加で補うことが難しくなる。 【図表9】道内ホテルの客室稼働率 80 【図表 10】道内空港着便の搭乗率 (%) 80 78 (%) 77.6 ビジネスホテル 国内線 78 76 国際線 73.3 シティホテル 74 合計 76 72 70 74 68 72 66 64 70 62 60 11 年 12 13 14 68 15 11 年 (出所)観光庁「宿泊旅行統計調査」 12 13 14 15 (出所)航空4社などに聞き取り、日本銀行札幌支店で 試算。 【図表 11】北海道におけるホテル稼働率・航空機搭乗率の高まりを指摘する声 当社ホテルの年間平均稼働率は 80%程度だが、繁忙期は 90%を超える。不可避的な F社 事前キャンセルを勘案すると、この水準は非常に高い。他ホテルでは、稼働率の高ま (ホテル) りによってベッドメイキングの人員が足りなくなり、客を受け入れられないところも 出てきている。 国際線については、現状の規制下では発着枠に限りがあるため、便数を増やすことは G社 (航空会社) 難しく、実際に海外の航空会社から新しい便を就航したいができないという声を聞 く。その結果、既存の便の搭乗率はこれまでになく高まっており、このままいけば、 飛行機が取れないため外国人観光客が北海道に来ることができないといった事態が 起きかねない。 4 ○ このため、今後は、客数の増加だけではなく、外国人観光客一人当たりの消費額を高め ていくことで、売上の維持・拡大に取り組むことが求められる。その際には、①リピータ ー向けの周遊ルートの開発等により、団体客よりも消費単価が高い個人客、消費額が相対 的に高い国籍の外国人観光客の取り込みを一層強化する、②免税対応を一層進めることで 外国人観光客の買い物の利便性を高める、③飲食店などで外国語対応を充実させて需要の 取りこぼしを防ぐ、といったことについて、全道的に取り組むことが重要である(図表 12、13)。 【図表 12】外国人観光客の国籍別一人当たり消費単価(全国)と延べ宿泊者数(北海道) <団体客> 1,600 (千人泊) <個人客> 中国人の団体客=100 1,400 200 1,600 延べ宿泊者数(左軸) 180 一人当たり消費単価(右軸) 160 (千人泊) 中国人の団体客=100 1,400 延べ宿泊者数(左軸) 180 一人当たり消費単価(右軸) 160 1,200 1,200 140 140 1,000 120 800 100 100 68 600 400 200 49 44 42 20 200 80 53 800 120 92 76 75 600 63 63 82 72 34 400 40 32 80 40 200 20 0 0 100 60 60 44 20 0 130 1,000 0 (注1)一人当たり消費単価、延べ宿泊者数ともに 2015 年中の合計(速報値) 。 (注2)団体客の一人当たり消費単価は、「団体ツアー参加者」の日本滞在中の旅行支出に、 「パッケージツアー参加費の うち日本国内に支払われる支出」を足し合わせたもの。個人客の一人当たり消費単価は、 「個別手配者」の日本滞 在中の旅行支出。中国の団体客を 100 として指数化。 (注3)延べ宿泊者数は、従業員数 10 人以上の施設の合計。 (出所)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、「宿泊旅行統計調査」 【図表 13】外国人観光客の消費への対応に関する声 H社 (旅行会社) I社 (小売店) J社 (小売店) 外国人観光客を含めたリピーター客は、PRを確りして交通手段を用意すれば、札幌 以外にも足を延ばして、各地で旺盛な消費を行う。実際、当社が運営に参画している 道内地方都市のレストランでは、外国人観光客の増加によって、売上が好調である。 当店では、免税対応をしていないため、外国人観光客の土産需要を取りこぼしている。 すすきのでは、「外国人お断り」としている店が多いほか、外国語対応が遅れている ため、外国人観光客が夜間に楽しめるスポットが少ない。このため、飲食需要をみす みす逃している。 以 5 上
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