地域・集落の自立・再生のカギとなる 地域運営組織

Working Papers
2016 年 11 月 22 日
地域・集落の自立・再生のカギとなる
地域運営組織とは
地方創生へ向けた動きが進展していくなか、中山間地などをはじめとする
農山漁村等において地域住民が主体となって地域の将来を考え、地域課題の
解決に取り組んでいく「地域運営組織」への関心が政府や一部自治体におい
て高まってきている。地域運営組織の形成数が、地方創生総合戦略(2015 改訂
版)において、重要な業績指標の一つに設定されているほか、まち・ひと・し
ごと創生本部では、有識者検討会議を設置、検討を重ね 2016 年 8 月に中間報
告を、まち・ひと・しごと創生担当大臣に手交している。その一方で、市町
村や中山間地など地域活性化に取り組む現場の関係者などでの地域運営組織
そのものの認知度は高くない。
そのため、地方創生の重要な役割の一つを果たすと期待される地域運営組
織について、現状の姿や課題・問題点、国や都道府県、市町村などによる支
援、今後の方向性などについて紹介したい。
少子高齢化・人口減少が続くなか、農山漁村、中山間地等の地域の自立・
再生は、待ったなしの状況である。国・都道府県や市町村においても地方創
生のもと、地域の自立を促すため支援を行っている。今こそ、地域住民自ら
が、地域の関係者や内外の協力者らと一緒になり地域を見つめ直し、
「自らで
考え、自らで将来を選び」動くときである。また、こうした地域の動きの活
発化は、日本全体にとっても大きな意義がある。
1.地域運営組織とは
生活や暮らしを守るため、地域で暮らす人々が
中心となって形成され、地域課題の解決に向け
総務省では、平成 25 年度から地域運営組織に
関する研究会
1
(座長
明治大学農学部
た取り組みを持続的に実践する組織。具体的に
小田
は、従来の自治・相互扶助から一歩踏み出した
切徳美教授)
( 以下、
「 総務省研究会」
)を組成し、
活動を行っている組織」と定義づけており、以
検討を行っている。総務省研究会では、こうし
下の背景・必要性の中から発生してきた。
た地域運営組織の現状、組織の維持・発展上の
1-2.背景・必要性
これまで地域においては、公的サービスの提
供主体である行政にあたる「公」、自治会や町内
会など地縁型コミュニティとしての「共」及び
市場サービスの提供主体たる「私」の三者が、
それぞれの役割を果たしてきていた。しかし、
市町村合併や財政状況の悪化、過疎や高齢化に
伴う地縁型コミュニティの地域を支える力の低
課題などについてのアンケート調査や先進的な
地域運営組織へのヒアリング調査も実施してお
り、その立ち上げ、発展に向けての課題・解決
方策等についての検討も行っている。以下、総
務省研究会の研究成果を活用し、地域運営組織
の概要について整理を行う。
1-1.定義
総務省研究会では、地域運営組織を「地域の
1
1-3.地域運営組織の実態
総務省研究会が、平成 27 年度に実施したアン
ケート調査の結果から、地域運営組織の現状の
姿について、以下、概観する。
下、需要減少や採算悪化の中での市場サービス
提供主体の撤退といった形で、地域を支えてき
た三者の力が低下し、様々な隙間が生じてきて
いる。また、その一方で地域の課題なども多様
化してきており、地域課題への対応力も求めら
①地域運営組織の設置には地域的に偏りがあ
る。
地域運営組織があると回答した市町村は、有
効回答 1,590 市町村中の 494 市町村、31%とな
っており、地域運営組織の 組織数は、全体で
1,680 団体となっている。地域別にみると中国
地方が最も多く(48%)、次いで東海地方(45%)
となっている。
れている。
図表1 地域運営組織が必要となってきた背景
基礎的
生活支援サービス
自助
公
(行政)
共
(地域コミュニティ)
民
(市場)
図表3 暮らしを支える地域運営組織がある市町村の割合
地域運営組織がある
市区町村の割合
「隙間」への対応
基礎的生活支援サービス需要の増大
サービス提供(供給)機能の低下
家事支援、高齢者交流など
60%
【市場】買い物支援、移動支援など
新たな需要の発生
【地域コミュニティ】見守り、雪かき、草刈りなど
財産管理(空き家、里山等)など
【行政】公的施設の管理・運営など
40%
30%
資料出所:平成 26 年度総務省研究会報告書
48%
45%
50%
22%
29% 28% 32%
34%
31%
29% 31%
20%
10%
こうした動きの中で、従来の自治会・町内会
全国
九州・
沖縄
四国
中国
近畿
東海
北陸
関東
東北
「私」の分野をカバーする主体として、地域の
北海道
0%
と連携は取りつつ、
より広域の範囲で、
「 公」
「 共」
生活・暮らしを支え、守り、さらに維持・発展
資料出所:平成 27 年度総務省研究会報告書
させていく仕組みとして地域運営組織の必要性
が生じた。
なお、現在、地域運営組織が設置されていな
ただし、地域運営組織は、下図のように自治
い市町村のうち約 8 割超は、今後、設置が必要
会・町内会や公民館をはじめ、地域にある様々
と回答している。
な関係主体と互いの役割分担を明確にしながら
②ある程度、見知った人のいる地域(小学校
区など)が活動範囲となっている。
地域運営組織の活動範囲は、小学校区と概ね
一致、旧小学校区と概ね一致あるいは小学校区
及び中学校区と一致との回答を合わせると半数
を超えている。そのため、同世代でみれば、あ
る程度、顔と名前が一致する範囲、親世代であ
っても、子供や学校行事を通しての連携などが
存在している範囲と一致している。また、総務
省研究会で実施したヒアリングの訪問先の中に
は、小学校区に一つ公民館を設置しているとこ
ろもある。それも、活動範囲が小学校区単位が
補完して地域生活や暮らしを支え、発展させる
ものであり、代替したり競合するものではない。
図表2 地域運営組織と地域の関係主体の関係
自治会
市町村
公民館
民生委員
NPO
社会福祉協議会
商店会
農協など
地域運営組織
老人会
自主防災組織
小学校
中学校
婦人会
子供会
PTA
2
多くなっている要因の一つと考えられる。
ことが求められる。
③高齢者の暮らしを支える活動を中心に様々
な活動を展開している。
高齢者交流サービスや声かけ、見守りサービ
スなど暮らしを支える活動を行っている団体が
多い。また、体験交流事業などへの取組み、公
共施設の維持管理(指定管理など)に取り組ん
でいる団体もある。
総務省研究会のヒアリング先では、閉鎖され
たガソリンスタンドやスーパーの再建、小規模
コンビニや交流宿泊施設の運営を実施している
団体もある。
「公」
「共」
「私」の領域に跨る幅広
い活動を行っている団体が存在している。
図表5
地域運営組織の主な収入源(上位 3 位まで)
地域運営組織の主な収入源(1位~3位)
0
構成員からの会費
200
164
400
328
600
800
1000
1200
158
寄付金 19 113 123
764
市町村からの補助金等
249
78
国・都道府県等からの補助金等 60 6244
民間団体からの助成金 43 84 60
公的施設の指定管理料
129 74 30
市町村からの受託事業収入(民間団体からの助成
5258 95
金を除く)
1位
2位
3位
国・都道府県等からの受託事業収入(民間団体から
95 8
の助成金を除く)
利用者からの利用料(生活支援サービスの対価)
収益事業の収益(国・都道府県等からの受託事業収
入を除く)
102 116 78
82 86 99
資産運用益(預金利息、配当など) 3 21 83
図表4
地域運営組織の活動内容
その他
実施している活動内容(複数選択可)
0%
市町村役場の窓口代行
10%
20%
40%
7%
雪かき・雪下ろし
7%
11%
弁当配達・給配食サービス
9%
買い物支援(配達、地域商店の運営、移動販売な
ど)
9%
37%
声かけ、見守りサービス
50%
高齢者交流サービス
8%
34%
体験交流事業
名産品・特産品の加工・販売(直売所の設置・運営
など)
その他
⑤担い手人材、リーダー人材、活動資金の不
足を課題と感じている。
地域運営組織として活動していく上で、人材
面での課題(担い手人材、リーダー人材、事務
局)を挙げている団体が多くなっている。その
ほか、前述の補助金を主たる収入源としている
点からも活動資金の不足をあげている団体も多
い。
なお、地域を支える活動をしているにも関わ
らず、地域住民の当事者意識の不足を課題とし
て挙げている点は気になるところである。地域
づくりにおいて、様々な世代の地域住民、地域
の関係主体が地域の現状を理解し、方向性を検
討・共有することが重要であることは、総務省
研究会での議論、ヒアリングにおいても指摘さ
れているためである。そのため既に、地域運営
組織として活動している地域において、当時者
意識の不足という課題がでてきた背景について、
その理由を確認する必要がある。また、同時に、
今後、地域運営組織を立ち上げ、地域再生を目
指す地域に対しては、十分な協議・検討にとり
地域全体での認識共有の重要性について、伝え
ていくことが重要である。
10%
コミュニティバスの運行、その他外出支援サービス
空き家や里山などの維持・管理
資料出所:平成 27 年度総務省研究会報告書
60%
25%
送迎サービス(学校、病院、その他高齢者福祉施設
など)
保育サービス・一時預かり
50%
5%
公的施設の維持管理(指定管理など)
家事支援(清掃や庭木の剪定など)
30%
65 60 78
13%
9%
29%
資料出所:平成 27 年度総務省研究会報告書
④行政からの補助金への依存が高く、財政基
盤は脆弱な団体が多い。
収入源の大半としては、市町村からの補助金
等が最も多く、次いで構成員からの会費となっ
ている。一方で、市町村や国からの受託事業収
入や、利用者からの利用料(生活サービスの対
価)
、収益事業収入を収入源の上位に挙げている
団体は、まだ多くはない。今後、地域運営組織
が持続的に維持・発展していくためには、補助
金などに頼らない安定的な財源を確保していく
3
図表6
地域運営組織が感じている課題
検討を開始した。現時点においても、車で十数
分移動すれば、商店がないというエリアではな
継続的に活動していく上での課題(複数選択可)
0%
10%
30%
20%
40%
50%
60%
70%
80%
いが、将来、車が運転できなくなることを想定
53%
活動資金の不足
して地域の交流の場となる拠点を兼ね備えた生
14%
活動拠点となる施設(数、面積)の不足
17%
活動に必要な物品の不足
活店舗を再建することを決定した。開設にあた
56%
リーダーとなる人材の不足
る初期費用については、開設メンバーが、地区
76%
活動の担い手となる人材の不足
内の世帯を訪問して説明を行うことで地区内世
50%
事務局運営を担う人材の不足
帯からの寄附で賄った。また、こうした結果、
25%
会計や税務、労務などのノウハウの不足
地域が進むべき方向性・ビジョンを決めるプロセス
や手法がわからない
事業を実施するうえでのプロセスや手法(事業計画
/マーケティングほか)がわからない
12%
本店舗では、賞味期限の短い商品を選んで購入
11%
することで廃棄ロスなどによる店舗負担を減ら
43%
地域住民の当事者意識の不足
地域住民の活動への理解不足(地域のために活動
している組織として認知されていない)
そうとするなど、自分たちの将来を支えてくれ
32%
22%
自治会・町内会との関係、役割分担
活動に適した保険がない
3%
その他
4%
る店舗として、この店を支えようという意識も
芽生えている。
図表7
資料出所:平成 27 年度総務省研究会報告書
⑥多様な組織形態による活動を実施。
地域運営組織の多くは、法人格を持たない任
意団体となっている。また、法人格を持ってい
る場合、特定非営利法人、社団法人や株式会社
など組織形態は多様である。
また地域のビジョンや方針を決めていく協議
機能と、実際の課題解決に向けた活動に取り組
む実行機能を一つの組織で実施している場合も
あれば、協議と実行が別々の組織となっている
場合、実行については地域の別の関係主体と連
携している場合など、組織の形態は多様である。
ほほえみの郷トイトイの活動の様子
資料出所:平成 27 年度総務省研究会報告書
②地域資源調査の結果をレッドデータとして
提示、地域住民の立ち上げ機運を醸成し、
様々な事業を展開(特定非営利活動法人か
みえちご山里ファン倶楽部)
新潟県上越市の「かみえちご山里ファン倶楽
部 3 」では、地域の関係主体と連携しながら、
地域住民が中心となって行う民俗行事・伝統行
事などの地域活動の活性化を目指した支援、環
境や地域の伝統文化、自然、生活技術などをベ
ースとした産業化・活性化に向けた様々な体験
事業や特産品の販売及び上越市からの環境学習
などの受託事業、古民家を再生したカフェ、宿
泊施設など、幅広い活動を展開している。
かみえちご山里ファン倶楽部では、地域再生
に入る段階で、地域に残された資源を詳細に分
析し、レッドデータ(地域住民のもつ生存技能)
を地域住民に提示した。これが地域住民の現状
の再認識につながり、地域住民自らが、再度、
頑張ろうという意志を持つきっかけとなった。
さらに、地域の各種団体との様々な共同作業を
2.地域運営組織の事例
上記では、地域運営組織の概観を整理したが、
ここでは総務省研究会で実施したヒアリング実
施先の実例の一部を示しながら、地域運営組織
の組織形態の多様性や活動の多様性などを紹介
したい。
①撤退した地域商店を再開(特定非営利活動
法人ほほえみの郷 トイトイ(山口県山口
市))
山口県山口市阿東地区の「ほほえみの郷トイ
トイ 2 」は、地域の商店の撤退をきっかけに、
地域をどうするか、また商店の再生についての
4
4
通じて地域に入り込み、地域外部の若者を中心
郷おだ
とするスタッフが活動することで、高齢化・過
覚えた地域住民が地域の課題解決に向け、地区
疎化の中で薄れていった人と人、集落と集落の
内の自治会ごとあるいは、全体で何度も検討を
つながりを再び強めることなどを通して、地域
行い、将来の方向性を検討した。
活性化に取り組んでいる。
」では、小学校の統廃合から危機感を
また、方向性を実現するための農業部門を実
施するため「ファーム・おだ 5 」が設立された。
図表8 かみえちご山里ファン倶楽部の活動の様子
ファーム・おだでは、集落営農に取り組むほか、
米粉パン工房も設立、米粉パンは好評を得てお
り、集落の農業所得として年間、約 6 千万円を
地域に還元している。
以下に示すとおり、本組織においては、協議
の場となる「共和の郷・おだ」と実行機能とな
る「農業生産法人ファーム・おだ」は別組織で
はあるが、一体的に地域活性化に取り組んでい
る。
図表9 共和の郷・おだ/ファーム・おだの組織構造
小田地区における新 2 階建て方式による住民自治と集落営農の概念図
(小さな農協機能)
(農)ファーム・おだ
地域農業
の発展を
資料出所:平成 27 年度総務省研究会報告書
個別経営
目指す 2
農家
階部分に
5戸
あたる組
13 集落 154 戸
従業員 21 人
加工部門
パン工房(パン&マイム)
寄りん菜屋協議会
人格なき社団
女性・高齢者の
任意グループ
直売所・食堂・農産
加工所
(味噌・そば加
工等)
織
中山間直接
支払制度
こうした地域での活動の充実は、地域に想定
農地・水・環境保全
向上対策事業
環境保全型農業直
接支援対策事業
ひろしま森
づくり事業
各種団体
していなかった効果をもたらしている。それは、
8 つの専門部会
地域活動
を支える
1 階階部
高齢者の健康寿命の延伸である。かみえちご山
分にあた
る組織
里ファン倶楽部関原理事によれば、同団体の活
総務企画部
体育健康部
女性部
福祉ふれあい部
文化教育部
白竜部(高齢者)
農村振興部
環境保全部
消防団
PTA
体育振興協会
神楽団
交流促進協会
交通安全協会
観光協会
老人クラブ・・・等
動する範囲においては、都市部に比べ介護認定
資料出所:平成 27 年度総務省研究会報告書
を受ける年齢が 5 年ほど遅くなっている。この
④行政からの公共施設の指定管理をきっかけ
に有志が立ち上がり事業を拡大(特定非営
利法人元気むらさくぎ/広島県三次市)
広島県の三次市作木地区で活躍している「元
気むらさくぎ 6 」は、地域の自治会連合の有志
が設立した地域運営組織である。当初は、自治
連合会で検討を行っていたが、最終的には実施
は、地域の有志で団体を設立した。公園やキャ
ンプ場の指定管理、グループホームの施設管理
等を行うほか、農業支援事業、移動支援なども
行い、総事業費規模 1 億円を超える事業を実施
している。
ことは、市町村の介護費用負担削減などの財政
節減につながることも期待される。一方、中山
間地などの集落維持には、都市部に比べ冬季の
除雪費用などの経費も必要である。財政支出の
面、またお金では換算できない QOL(Quality of
Life)の充実といったことも比較検討して、中山
間地の持続的発展・維持の重要性を議論する必
要がある。
③小学校統廃合をきっかけに検討を開始、集
落営農などと連携して地域を再生(自治組
織 共 和 の郷 ・ おだ/ 農事 組 合 法人 フ ァー
ム・おだ(広島県東広島市)
広島県東広島市小田地区の自治組織「共和の
5
図表10 元気むらさくぎの取組
三次市作木支所
また、島根県雲南市と三重県伊賀市、同県名
張市、兵庫県朝来市の 4 市は共同で、地域住民
地域の就労の場確保を設立の最大目標
が自ら多様な活動や事業によって暮らしを支え
理事長 熊本孝司
・理事(意想決定機関)
・株式会社わかたの村
・さくぎ共同利用施設組合長
・作木農畜産物処理加工施設組合
・作木町自治連合会会長
・わかたの村役員
・カヌー公園所長
・監事、高丸農園組合長
管理施設:文化センター、ふれ
あい公園、上・下自治交流セン
ター、岡三渕殿敷・交流広場、
その他
わかたの酒の会継続
グループホームさくぎ
平成22年4月開所
中山間直接支払
(農地保全、農業支援事業)
農業支援事業
作木町自治連合会
会長 田村 眞司
る「小規模多機能自治」にあり方に関する検討
を重ね、平成 27 年 2 月には「小規模多機能自治
推進ネットワーク会議
管理施設:カヌー公園・常清滝キャンプ場・常清滝山村広場、
活性化センター(川の駅)・グループホームさくぎ(天楽庵)
管理施設:
さくぎ共同利用施設
(ライスセンター)
育苗センター
の情報交換や連携を図っている。
3.地域運営組織を通して地域が自立して
いくことの持つ意義
資料出所:平成 27 年度総務省研究会報告書
⑤全市の小学校区単位で小規模多機能自治を
展開(島根県雲南市)
市町村が主体となって旧小学校区などを単位
として地域運営組織の制度をつくっている例も
出てきている。
島根県雲南市では、合併を契機に協働のまち
づくりを本格化させ、従来の地縁型組織(自治
会・町内会)や消防団、営農組織、PTA ほか地
域の様々な人、組織、団体が参画し、地域課題
を自ら解決する「地域自主組織」が集落機能を
補完する新たな自治組織として位置づけた。市
では、小学校区単位での「地域自主組織」の設
立・運営に際し、積極的に活動拠点の整備や事
務局体制の整備の支援を行っている。また、活
動資金の支援としての一括型交付金の交付や、
地域担当職員制も採用している。
地域運営組織などの活動を通して地域が持続
的・継続的に維持・再生されていくことは、新
たなビジネス・雇用の創出、若者の田園回帰の
受け皿づくりといった効果のみならず、高齢者
の活躍の場づくりによる健康寿命の延伸を介し
た介護費用・社会保障費用の節減といった効果
も期待され、地域が自立していくことの社会的
な意義は大きい。
①雇用創出、女性・若者の活躍の場の拡大
地域運営組織の活動が持続・継続することで
新たな雇用創出、若者や女性の活躍の場が広が
っている。例えば、前述の事例でみれば、以下
のような活躍の場が提供されている。
元気むらさくぎの事例では、市の公的施設の
維持管理ほかの事業展開を通し、介護や農業な
どで正規職員 10 名超、パートを含めれば 90 人
程度以上の雇用を創出している。また、ファー
ムおだの事例では、集落営農によって手の空い
た農家の女性陣が、直売所・レストラン・加工
所の複合施設「寄りん菜屋」の指定管理者とし
て管理・運営を受けて活躍している。さらに、
えちご山里ファン倶楽部では、前述の通り、地
域外部の若者が部外者として人と人、集落と集
落を結びつけるヒモとしての重要な役割を果た
している。
図表11 地域運営組織の立ち上げステップ
(島根県雲南市資料)
対等性
進度
巡航
段階
→ 新しい公共
⑧地域代表的性格
中期
段階
地域の主体性
活動の活発化
⑦事務局体制
(人的配置)
初期
段階
⑤組織化(全域化)
⑥拠点施設
の整備
④組織化(徐々に結成)
③組織化(準備)
」を設立、全国の自治
体での小規模多機能自治の取組みの推進、相互
管理施設:
作木農畜産物処理加工施設
27年4月元気むらに統合予定
一般的な
進化の過程
7
←分野別円卓会議
←取組発表会
←研修・情報提供
←人的支援
←指定管理料
←組織運営資金
←組織活動資金(交付金等)
←人的支援
←組織運営資金
←組織活動資金(補助金等)
←人的支援
←組織化資金(補助金等)
②計画・要綱・指針等を定める
①「協働」姿勢を打出す
…条例等
②中山間地での地域運営組織の活動による介
護費用の節減
中山間地などで地域運営組織などの活動が活
時期
資料出所:平成 26 年度総務省研究会報告書
6
4.地域運営組織の設立・持続的運営によ
る地域再生に向けて
発化し高齢者の活躍の場が広がることは、介護
費用の節減などにもつながる可能性がある。
前述の新潟県上越市のかみえちご山里ファン
このように社会的な意義も大きい地域運営組
倶楽部の事例によれば、地域活動などが活発化
織の活動を通して地域を自立、持続・発展させ
し、それらに地域の高齢者が参加したことで、
ていくためには、筆者は大きく以下に示す 4 つ
都市部に比べ要介護認定を受ける年齢が 5 年ほ
の象限を経由していく流れが必要であると考え
ど遅くなっているなど、健康寿命の延伸が現実
る。
化している。
また下図の厚生労働省資料
8
図表13 地域運営組織の発展に向け必要な取組
からも高齢者の
就業が健康寿命の延伸につながるとされている。
組
織
形
成
都道府県別の比較であるが、要支援認定率と、
65 歳以上就業率の相関関係をみると、65 歳以上
就業率が高い地域の方が、要支援認定率が低い
法人化(一体型・分離型)
地域の関係主体との連携
地域経営/マネジメント
人材発掘・育成/PDCA
かたちづくる
発展させる
考える
動いてみる
傾向が認められている。
図表12 都道府県別にみた要支援認定率と
65 歳以上就業率の関係
見つめ直す/内部・外部の目線
ワークショップなどの活用
はじめの一歩/小さな成功体験
担い手・参加者の広がり
総務省研究会、小田切座長提案を参考に筆者作成
課題解決
「考える」から出発して「発展させる」に向
けていく流れは、大きく大別するとすれば、二
つのパターンに分けられると考える。一つは、
地域の実状を認識し、課題解決に向けて、まず
はアクションを起こし、それを発展させていく
なかで、組織を整え、持続継続的な取組へと進
めていく課題解決先行型の発展プロセスである
(図表 13 の赤線)。もう一つは、検討・実践の
ための制度・組織を整えてからアクションを起
こし、それを持続的・継続的に発展させていく
組織形成先行型である(図表 13 の青線)。後者
資料出所:厚生労働省資料
については、市町村が一律に地域運営組織を整
総務省研究会で訪問した先進的な地域運営組
備していく場合に多くみられる。
織で活躍する世代の多くは定年以降の世代であ
いずれにしても、最初の一歩は、
「地域を見つ
り、70 歳を過ぎても現役で元気に活躍している
めて「考える」こと」である。その上で、既存
多数の方とお会いした。そのため、地域の自立・
の地域の団体や有志などで、小さなこと・でき
再生に向け地域が立ち上がり活躍の場面を作り
ることから「まず、
「動いてみる」こと」である。
だすことは、健康寿命の延伸をもたらし、それ
また、地域にある様々な団体との連携のなかで
に伴う介護費用の節減につながることが期待さ
「地域にあった組織を「かたちづくる」こと」
れる。
も重要である。そして、これらの地域の自立・
再生の動きを持続・発展に向け、
「地域経営の視
7
点をもって「発展させる」こと」が必要となる。
によって多様なあり方があってよい。実際に、
先進的な地域運営組織の形態をみると法人格の
①地域を見つめて「考える」こと
地域再生に取り組んだ先進的な地域の多くは、
前述のような小学校統廃合や店舗撤退といった
外的なショックをきっかけとして地域の現実と
向き合い、地域の人々が地域の今後について、
何度も話し合い、考えたことがきっかけとなっ
ている。まずは、地域を見つめ直し、地域につ
いて考えることが第一歩である。その上で「地
域が、将来どうありたいか」を考え、そこに向
けて、
「いつ・誰が・何を」実施するのかという
行動計画を決定することも重要となる。
なお、地域の見つめ直しにあたっては、地域
内の視点では気づかない新たな「気づき」が生
まれやすいことから地域外部の視点を取り入れ
ることも効果的である。検討方法としては、多
くの地域住民が参加して地域を考えるワークシ
ョップ形式が有効である。
有無、事業部門と計画立案部門が分離している
団体、一体となっている団体などが混在してお
り、それぞれが活動にとって最適な形態を模索
している。
④地域経営の視点をもって「発展させる」こ
と
地域で活躍している地域運営組織にあっても、
行政からの補助金が主たる収入源となっている
ところは少なくない。今後、介護や公共サービ
スの代行など行政からのアウトソースなどの受
託者となることを通して地域の課題解決のため
の財源を確保していくことは重要である。また、
継続的・持続的な取組としていくためには、人
材の確保・育成のサイクル、PDCA などによる計
画のマネジメントなどについて、しっかりと組
織で整備していくことも必要となる。
5.地域運営組織を取り巻く環境・支援の
動き
②まず、「動いてみる」こと
行動計画ができたら、次は、小さなこと・で
きることから、動いてみることが重要である。
そのために、前述の行動計画には、
「いつ・誰が」
を明記することが必要なのである。ここでの小
さな成功体験が積み上がり、地域の担い手・参
加者の増加、地域への認知度を高めていくこと
につながる。なお、こうした取り組みを進めて
いく上では、適切な目標の設定・達成状況の管
理・フォローなどの役割を果たす人の存在は重
要である。
幾つかのヒアリング事例によれば、活動成果
を新聞やテレビなどで紹介してもらったことが
自信につながり、活動の持続につながったとい
うケースもある。取組の広報についても、十分
に検討しておく必要がある。
国、都道府県や市町村では、地方創生のみな
らず、財政健全化や 1 億総活躍社会の実現に向
けても意義の大きい地域運営組織の設立、継続
的な運営に向け本格的な支援をはじめている。
以下、国、県、市町村及び中間支援組織ほか外
部のサポート主体の関係主体別に、どういった
支援を行っているのかについて、紹介する。
5-1.国の支援・役割
政府は、「まち・ひと・しごと創生総合戦略
(2015 改訂版)」9 のなかで平成 32 年までに達成
すべき KPI として「「小さな拠点」の形成数を
1,000 箇所、地域運営組織の形成数を 3,000 団
体」という指標を設定し、大きな方向性を提示
した。また、その実現に向け、具体的にまち・
ひと・しごと創生本部では、
「地域の課題解決の
ための地域運営組織に関する有識者会議(座長
小田切徳美 明治大学農学部教授)」を立ち上げ
③地域にあった組織を「かたちづくる」こと
組織のあり方については、活動の内容や種類
8
て検討を重ね平成 28 年 8 月に「地域の課題解決
普通交付税及び特別交付税として 500 億円の地
を目指す地域運営組織-その量的拡大と質的向
方財政措置を講じている。また、過疎地域等集
10
上に向けて-中間とりまとめ」 を取りまとめ
落ネットワーク圏形成支援事業では、複数の集
た。
落による、生活の営みの確保、生産の営みを振
興する取組の支援を行っている。さらに、人的
各府省でも、地域運営組織の設立や運営に向
な支援として、地域おこし協力隊や集落支援員
けて様々な支援措置を実施している。
の派遣なども実施している。
内閣府では、地方の先駆的な取組などを支援
する地方創生推進交付金や、地域活性化伝道師
国土交通省においては、「『小さな拠点』を核
の派遣といった人材の派遣などの支援措置を講
とした『ふるさと集落生活圏』形成推進事業と
じている。
して、小さな拠点を核として周辺集落とのアク
セス手段を確保した集落の再生・活性化を図る
総務省では、地域運営組織の運営支援のため
事業の支援を行っている。
の経費、地域における住民同士の支え合いによ
そのほか、以下のような様々な支援措置が実
る高齢者支援の取組みを支援するための経費や
施されている。
地域運営組織の立ち上げに係る経費について、
図表14 地域運営組織に対する支援措置
事業名
地方創 生推進 交付
金
担当
内閣府
地方財政措置
総務省
過疎対策事業債
総務省
過 疎 地 域 等 集 落ネ
ットワーク圏形成支
援事業
総務省
「小さな拠点」を核と
した「ふるさと集落
生活圏」形成推進
事業
国土交通省
農山漁 村振興 交付
金
農林水産省
地域活性化伝道師
内閣府
地域おこし協力隊
総務省
集落支援員
総務省
概要
官民協働・地域間連携等の観点から先駆的な取組、既存事業の隘路
を発見し打開する取組(政策間連携)、先駆的・優良事例の横展開を支
援するもの。地方の先駆的な取組を支援。
高齢者の生活支援等の地域のくらしを支える仕組みづくりとして、地域
運営組織の持続的な運営に必要な費用を地方財政計画に計上。
過疎地域自立促進特別措置法(平成 12 年法律第 15 号)による過疎地
域の市町村が、過疎地域自立促進市町村計画に基づいて行う事業の
財源として特別に発行が認められた地方債であり、地域医療の確保、
住民に身近な生活交通の確保、集落の維持及び活性化などの住民の
安全・安心な暮らしの確保を図るためのソフト事業にも活用可能。
過疎地域等の集落を対象に、継続的な集落の維持活性化のため、基
幹集落を中心として複数の集落で構成される「集落ネットワーク圏」を
形成し、生活の営み(日常生活支援機能)を確保するとともに、生産の
営み(地域産業)を振興する取組を支援する。
人口減少・高齢化が進む中山間地域等において、基幹集落に複数の
生活サービスや地域活動の場を集めた「小さな拠点」を核とし、周辺集
落とのアクセス手段を確保した「ふるさと集落生活圏」の形成を推進し、
集落の再生・活性化を図るため、「小さな拠点」の形成に資する事業に
対して支援する。
都市と農村との共生・対流等を推進する取組や地域資源を活用した雇
用等の増大に向けた取組及び農山漁村における定住を図るための取
組等を総合的に支援する。交付額、交付率等は事業により異なる(定
額、1/2以内など)。
地域活性化に向け意欲的な取組を行おうとする地域に対して、地域興
しのスペシャリスト(地域活性化伝道師)を紹介し指導・助言などを行う。
都市部の若者等が過疎地域等に移住して、一定期間(概ね1年以上3
年以下)、地場産品の開発や農林水産業への従事等の地域協力活動
を行い、その地域への定住・定着を図る取組に対して、特別交付税措
置を講じる。
集落の実情に詳しく、集落対策の推進に関してノウハウ・知見を有した
9
事業名
担当
外 部 専 門 家 招へい
事業
総務省
全国地域づくり人財
塾
総務省
生活支援コーディネ
ーター
厚生労働省
地域再生マネージャ
ー事業
(一 財) 地 域
総合整備財
団
概要
人材が、市町村職員と連携し、集落の巡回、状況把握等に従事する取
組に対して特別交付税措置を講じる。
地域独自の魅力や価値の向上に取り組むことで、地域力を高めようと
する市町村が、地域活性化の取組に関する知見やノウハウを有する外
部専門家を招へいし、指導・助言を受けながら取組を行う場合の外部
専門家に関する情報提供及び招へいに必要な経費について特別交付
税措置を講じる。
地域活性化においては、様々な知識・経験を持った人がそれぞれの知
識・経験とアイデアを活かしながら活動に取り組み、地域で様々な活動
が展開されることが求められているため、そのような状況を生み出すた
めに必要となる、地域づくり活動を自らの手で企画し実践できる人材=
「地域づくり人」を育成するための講座や塾を開催。
生活支援・介護予防サービスの充実に向けて、ボランティア等の生活
支援の担い手の養成・発掘等の地域資源の開発やそのネットワーク化
を行う。
市区町村が地域再生に取り組もうとする際の課題への対応について、
その課題解決に必要な知識、ノウハウ等を有する地域再生マネージャ
ー等の外部の専門的人材を活用できるよう必要な経費の一部を支援
する。
資料出所:地域の課題解決のための地域運営組織に関する有識者会議「地域の課題解決を目指す地域運営組織
-その量的拡大と質的向上に向けて-中間とりまとめ」(平成 28 年 8 月 10 日) 参考資料 1 の抜粋
5-2.都道府県の支援・役割
地域運営組織は、自治会や町内会・集落など
の地縁型コミュニティをベースとしており、行
政としても市町村との関係が深いものとなって
いる。ただ、都道府県が率先して、市町村と連
携を取りながら、集落の再生支援に乗り出して
いる事例や、モデル地区として集落再生モデル
を構築しようという動きもみられる。ここでは、
以下、2 県の事例を紹介したい。
①高知県:「集落活動センター」の取組と「地
域企画支援員」による人的サポート
高知県では、地域で暮らし続けたいという住
民の思いを大切にしながら、地域が抱える課題
を解決する手段として、「集落活動センター 11
を核とした集落維持の仕組みづくり」を支援し
ている。
「集落活動センター」とは、地域外の人
材も受け入れながら、生活、福祉、産業や防災
など様々な活動に総合的に取り組む仕組みであ
る。
現在、高知県内の 4 市 9 町 1 村で 17 カ所(平
成 27 年 3 月現在)が開所されている。高知県で
は、集落活動センターの整備について、ハード・
ソフト含めた総合的なパッケージ支援として資
金面での支援、アドバイザーの派遣や研修会の
開催ほかを行っている。
図表15 高知県集落活動センターの取組
資料出所:高知県「集落活動センター支援ハンドブック」 12
また、高知県では、平成 15 年度から地域企画
支援員制度
13
を実施している。同制度では、県
職員が各地域に駐在して、市町村と連携しなが
10
ら、地域ニーズの把握や地域の活性化に向けた
で本事業を実施した。その結果、集落を見直す
取組の支援、県と地域をつなぐパイプ役、情報
場となった効果となったほか、廃校となった小
提供や各種相談の窓口となり地域を支える活動
学校を拠点とした特産品開発を開始した事例、
を行っている。本集落活動センターでの取組の
地域特産の芋を使った焼酎の開発事例や今まで
推進にあたっても、地域企画支援員が地域の住
停滞していた地域活動が再開されたといった効
民と一緒になり、取り組んでいる。
果が生まれている。
②和歌山県:ワークショップ形式での集落の
機運づくり
和歌山県では、中山間地域での高齢化、後継
者不足による耕作放棄地の増加、地域住民の共
同活動により維持されてきた集落の「むら」機
能の低下といった課題に対して新たな地域協働
力の創出に向け、平成 17 年度から「水土里のむ
ら機能再生支援事業(現在は水土里のむら機能
創出支援事業) 14 」を創設した。同事業では、
ワークショップを通して、地域住民自らが、地
域を知り、考え、行動するための機運づくりを
行うことを目的とし、中山間地域の集落を対象
に、住民自らによる地域資源の保全・活用計画
策定を支援している。そのための手法として県
では、
「寄り合いワークショップ」と呼ぶ、ワー
クショップを実施している。
5-3.市町村の支援・役割
市町村では、住民との協働のまちづくりとい
う観点から地域運営組織を位置づけ、その設立
や運営を支援していく動きがでてきている。市
町村の支援については、①協働のまちづくりの
方針を提示するための条例の制定、②方針を受
けた小学校区単位などでの組織形成への財政面、
人的サポートでの支援、③活動拠点などの施設
の整備・措置、④活動にあたる経費などの支援、
事務局のサポートなとどといった支援が行われ
ている。
図表17 市町村による地域運営組織への支援内容
地域運営組織に対する支援策(複数選択可)
0%
5%
10%
15%
20%
人材育成研修会など地域活動の中心となる人材の
育成
9%
5%
総合的な担当窓口を設置
9%
地域担当職員制度を導入
9%
「暮らしを支える活動」に取り組む組織の事務局運
営の支援
各地域の活動団体が交流する機会の設置
その他
35%
8%
活動に必要な物品の提供
地域外部の専門家の活用
30%
20%
活動拠点施設の提供
図表16 寄り合いワークショップの概要
25%
31%
助成金等の活動資金支援
10%
9%
11%
資料出所:平成 27 年度総務省研究会報告書
上記、財政面の支援では、地域の各種団体へ
の縦割りの補助金を一括化し、地域運営組織に
資料出所:和歌山県「わかやまの未来へ~寄り合いワーク
ショップによる地域再生ガイドブック~-水土里のむら
機能再生支援事業-」(平成 26 年度) 15
対して一括で交付金化することを行っている団
体もでてきている。さらに、上記の昨年度アン
同ワークショップでは、地域のあるもの探し
ケート調査の回答にもある通り、人的サポート
からはじめ、それを地図に落とし込み、自らで
という点では、地域担当職員制の制度導入、ワ
きることを考え、誰が、いつ、実行するのかと
ンストップ窓口の設置をしているところもある。
いう実行計画までを策定していく。
こうした地域担当職員が、地域でのワークショ
ップの運営でのファシリテーターや事務局を果
事業開始からの 10 年間で県では、52 の集落
たしている例もある。
11
5-4.その他、外部の主体による支援
地域運営組織の立ち上げ・運営にあたって、
地域内だけでなく地域外との連携、地域外の力
の活用は、重要である。それは、外部の視点に
より、地域住民だけでは見えてこなかった魅力
や課題が明らかとなることや客観的に事実を指
摘されることに加え、専門的な能力が必要なワ
ークショップでの調整・進行役が期待できるこ
と、多くのネットワークの中で地域に活用可能
なモデルや人材などを紹介・提示してくれるこ
となどが期待できるからである。
実際に、地域運営組織の運営にあたって、こ
うした役割を担っている組織として、いわゆる
中間支援組織などが挙げられる。同研究会の委
員でもある特定非営利活動法人都岐沙羅パート
ナーズセンター 16 や、特定非営利活動法人いわ
て地域づくり支援センター 17 などは新潟県内・
岩手県内で地域運営組織や集落でのコミュニテ
ィビジネスなどの立ち上げを支援している。ま
た同じく研究会委員の山形県川西町の「特定非
営利活動法人きらりよしじまネットワーク 18」
は、山形県置賜地区の NPO や市民活動団体の
ゆるやかなネットワークづくりと相互連携、地
域と行政・企業等との協働をサポートする「お
きたまネットワークサポートセンター(おきさ
ぽ) 19」の事務局も担い、地域協働などを支え
る役割を果たしている。
ただし、全ての地域において、地域運営組織
の設立・運営支援などを利用できる状態ではな
い。そのため、大学の先生などが市町村などの
地域運営組織設立などを支援しているケースや、
行政職員自らがワークショップのファシリテー
ターなども行っている地域もある。
また、先進的な地域運営組織そのものが、こ
れまでの経験・ノウハウを用いて地域で活躍す
る人材の育成といった支援をはじめているケー
スも出てきている。例えば、和歌山県田辺市の
「農業法人株式会社秋津野」の「紀州熊野地域
づくり学校 20」や、新潟県上越市の「かみえち
12
ご山里ファン倶楽部」の「里創義塾
21」などで
取組まれている。
今後の地域運営組織の設立、運営の支援にあ
たっては、行政による支援とあわせ、こうした
既存の地域運営組織などの果たす役割も大きく
なってくると考えられる。
6.まとめ
「限界集落」や「消滅自治体」といった言葉
からみても中山間地や農山漁村等地域の集落を
取り巻く環境は厳しい状況 にあり、地域の自
立・再生は待ったなしの状況である。地域運営
組織等の活動を通して地域が自立・再生するこ
とは新たな雇用の創出、高齢者の活躍の場の提
供などを通し、地方創生のみならず財政再建や
1 億総活躍社会の実現に向けての社会的意義も
大きいものである。そのため、国、都道府県や
市町村は、こうした地域の自立に向けた支援に
本格的に取り組み始めている。
しかし、今後の財政状況などをみれば、行政
も支援のあり方について、全国一律に種まき型
の設立支援を行う方向から、活動の状況や発展
段階に応じて効率的・効果的な支援へと移って
いかざるを得ないことが想定される。そのため、
地域運営組織としても、いつまでも補助金、行
政に頼ることはできないため、持続的発展に向
けた展開が期待される。
とはいえ、まだ全国的にみれば、地域運営組
織的な取組は、はじまったばかりである。今こ
そ、地域住民自らが、地域の関係者や内外の協
力者らと一緒になり地域の現状を見つめ直し、
「自らで考え、自らで将来を選び」動くときで
ある。
みずほ総合研究所 社会・公共アドバイザリー部
上席主任研究員 岩城 博之
[email protected]
1
弊社は、平成 25 年度、26 年度、27 年度の 3 か年の同研究会での検討を支援する調査を総務省より受託している。
各年度の報告書については、下記参照。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000284562.pdf
http://www.soumu.go.jp/main_content/000348939.pdf
http://www.soumu.go.jp/main_content/000405431.pdf
2
特定非営利活動法人ほほえみの郷トイトイ http://jifuku-toitoi.com/
3
特定非営利活動法人かみえちご山里ファン倶楽部 http://kamiechigo.jp/
4
自治組織「共和の郷・おだ」 http://kyouwanosato-oda.com/
5
農事組合法人ファームおだ http://kyouwanosato-oda.com/farm-oda/index.php
6
特定非営利活動人元気むらさくぎ http://www.genkimurasakugi.or.jp/about.html
7
小規模多機能自治推進ネットワーク会議 https://ja-jp.facebook.com/ShoukiboJichi/
8
要支援認定率と 65 歳以上就業率、65 歳以上単身世帯率の相関関係(厚生労働省提出資料(P9))
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/shakaihoshoukaikaku/wg_dai1/siryou4-3.pdf
9
「まち・ひと・しごと創生総合戦略 2015 改訂版」の全体
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/info/pdf/h27-12-24-siryou1.pdf
10
地域の課題解決を目指す地域運営組織-その量的拡大と質的向上に向けて-中間とりまとめ
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/chiisana_kyoten/rmo_yushikisyakaigi/rmo_yushikisyakaigi-chukan
matome.pdf
11
集落活動センターを核とした集落維持の仕組みづくり(高知県)
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/121501/syuraku-center-shikumi.html
12
高知県「集落活動センター支援ハンドブック」(P2)
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/121501/files/2013052900219/file_201676315422_1.pdf
13
地域企画支援員とは(高知県) http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/120801/shienintoha.html
14
水土里のむら機能創出支援 http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070500/midorinomura.html
15
和歌山県「わかやまの未来へ~寄り合いワークショップによる地域再生ガイドブック~-水土里のむら機能再生支援事
業-」(平成 26 年度)(P2) http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070500/documents/h26_midorisassi.pdf
16
特定非営利活動法人都岐沙羅パートナーズセンター http://www.tsukisara.org/
17
特定非営利活動法人いわて地域づくり支援センター http://iwa-c.net/
18
特定非営利活動法人きらりよしじまネットワーク http://www.e-yoshijima.org/
19
おきたまネットワークサポートセンター http://okisapo.net/
20
農業法人株式会社秋津野 「秋津野ガルテン」「紀州熊野地域づくり学校」 http://kumano.agarten.jp/
21
特定非営利活動法人かみえちご山里ファン倶楽部「里創義塾」 http://kamiechigo.jp/risogijuku/rsgj_aim/
本資料は、情報提供のみを目的として作成されたものであり、法務・貿易・投資等の助言やコンサルティン
グ等を目的とするものではありません。また、本資料は、当社が信頼できると判断した各種資料・データ等に
基づき作成されておりますが、その正確性・確実性を保証するものではありません。利用者が、個人の財産や
事業に影響を及ぼす可能性のある何らかの決定や行動をとる際には、利用者ご自身の責任においてご判断くだ
さい。
13