PETとサイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの歴史 !

PETとサイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの歴史 !
【雑学 -陽電子の発見とPET装置のはじまり- 】
今から80年近く前に,イギリスのディラック博士は陽電子が
発見される前にその存在の可能性を予言していました.そして,
1932年アメリカのアンダーソン博士が,霧箱の実験中に宇宙か
ら降り注ぐ放射線の中から陽電子を発見しました.アンダーソ
ン博士はこの発見によりノーベル賞を受けています.
1934年フランスのジョリオ=キュリー夫妻によって世界で始
めて人工の放射性同位元素であるリンの30が作られましたが,
これは陽電子を放出するものでした.ちなみに,妻のイレー
ヌ・ジョリオ=キュリー婦人はラジウムの発見で有名なマ
リー・キュリー夫人の娘で,この発見によりノーベル賞を受賞
しています.PETで使う陽電子を出す放射性同位元素は自然界
には存在しないので,サイクロトロンといった加速器と呼ばれ
る装置を使って人工的に作り出す必要があるのです.(サイク
ロトロンについては他の展示を見て勉強してみてください.)
陽電子放出核種の発見から17年後の1951年,アメリカで陽電
子放出核種を利用して脳腫瘍の位置の測定が行われ,はじめて
陽電子が医学に利用されました.1974年にはアメリカで,初の
人用PET装置が作られ,その後一気にPET装置の開発が進み,日
本でも1979年に放射線医学研究所で頭専用のPET装置が開発さ
れています.サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターで
は1981年に最初のPET装置が導入され,以降25年以上におよぶ
PET装置を使った研究が行われてきています.
【PETとサイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの年譜】
1951年 NaI(Tl)シンチレータの1検出器対により脳腫瘍測定
1971年 X線CTの開発
1973年 PETT I 開発(初のPET装置)
1974年 PETの人への応用
1976年 商業用PET ECATシリーズ開発(PET装置の商業化)
1977年 サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター 設立
1978年 18FDGの合成(PET薬剤の代表)
PETへのBGOシンチレータ採用(高感度シンチレータ)
1980年 核薬学研究部発足
1981年 全身用PET装置 ECAT II 設置(PET研究の開始)
1982年 TOF型PETの開発
1983年 臨床研究開始
BaF2シンチレータのTOFへの応用(超高速シンチレータ)
1986年 ブロック型検出器の開発(PET装置の多断層化)
全身用多断層PET装置 PT931-04/12 設置
1987年 TOF型PET装置 PT711 開発(日本初のTOF型PET装置)
サイクロトロン核医学研究部発足
1990年 LSOシンチレータの開発(高速・高感度シンチレータ)
1992年 3D収集PETの開発(PET装置の高感度化)
1994年 3D収集型PET装置 SET-2400W設置
1997年 LSOシンチレータ小動物PETの開発
(PET装置の高分解能化)
1999年 LSOシンチレータ人用PETの開発
2002年 PET/CT装置の開発(PETとX線CT装置の合体)
2007年 世界初半導体検出器を用いた超高分解能PET装置 設置
【サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターのPET装置紹介】
サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター歴代のPET装置を紹介します.
【1981年 ECAT Ⅱ(EG&G社製)】
サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターに設置された最初の
PET装置.この装置では,6角形に配置した66個のシンチレータ結晶を
使って一回の撮影で1枚の画像を撮ることができました.
ECAT II
最初のPET装置ではシン
チレータ結晶の大きさは,
直径が38mmだったんだ
よ.大体1cmくらいの大き
さを見分ける能力があっ
たんだ.シンチレータ結
装置の中には検出器が 晶が小さいほど,小さな
六角形に並んでいました. ものを見分けることが出
来るんだよ.
【1986年 PT931-04/12(CTI社製)】
世界初のブロック型検出器をリング状に並べることでシンチレータ結晶が
2048個となり,一度に7枚の画像を撮ることが可能になりました.
装 置 の 中 には 検 出 器
がリング状に並んでい
ます.
PT931PT931-04/12
【1987年 PT711 (センターとCTI社との共同開発)】
この装置はTOF-PET装置と呼ばれる装置で,陽電子が発生させた2本
のγ線が発生してからそれぞれ検出器に到達するのにかかった時間
(TOF:Time of Flight)の差を15億分の1秒の精度で測ることができ
る装置です.この方法ではγが検出器へ向かってくる方向だけでなく
それがどこで発生したかまで知ることが出来ます.このタイプの装置
は,現在まで国内では唯一のものです.
A (秒)
B(秒) X ( cm) = ( A − B ) × 光の速さ
2
光の速さは 300億(cm/秒)
中心からの
距離X(cm)
PT711
バリウムフロライド
というとても早く光り
を出すシンチレータ
を使ったんだよ.
【1994年 SET-2400W(島津製作所製)】
シンチレータ結晶は21504個となり一度に63枚の画像を撮ることが出
来きるようになりました.当時,同タイプの装置では最も広く体を撮
影することのできる装置でした.
SETSET-2400W
この装置ではシンチレータ
のリングを32個もつなげ
たんだ.そのおかげで体
全体を30分程度で撮影す
ることが出来るようになっ
たんだよ.今,病院で使っ
ているPET装置はこのタ
イプが基になっているんだ.
【2007年 超高分解能PET(東北大学工学研究科石井研究室)】
現在センターでは,大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻の石
井研究室での超高分解能PET装置の開発に伴う様々な実験に協力して
います.この装置は,小型の動物を対象にした装置で,薬などを人へ
応用する前の研究に大変役に立つものと期待されています.
この装置では検出器をさら
に小さくするためシンチレー
タではなく,半導体(トランジ
スターの仲間)を使ったんだ.
半導体の大きさを1mm程度
にまで小さくしたので,マウ
スのような小さな動物でも
PETの画像を撮ることができ
るようになったんだよ.
赤い字はサイクロトロン・ラジオアイソトープセンターに関するものです.
サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターでは,
PETを利用した研究を支えるため,その時代の
最先端のPET装置を備えてきました,
ブロック型検出器
一つの検出器に4本の光電
子増倍管と細かく32個に分
かれたシンチレータを付ける
ことで結晶を小さくしました.
超高分解能PET装置
(資料提供:工学研究科量子エネルギー工学専攻石井研究室)
マウスの骨の画像