TELECOM FRONTIER NO.89 2015 AUTUMN CONTENTS 干渉分離重畳による無線多元接続技術の性能向上 岡本 英二 名古屋工業大学大学院 工学研究科 准教授 移動体通信システムは、1980 年代より継続的に普及しており、現在では 1 人 1 台以 上の契約数となっている。一方、無線の周波数は有限の資源であるため、多数の加入者 を収容し、さらに、高速な伝送速度を実現するためには、周波数の利用効率を向上させ る必要がある。これに寄与する方法の一つが多元接続技術の高度化である。 本稿では、移動体通信システムにおける多元接続技術の変遷について紹介し、システ ムの容量を増加させるために、直交多元接続手法と非直交多元接続手法が入れ替わりな がら用いられてきたことを述べる。そして、周波数利用効率の向上のために、新たに提 案した直交多元接続手法に符号拡散を適用する手法と、非直交多元接続手法における高 能率周波数割り当て方式を説明する。そして、計算機シミュレーション結果から、提案 手法においてユーザのスループットと公平性が向上することを示す。 光波形合成による超高速光通信用の信号波形最適化の検討 柏木 謙 東京農工大学大学院 工学研究院 先端電気電子部門 助教 情報通信の大容量化の要求に伴って、光ファイバ通信網は発展し社会基盤となった。 大容量の通信のためには光ファイバを伝搬する信号は非常に高速で広帯域となるため、 ファイバ伝搬による波形劣化が顕著となる。そのため、通信に適した信号波形の利用が 肝要である。どのような信号波形が適しているかを解明するには、様々な形状の波形を 実験的に生成できる光波形の生成技術が必要である。本研究では、光波形合成技術を用 いて光ファイバ伝送に適した信号波形を実験的に検討した。光ファイバ中での波形歪み は、波長分散と非線形効果であり、特に補償ができない非線形効果の取り扱いが難しい。 本稿では、非線形効果を抑圧して分散補償する手法と、同効果を積極的に利用して分散 を打ち消す手法の両方を紹介する。 動的環境下における知覚-行動系の柔軟なタイミング制御法 川嶋 宏彰 京都大学 情報学研究科 准教授 / JST さきがけ研究員 家庭用ロボットや対話システムなどの知能システムは、研究から実生活での利用段階 へと急速に移行している。これを非定常な雑音や周囲の状況変化、人との相互作用とい った日常の動的環境下にいかに対応させていくかが、今後の重要な課題となる。そこで 本研究は、動的環境下における知覚-行動系の「協調的かつ柔軟なタイミング制御法」 を開発することを目的し、これを動的システムと離散事象系との混在系である、ハイブ リッドシステムと呼ばれる数理モデルに基づいて実現することを目指している。さらに、 人に対して適切なタイミングで対話的な情報提示や推薦などの働きかけを行うには、人 の興味や意図といった心的状態の推定が重要となり、その基礎的検討を合わせて行って いる。本稿では、SCAT 研究助成で行った研究とその周辺の取り組みについて紹介する。 1 TELECOM FRONTIER NO.89 2015 AUTUMN CONTENTS テラヘルツ波集積回路の実現へ向けたフォトニック結晶デバイスの研究 冨士田 誠之 大阪大学大学院 基礎工学研究科 准教授 近年、電波と光の境界領域の周波数(0.1 - 10 THz)を有する電磁波であるテラヘル ツ波に関して、分光センシング、非破壊イメージングや超高速無線通信などの応用が注 目を集めている。しかし、現状、テラヘルツ波を利用する各種システムのほとんどは、 個別部品の組み合わせで構成されており、今後、その小型・集積化が期待される。ここ で、マイクロ波帯で実績のある金属配線による集積技術をテラヘルツ帯に適用する場合 には、金属による伝搬損失が深刻な問題となる。そこで、本研究では、テラヘルツ波を 誘電体薄膜構造へ極低損失で閉じ込め可能なフォトニック結晶をテラヘルツ波集積回 路のプラットホームとして着目した。本稿では、フォトニック結晶デバイスの最も基礎 となるフォトニックバンドギャップ効果と、集積回路の基盤をなす受動デバイスである 伝送路の 0.3 THz 帯における実証結果に関して述べ、その伝搬損失が 0.1 dB/cm 以下 と小さく、テラヘルツ波集積回路の実現に向けて有望であることを示す。 2
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