菊地 亮太

卓越した大学院
「流動ダイナミクス知の融合教育研究世界拠点」
平成 26 年度 博士課程後期学生国際会議派遣 参加報告書
氏名/専攻・学年
Name / Department
学会名
Conference’s name
菊地亮太 航空宇宙工学専攻・博士課程後期 1 年
American Institute of Aeronautics and Astronautics SciTech 2015
開催地
Venue (Name of the
Kissimmee, Florida, America
facility, city & country)
日程
Conference period
5-9,January 2015
発表タイトル
Presentation Title
Real-Time Prediction of Low-Level Atmospheric Turbulence
【発表概要 Brief summary of your presentation】
航空旅客輸送量は世界的に拡大傾向にあり,航空機運航の効率化は重要な課題である.運航の効率化にお
いて気象の影響は大きく,特に空港周辺で発生する低層風擾乱による着陸復行や代替地着陸は運航定時性の
確保を困難にする.また一方で,航空旅客の拡大に伴い,旅客機事故全体に対する乱気流事故の割合が高ま
っている.低層風擾乱の解析・予測は運航効率の観点のみならず,航空機運航の「安全・安心な未来」に向
けても非常に重要な研究である.
現在の気象予報で用いられている気象予測モデルは,大規模気象・メソスケール気象以上の現象を対象に
している.そのため気象予測モデルだけでは計算分解能・地表面の再現性などから低層風擾乱の評価を行う
には不十分である.そこで気象予測モデルとラージエディシミュレーション(Large Eddy Simulation, LES)
を組み合わせた融合手法による解析が行われてきている.しかし,気象予測モデルでは大規模気象からのダ
ウンスケーリングが必要となり,また LES では高解像度の計算が必要であることから計算負荷が高くなる.
そのため現状の計算資源ではリアルタイムでの低層風擾乱予測は困難である.そこで本研究では,大規模デ
ータから主成分を抽出するのに有効な固有直交分解(Proper Orthogonal Decomposition, POD)を流れ場に適
用し,流れ場の特徴的な構造を有する主成分から近似モデルを定義する.近似モデルを構成する係数に対し
て,逐次データ同化手法である粒子フィルタを用いて観測値を取り入れることで現実的な係数を推定し,流
れ場の予測を行う.本手法によって LES による解析を行うことなく低層風擾乱の推定を行うことができ,計
算負荷を大幅に削減することができる.本発表では,低層風擾乱の事例用いて,気象モデルと LES の融合解
析の結果から疑似的な観測値を作成し,その結果を観測値として用いる数値実験と空港で実際に計測された
レーダ観測値を用いる実観測実験による検証結果を述べる.
数値実験および実観測実験ともにデータ同化を実施することで,近似モデルの係数を推定し,低層風擾乱
の特徴を有する流れ場を再現することができた.LES で過大評価されていた部分などについても,観測デー
タを使用して修正することで誤差の小さい流れ場推定が可能である.また,10 分間の予測演算に対して提案
手法においては 4CPU の並列演算により 8 分間で実施できることを確認した.つまり本提案手法はリアルタ
イムに流れ場を推定することが可能であることを示した.
【他の講演等から得られた知見、感想等。What you learned from other presentations, general impression
you had, etc.】
<他の講演等から得られた知見>
(1)AIAA-2015-0260 Reduced-Order Modeling of Continuous-Time State-Space Unsteady Aerodynamics
こちらの発表では,4 種類の Reduced-Order Modeling 手法を用いて性能の違いを考察していた.現在の数値
計算および観測では得られるデータ量が増大してきており,データを理解するだけでも大変な労力が必要と
なる.そこで Reduced-Order Modeling 手法を使用し大量のデータ中から特徴成分を抽出することができ,
さらに特徴成分を使用して計算コストの低いシミュレーションを作成することができる.本研究においても
Reduced-Order Modeling 手法として POD を使用しており,その他の手法との性能比較は興味があった.特
に不安定な問題に対しては Balanced POD を用いる事が大変よい性能であることを示していた.今後の自分
の研究において Balanced POD の実装を検討する必要があることがわかった.
(2)AIAA-2015-0756 Wind Field Estimation and Its Utilization in Trajectory Prediction
飛行中の複数の航空機の観測データを使用することで,リアルタイムに空間的な情報を再構築する手法を提
案し,その情報を使用することで航空機の経路予測に役立てるという発表であった.リアルタイムに空間情
報を再構成する手法についてはシンプルかつロバストな手法が用いられており,大変参考になった.また自
分の研究で対象としている現象よりはかなり大きいため,そのまま使用することは難しいが,自分のアイデ
アと組み合わせることでより良い結果を引き出す可能性を感じられた.
<感想>
今回の国際会議では風力発電のセッションにおいて発表を行った.航空機の安全性というモチベーションで
これまで研究を行ってきたが,世界的に見ても風力発電分野において同様の問題を抱えていることが実感で
きた.質疑応答では多くの研究者に関心を持っていただき,有意義なディスカッションを行うことができた.
その他のセッションを聞く上でも気象情報のリアルタイム計算は航空分野のみならず多くの分野で役に立つ
ポテンシャルを持つ研究であることを感じた.また Aircraft Operation に関わるセッションでは、航空機運航
の効率化のための経路予測がメイントピックであったが国内ではこの分野の研究者は比較的少ないため,世
界の潮流を知ることができ大変有意義であった.
【写真 Pictures】