地域経済と産業動向 2015 年5月 振幅あっても、季節は確実に変わる 5月の空は花の香る風を受けて、青空に白い雲、赤い鯉のぼりに黒い屋根。かつて歌われた風 景を目にする機会こそ減少したものの、子供の日を愛でる気持ちは変わらないだろう。とはいえ、 出生率の低下は子供人口を減少に向かわせ、総じて国民総数が減り始める変化を生んでいる。子 供の日は、将来変化を考える切っ掛けも提供してくれる日になってきた。 5月の「天気は数日の周期で変わるでしょう。平年と同様に晴れの日が多い見込みです」(日本 気象協会近畿地方3ヵ月予報)。花見で季節の移ろいと、生活の変化を感じた後に訪れる風は、気持 ちを一層前向きにさせる事が多い。その季節に合わせて、神に感謝や祈りを捧げる古来のまつり 事とは異なったタイプの「お祭り」も多く開かれる。 神戸市では神戸まつりが開かれ、ヨットレースやパレードが繰り広げられるのが恒例だ。各区 でも「おまつり」が催される。大阪市でも中之島まつりが開かれる。この種の催しは中心部だけで はなく、守口だんじり祭りも開かれる。ツツジやバラを愛でるお祭りも開かれる。そんな明るい 気分がどの位、日常生活に潤いをもたらせるのかが注目される。 明るい気分の演出は、花やペットへの需要増加に反映されている。同時に食品物価の上昇傾向 は、勤労者世帯の家計運営に知恵を絞らせている。単身者「世帯」の増加傾向で、世帯の平均像は 崩れ始めている。5月の動きは天気と同様に、変化が激しい中でもトレンドを作り出しているの を実感することになるかも知れない。 先行指数は今回も先行するのか 5月に見えてくるのは、消費者の帰趨だろう。経済をマクロから見れば、株価の上 昇は景気上昇を示しているとの説明にも援用されている。東証株価指数(TOPIX) 1,900 株価の1年半先行、今回は・・・ 35 大阪市/神戸市家計消費 家計消費支出額との比較 万円 1,600 神戸市家計(左軸) 32 の動きを1年半遅らせて (全世帯)の支出実額を重ね TOPIX(右軸) 合わせると相関性が浮か 1,300 29 消 26 費 支 出 額 23 T O P I X 大阪市家計(左軸) 1,000 株価には景気先行性があ り、その上昇は家計消費 700 資料出所:総務省「家計調査」、日本取引所 び上がる。その意味では 支出の増加を示唆してい るとの説明も成り立つ。 今回も同様な結果を生むのかどうかは、株価の展開が持続的上伸になるのかどうかに -1- 大阪/兵庫地域経済レポート 地域経済と産業動向 2015 年5月 かかっている。ただ、家計が支出を考える前提条件は大きく変貌してきている。家計 運営の考え方とマクロ状況がどう合致するかが問われる初夏が始まる。 単身者世帯比率の上昇は不可避 前提条件の変化とは、進行が予想される単身者世帯比率の高まりだ。これまでも、 これからも大阪/兵庫ともに、年金受給世代である65歳以上の女性単身者世帯数は高 33 水準で推移する。過去10年 各世代ともに高まる単独世帯比率 % 大女65歳~ 28 で急伸した男性世帯も、同 兵女65歳~ 大男~34歳 23 大男65歳~ ペースでの増勢が続く。単 身者世帯が増えるのは高 兵男~34歳 齢者層ばかりではない。過 18 兵男65歳~ 大男35~65歳 13 上男性層でも緩やかに増 兵男35~65歳 8 え続ける。2025年までで見 資料出所:国立社会保障・人口問題研究所 0 20 去10年で急伸した35歳以 0年 1 20 0年 2 5 02 年 e 2 5 03 年 e れば、34歳までの男性世帯 も増える。全体としてみれば、2000年に大阪府で12.6%だった単身者世帯比率が2025 年には18.9%へと高まる。兵庫県でも9.4%から14.8%へと増加する。単身者世帯の増加 は平均世帯支出規模の縮小と支出決定プロセスの変化を生むと考えられる。 若い女性が減って行く 単身者世帯の増加は緩やかな形で若年女性層でも生じる。同時に、20 歳未満の子供 人口が減少し、20~39 歳 出産年齢人口の女性半減の自治体も 60% 2015年と2035年の推計人口比較 岬町 豊能町 千早赤阪村 能勢町 の女性人口が急速に減少 する地域が増加する。世 河内長野 45% 帯の構成が変化し始めて 松原 いる。人口集積地である 尼崎 30% ↑ 20 歳 15% 未 満 減 少 率 0% 大阪市 泉大津 茨木 大阪市や神戸市でさえ、 神戸市 三田 20 年後には若い女性と子 芦屋 西宮 19歳未満男女 と 20~39歳女性 の期間変動を減少率で表示 供の減少率が 30%にもな る可能性がある。双方が ○大阪府下自治体 △兵庫県下自治体 半減(50%超) してしまう地 資料出所:社会保障人口問題研究所 0%減 少 率 → 女性 15% 30% 45% 60% 域さえ出てくると予想さ れている。足元の状況は、 -2- 大阪/兵庫地域経済レポート 地域経済と産業動向 2015 年5月 社会の消費構造が大きく変化して行く一過程でしかない。 湾岸地域では増加で大犬頭 市民人口が減少に転じてきた一方で、登録犬数は増加傾向にある。目立つのは大阪 40 20 増加が続く大阪市民犬 府と兵庫県阪神南地域 (芦 屋市、尼崎市、西宮市)だ。大 大阪府(左軸) 35 15 阪府下で多数を占めてい 兵庫県(左軸) るのは大阪市。その大阪市 30 万 頭 10 神戸市(右軸) 25 10 万 頭 大阪市(右軸) 堺市(右軸) 5 20 東大阪市(右軸) 高槻市(右軸) 15 0 資料出所:厚生労働省「衛生行政報告例」 /3 06 /3 07 /3 09 /3 08 /3 10 /3 11 /3 12 /3 13 /3 14 の登録犬数は、神戸市を抜 いた。大阪市よりもさらに 飼育犬の増加率が高いの は阪神南地域だ。過去5年 の増加率で最も高いのは 尼崎市の9.6%、西宮市は7.7%だ。いずれも、大阪市の6%を上回っている。総じて、湾 岸地域ではペットが増加傾向にある。 ペットフード支出はリストラの対象外 消費支出が防衛的に動いていることはこれまでに取り上げてきたが、ペット用の支 出に関しては底堅い傾向が見て取れる。月間のペットフード支出額は底堅い動きにな っているからだ。犬の飼育 1,000 底堅いペットフード支出額 円 要因の第一に「生活に癒 3ヵ月移動平均で見た購入額 し・安らぎが欲しかった」 700 大阪市 と全世代が指摘している (「平成26年全国犬猫実態調査」 ペットフード協会)。他方で、 400 神戸市 飼育阻害要因として集合 住宅であることと、別れの 100 つらさや最後まで面倒を 資料出所:総務省「家計調査」 見ることができない可能 性をあげる回答が目立っている。50歳代以降になれば、「お金がかかる」との回答は上 位から姿を消している。元気な高齢者と、心の潤いを求める生活者の増加がペット飼 育費用負担要因を打ち消してペットフード市場を活性化させている。 -3- 大阪/兵庫地域経済レポート 地域経済と産業動向 2015 年5月 花の玄関口、神戸 神戸まつりの舞台を演出する場所の一つにフラワーロードがある。花時計がある道 筋は、街の華やかさと潤いを演出する役割を果たしている。花をつける球根(チューリ 100 ップやユリ)で飾られた景観 球根輸入量は神戸港が首位 名古屋を抜いて独走の阪神港 に相応しく、神戸港は球根 80 ( 輸 入 統 計 品 番 号 0601.10) の 神戸+大阪税関合計 60 輸入では日本一の港湾だ。 球根の輸入量は名古屋税 40 関経由が久しく国内首位 を占めていたが、2009年に 20 万 個 神戸税関経由が逆転し、そ 資料出所:財務省「貿易統計」 97 /8 98 /1 1 00 /2 01 /5 02 /8 03 /1 1 05 /2 06 /5 07 /8 08 /1 1 10 /2 11 /5 12 /8 13 /1 1 15 /2 96 /2 0 名古屋税関 の後は差を広げている。冷 蔵設備と温度管理のノウ ハウで優位に立った神戸は、域内に消費市場を併せ持った港湾として地位を固めつつ ある。逆転増加は、財布を開いてでも潤いを求める生活者の増加を示唆している。 家計運営は新たな時代に入る ペットや花で生活に潤いを求める一方で、家計のエンゲル係数は強含みの推移を見 せている。食料品の主な販売窓口となっているスーパーマーケットの飲食料品販売総 30 % エンゲル係数は強含みで推移 神戸市エンゲル係数 (左軸) 大阪市エンゲル係 数(左軸) 25 額は増加傾向にある。大阪 190 億 円 160 市での拡大速度は神戸市 のスーパーマーケットよ りも速い。この増加は全店 20 130 ベースでの総額で、既存店 大阪市スーパー飲食販売額(右軸) 15 100 低い。必需品であっても消 神戸市スーパー飲食販売額(右軸) 資料出所:総務省「家計調査」勤労者世帯、近畿経済産業局「業態別大型小売店販売額」 05 /2 05 /9 06 /4 06 /1 1 07 /6 08 /1 08 /8 09 /3 09 /1 0 10 /5 10 /1 2 11 /7 12 /2 12 /9 13 /4 13 /1 1 14 /6 15 /1 10 売上の伸びはこれよりも 70 費姿勢は選択性を強めて いる。消費支出を抑制しつ つも、家計は潤いへの支出も捻出し始めている格好だ。5月は、この変化を家計と事 業者が「ノーマル」なものにしていく様子を見守ることになる。 (神保) 以上の記載は、参考情報の提供を目的としたものです。有価証券の売買にかかわる助言・募集や、いかなる契約の締結や解約をも勧誘するもの ではありません。記載内容は、2015 年4月9日までに新聞その他の情報メディアによる報道、民・官調査機関による各種刊行物、公表資料やイン ターネットホームページ等で公開された資料と、執筆者が独自に調査した結果に基づいて作成していますが、その正確性、完全性を保証するもの ではありません。主張や結論は、作成時点での執筆者の判断によるもので、資料発行/配布機関の公式見解を表明するものではありません。掲 載情報を利用したことによって生じる、いかなる支出や障害についても、その責任を負いかねます。見解は、その後の状況に応じて予告なく変更 されます。 より詳細なデータ、記載内容に対するお問い合わせは、池田泉州銀行東京事務所 03-3284-1253/神保、までお願いします。 -4-
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