直立動態と心身症状の関係について

直立動態と心身症状の関係について
――ヒトの立つ仕組みに内在する病因の臨床応用――
臼井五郎
静岡県開業
動的平衡・顎口腔医学研究会
既存の咬合理論における臨床的課
前に,歯科的主訴部位とスウィング
ない歯周病歯はプラークコントロー
題(心身症状の残存)を解決するた
干渉の診断部位がほぼ一致する.不
ルの有無に限らずほとんど進行は認
めに必要なのは二足直立動態の解析
可逆的破壊現象(急性化膿性歯髄炎,
められない.例えば,胃瘻で寝たき
(頭位軸と頭位軸慣性平衡器の運動
急性化膿性根尖性歯周炎など)は通
りで経口摂食(咀嚼)やくいしばり
軌跡)と個別運動軌跡の解析である
法による対症療法(麻酔抜髄,根管
をしていない,常時開口状態の方の
と考え,演繹解析(スウィング理
開放)を余儀なくされるが,そこに
歯周病(歯牙動揺)は進まない.
論)とそれに基づく実践検証(動的
至っていない可逆的歯科的症状(冷
平衡咬合医療)を重ねたところ,医
水痛,咬合痛,軽度歯牙動揺など)
本来,う
科病態との因果もさることながら,
は SW-RS でほぼ解消した.初期う
るとされ,例えば,う
*
も歯周病も感染症であ
であるなら
S.mutans ,歯周病であるなら,
歯科病態(各種破壊現象)の主原因
歯における疼痛(主訴)も,窩洞
は直立動態における咬合干渉(スウ
の修復処置を行っていないにもかか
P.gingivalis など口腔内の細菌排除
ィング干渉)であることが判明した.
わらず疼痛は消失した.
を治療対象・予防対象としてきた.
*
動的平衡・顎口腔医学研究会(動
その一方,咬合痛では姿勢の問題
直立動態における弦振動の解析
研)会員の報告では,下顎第一大臼
が大きく関与しているとされ,二足
(置性体である上部頭蓋の動き=上
歯の根分岐部病変(予後不良といわ
直立動態や第二頸椎の歪みのチェッ
顎のふるまい)と,吊性体である頭
れる歯周病態)も SW-RS にて進行
クと修正の必要性が述べられるなど,
位軸慣性平衡器(立体ヤジロベエ型
が止まった,とのことである.その
従来の歯科医療を超えた対応につき
の重力アンカー=下顎)の,各顎位
他の各種破壊現象(二次カリエス歯,
推奨している研究者もいる.
別の基本的ふるまいを演繹する.
歯周病歯,歯根破折歯など)もスウ
各顎位とは臨床における十人十色
ィング干渉部位と一致した.
*
このように,歯科医療に関しても
のふるまい(固有スウィング)を指
*
新たな目で研究し,新たな対応を図
す.実践では,顎位診断(頭位軸が
現代歯科医学における歯牙,歯周
らなければならない時代に突入した
鉛直となる顎位=生理重力下顎位)
組織破壊の主原因は生物化学的原因
ことを感ずるのである.
に基づく固有のスウィング解析から
(口腔内常在菌が産出する酸による
そのような中で,われわれは2009
スウィング干渉部位を診断し,干渉
表面脱灰,免疫過剰による歯槽骨破
年に「動研」を創立し,直立動態と
を取り除く(スウィングリリース)
.
壊)とされている.しかし臨床にお
心身状態につき研究を進めてきたが,
この手技をスウィングリシェイピン
ける口腔内所見は,う窩であればほ
本年
グ(SW-RS)という.その補足的
とんどが表層溶解ではなくエナメル
会」を立ち上げ,
“頭頸部の機能障
な臨床データとして,足圧重心測定
質のスポット破壊から歯冠内部が空
害はヒトの立つ仕組みに起因する”
器(フットビュー)を用いた.
洞化している.つまり,通念的な病
ことをさらに追究することとした.
因論とはそもそも病態が異なる.
多くの方々のご参加を望む次第であ
また,すでに対合歯の存在してい
る.
*
SW-RS による臨床症状の改善以
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THE NIPPON
Dental Review
Vol.75 No.6(2015 -6)
月には「直立歯科医学研究