インバウンド需要拡大の波及効果

No.2016-018
2016年7月29日
http://www.jri.co.jp
インバウンド需要拡大の波及効果
~ 非耐久消費財輸出や関連産業での設備投資が増加 ~
(1)インバウンド需要に頭打ち感。訪日外国人旅行消費額は、2015年後半以降、増勢が鈍化し、2016年
4~6月期は、前年比+7.2%にまで減速(図表1)。円高などを背景に、訪日外国人旅行者数は同
+19.0%と増加傾向を維持しているものの、伸びが鈍化したほか、1人当たりの支出額は同▲9.9%と
2四半期連続の減少。とりわけ、中国人1人当たり旅行消費額の減少の影響大。
(2)もっとも、訪日中国人の消費を費目別にみると、円高等の影響もあり、高級品、電気製品で大きく減
少している一方、非耐久消費財は底堅く推移(図表2)。また、購入率をみても、サービスや非耐久
消費財の購入率は耐久財とは対照的に堅調維持。
(3)既往のインバウンド需要の拡大を背景に、輸出や設備投資ではプラスの波及効果が顕在化。まず、輸
出についてみると、中国・アジア新興国を中心に、世界的に設備投資が減速するなか、主力の資本財
輸出が低調に推移する一方、非耐久消費財を中心とした、訪日外国人の購入率が高い「インバウンド
関連品目」の輸出は、アベノミクス始動後、大きく増加(図表3)。わが国製品の品質に満足した訪
日旅行者が、帰国後に母国で製品を購入する、「リピーター」需要が拡大したことを示唆。
(4)次に、設備投資についてみると、インバウンド関連産業の設備投資額は、アベノミクス始動前から高
齢化や後発医薬品のシェア拡大を背景に、大きく増加していた医薬品を除き、インバウンド需要の拡
大に伴い、総じて全業種平均を上回る伸びに(図表4)。円高を機に、わが国のインバウンド市場は
正念場を迎えつつあるものの、わが国のサービスや非耐久消費財に対する需要が拡大するなか、多言
語対応や公衆無線LANなど、訪日旅行者の利便性向上に向けた投資に積極的に取り組むことで、需
要を着実に取り込むことが必要。
(図表1)訪日外国人旅行消費額(前年比)と
実質実効為替レート
(%)
(%)
120
カメラ・ビデオカメラ・時計
電気製品
化粧品・医薬品・トイレタリー
医薬品・健康グッズ・トイレタリー
▲20
ゴルフ場・テーマパーク(右目盛)
(%) <購入率>
▲16 (千円)
(千円)
120 <購入金額>
18 100
▲12
16
100
14 80
▲8
80
12
60
▲4
10
60
8 40
0
40
6
4 20
4
20
2
8
0
0
0
12
▲24
100
80
60
40
20
0
その他旅行者数要因
その他1人当たり消費額要因
中国人旅行者数要因
中国人1人当たり消費額要因 円高
旅行消費額
実質実効為替レート(前年比、右目盛)
▲20
▲40
▲60
▲80
2011/2
(図表2)訪日中国人の費目別購入金額・購入率
12
13
14
15
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」、日本銀行
16
16
(年/期)
130
インバウンド関連品目
<2.5>
120
資本財<24.0>
110
8
6
4
2
0
(資料)観光庁「訪日外国人消費動向調査」
(注)2014年から「化粧品・医薬品・トイレタリー」は分類変更により、 (年)
「化粧品・香水」と「医薬品・健康グッズ・トイレタリー」に分割。
2012~15年は、1~3月期。
(図表3)インバウンド関連品目と資本財の実質輸出
(2011年=100)
140
(%)
10
(図表4)インバウンド関連産業の設備投資
(2011年度=100)
250
トイレタリー・化粧品
医薬品
小売店
225
菓子
全業種
200
ホテル・旅館(右目盛)
175
(2011年度=100)
400
350
300
250
150
200
100
125
150
90
100
100
75
80
2011
12
13
14
15
16
(資料)財務省、日本銀行、総務省などを基に日本総研作成 (年/期)
(注)インバウンド関連品目は、飲食料品、医薬品、化粧品、衣類、
身の回り品、などの合計。凡例<>内は2015年名目輸出額に
占めるシェア。直近は4~5月平均。
50
2011
12
13
14
15
(資料)財務データベース「SPEEDA」を基に日本総研作成 (年度)
(注1)2011~15年度まで継続的に「有形固定資産の取得」の
データが取得できる、上場企業2,973社ベース。
(注2)業界分類はSPEEDAによる分類。
(注3)小売店は100円ショップ、ディスカウントストア、ドラッグ
ストア、百貨店の合計。
【ご照会先】調査部 研究員 菊地秀朗(03-6833-6228、[email protected]