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平成 27 年度春季セミナー大会
日本の銀行・証券会社における
リスクマネジメントの今後について
日本大学経済学部証券研究会
香西班
1. は じ め に
今日、世界では金融機関に対する規制が厳しくなる傾向がある。これは日本
のバブルに代表されるような古典的なバブルやアメリカのサブプライムローン
問題に代表される新しいバブルの出現のためである。バブルが崩壊し金融市場
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が混乱する際に必ず取り上げられるのは金融機関のリスクマネジメントについ
てだ。しかし、過去金融機関に対する規制は緩和と強化を繰り返している。特
にサブプライムローン問題以前にグラス・スティーガル法が撤廃されて いる。
金 融 機 関 が か な り の リ ス ク テ イ ク を し た こ と に よ り 2009 年 の よ う な 金 融 危 機
が起こったがなぜ過度なリスクテイクをしたのだろうか。本レポートではリス
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クやリスクマネジメントについて述べた後、今日の金融機関を取り巻く環境を
考慮した日本における今後のプランを述べ る。
2. 銀 行 ・ 証 券 分 野 に お け る 金 融 リ ス ク
⑴金融リスクとは
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金融リスクとは資金の貸借、有価証券の売買、それらの派生商品の取引とい
った金融取引およびその取引の結果生じる金融商品の保有に伴って損害を被る
可能性のことである。以下、金融リスクをもたらす要因と具体的な事例を挙げ
る。
⑵信用リスク
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信用リスクとは金融取引の取引先や保有する金融商品の発行体のデフォルト、
もしくは信用力の変化によって生じるリスクのことであり、金融機関の歴史と
ともに存在してきた伝統的なリスクである。また、国内外を問わず、金融機関
の 破 綻 は 信 用 リ ス ク の 顕 在 化 に よ る も の が 多 い 。1990 年 代 末 の 大 型 の 金 融 機 関
破 綻 の 事 例 と し て 、 あ る 。 80 年 代 初 め か ら 90 年 代 初 め の バ ブ ル 期 に 行 っ た 過
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剰な不動産担保融資がバブル崩壊によって不良債権化したこと で、北海道開拓
銀行、日本長期信用銀行および日本債券信用銀行が 破綻した。
⑶市場リスク
市場リスクとは金利、外国為替レート、株価などの市場で取引されている商
品の価格やレートが変化することによって金融商品または金融取引に生じるリ
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スクである。さらに、市場リスクはさらに市場価格やレートの種類によって、
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金利リスク、為替リスク、株式リスク、コモディティ・リスクといった分類が
できる。
⑷流動性リスク
流動性リスクは大別すると市場流動性リスクと資金調達リスク に分けられる。
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市場流動性リスクとは保有している金融商品の反対売買、または取引残高のあ
る金融取引の解消が通常よりも不利な条件でしかできなくなる リスクで、資金
調達リスクとは金融商品の保有や金融取引の残高維持 にあたっての資金調達が、
通常よりも不利な条件でしかできなくなるリスクである。 これら二つの流動性
リスクは相互に密接に関連している。資金調達が困難になった場合でも、例え
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ば流動性の高い国債を保有していれば、その国債を売却したり、国債を担保に
したりすることで、必要な資金調達を行うことができる。
リスクをその要因に応じて分類することは、個々の金融取引・金融商品に内
在するリスクをとらえ、それを分析するにあたって基本となるものである。
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⑸金融リスクの主な種類、与える影響
ここでは格付を付与したうえで行うべき信用リスクの管理として、個別企業
やその取引案件の審査およびそれらに限度額を設定する考え方、信用リスクを
軽減させる方法を4つ述べる。
① 審査
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取引先や発行体の信用力を表現する方法として格付がある 。格付は、企業の
財 務 内 容 、資 金 調 達 力 、事 業 の 収 益 性 、経 営 管 理 力 と い っ た 様 々 な 項 目 を 調 査 ・
分析したうえで、総合的な判断を行って付与される。信用力の高い順に
AAA,AA,A,BBB,BB,B,(略 )… と し て い る 。 次 に 信 用 リ ス ク の 管 理 に 際 し て 、 ま
ず行われるのは取引先や案件の審査である。格付も審査の一環として使用され
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たり、審査の結果であったりする。
② 与信限度額の設定
与信限度額の設定は、審査を通じて判断した取引先や発行体の信用力・格付
けに応じて行う。これらの目的は、特定取引先・発行体への与信の集中の排除
やリスク分散を目的としている。また他にも、ポートフォリオに応じて与信限
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度額を設定することも重要である。
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③ 担保、保証、ネッティング
担保と保証は信用リスクの質を高めるのに役立ち、 ネッティングはその量を
減少するのに役立つ。
次 に VaR と は 、 一 定 期 間 後 (リ ス ク ・ ホ ラ イ ゾ ン )に 一 定 の 確 率 (信 頼 水 準 )で
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保 有 す る ポ ー ト フ ォ リ オ に 発 生 し う る 最 大 損 失 額 の 予 想 値 で あ る 。VaR は 損 失
金額というわかりやすい数値でリスクがとらえられ、異なる取引・商品や異な
る リ ス ク・カ テ ゴ リ ー 間 で の リ ス ク の 比 較 が 可 能 に な る 。し か し VaR は 計 算 の
過 程 で 様 々 な 前 提 を お い て お り 、そ の 前 提 が な け れ ば VaR の 数 値 も 異 な っ て く
る。
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3. 金 融 リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト を 行 う 意 義 及 び 現 状
⑴リスクマネジメントを行う背景及び現状
リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト は 1950 年 代 以 降 に 築 か れ た 金 融 工 学 に よ り 確 立 さ れ た 。
計量化をするための理論モデルを用いてリスクを推定し、得られた結果から損
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失を最小限にするためのコントロールを行う。先述したとおり、銀行(商業お
よび投資)の業務には常にリスクが付きまとうためこういったリスクマネジメ
ントは不可欠である。しかし、金融工学を使ったマネジメント方法が確立され
るまでの間は人が経験と実際の数字から判断するという方法で管理されていた。
金融工学の発展はデリバティブをはじめとする複雑な金融商品を生み出し、
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それにあわせてマネジメント方法も複雑化していった。
⑵リスクマネジメントの手法
リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト に お け る VaR と い う 概 念 は 先 の と お り だ が 改 め て 述 べ
る。これはポートフォリオをある一定期間保有する際にある一定の確率で生じ
る可能性のある最大損失額のことである。 T 時点でのポートフォリオの価値を
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Pt  と す る と 、将 来 の n 時 点 ま で に 生 じ る 損 益 額 を P と お く と PrP   X   
が 成 立 す る と き 、 損 失 額 X は 信 頼 水 準 1001   % で の 保 有 期 間 n  t の VaR と
い う 。 損 益 P の 分 布 の 100%α 点 を 求 め る こ と で あ る 。
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図 1
正 規 分 布 と VaR
出典:ヒストリカル法によるバリュー・アット・リスクの計測
3 ページより筆者作成
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市 場 リ ス ク は 、ヒ ス ト リ カ ル 法 と い う 方 法 か ら VaR を 求 め る こ と で マ ネ ジ メ
ントが行われる。予測変動率は過去のデータから組まれる。 これは観測期間中
のリスク要因の変動パターンが同じ確率で発生すると仮定するためである。
現 時 点 を t と し 、 リ ス ク ・ フ ァ ク タ ー を X t (ひ と つ の み と 仮 定 す る )と す る と
た と え ば T 日 間 と い う 観 測 期 間 の リ ス ク・フ ァ ク タ ー は xt T , xt T 1 ,..., xt 2 , xt 1 と
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表 せ る 。 収 益 率 rt T 1 ,..., rt 1 , rt は
rt i 1 
xt i 1
 1, i  1,..., T
xt i
… (1)
と表せる。
現 時 点 t の ポ ー ト フ ォ リ オ の 価 値 を P  xt  と す る と き 1 営 業 日 後 の 損 益
P  Pxt 1   Pxt  が ど の よ う に 分 布 し て い る か 考 え る と 過 去 に 観 測 さ れ た 収
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益率
rt T 1 ,..., rt 1 , rt

T
作 成 す る 。 こ こ で (1)よ り 、
xti 1  xt 1  rt i 1 , i  1,..., T
(2)よ り
 
2 
1
が 今 回 も 同 じ よ う に 発 生 す る と 仮 定 し て xt 1 ,..., xt 1 , xt 1
Pi  P xti 1  Pxt , i  1,..., T
… (2)
… (3)
4

を
こ こ で 得 ら れ た 、 Pi を 昇 順 に な ら べ VaR の 信 頼 水 準 を
100(1- α )%と す れ ば  PT 1  が VaR と な る 。こ の よ う に 、ヒ ス ト リ カ ル 法
では過去のデータに頼った統計結果が導かれる。
信用リスクは取引先の信用度など過去のデータが得られないため、こちらで
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乱数を発生させて予測する必要がある。これをモン テカルロ法という。返済の
確率や企業の投資先についてさまざまなリスク・ファクターを勘案しつつシミ
ュレーションを行う。収益率を設定したのちリスク・ファクターを乱数として
シュミレーションすることで計量化が行われる。
以上のようにリスクマネジメントは高度な金融工学を用いて行われるが、
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VaR を 求 め る に は 一 定 の 条 件 が 設 け ら れ て お り 、前 提 が 外 れ る と 効 果 が 発 揮 で
き な い 。 (た と え ば デ ー タ 数 が 少 な い な ど )そ の た め 、 金 融 機 関 で は ス ト レ ス テ
ストを行い、計量化された値がどこまで信憑性のあるものなのかテストを行っ
ている。
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4. 現 状 か ら 見 る リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト の 問 題 点
しかしリスクマネジメントの問題点として挙げられるのは 、低い確率で顕在
化しうるリスクをマネジメントすることが難しいということである。 発生する
可能性が極めて低いといわれていた一方 で実際に起こってしまったリスクとし
て は 2009 年 ご ろ の サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン 問 題 が あ げ ら れ る 。
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⑴サブプライムローン問題
サブプライムローン問題の原因は住宅市場と金融市場の両方に浸透していた
様々な要因に帰せられる。その後住宅バブルが弾けると、金融危機は震源地と
なった米国だけではなく、欧州と日本も経済的に影響を与えた。米国経済は
2008 年 の 後 半 の 経 済 成 長 は マ イ ナ ス 成 長 で あ り 、欧 米 の 株 価 は 急 落 し た 。ま た 、
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危機後、取引先の破綻リスクがはるかに大きく、金融市場における流動 性も低
下した。ヨーロッパにおいても、金融機関が米国証券化商品を大量に保有して
いたこともあったため金融機関の経営不安が発生し、金融資本市場は機能不全
と な っ た 。 日 本 で は GDP 成 長 率 は 2008 年 後 半 か ら 悪 化 し 、 2009 年 前 半 に か
けては急速かつ大幅に悪化した。また、企業収益も落ち込むことになった。 日
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本では、欧米より金融機関が被った直接的な損失が少なかった。
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サブプライムローン問題の原因として二つのことがあげられる。 一つ目は住
宅 市 場 で あ る 。 危 機 を 先 立 つ 数 年 前 に 、 IT バ ブ ル の 崩 壊 と 3.11 よ り 金 融 緩 和
が行われた。これは外国から資金の流入という融資条件を創り出し、住宅市場
ブームに油を注いだ。また、当時アメリカのクリントン、ブッシュ両政権が社
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会的弱者に住宅ローンを提供して住宅の保有者となる夢を可能にすることをア
ピ ー ル し た た め 、需 要 の 高 ま り に よ っ て 住 宅 の 価 格 が 上 昇 し た 。2006 半 ば に 米
国の住宅価格はピークを迎えた後下降を始めた。 しかし、サブプライム層は住
宅価格の上昇を続くと信じられた、変動金利型住宅ローンに手を出した。 変動
金利型住宅ローンはリスクが高いく、住宅ローンの弁済を停止する債務者が増
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加した。住宅価格を押し下げ、住宅所有者の資産価値も下げた。住宅ローンの
弁済が減ることで銀行の自己資本も減るという悪循環が出た。居住用不動産に
関わる投機的な借入がサブプライムローン危機の主な原因と言われている。
2005 年 に お い て 、 住 宅 購 入 の う ち 28%が 投 資 目 的 で あ り 、 加 え て 14%は 別 荘
として購入された。
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二つ目は金融市場での革新である。銀行は、サブプライムローンを証券化す
ることによって、満期までそれらを持ち続ける必要がなくなった。サブプライ
ムローンを投資家に売ることで、発行元である銀行は資金回収でき、更なるロ
ーンを発行可能になり手数料収入を得る こともできる。これを市場型金融とい
う。
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図 2
市場型金融
借
り
手
資金
金
融
機
関
(
原
資
産
証券化商品
債権
返済
投
資
家
SPC
)
支払
支払
出典:筆者作成
また証券化において優先劣後構造が作られる。ローン返済金の受け取りに順
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序をつけて、優先された証券と劣後する証券とに切り分け 、この証券化ででき
る優先されない部分を他のローンなどと混ぜて、再び優先劣後構造を組み込ん
で「 再 証 券 化 」を す る 。こ れ は 第 二 段 階 目 で あ る が 、同 じ こ と を 繰 り 返 さ れ て 、
第三段階目の証券も組成された。これらがいわゆる仕組み債であり、各段階で
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作成された最優先部分は格付け会社によって 最も安全と認定された。ただし、
構造が複雑で過去のデータに基づいた 価格を付けで売られていた。
しかし、返済不履行が同時に多く発生 したことによって、リスク分散は機能
しなかった。また複雑に優先劣後構造が作られたため証券化商品の中身がどの
ようなもので構成されているのかが分からなくなっていた。 複雑なために再評
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価が難しく買い手が見つからなかったため大幅に価値が下落した。これは、仕
組み債の低流通性を示している。
負 債 総 額 、約 6000 億 ド ル( 約 64 兆 円 )と い う 史 上 最 大 の 倒 産 に よ り 世 界 連
鎖 的 な 金 融 危 機 を 招 い た 。2008 年 9 月 15 日 リ ー マ ン・ブ ラ ザ ー ズ が 破 綻 し た 。
⑵ 2009 年 の 金 融 危 機 か ら わ か る 問 題 点
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以上のような金融危機のもっとも注目すべき点は、証券化技術による市場型
金融の登場である。市場型金融は金融機関からリスクをオフバランス化するこ
とが期待されていた。しかしリスクが顕在化した際、優先劣後構造 が繰り返さ
れたことでリスクマネジメントが効果を発揮できなかった。市場型金融には先
に述べたような信用リスクや市場リスクが入り組みリスクの 計量化が困難であ
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る。今回はサブプライムという層に貸し出したことで信用リスクが高まり、証
券化により市場リスクが高まった。
また、金融機関がこのようなリスクテイクを行ったのかインセンティブとな
るものは何であったのかを考える。アメリカを例にとると、投資銀行では傘下
にヘッジファンドを持っておりそこへ出資することによって利益を上げようと
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していた。投資銀行の資金調達は基本的には短期で あるが、このような資金は
コストがかからない。その資金を証券化された長期の貸出に投資し たことでハ
イリターンを得ようとしていた。しかし実際のところ 資金のミスマッチが起き
ていたため証券化商品の価値が暴落すると、流動性リスクの顕在化した。 一方
商 業 銀 行 に お い て も City Bank が サ ブ プ ラ イ ム ロ ー ン 関 連 の 証 券 化 商 品 を 保 有
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していたことで損失が生まれていた。
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⑶対応としての国際的な金融・証券規制
そのため金融危機直後からバーゼルⅢが施行されている。
銀行を初めとする預金を取り扱う金融機関は、民間企業でありながらも家計
から預金を集め、ローンや有価証券への投資を通じて信用創造を行う。それに
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加えて、為替や振替等の決済システムの役割を担っている。このため、預金取
扱金融機関には経済を成長させるためのリスクテイカーであるとともに、社会
インフラを担うための健全な財務体質が求められる。これに加えて、実体経済
と金融市場がグローバル化する中で、各国の金融システム危機が世界全体の金
融システムに波及するリスクも高まっている。このため、世界統一的な金融規
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制 が 不 可 欠 と な り 、 バ ー ゼ ル 銀 行 監 督 委 員 会 ( BCBS) に よ っ て 銀 行 等 の 金 融
機関に対する自己資本比率の最低水準を柱とした国際的な金融規制を成立させ
た。
バーゼルⅡが主として銀行勘定における信用リスクの捕捉に重点を置いてい
た一方、トレーディング勘定で保有するリスク捕捉は市場が正常に機能して流
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動 性 が 高 い 状 態 に お け る リ ス ク に 限 定 さ れ て い た と い う 問 題 が あ っ た 。 2010
年 12 月 に バ ー ゼ ル Ⅲ テ キ ス ト を 公 表 し た 。 国 際 的 に 活 動 す る 銀 行 に 対 し て は
2013 年 か ら 「 バ ー ゼ ル Ⅲ 」 の 段 階 適 用 が 開 始 さ れ る こ と で 合 意 さ れ た 。
この中でバーゼルⅢは国際金融のシステム自体のリスクに対する強度を高め
るために制定されており例えば、自己資本比率が厳密化され、定量的な流動性
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に 関 す る 規 制 や レ バ レ ッ ジ 比 率 が 導 入 さ れ た 。特 に 自 己 資 本 比 率 の 厳 密 化 と は 、
自己資本比率の質を高めること意味している。バーゼルⅢでは資本の概念は普
通 株 な ど で 構 成 さ れ る 中 核 的 自 己 資 本 で あ る と し 、 全 体 の 自 己 資 本 比 率 で 8%
以 上 と い う 基 準 に 加 え て 普 通 株 等 中 核 的 自 己 資 本 だ け で 4.5% 以 上 、 中 核 的 自
己 資 本 で 6% 以 上 と い う 基 準 が 設 定 さ れ た 。ま た 資 本 保 全 バ ッ フ ァ と し て 2.5%
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の引き上げも予定さている。だが自己資本比率規制は景気循 環増幅効果がある
とされており、景気拡張局面では資産価格の上昇に伴い金融機関の自己資本も
増大する。また逆も発生する。これらを補完する規制として流動性規制とレバ
レッジ規制も導入されることになっている。流動性規制は個別の金融機関が流
動性を生み出せるようにすることが目的である。
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ここで銀行に自己資本比率が求められる意味として、資本の質というものが
8
考えられる。バーゼルⅢは「損失吸収 バッファ確保の観点からの自己資本比率
規制」また「株主の動機づけの観点からの自己資本比率規制」ととらえること
ができる。
内部留保などは生き残るためのバッファであるということができる。また規
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制上で求められる自己資本の水準は株主が銀行経営に対して持つ、無責任な対
応を防ぐことができる。例えば増資の拒否などが挙げられるが、自己資本は薄
ければ薄いほど当局の支援を期待することにつながり株主の公正な判断を妨げ
ることになると考えられる。
金融機関の経営判断を預金者、経済全体から見て最適なリスク・リターンの
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バランスに比べて過剰なリスクを取りやすいものである。したがって規制を敷
くことはこれを是正することができると考えられる。また金融機関の業務が多
岐にわたると健全性指標による評価では難しい。自己資本比率は規制当局にと
って個別の金融機関のリスクを同一の尺度で変換することができる唯一の数字
であるといえる。
15
以上のように自己資本比率の拡充は以前の考え方とはことなり、金融機関の
管理は自主性にゆだねるのではなく、それぞれのレベルを一定に引き上げ包括
的に管理する必要があるとの見方が強くなっていると考えられる。
5. 金 融 リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト に 対 し て 日 本 に お け る 今 後 の 具 体 的 な プ ラ ン
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金融危機により規制が強化され自己資本比率やシャドーバンキング に対して
規 制 を か け る こ と (ド ッ ト ・ フ ラ ン ク 法 )も 重 要 で あ り 、 金 融 機 関 に か な り の リ
スクテイクをさせるようなインセンティブをなくしていくことが重要だ。それ
らの規制を踏まえたうえで信用リスクに関しては金融機関の審査を強化するこ
とも重要である。リスクマネジメントにおいて、マクロリスクマネジメントと
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いう概念も生まれている。市場型金融の発展により経済が変動することからリ
ス ク が 循 環 し 、市 場 の 変 動 に よ り 連 鎖 し な が ら リ ス ク が 大 き く な る こ と が あ る 。
個別の金融機関で計量されたリスクの総量よりも経済や市場全体で計量したリ
スクのほうが大きくなるということである。これらのよう な新しい手法を構築
しながらリスクマネジメントを進める必要がある。
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日 本 に お い て は 失 わ れ た 20 年 と い わ れ る よ う に バ ブ ル 崩 壊 か ら 長 い 時 が 経
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った今なお不景気にあえいでいる。不良債権問題の処理が長引くことはそれだ
け経済にとって大きなダメージを与える。そのため今回のアメリカの金融危機
の影響をもろに受けなかったのは先述したとおりである。以上から、日本では
リスクマネジメントが複雑化し困難になるような事態は起こりにくいと考える。
5
日 本 で は 1990 年 代 終 わ り に バ ブ ル が 崩 壊 し 資 金 需 要 が 少 な い こ と か ら 多 く の
銀行が国債で資金運用を行っている。しかし、国債発行高が巨額で量的緩和政
策において金融のメカニズムがゆがめられている今日では国債で資金運用をす
ることはリスクが高いと考える。
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6. 今 後 の プ ラ ン
マクロリスクマネジメントをより簡易化するために金融機関で共通のリスク
マネジメントシステムを使用することを提案する。マクロではリスクを計量化
することが難しい。共通の計量システムであれば金融当局も管理しやすいと考
え る 。し か し 、こ れ は 個 々 の 金 融 機 関 の 特 色 を 薄 め る と い う デ メ リ ッ ト が あ る 。
15
【参考文献】
≪書籍≫
・天 谷 知 子『 金 融 機 能 と 金 融 規 制 - プ ル ー デ ン シ ャ ル 規 制 の 誕 生 と 変 化 』
( 2012)
株式会社きんざい
・ 小 野 覚 『 金 融 リ ス ク マ ネ ジ メ ン ト 』( 2002) 東 洋 経 済 新 報 社
20
・ 地 主 敏 樹 、 奥 山 英 司 、 小 巻 泰 之 『 世 界 金 融 危 機 と 欧 米 主 要 中 央 銀 行 ―リ ア ル
タ イ ム ・ デ ー タ と 公 表 文 書 に よ る 分 析 』( 2012) 晃 洋 書 房
・柴田健、山内直子、岡本修『国内向けバーゼルⅢによる新金融規制の実務』
( 2014) 中 央 経 済 社
・西口健二
25
『 金 融 リ ス ク 管 理 の 現 場 』( 2011)
株式会社きんざい
≪ イ ン タ ー ネ ッ ト ≫ ( 最 終 閲 覧 日 2015 年 5 月 29 日 )
・ 日 本 銀 行 金 融 研 究 所 /金 融 研 究 /ヒ ス ト リ カ ル 法 に よ る バ リ ュ ー ・ ア ッ ト ・ リ
スクの計測:市場価格変動の非定常性への実務的対応
www.imes.boj.or.jp/japanese/kinyu/2004/kk23 -b2-1.pdf
・ フ ィ ナ ン シ ャ ル エ ン ジ ニ ア リ ン グ レ ポ ー ト Vol.13
30
― 2015 年 LCR 導 入 に 向 け て ― バ ー ゼ ル III
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流動性規制への対応
http://www.mizuho -ir.co.jp/publication/report/2013/fe13.html
11