日本におけるマクロプルーデンス政策の効果 ∗ 廣瀬康生研究会 荻野秀明 † 川邉美帆 ‡ 関谷裕鏡 § 高野隼一 ¶ 橋本壮広 ∥ 橋本龍一郎 ∗∗ 藤村和輝 †† 保里俊介 ‡‡ 概要 本稿では動学的確率的一般均衡モデルを用いて、マクロプルーデンス政策の効果 を検証している。バブル期の日本経済についてモデルを推定し、その推定結果を用 いたカウンターファクチュアルシミュレーションを行った。その結果、バブル期前 後の金融市場が変動している経済において、可変的資本規制の重要性は高く、仮にク ロプルーデンス政策を実施していれば厚生損失を減少させられることを示した。さ らに、伝統的金融政策である金利政策と同様、マクロプルーデンス政策はバブル期経 済において重要な政策オプションであったことが明らかとなった。 キーワード: マクロプルーデンス; 動学的確率的一般均衡モデル; 自己資本比率規制; 可変資本規制 ∗ † ‡ § ¶ ∥ ∗∗ †† ‡‡ 本稿の作成においては、廣瀬康生氏(慶應義塾大学経済学部准教授)より熱心な指導と的確なコメントを 頂戴した。ここに謝意を表する。 慶應義塾大学法学部 4 年 慶應義塾大学経済学部 4 年 同上 同上 同上 同上 慶應義塾大学商学商学部 4 年 慶應義塾大学経済学部 4 年 目次 1 導入 1 2 モデル 4 2.1 家計 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 2.2 最終財企業 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 2.3 中間財企業 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 2.4 銀行 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 2.5 金融政策 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 2.6 資源制約 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 モデル推定 15 3.1 データ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 3.2 状態空間表現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 3.3 カルマン・フィルター . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 3.4 ベイズ推定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 3.5 カルマン・スムージング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 3.6 設定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 4 分析 23 5 結論 27 3 参考文献 30 補論 31 1 導入 1 導入 日本で 1990 年代に起きた景気過熱とその後の後退は「バブル経済」と呼ばれ、依然とし てその発生原因や対応策などが議論されている。その中で Bernanke and Gertler (2000) に代表されるように、適切な利上げによってバブルの膨張は防ぎ得たとして、当時の金融 緩和政策の長期化を問題視する議論も多くなされてきた。しかし当時の利上げの遅れが景 気過熱の一因となったことは共通の見解となりつつあるものの、翁他 (2000) などでは、 物価が安定していた当時の状況では資産価格の上昇圧力を抑えるような急激な利上げを実 行することは現実的でないと指摘している。以上を踏まえると、金融緩和政策がバブル経 済発生の一因となっていた可能性は否定できないが、景気過熱を防ぐべく適切なタイミン グで対応を行うには困難を伴うことが見えてくる。これは前例のない規模の金融緩和政策 を採用している足元においても当てはまるものであり、今後金融緩和が長期化すれば過度 の経済過熱を引き起こす可能性がある。その対応のためには、出口戦略すなわち景気抑制 政策を検討する必要があるだろう。 米国を例にとると出口戦略は量的緩和政策の重要な問題でもあった。それは回復局面に ある景気を腰折れさせる危険と、反対に過度な金融緩和が先述のとおり、バブル的な状況 を作りだす可能性ががあるためと考えられていた。米国の例として 2000 年代のグリーン スパン議長を中心とした FRB による低金利政策が、アメリカ住宅バブルを引き起こした という批判が挙げられる。このように金融緩和の出口局面では、適切な時期に適切な政策 を行う必要がある。 出口戦略の手段として、資産買入れの停止・政策金利の引き上げのほかに、プルーデン ス政策の強化が挙げられる。イエレン FRB 議長は「FRB の優先リスト上で金融監督は 金融政策と対等な位置を占めるべきだ」というように、米国の出口戦略では金融政策以上 に金融機関への監督強化、資本や流動性確保に関する規制拡充といったプルーデンス政策 が重視されるようになっている (Spicer, 2013)。また Borio (2011) や Drehmann et al. (2012) では、金融システムが景気循環を増幅する力を持つことを踏まえ、行き過ぎた景気 拡大を防ぐためにもマクロプルーデンス政策が必要であることを指摘している。このよう に、景気後退時に大規模な金融緩和を行う政策である Fed View という考えから、現在で は BIS View と呼ばれる金融政策と資産価格の変動をある程度念頭に置く考え方について も、政策当局は一定の理解を示していると考えられ、実際の政策として採用される可能性 が高まっている。 1 1 導入 そもそもプルーデンス政策には大きくマクロプルーデンス政策とミクロプルーデンス 政策に分ける事が出来る。マクロプルーデンスとは、金融システムの安定はミクロ・レベ ルの努力だけでは達成できず実体経済と金融市場,金融機関行動の相互連関を意識して, 金融システム全体の抱えるリスクを分析し,そうした評価に基づいて意識的な制度設計, 政策対応を行っていくという考え方である (Farhi and Tirole, 2012) ミクロプルーデンス とは個別の金融機関の健全性を監督するという意味であり、英国では金融サービス機構 (FSA) 、日本では金融庁の検査など今まで長らく政策運営の中心となっていた。しかしマ クロプルーデンスという言葉は以前から使用されていたものの、概念が一般化され、研究 が本格化したのは 2007 年以降のグローバルな金融危機後である。 マクロプルーデンス政策の主な内容は、その概念を初めて提唱した BIS が示しているに 金融機関、特に経済活動に大きな影響力を持つ巨大な銀行などにへの新たな自己資本比率 規制を課すことである。この理由としてマクロプルーデンスの概念が、リスクを横断的に 捉える視点と将来にわたるリスクの変化を捉える、つまりは時系列的にリスクを観察する 視点の 2 つの軸からなっており、新たな自己資本比率規制が金融市場の大きな変動を抑え ることにつながり、金融政策の補助を果たすことが出来ると考えられているからである。 リーマンショック以前から存在していた国際的な自己資本比率規制として、バーゼル I とバーゼル II がある。バーゼル I では自己資本比率の最低水準を 8 %とし、バーゼル II では自己資本を統計的モデルを用いて精密なリスク計測を加えて計算した。しかし、その リスク計測が各金融機関毎に任せられていたため、規制が厳格には適用されず景気循環増 幅効果(プロシクリカリティ)を産み出すことになった。ここでプロシクリカリティとは 実体経済と金融システムの相互関係から、景気変動をより大きなものにするメカニズムの ことであり、例えば経済状況が好転した場合、各金融機関のリスク評価が楽観的となりレ バレッジの拡大や投融資の積極化が起きる。この結果さらなる経済過熱が起き、より大き な景気変動が発生しうるのである。現在では金融危機の影響もあり、新たな金融規制の枠 組み (バーゼル III) が積極的に議論されるようになった。バーゼル III では、自己資本比 率規制を強化して危機時の損失吸収能力を高めると共にプロシクリカリティの発生も防ぐ ことが期待されている。そして、その手段としてバーゼルでは景気変動に応じて決定され るカ可変資本バッファーや金融機関に課す最低所要資本水準の引上げがある。ただしプ ルーデンス政策の効果や波及メカニズムについては未だ不透明な部分が多く、特に可変資 本バッファーについては景気過熱時だけでなく、危機発生時の緩和局面の政策効果も明ら かにされる必要があると指摘されている (Shirakawa, 2012)。また最低所要資本水準につ いては、始め 2019 年までに段階的に 10.5 %まで引き上げられることが検討されていたが 2 1 導入 昨今では Financial Stability Board (2014) にもあるように 15%∼20% 程度まで引上げ ることが議論されている。こうした種々のプルーデンス政策の波及メカニズムを考慮した 上で、その効果を分析することは非常に重要なことであろう。 プルーデンス政策の主な先行研究として Christensen et al. (2011) があり、そこでは 金融市場の不完全性を加えたモデルを用いて理論的な分析を行い、自己資本比率規制やレ バレッジ規制などが金融市場の安定化に貢献することを示している。また Angelini et al. (2011) では銀行部門を考慮したモデルを用いて、金融市場や不動産市場における不安定 化が起きた際には、従来の金融政策に加えてマクロプルーデンス政策も行うことでより効 果的に経済の安定化を実現できることを示している。またプルーデンス政策と金融政策と の相互関係にも注目が集まっている。Chari and Kehoe (2013), Farhi and Tirole (2012) では信用緩和政策などへの期待がかえって、平時に金融機関のリスクテイクを促してし まう危険性があることを踏まえ、その抑制のためにマクロプルーデンスを実行する意義 があることを指摘している。日本のプルーデンス政策の効果についての分析では河田他 (2013) が日本の金融システムの動きを説明することができる「金融マクロ計量モデル」を 用いて LTV 規制や与信成長率規制など複数の政策について分析し、バブルの防止とその 崩壊後の景気後退を抑えるのに有意な効果があることを明らかにしている。 本稿では、将来の出口戦略に対してプルーデンス政策への示唆をもたらすべく、日本の 1980 年代から 1990 年代のバブル前後におけるプルーデンス政策の効果を検討する。即 ち、バブル前後の期間において、もし現在議論されているようなプルーデンス政策が行わ れていれば、どのような効果が見られたかについて分析している。本論では、Tayler and Zilberman (2014) のモデルを用いて、1983 の第 2 四半期から 97 年の第 1 四半期までの 期間で MCMC 法によるベイズ推定を行った。次に、プルーデンス政策の程度を表すパラ メータの値を変え、推定で得られたショックを再びモデルに代入して経済変動の違いを見 るカウンターファクチュアルシミュレーション(仮想シミュレーション)を行っている。 その後、推定で得られた実現された場合とプルーデンス政策を導入するシミュレーション によって得られた結果との厚生を計算、比較している。 本稿の構成は以下のとおりである。2 節では分析に用いたモデルを提示し、分析手法 を明らかにする。3 節では日本のデータを用いて分析を行い、分析によってもたらされる 示唆を述べ、その後結論をまとめている。なお補論にはモデルの一階条件、対数線形近似 の導出過程を記した。 3 2 モデル 2 モデル 本稿のモデルは Tayler and Zilberman (2014) をベースにしている。経済を構成する主 体は、家計、最終財企業、中間財企業、競争的商業銀行、中央銀行の 5 つである。 図1 本稿のモデルの概要図 中央銀行 ※預金金利:𝑖𝑡𝐷 =政策金利:𝑖𝑡R ※自己資本比率規制 預金金利:𝑖𝑡𝐷 資本金利:𝑖𝑡𝑉 家計 預金:𝐷𝑡 銀行資本:𝑉𝑡 労働:𝐻𝑖,𝑡 賃金:𝑊𝑖,𝑡 貸出金利:𝑖𝑡𝐿 銀行 貸出 :𝐿𝑡 中間財企業 労働集約者 最終財企業 中間財:𝑌𝑗,𝑡 労働P:𝑁𝑡 賃金P:𝑊𝑡 ※Calvo(1983)による価格設定 最終財:𝑌𝑡 消費財:𝐶𝑡 財市場 𝑌𝑡 = 𝐶𝑡 家計は労働を供給し、中央銀行は金融規制も行う。代表的銀行は期初に家計から預金を 受け取り、ショックが発生すると規制要件を満たすために資本を発行し、利潤ゼロ条件に 基づき貸出金利を決定する。このモデルにおけるリスクは、企業特有の生産性ショックに より中間財企業のローン債務が不履行となる可能性に起因している。この生産性のショッ クは、ローンの契約時には観測できない。さらに、各銀行の貸出金利の決定は、債務不履 行時に中間財企業から押収できる担保、銀行の自己資本に関する条件および預金金利と銀 行資本を家計へ返済するコストと共に、このリスクを鑑みて行われる。与えられた貸出金 利の下で、中間財企業は雇用の水準、中間財の価格、および借入量を決定する。この借入 は家計への賃金支払いに充てられる。家計は差別化された労働力を供給する。それと同時 に家計は消費、預金、及び銀行資本の水準を選択する。家計の収入は利益の分配、銀行資 本の配当、前期の預金および労働収入より構成される。期末には、期中に発生したショッ クとそれに伴い債務不履行となる企業が明らかとなる。ローンはリスクがあるので、中間 財企業は生産物を倒産時に貸し手が押収できる担保として誓約する。しかし一部の銀行は 4 2 モデル 担保を回収できずに、損失が発生する可能性がある。経済全体で見れば、銀行資本は企業 の信用リスクに内生的に関連した損失を補償している。さらに、銀行を保有している家計 は、集計的な経済状態を認識しており、銀行部門の損失を計算できる。家計は債務不履行 時のコストを無リスクの預金金利と銀行資本が無差別になるように銀行資本に高い配当を 要求する。期末には商業銀行は家計に預金金利と元本、および銀行資本を払い戻し、総利 益を配当する。 各経済主体の詳細な行動について以下で説明する。 2.1 家計 家計 (i ∈ (0, 1)) は消費を行い、預金を持ち、銀行資本を要求し、そして差別化された 労働を労働集約者に供給する。 各家計 i の目的は、以下の効用関数を最大化することである。 Ut = Ei,t ∞ ∑ { βse s=0 b zt+s [Ct+s − θCt+s−1 ] 1 − ζ −1 1−ζ −1 1+γ Hi,t+s − 1+γ } (2.1) ここで、Ei,t は家計 i が第 t 期までに利用可能な情報に基づく期待値オペレーター、 β ∈ (0, 1) は割引因子である。Ct は第 t 期における消費量、Hi,t は第 t 期の家計 i の労働 時間を表す。θ は消費の習慣形成の度合い、ζ は異時点間の消費の代替弾力性、γ は Frisch の労働供給の弾力性である。 家計は実質銀行資本 Vt と実質銀行預金 Dt を保有する。銀行資本 Vt の実質ネット金利 D は iV t 、銀行預金 Dt の実質ネット金利は it である。したがって、第 t − 1 期の銀行資本と V )(1 + iVt−1 )Vt−1 預金から得られる総収入はそれぞれ、 (1 − ξt−1 Pt−1 Pt と (i + iD t−1 )Dt−1 Pt−1 Pt V となる。Pt は最終財の価格で、ξt−1 は銀行資本のリスクプレミアムである。このプレミ アムは後に内生的に導かれるが、家計の最適化問題では所与として扱われている。後の節 では、銀行資本のリスクプレミアムが企業のローン (Φt ) の債務不履行確率とどのように 関連するのかを説明する。さらに、家計は銀行システムにおける損失を計算でき、銀行の 所有者でもある。 ショックが実現した後、家計は差別化された労働を労働集約者に供給し、実質賃金 Wi,t Pt Hi,t を得る。Wi,t は労働 1 単位当たりの名目賃金である。 期末には、家計は中間財企業、商業銀行、そして最終財企業からの利潤を受け取る。そ ( れぞれの利潤は JtIG = ∫1 0 ) IG Jj,t dj , JtB , JtF G で表される。加えて、企業は実質一括税 Lumpt を支払う。 5 2 モデル 最後に、最終財の価値が期末に実現すると、各家計は消費のためにそれを購入する。し たがって、家計の実質予算制約式は以下のようになる。 Pt−1 Pt−1 V Ct + Dt + Vt ≤(1 − ξt−1 )(1 + iVt−1 )Vt−1 + (1 + iD t−1 )Dt−1 Pt Pt ∫ 1 Wi,t IG Hi,t + Jj,t dj + JtB + JtF G − Lumpt + Pt 0 2.1.1 (2.2) 消費、預金および銀行資本 利潤および価格を所与とした Ct 、Dt 、Vt に関する 1 階条件より以下の解を得る − ζ1 b Λt = ezt (Ct − θCt−1 ) [ b ] −1 − βθEt ezt+1 (Ct+1 − θCt ) ζ [ Λt = βEt Λt+1 (1 + 1 + iVt = iD t ) (2.3) ] Pt Pt+1 (2.4) 1 + iD t 1 − ξtD (2.5) (2.4) は最適な消費を決定するオイラー方程式である。(2.5) は銀行資本収益率と無リスク 預金金利に関する無裁定条件である。均衡では、銀行資本の金利は債務不履行によって生 じる銀行部門のコストのために、預金金利にリスクプレミアムを加えたものとして設定さ れる。 2.1.2 賃金 Erceg et al. (2000),Christiano et al. (2005) に従い、各家計 i は差別化された労働 Hi,t を供給する。これらの労働は労働集約者によって均質的な労働 Nt に集計される。このと き以下のような Dixit and Stiglitz (1977) 型の技術が用いられる。 (∫ 1 Nt = λw −1 λw Hi,t ) λλw−1 w . di (2.6) 0 ここで、λw > 1 は異種労働間の代替弾力性である。中間財企業の費用最小化問題より、 家計 i は以下のような労働需要に直面している。 ( Hi,t = Wi,t Wt )−λw Nt (2.7) ここで、Wt は均質的な労働に支払われる集計された名目賃金である。(2.7) を (2.6) に代 入することで、集計した賃金は Wt = [∫ 1 0 1−λw Wi,t di 6 1 ] 1−λ w が導かれる。 2 モデル 賃金設定では Calvo (1983) 型の名目硬直性が仮定されており、毎期間一定比率 1−ωw の 労働者は再び賃金に関して最適化を行うするが、ωw は前期の物価上昇率 πt−1 に賃金を連 動させるだけである。すなわち、再び最適化を行わない家計の賃金は Wi,t = πt−1 Wi,t−1 となる。さらに、もし賃金が第 t 期以降に再設定されていないとすると、第 t + s 期の家 計 i の実質相対賃金は Wi,t+s Wt+s Πs Wi,t Wt+s = となる。ここで、Πs = πt × πt+1 × .... × πt+s+1 である。 均衡では、賃金を設定できるすべての家計が同一な賃金 Wt∗ を選択し、最適な相対賃 金は対数線形化された形で (d W∗ ) t Wt = ( ωw 1−ωw )d d W c d πtW となる。π t = Wt − Wt−1 は対数線形 化された賃金上昇率である。賃金硬直性が無い場合 (ωw = 0) では、実質賃金は賃金マー λw クアップ率 ( λw −1 ) と余暇消費間の限界代替率 M RSt を掛け合わせたものに等しくなる。 t 具体的には、 W Pt = λw λw −1 M RSt となる。 最終的に、Erceg et al. (2000) の方法に従うと賃金上昇率を表す方程式は以下のように なる。 ( d )] [ (1 − ωw )(1 − βωw ) d Wt d d W W πt = βEt πt+1 + M RSt − ωw (1 + γλw ) Pt (2.8) 実質賃金は以下のように動く。 d R W t ≡ (d) ( d ) Wt−1 Wt d c W P = +π t − πt Pt Pt−1 (2.9) P b d ここで、πc t = Pt − Pt−1 は対数線形化された物価上昇率の定常状態からの乖離を表す。 硬直賃金を考える理由は以下の 2 つである。まず、硬直賃金はデータで観測される実質賃 金の低迷、及び持続性と整合させるために必要であり、Christiano et al. (2005) に見られ るように、価格硬直性パラメータを異常な値にすることなく物価上昇の持続的なインパル ス応答を得るために重要である。 次に、硬直的賃金は技術ショックに従う生産、実質賃金、および労働の連動を実現する ために極めて重要である。この特徴は、このクラスのモデルで捉えることが難しい。こ のモデルにおける貸出は運転資本のための融資として提供される。したがって、妥当性、 データとの整合性、実質賃金とローン需要と GDP 間の正の関係性のために硬直賃金は必 要不可欠である。後に示すように、実質賃金はローン金利とは逆周期的に変動し、高借入 費用と結びつく信用リスク上昇ショックの影響を緩和しうる。このため、実質賃金の動き は金融システムと実態経済の繋がりを説明するのに重要なのである。 7 2 モデル 2.2 最終財企業 各完全競争最終財企業は中間財 Yj,t (j ∈ (0, 1)) を組み立て、最終財 Yt を生産する。こ のとき、以下のような標準的な Dixit and Stiglitz (1977) 型の技術が用いられる。 (∫ λp −1 λp 1 Yt = Yj,t p ) λλ−1 p dj (2.10) 0 ここで、λp > 1 は一定の差別化された中間財間の代替弾力性を表す。最終財企業は、中 間財の価格 Pj,t と最終財価格 Pt を所与として利益を最大にする最適な中間財の量を選択 する。この最適化問題から各中間財の需要関数を得る。 ( Yj,t = Yt Pj,t Pt )−λp (2.11) 上記の利潤ゼロ条件を課し、(2.11) を (2.10) に代入することで最終財価格集計式が導か れる。 [∫ Pt = 1 1−λ Pj,t p dj 1 ] 1−λ p (2.12) 0 2.3 中間財企業 中間財企業 j ∈ (0, 1) は独占的競争下にあり、価格設定に関しては Calvo (1983) 型の 硬直価格に従う。各中間財企業 j は家計から供給された均質的な労働を用いて、以下の線 形の生産関数に直面している。 Yj,t = Zj,t Nj,t (2.13) ここで、Nj,t と Zj,t はそれぞれ企業 j における雇用された均質的労働量と全要素生産性 のショックである。さらにショック Zj,t は以下の過程に従う。 Zj,t = At εF j,t (2.14) At は AR(1) 過程、At = (At−1 )ρA exp (ϵA t ) に従う経済全体の技術ショックを表す。ここ で ρA は自己回帰係数、ϵA t は平均 0、分散 σA の正規分布に従う確率的なショックである。 F F εF j,t は (ε , ε̄ ) 区間の一様分布に従う個々の企業特有の生産性ショックで、分散は一定で ある。 8 2 モデル 全ての企業 j は家計の賃金を事前に支払うために、商業銀行から借り入れをしなくては ならない。具体的には、Lj,t を企業 j による借入量とすると、(実質)資金調達制約は Lj,t = WtR Nj,t (2.15) に等しくなる。 債務不履行 2.3.1 運転資金の調達にはリスクが伴い、債務不履行の場合には商業銀行は確率 χt で企業の 生産物 Yj,t を差し押える。この確率の定常状態を χ ∈ (0, 1) で表す。しかし、1 − χt の確 率で、利潤ゼロの銀行は中間財企業の担保を回収することができず損失を被る*1 。χt は χt = (χt−1 )ρχ exp (ϵχt ) という AR(1) 過程に従うものとする。ここで、ρχ はショックの χ 持続性の度合い、ϵt は平均 0、分散 σχ の正規分布に従う確率的ショックを表す。このモ デルでは、担保回収確率 χt へのショックは、金融(信用)ショックを表現している。こ のショックは企業レベルでの信用リスクだけでなく、債務不履行時に銀行が差押えること ができる生産物の価値に直接的に影響を与える。 企業が債務不履行をしなかった場合は、各企業は元金に金利を付加し銀行に返済する。 したがって、期末において、差し押え可能な生産物 χt Yj,t の期待価値が貸し手に返還す るために必要な量よりも少ない場合に債務不履行は発生する。具体的には、以下のように なる。 χt Yj,t < (1 + iL t )Lj,t (2.16) ここで、iL t は中間財企業への貸出に付加される金利を表す。 εF,M j,t を下回ると中間財企業が債務不履行を行う決定をするとする。つまり、(2.13)と (2.14) を用いれば、閾値の条件は以下のようになる。 L χt (At εF,M j,t )Nj,t = (1 + it )Lj,t (2.17) (2.15) を代入し上式を εF,M j,t について解けば、 εF,M = j,t 1 R (1 + iL t )Wt χt At (2.18) を得る。この式 (2.18) より、閾値は貸出金利、経済全体への技術ショック、実質賃金と関 連している。しかしながら、このモデルでは貸出金利は無リスク金利と資金調達プレミア *1 これは Jermann and Quadrini (2009) と類似した設定である。 9 2 モデル ムのみに依存しているわけではなく、銀行の担保回収確率(信用リスクショック)、銀行 資本の利益率、銀行の資本貸出比率にも依存している。そのため、貸出金利と債務不履行 確率は共に、金融規制に影響される。 中間財価格 2.3.2 中間財企業はショックが実現した後、2 段階の価格決定問題を解く。第 1 段階では、各 R 中間財生産者は 1 単位の労働に対する(実質)費用(1 + iL t )Wt を所与とし、労働コス トを最小化する。この最適化問題から実質限界費用を得る。 R mcj,t = (1 + iL t )Wt 1 Zj,t (2.19) 第 2 段階では、各中間財生産者は財の最適価格を選択する。ここでは、Calvo (1983) 型 の価格設定が仮定されている。1 − ωp の割合の企業は、期初に設定された限界費用と貸出 金利を所与として価格を最適に調整する。それに対し、ωp の割合の企業は一期前のイン フレ率と定常状態のインフレ率の加重平均に従って価格を決定する*2 。価格最適に調整で きる企業の問題は、限界費用を所与とし、各財の需要関数に従って現在と将来の実質収益 の期待割引価値を最大化することである。式で表せば以下のようになる。 max Et Pj,t ∞ ∑ ( ωps β s s=0 Ct+s Ct [ Yj,t+s = )ζ −1 [ Pj,t Pt+s ] s Pj,t ∏ {( πt+k−1 )γp } π − mct+s Yj,t+s Pt+s π k=1 ]−λp s {( ∏ πt+k−1 )γp } π Yt+j π k=1 Pt∗ を第 t 期に各企業が選択した最適な価格水準とし、確率的割引因子の定義を用いれ ば上記の最大化問題の一階条件より最適な相対価格の式を得る。 Pt∗ Qt = = Pt ( λp λp − 1 ) Et ∞ ∑ −1 ωps β s Ct+sζ Yt+s mct+s s=0 ∞ ∑ Et −1 ωps β s Ct+sζ Yt+s ( s=0 ここで、Qt = pm = *2 λp ( λp −1 ) Pt∗ Pt ( )λ Pt+s p Pt )λp −1 (2.20) Pt+s Pt は第 t 期に価格を調整した企業によって選択された相対価格を表し、 が価格マークアップ率となる。 この仮定は Smets and Wouters (2007) などで取り入れられている。 10 2 モデル 最終的に Calvo (1983) 型の硬直賃金の仮定とともに集約価格式を用い、式 (2.20) を対 数線形化することで、ニューケインジアンフィリップスカーブ (NKPC) を得る。 (1 − ωp )(1 − ωp β) d P P mc ct πc t = βEt πt+1 + ωp (2.21) このモデルでは、限界費用は銀行からの借入コストにより直接的に決定される。したがっ て、貸出金利に強い影響を与える金融政策、銀行資本、および金融規制は限界費用と物価 上昇率に直接的に影響する。 2.4 銀行 2.4.1 バランスシート 銀行 k ∈ (0, 1) は規制に従い、預金 Dt もしくは銀行資本 Vt を通じて資金を調達する。 預金と銀行資本は共に中間財企業の労働コストへの融資に用いられ、家計への負債であ る。各銀行 k は企業に貸出をするため、実質のバランスシートは以下のように書ける。 Lt = Dt + Vt ここで、Lt = 2.4.2 ∫1 0 (2.22) Lj,t dj は中間財企業への集計された貸出である。 貸出金利 貸出金利は中間財企業が生産活動、労働需要、価格決定が行われる前である期初に設定 される。中間財企業は期末において企業特有のショックにより債務不履行に陥るかもしれ ないので、商業銀行への返済は不確実である。各銀行 k は中間財企業への貸出による収入 が家計からの借入(預金と銀行資本)コストと等しくなるように貸出金利を設定する。具 体的には、 ∫ ∫ ε̄F [(1 + εF,M j,t F F iL t )Lj,t ]f (εj,t )dεj,t εF,M j,t + εF F [χt Yj,t ]f (εF j,t )dεj,t (2.23) = (1 + iVt )Vt + (1 + iD t )Dt + cVt F である。ここで、f (εF j,t ) は εj,t の確率密度関数である。左辺の 1 つ目の項は債務不履行 に陥らなかった企業から銀行への期待返済額であり、左辺 2 つ目の項は債務不履行に陥っ D た企業からの期待収益である。左辺の 1 項目と 2 項目 (1 + iV t )Vt + (1 + it )Dt は利子を 含めて預金と銀行資本の家計への返済である。さらに、銀行は銀行資本を発行する際に線 形のコスト cV( t c > 0)を負う。これらのコストは経済状態とは独立であり、例えば株式 11 2 モデル 発行の引受やカタログの発行などに関連した一定の経営コストを反映する。対照的に、銀 行資本の収益率は総銀行資本コスト 1 + iV t + c の主な原動力であり、金融リスクの度合い の上昇と生産水準の低下に伴って内生的に上昇する。 貸出金利の導出に移る。 ∫ ∫ ε̄F [(1 + εF,M j,t F F iL t )Lj,t ]f (εj,t )dεj,t ε̄F ≡ F F [(1 + iL t )Lj,t ]f (εj,t )dεj,t εF ∫ − εF,M j,t εF ∫ ε̄F ここで、 εF F F [(1 + iL t )Lj,t ]f (εj,t )dεj,t F F L [(1 + iL t )Lj,t ]f (εj,t )dεj,t ≡ [(1 + it )Lj,t ] であるから、(2.23) は以下のよう に書ける。 ∫ iL t )Lj,t ] [(1 + − εF,M j,t εF F F [(1 + iL t )Lj,t − (χt Yj,t )]f (εj,t )dεj,t (2.24) = (1 + iVt + c)Vt + (1 + iD t )Dt 銀行のバランスシート (2.22)を用いて、(2.17) を代入し、生産関数(2.13)を利用する と、以下を得る。 ∫ [(1 + iL t )Lj,t ] − εF,M j,t εF F F F [εF,M j,t − εj,t ]χt Yj,t At Nj,t f (εj,t )dεj,t = (1 + iVt + c)Vt + (1 + (2.25) iD t )(Lj,t − Vt ) Lj,t で割ると、(2.25) は以下のようになる。 ( ) ( ) Vt Vt L V D it = (it + c) + it 1 − Lj,t Lj,t ∫ εF,M j,t F F F [εF,M j,t − εj,t ]χt Yj,t At Nj,t f (εj,t )dεj,t εF + Lj,t (2.26) 実質賃金と労働需要量は各企業ごとに同一であるから、各銀行の貸出量もまた同一であ F,M る。すなわち、添え字 j を落とすことができる。さらに、閾値 εj,t は (2.18) より経済状 態に依存し、すべての企業間で同一である。Lj,t を表す (2.15) を用い、∆t = Vt Lt を銀行 の自己資本比率と定義すると、式 (2.26) は以下のように簡略化される。 iL t = ∆t (iVt + c) + (1 − ∆t )iD t + χt At 12 ∫ εF,M t εF F F [εF,M − εF t t ]f (εt )dεt WtR (2.27) 2 モデル ここで、 χt At ∫ εF,M t εF F F [εF,M −εF t ]f (εt )dεt t WtR は資金調達プレミアムを表す。 F F 債務不履行確率の明示的な表現のために、εF t が (ε , ε̄ ) 区間の一様分布に従うと仮定 する。したがって、確率密度関数は、1/(ε̄F − εF )、平均値は µϵ = (ε̄F − εF )/2 である。 債務不履行確率は ∫ εF,M t Φt = εF F f (εF t )dεt εF,M − εF t = F ε̄ − εF (2.28) である。すなわち、債務不履行確率は一様分布の区間と企業特有のショックの閾値に依存 する。 2.4.3 銀行資本のリスクプレミアム 1 単位の銀行資本に課されるプレミアム ξtV を導出する。これは家計の無裁定条件下で 無リスク預金金利に対する銀行資本利率のマークアップを決定することに等しい。前述の とおり、商業銀行は利潤ゼロになるような水準に貸出金利を設定する。これは、貸出金利 は預金と銀行資本のコストにより決定されることを意味する。加えて、1 − χt だけの銀行 は債務不履行時に担保を取得できないために損失を発生させる。 全ての銀行の銀行資本に投資する家計は経済全体でどの割合の企業債務不履行に陥るか を知っており、銀行部門における経済全体での損失を計算できる。銀行の損失は銀行資本 の債務不履行につながるが、これにより預金が安全資産であることを保証する。したがっ て、家計の意思決定は銀行資本の債務不履行率を計算することを伴う。このとき無裁定条 件(2.5)が満たされ、具体的には以下のようである。 [∫ V ξt Vt = (1 − χt ) εF,M j,t εF ] F [χt Yj,t ]f (εF j,t )dεj,t (2.29) 式 2.29 は銀行資本の全損失 ξtV Vt と、企業債務不履行い陥った企業から χt Yj,t を回収で きていたら得られたであろう担保の価値に等しいことを保証する。(2.13), (2.14), (2.15) を (2.29) に代入して以下を得る。 ξtV Lt Vt = (1 − χt )χt At R Wt [∫ εF,M j,t εF ] F F εF j,t f (εj,t )dεj,t 一様分布の性質により、銀行資本のリスクプレミアムを得る。 ξtV Lt Vt = (1 − χt ) Vt ( χt At WtR 13 )( εF,M − εF t 2 ) Φt (2.30) 2 モデル ) ( )( εF,M −εF χt At t 銀行資本プレミアム率は債務不履行コストの関数である。(1 − χt ) W R Φt 2 t は企業が債務不履行を起こす状況下で、銀行が損失を発生させる可能性が存在しているこ とに起因する。また、銀行資本のリスクプレミアムは規制によって決定される銀行の自己 資本比率と負の関係を持つ。したがって、銀行資本規制は銀行システムに存在する債務不 履行コストに伴う市場の失敗を解決する役割を持つ。 2.4.4 要求銀行資本とカンターシクリカル規制 銀行は中央銀行によって課せられる規制に則り銀行資本量を満たす。要求される実質で の銀行資本制約は Vt = ρt Lt (2.31) となる。ここで、ρt は銀行の総合自己資本比率を表す。 カウンターシクリカル規制を近年議論されているバーゼル III に即して特定化するため に、総合の自己資本比率 ρt を以下のように定義する。 ρt = ρD ρC t (2.32) ρD ∈ (0, 1) は最低要求自己資本比率を表す。ρC t はカウンターシクリカル要素である。 バーゼル III 規制の下では、全資本比率は単に ρD と設定されカウンターシクリカル要素 C は効果を持たない。したがって、この場合 ρt = ρD , ρC t = ρ = 1 である。 しかしながら、バーゼル III の下ではシクリカル要素が貸出生産比率の定常状態からの 乖離率に関連しうる。具体的には、 ( ρC t = Lt /Yt L/Y )θC (2.33) である。ここで、θ C は調整パラメータである。よって、好景気では貸出が拡大し、マクロ プルーデンスルールが要求銀行資本水準を高める。その結果、貸出金利は上昇し銀行シス テムと実体経済のプロシクリカルな効果を軽減しうる。つまり、本稿における ρD と θ C はそれぞれ、固定的自己資本規制と可変的資本バッファーを意味している。 2.4.5 リスクと銀行資本の貸出金利への伝達経路 (2.28),(2.33) を用いて、一様分布の性質を適応すると貸出金利の式は以下のように なる。 ( [ iL t = iD t D + ρ Lt /Yt L/Y )θC ] ( (iVt + iD t 14 + c) + χt At WtR ) (ε̄F − εF ) 2 Φt 2 (2.34) 3 ( ここで ) χt At WtR (ε̄F −εF ) 2 Φt 2 モデル推定 は金利プレミアムとして定義される。これは、それ自体は正の 値をとる貸出金利についての関数である。 (2.34) は貸出金利が、家計から預金を借り入れるコスト、金融プレミアム、銀行資本金 利と預金金利のスプレッド、資本の発行コストと正の関係を持つことを示している。銀行 の資本金利と預金金利のスプレッドと資本の発行コストは、銀行の比の比率として設定さ れる。バーゼル 3 の下では、貸出金利は最低適性要求値とリスクウェイトだけではなく、 カウンターシクリカル規制ルールにも依存している。 2.5 金融政策 中央銀行は短期の政策金利 iR t を以下の対数線形化されたテイラールールに従って変更 する (Discretion versus policy rules in practice)。 [ ] c d c R R P it = ϕit−1 + (1 − ϕ) ϕπ πt + ϕY Ybt (2.35) P,T P P はインフレ率の定常状態値 π P,T からの乖離を表す。Yˆt は生産 ここで、πc t ≡ πt − π の定常状態からの乖離を表す。ϕ ∈ (0, 1) は金利のなめらかさ、ϕπ , ϕY > 0 はインフレ 率と生産量の定常状態からの乖離に書かかかる重みづけ係数である。 2.6 資源制約 均衡状態では、財市場、労働市場、貸出市場、預金市場、資本市場が清算されねばなら ない。商業銀行による貸出の供給、家計による預金の供給、および規制対応のための銀行 資本の発行は完全に伸縮的であり、これらの市場は常に清算されている。 債務不履行時に回収可能な担保 χt Yj,t は期末に家計に分配される。したがって、財市場 の均衡は実現された総生産が総消費と等しくなるという条件を満たす。 Yt = Ct (2.36) 3 モデル推定 3.1 データ 本稿では、日本のデータを用いてカルマン・スムージング、ならびにベイズ推定を行う。 15 3 モデル推定 推定時には実質 GDP(Yt ) 、インフレ率(πt ) 、実質賃金(Wt ) 、政策金利(iD 、貸出金 t ) 利(iD 、自己資本比率(∆t )の 6 つのデータを用いた。推定期間は 1983 年第 1 四半期 t ) から 1997 年第 1 四半期である*3 。実質 GDP のデータは内閣府「国民経済計算」から取 得した。実質賃金は厚生労働省「毎月勤労統計」から計算したものを GDP デフレーター で割って作成した。実質 GDP と実質賃金は 15 歳以上労働力人口で割り込む。これは、 本稿のモデルが人口成長がないモデルであるため、経済の変数をモデルと整合的にする工 夫である。インフレ率は GDP デフレータから計算する。政策金利は無担保コールレート 翌日物のデータを日本銀行から取得する。ただし、1983 年第 2 四半期以前のデータは取 得できないため、Miyao (2005) に従って計算したものを用いる。貸出金利は貸出約定金 利を同様に日本銀行から取得した。自己資本比率に関しては、全国銀行協会「全国銀行財 務諸表分析」より全国銀行の純資産を総負債で割って計算し、四半期按分したものを用い る。インフレ率と政策金利、貸出金利に関しては四半期換算したものを用いる。 3.2 状態空間表現 本稿のモデルは非線形方程式体系であり、そのままではモデルの解を求めるのは難し い。それゆえ、定常状態周りで対数線形近似を行って解を求める*4 。推定の際には、対数 線形近似したモデルを線形状態空間表現する。モデル内の変数は、データとしては観測さ れないものが多い。しかし、状態空間モデルとして扱うことで、観測されない変数を含む モデルを推定することができる。観測方程式と遷移遷移方程式はそれぞれ、 yt = A(θ) + B ŝt (3.1) st = Φ1 (θ)st−1 + Φε εt (3.2) と表される。ただし、A(θ) はパラメータ θ に依存する定数項ベクトル、B はデータと関 連付けるモデル内の変数を選択する行列を表し、Φ1 と Φε はパラメータ θ に依存する係 数行列である。以下で、この 2 つの式に関する説明を加える。 観測方程式 (3.1) はモデル内の変数と経済データをつなぐ式である。実質 GDP のデー タと実質賃金のデータは、以下の式によって乖離率表示されたモデル内の変数とつなぐこ とができる。 log Yt − log YtHP = Ỹt *3 推定期間はバブル期を含み、なおかつゼロ金利期間を除くという観点とデータの制約という観点から選択 した。データの制約とは、後に GDP を割るために使う「15 歳以上労働力人口」が 1983 年からしか取 得できないこと、貸出約定金利が 1997 年第 1 四半期までしか取得できないことを指す。 *4 巻末の補論に本稿のモデルを対数線形近似する過程を掲載している。 16 3 モデル推定 log Wt − log WtHP = W̃t ただし、YtHP , WtHP はそれぞれ HP フィルターをかけた実質 GDP と実質賃金である。 実質 GDP と実質賃金はトレンドを持つ変数であるため、HP フィルターをかけてトレン ドを除去することで、トレンドを持たない本稿のモデルと整合的なつなぎ方ができる。そ れ以外の変数はトレンドを持たない変数であるため、次のようにつなぐことができる。 πt = π ∗ + π̃tp D∗ iD + π ∗ + ĩD t =i t L∗ iL + π ∗ + ĩL t =i t ∆t = Ṽt − L̃t ′ L yt = [log Yt − log YtHP , log Wt − log WtHP , πt , iD t , it , ∆t ] と定義してこれらをまとめれ ば、観測方程式 (3.1) となる。 次の遷移方程式 (3.2) はモデル変数の推移を表している。これは、モデルの合理的期待 均衡解である。解を求める際には Sims (2002) の方法に従って、対数線形近似したモデ ルを Γ0 st = Γ1 st−1 + Ψ0 εt + Π0 ηt のように行列表示する。ここで、Γ0 ,Γ1 ,Ψ0 ,Π0 はパラメータ θ によって表される係数行 列であり、st はモデルの内生変数のベクトル、εt は外生ショックのベクトルである。ηt は Et ηt+1 = 0,∀t を満たす予測誤差ベクトルである。モデルの解が一意に定まる場合、そ の解は (3.2) のように解くことができる*5 。 3.3 カルマン・フィルター モデルを状態空間表現することができれば、カルマン・フィルターを用いて尤度を計算 したり、ショックを識別したりできる。以下ではカルマン・フィルターの手順を概説す る。カルマン・フィルターの詳細は Hamilton (1993, 1994a,b) を参照されたい。 まず 0 期までの情報に基づいた、モデルの内生変数ベクトル st とその分散共分散行列 Pt の 0 期の状態 s0|0 , P0|0 を設定する。本稿のように定常なモデルの場合、条件なし期待 値を用いることが多い。 *5 解の求め方の詳細は Sims (2002) を参照せよ。 17 3 モデル推定 続いて、T を標本数として t = 1 から t = T について以下の手順を繰り返す。 (A) 予測 まず遷移方程式 (3.2) から t − 1 期の情報の条件付きでの t 期の内生変数の予測値 st|t−1 を計算する。つまり、 st|t−1 = Φ1 (θ)st−1|t−1 これより、t − 1 期までの情報の条件付きでの t 期の内生変数の分散共分散行列の予測値 Pt|t−1 は Pt|t−1 = Φ1 (θ)Pt−1|t−1 Φ′1 (θ) + Φε (θ)ΣΦ′ε (θ) として計算できる。ただし、Σ は εt の分散共分散行列である。この予測と観測値の誤差 νt|t−1 は観測方程式 (3.1) より νt|t−1 = y1 − A(θ) − Bst|t−1 となる。さらにこの予測誤差の分散 Ft|t−1 は Ft|t−1 = BPt|t−1 B ′ となる。 (B) 更新 次は、上記のようにして計算された予測誤差を用いて t 期の状態に関する期待値を以下 のように更新する。 −1 st|t = st|t−1 + Pt|t−1 B ′ Ft|t−1 νt|t−1 −1 Pt|t = Pt|t−1 − Pt|t−1 B ′ Ft|t−1 BPt|t−1 ここで、st|t と Pt|t はそれぞれ、t 期までの情報(観測値)を得たもとでの内生変数の期 −1 待値と内生変数の分散共分散行列を表している。Pt|t−1 B ′ Ft|t−1 はカルマン・ゲインと呼 ばれ、予測誤差に含まれる新しい情報に対する重みを決めている。直感的には、内生変数 st|t−1 に関する不確実性 Pt|t−1 が増加すると、情報を更新する際に新しい情報 νt|t−1 に より大きなウェイトを与えるようになることを示している*6 。 以上の繰り返し計算によって、t = 1, 2, . . . , T について νt|t−1 と Ft|t−1 が得られた。 εt が正規分布に従うと仮定すれば、t − 1 期の観測値を所与とした t 期の観測値 yt|t−1 は 以下のような正規分布に従う。*7 yt|t−1 ∼ N (A(θ) − Bst|t−1 , Ft|t−1 ) *6 *7 カルマン・ゲインは Pt|t−1 の増加関数であることを示せる。 これを示すのは容易である。(3.1) に (3.2) を代入して期待値、分散を計算するだけである。 18 3 モデル推定 これより、すべての観測値 Y を所与とした対数尤度関数は nT 1∑ 1∑ ′ ln L(θ|Y ) = − ln 2π − ln |Ft|t−1 | − ν F −1 νt|t−1 2 2 t=1 2 t=1 t|t−1 t|t−1 T T (3.3) という式から計算できる。 3.4 ベイズ推定 上記の手順のようなカルマン・フィルターによって、対数尤度関数を (3.3) として求め ることができた。最尤法を用いた推定も可能だが、最尤法で推定されたパラメータが経済 理論と整合的な値をとる保証はない。そこで本稿では、ベイズ推定によってパラメータを 推定する。ベイズの定理は以下のように表現される。 p(θ|Y ) = p(Y |θ)p(θ p(Y ) p(θ) は事前分布と呼ばれ、データを観測する前に持つ、パラメータに関する情報を示す。 ここで、p(Y |θ) はデータが観測されてしまえば尤度、すなわち L(θ|Y ) となる。また、 p(Y ) はパラメータ θ に依存していない。そのため、ベイズの定理を書き換えると、 p(θ|Y ) ∝ L(θ|Y )p(θ) となるため、パラメータの推定のためには事後分布 p(θ|Y ) を計算する必要はなく、右辺 を計算できればよいことがわかる。本稿では MH アルゴリズムを用いて L(θ|Y )p(θ) を 求めた*8 。。 3.5 カルマン・スムージング 本稿ではショックを分解すべくカルマン・スムージングをかける。カルマン・フィル ターによって {st|t , st|t−1 , Pt|t , Pt|t−1 }, for t = 1, 2, . . . , T が得られるが、カルマン・ス ムージングはそれらを用いて T 期までのすべての情報の条件付きでのモデルの内生変数 {st|T } for t = 1, 2, . . . , T を求める手法である。カルマン・スムージングはカルマン・ フィルターよりも多くの情報を用いているため、内生変数の動きをより正確に求められ る。カルマン・スムージングは以下の 2 式を t = T − 1, T − 2, . . . , 1 に対して後ろ向きに *8 MH アルゴリズムに関しては廣瀬 (2012) を参照せよ。 19 3 モデル推定 繰り返し計算すればよい*9 。 st|T = st|t + Pt|t Φ′1 Pt+1|t (st+1|T − Φ′1 st|t ) (3.4) −1 −1 ′ ′ Pt|T = Pt|t + Pt|t Φ′1 Pt+1|t (Pt+1|T − Pt+1|t )Pt+1|t Φ1 Pt|t (3.5) スムージングの初期値 sT |T と PT |T はフィルターの最後の繰り返し計算から得られる。 スムージングの際にはモデルのパラメータを所与として計算が行われる。本稿ではその 際に用いるパラメータとして事後分布の平均値を用いる。 スムージングによって内生変数の動きが求まれば、データとフィットするようなショッ クを逆算でき、本稿ではそれを用いて分析を行う。 3.6 設定 本稿ではモデルを推定するにあたり、いくつかの設定をする。 まずは推定しないパラメータを設定する。経済全体の生産性の定常状態は A = 1 に基 F 準化する。個別企業特有の生産性ショックの下限と上限 εF t , εt は平均が 1 になるよう、 εF = 0.64, εF = 1.36 と設定する。労働需要弾力性を表す λw は価格マークアップ率が 20% になるよう、λw = 6 と設定する。企業倒産時に担保をとれる確率の定常状態は、 Tayler and Zilberman (2014) に従って、χ = 0.97 とする。推定期間である 1983 年から 1997 年にはプルーデンス政策という考え方はなかったため、プルーデンス政策の度合い を示すパラメータはゼロとする。すなわち、θC = 0 とする。この設定下では ρD = Vt Lt と なるため、ρD は自己資本比率の平均値である 0.297 を用いた。 続いて事前分布を以下の表のように設定する。基本的に事前分布は日本のデータを用い てベイズ推定をした Sugo and Ueda (2008),Iiboshi et al. (2006), 廣瀬 (2012) に従って いる。しかし、それらでは推定されていない、あるいは違うものを意味するパラメータ (λp , c)は Tayler and Zilberman (2014) がカリブレートしている値を事前分布の平均と している。また、観測方程式に現れる実質政策金利、実質貸出金利、インフレ率の定常状 態の平均はデータの平均値を用いて、それぞれ 0.88, 1.00, 0.24 に設定している。 *9 カルマン・スムージングの導出は Hamilton (1994b) を参照されたい 20 3 表1 モデル推定 事前分布 パラメータ 分布 平均 標準偏差 参考 iD∗ ガンマ 0.88 0.05 標準誤差は廣瀬 (2012) iL∗ ガンマ 1.00 0.05 標準誤差は廣瀬 (2012) π∗ ガンマ 0.24 0.05 標準誤差は廣瀬 (2012) θ ベータ 0.7 0.15 Sugo and Ueda (2008) ζ ガンマ 1.0 0.375 Sugo and Ueda (2008) γ ガンマ 2.0 0.75 Sugo and Ueda (2008) ωw ベータ 0.375 0.1 Sugo and Ueda (2008) λp ガンマ 6.0 0.2 標準誤差は本稿独自 ωp ベータ 0.375 0.1 Sugo and Ueda (2008) γp ベータ 0.5 0.25 Sugo and Ueda (2008) c ガンマ 0.1 0.05 標準誤差は本稿独自*10 ϕ ベータ 0.8 0.1 Iiboshi et al. (2006) ϕπ ガンマ 1.7 0.1 Iiboshi et al. (2006) ϕY ガンマ 0.125 0.05 Iiboshi et al. (2006) ρA , ρp , ρb , ρmp , ρχ , ρ∆ ベータ 0.5 0.2 廣瀬 (2012) σA , σp , σb , σmp , σχ , σ∆ 逆ガンマ 0.5 ∞ 廣瀬 (2012) 以上の事前分布を用いて、モデルをベイズ推定する。MH アルゴリズムのサンプリング 回数は 20 万回で、前半 10 万回は初期値の影響を取り除くために捨てている。推定結果を 以下の表にまとめる。 *10 中間財の代替弾力性を表す λp が事前分布の平均値の 6.0 であるとき、価格マークアップ率は 20% とな る。標準誤差は本稿独自ではあるが、廣瀬 (2012) でも関連したパラメータ(価格マークアップ率)は推 定されているため、その関連するパラメータに変換した際に廣瀬 (2012) での標準誤差と近い値になるよ う設定している。 21 モデル推定 3 表2 推定結果 事前分布 事後分布 パラメータ 分布 平均 標準偏差 平均 標準偏差 iD∗ ガンマ 0.88 0.05 0.8662 0.0451 iL∗ ガンマ 1.00 0.05 0.9794 0.0458 π∗ ガンマ 0.24 0.05 0.2458 0.0373 θ ベータ 0.7 0.15 0.8206 0.2154 ζ ガンマ 1.0 0.375 1.0747 0.2912 γ ガンマ 2.0 0.75 3.5819 0.7364 ωw ベータ 0.375 0.1 0.1695 0.0323 λp ガンマ 6.0 0.2 6.1975 0.1973 ωp ベータ 0.375 0.1 0.6477 0.0590 γp ベータ 0.5 0.25 0.1493 0.0563 c ガンマ 0.1 0.05 0.1007 0.0433 ϕ ベータ 0.8 0.1 0.8352 0.0291 ϕπ ガンマ 1.7 0.1 1.6332 0.0958 ϕY ガンマ 0.125 0.05 0.1974 0.0677 ρA ベータ 0.5 0.2 0.3509 0.1103 ρp ベータ 0.5 0.2 0.3849 0.1228 ρb ベータ 0.5 0.2 0.1694 0.1711 ρmp ベータ 0.5 0.2 0.2977 0.1026 ρχ ベータ 0.5 0.2 0.5578 0.1172 ρ∆ ベータ 0.5 0.2 0.9380 0.0072 σA 逆ガンマ 0.5 ∞ 0.6629 0.0645 σp 逆ガンマ 0.5 ∞ 0.2714 0.0489 σb 逆ガンマ 0.5 ∞ 7.2298 0.7872 σmp 逆ガンマ 0.5 ∞ 0.1511 0.0168 σχ 逆ガンマ 0.5 ∞ 0.2803 0.0403 σ∆ 逆ガンマ 0.5 ∞ 1.8706 0.1688 22 4 分析 4 分析 ここでは日本の 1983 年第 2 四半期から 1997 年第 1 四半期においてカウンターファク チュアルシミュレーションを行う。カウンターファクチュアルシミュレーションとは、推 定されたショックの系列・パラメータを一部変更をした上で該当期間に実現した経路とは 異なった経済経路を再現するシミュレーション技法である。このシミュレーション技法は Gali et al. (2012), Hara et al. (2007), Schorfheide (2011) など多くの先行研究で採用さ れており、特定の対象期間における政策の変更や各種ショックの影響について分析を行う 際には一般的な分析手法となっている。本稿では、ショックの系列並びにプルーデンス政 策に関わるパラメータ以外(θ, ζ, γ, . . .)は推定された値を用い、プルーデンス政策に関す るパラメータ(ρD , θ C )については分析に応じて逐次変更を加える。これにより本来、各 種のプルーデンス政策が実施されていなかった分析対象期間おいて、仮にプルーデンスが 実行されていたならばどのような経済状態が実現したかということをシミュレーションす ることができる。バブル発生からその崩壊後にいたるまでの日本経済におけるマクロ・プ ルーデンスの効果を理解することが可能となるであろう。なお初期値の影響を除くため、 最初の一年分は分散計算の対象から除いている。 プルーデンス政策の効果を見る基準には、GDP の分散とインフレ率の分散の加重和が 社会厚生損失の程度を表すことを示した Woodford and Walsh (2005) に従う。実際に社 会的厚生損失を計算する場合には GDP のインフレ率の分散のウェイトを計算する必要が あるが、ここでは齋藤・福永 (2008) に従い、GDP とインフレ率の分散の単純平均を仮定 する。具体的には、本稿の社会的厚生損失は以下の式で与えられる。 損失 = V ar(yt ) + V ar(πt ) 2 初めにプルーデンス政策がバブル期の経済に与える影響を見るため、実際に推定で得ら れた推定区間のショックを用いて、プルーデンス政策パラメータをある値に固定してカウ ンターファクチュアルシミュレーションを行う。最低所要資本水準は Financial Stability Board (2014) で議論にあがっている値の下限である、15% に設定する。それに対し、θC は制度として明示的に扱われる値は存在しない。そこで本稿では θ C = 25 とする*11 。シ *11 ( ) t Ṽt − L̃t = ρ̃C = θ C L̃t − Ỹt を踏まえると、設定した値の下では L が 1% 定常状態から乖離した Yt ( ) ( ) Vt Vt 時、自己資本比率 L は 25% 定常状態から乖離する。すなわち、 L の定常状態は ρD = 0.15 t t であるから、自己資本比率が 15% から 18.75% になるということである。Financial Stability Board 23 4 分析 ミュレーションの結果は、以下のようになる。 表3 プルーデンス政策の効果 GDP の分散 インフレ率の分散 損失 プルーデンス政策なし(実現値) 3.4033 0.1622 1.7828 自己資本比率規制 (ρD = 0.15) 3.4133 0.1595 1.7864 3.4003 0.1617 1.7811 3.3941 0.1603 1.7772 可変資本規制 (θ C = 25) 両方 この表からわかるのは、厚生改善という観点からは自己資本比率規制と可変的資本規制 をともに実行するのが望ましいということである。モデル上でのメカニズムは、景気過熱 時には自己資本比率が高まる、すなわち貸出に対する自己資本の割合が高まることによ り、銀行の利払いが増加する。その利払いを賄うため、貸出金利が上昇する*12 。貸出金 利の上昇は企業の限界費用をも増加させ、生産を抑えることにつながる。それに対し、可 変的資本規制とは、景気過熱時には自己資本比率規制よりも高い自己資本比率を要求し、 景気後退期には逆に自己資本比率を低下させる制度のことである。この政策の下では、景 気が良い時には自己資本の割合を上昇させることで、景気過熱をさらに抑制するが、景気 後退期には貸出金利を低下させ、生産を増加させる。この結果、プロシクリカリティを軽 減し、経済の安定化に貢献する。 表 2 からさらにわかるのは、今回の我々の分析では自己資本比率規制は厚生損失を大き くしているということである。今回の推定期間には、円高不況・バブル崩壊という二つの 景気停滞期が含まれている。不況期には自己資本比率規制は景気回復を阻害する役割があ るため、自己資本比率規制政策は厚生損失を増加させているのである。 ここで注目すべきは、可変資本規制政策である。可変資本規制政策に関するカウンター ファクチュアルシミュレーションによる実質 GDP のパスの変化を以下の図 2 に示す。折 れ線グラフは実質 GDP の定常状態からの乖離率(左軸)、棒グラフは自己資本比率規制 と可変資本規制をしたときの GDP の変動幅(右軸)を示している。図 2 における可変資 本規制政策の効果とは、可変資本規制を導入したカウンターファクチュアルシミュレー ションによる GDP の値から実現値を差し引いたものである。これは、GDP が正の値の (2014) では自己資本比率を 15% から 20% の間に設定するといった議論がなされており、実現可能な状 態を想定した仮想的シミュレーションとして妥当な値になる。 *12 このことは (2.26) と iD < iV + c であることから、数式でも理解できる。 t t 24 4 分析 時に政策効果が負であれば景気を抑制し、GDP が負の時に政策効果が正であれば景気を 下支え出来ていることを示している。 図2 可変資本規制政策のカウンターファクチュアルシミュレーション (%) (%ポイント) 5 0.020 可変資本バッファー政策の効果 4 0.015 GDP実現値 3 0.010 2 0.005 1 0 0.000 -1 -0.005 -2 -0.010 -3 -0.015 -4 -5 1983.021984.021985.021986.021987.021988.021989.021990.021991.021992.021993.021994.021995.021996.02 -0.020 この図 2 から、景気に対して反循環的な自己資本規制は、特にバブル生成期・崩壊後に 効果的な働きをしていることがわかる。我々の推定結果によれば、これらの期間の特徴 は、担保制約ショック χt が比較的大きな値をとっているということである。それは、バ ブル生成期にスプレッドがなくなり、バブル崩壊期・崩壊後にはスプレッドが広がるとい うデータを反映している。プルーデンス政策が効果を発揮するのは主に金融市場のショッ クに対してであるから、需要不足が主導した円高不況期にはさほど効果を発揮しないのに 対し、バブル前後では大きな効果をもたらしている。厚生損失という観点からも、可変資 本規制は厚生損失を減少させている。自己資本資本規制と可変資本規制をともに行うのが 最も厚生損失を減少させるのは、本稿のモデルにおいては総合的自己資本を ρD × ρC と二 つの規制の積と規定したため、自己資本比率規制を強化したことによって可変資本規制の 効果が大きくなり、そのことが不況期の自己資本比率規制の悪影響を上回るからである。 25 4 分析 以上の分析で明らかになったのは、マクロプルーデンス政策においては、不況の原因が 何であるかによって、効果の差が出るということである。1987 年頃の円高不況に対して はプルーデンス政策は効果を持たなかったのに対し、バブル前後の金融市場の安定性が変 動していた時期には、プルーデンス政策の効果が大きい。Shirakawa (2012) では不況期 のプルーデンス政策の効果の不透明性が指摘されているが、効果の大小は不況の原因に よって変わってくるのである。 推定されたパラメータで厚生損失を分析した結果、プルーデンス政策による損失減少は 0.01 程度である。これは一見小さく見えるが、テイラールールのインフレ率への反応係 数 ϕπ を推定された標準誤差の 2 倍以上動かさないと達成できない損失減少である。また マクロプルーデンス政策であれば、金利の変動*13 もより小さくなることが確認されてい る*14 。そのため、特にバブル期におけるマクロプルーデンス政策は、金利を動かすとい う伝統的金融政策と同様に重要なものであったと言えよう。 *13 *14 Woodford (2003) では金融市場安定性の指標とされている。 この結果は翁他 (2000) や金利スムージングの意義を示した Clarida et al. (1999) の指摘と整合的であ る。 26 5 結論 5 結論 本稿の目的は、出口局面におけるマクロプルーデンス政策の効果に関する示唆をもたら すべく、バブル期のマクロプルーデンス政策について分析を行うことである。まず、金融 部門を取り入れた Tayler and Zilberman (2014) のモデルをベースにした DSGE モデル を日本のデータを用いて推定した。その後、推定結果を用いたカウンターファクチュアル シミュレーションにより、マクロプルーデンス政策の実施がバブル期の経済を安定化させ ることを示した。その際には、(1) 最低所要自己資本比率の引き上げと可変的な自己資本 規制をともに行った方が、景気を安定化させられるが、可変的自己資本規制の重要性が大 きいこと (2) マクロプルーデンス政策による経済安定は、伝統的金融政策と同様に重要な 政策オプションであったことの 2 点が明らかとなった。 今後の展望として、本稿ではミクロプルーデンス政策に関する議論は行われていない。 ミクロプルーデンス政策もマクロプルーデンス政策と並んで重要なプルーデンス政策であ るため、この点に関してはさらなる研究の余地があるといえよう。 現在の量的・質的金融緩和の出口局面を迎えるに当たり、プルーデンス政策に関する議 論がより一層深まることが望まれる。 27 参考文献 参考文献 [1] Angelini, Paolo, Stefano Neri, and Fabio Panetta (2011) “Monetary and macroprudential policies,” Bank of Italy Temi di Discussione (Working Paper) No, Vol. 801. [2] Bernanke, Ben S. and Mark Gertler (2000) “Monetary Policy and Asset Price Volatility,” NBER Working Paper, No. w7559. 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θC) ζ (−θ) C Ĉt−1 ζ ζ ] [ 1 − ζ −1 − ζ1 −1 1 1 1 − (C − θC) CE Ĉ − (C − θC) (−θ) C Ĉ t t+1 t − ζ ζ + (C − θC) ζ ztb − βθ − ζ1 b + (C − θC) Et zt [ ] 1 θ b − Ĉ + Ĉ + (1 − θ) z 1 t t−1 1 t ζ ζ − −1 { } ⇒ ΛΛ̂t = C − ζ (1 − θ) ζ −βθ − ζ1 Et Ĉt+1 + ζθ Ĉt + (1 − θ) Et ztb { ( )} ( ) 1 1 1 1 θ +1 b b ⇒ C ζ (1 − θ) ζ ΛΛ̂t = − Ĉt − θĈt−1 + (1 − θ) zt + βθ Et Ĉt+1 + Ĉt + (1 − θ) Et zt ζ ζ ζ 消費の限界効用の定常状態より 1 1 −1 +1 C ζ (1 − θ) ζ {C (1 − θ)} ζ (1 − βθ) Λ̂t { ( ) } ) 1 θ 1( b b Ĉt − θĈt−1 + (1 − θ) zt + βθ Et Ĉt+1 + Ĉt + (1 − θ) Et zt =− ζ ζ ζ 財市場の均衡式 Yt = Ct より、 ) 1( (1 − θ) (1 − βθ) Λ̂t = − Ŷt − θŶt−1 + (1 − θ) ztb + βθ ζ ) } { ( 1 θˆ b Et Ŷt+1 + Yt + (1 − θ) Et zt ζ ζ オイラー方程式の対数線形近似は、以下のように求められる。 [ ] ( D ) Pt Λt = βEt Λt+1 it Pt+1 [ ] ( D) 1 ⇒ Λt = βEt Λt+1 it πt+1 ( ) ⇒ log Λt = log β + log Et Λt+1 + log iD − log Et πt+1 t 定常状態を求めて差を取れば、 { ( ) ( )} (log Λt − log Λ) = (log Et Λt+1 − log Λ) + log iD − log iD − (log Et πt+1 − log π) t ⇒ Λ̂ = Et Λ̂t+1 + îD t − Et π̂t+1 また、限界代替率 M RS は、効用関数の Ct および Ht に関する 1 階微分の比で求めら れる。 ˆ t = γ N̂t − Λ̂t M RS 32 (5.1) 補論 続いて賃金設定に関する式の導出を行う。ωw の割合の賃金を最適化できない家計が選 択する賃金は Wi,t = πt−1 Wi,t−1 であることに注意すると、賃金決定に関する家計の問題 は次のようになる。 [ s ( { 1+γ }] ∞ ∏ πt+k−1 ) Wi,t ∑ Hi,t+s b L = Ei,t (βωw )s Λt+s Hi,t+s − ezt+s πt+k Pt 1+γ s=0 k=1 ( s ( ) −λw ∏ πt+k−1 ) Wi , t Pt+s subject to Hi,t+s = Nt+s πt+k Pt Wt+s k=1 実質化した賃金を L = Ei,t ∞ ∑ Wi,t Pt R Wt = Wi,t , Pt = WtR と表すと、上記の問題は (βωw ) Λt+s Nt+s s s=0 − ( s ( ∏ π ( b ezt+s 1 + γ k=1 ) t+k−1 πt+k R Wi,t R Wt+s )−λw × ) s ( ∏ πt+k−1 k=1 πt+k R Wi,t )−λw 1+γ ) ( R πt+k−1 Wi,t Nt+s R πt+k Wt+s ( )−λw ) ∞ s ( ∏ R ∑ πt+k−1 Wi,t R = Ei,t (βωw )s Λt+s Nt+s Wt+s R πt+k Wt+s s=0 k=1 ( )−λw 1+γ ( ) b ezt+s R πt+k−1 Wi,t Nt+s − R 1 + γ πt+k Wt+s を最小化するという問題になる。一階の必要条件は ( ) Ro )−λw ∏ ∞ s ( s ∏ ∑ πt+k−1 1 πt+k−1 Wt s R 0 = Ei,t (βωw ) Λt+s Nt Wt+s (1 − λw ) R R πt+k πt+k Wt+s Wt+s s=0 k=1 k=1 ( )−λw γ s ( b ) Ro ∏ πt+k−1 Wt − ezt+s Nt R π W t+s k=1 )−1−λw ( s ( ) s ( ∏ πt+k−1 ) W Ro ∏ πt+k−1 1 t × ×(−λw )Nt R R πt+k πt+k Wt+s Wt+s k=1 k=1 33 補論 )−λw ( s ( ∞ ∑ ∏ πt+k−1 ) W Ro t 0 = Ei,t (βωw )s Λt+s Nt R π W t+k t+s s=0 k=1 ( s ( ) ) Ro )−λw γ b s ( zt+s ∏ ∏ πt+k−1 −λw e πt+k−1 Wt Nt+s − × (1 − λw )WtRo R πt+k Λt+s πt+k W t+s k=1 k=1 ここで、Wt = (∫ 1 0 1−λw Wi,t di 1 ) 1−λ w Wt = Pt は次のように変形できる。ゆえに、 (∫ 0 1 1 ) 1−λ 1−λw w Wi,t di Pt である。また、 [ WtR 1−λw ] ( ( ))1−λw π t−1 Ro = (−1ωw )(WtRo )1−λw + ωw (1 − ωw ) Wt−1 + ··· πt [ )]1−λw s ( ∞ ∏ ∑ πt−k s Ro = (1 − ωw ) (WtRo )1−λw + ωw Wt−1 π t−k+1 s=1 k=1 である。 定常状態を求めると、まず賃金集約式より [{ 0= (1 − λw )W Ro W Ro WR −λw − Λ = 1。さらに、 ( ( N [{ }] −λw γ Ro = (1 − λw )W − N Λ ゆえに、 W Ro WR )−λw )γ }] (5.2) (5.3) ] −λw γ [ N = (1 − λw )W Ro Λ となる。 最後に、対数線形近似を行う。 ( ) Ro )−λw s ( ∏ π Wt t+k−1 0 = Ei,t (βωw )s Λt+s Nt R πt+k Wt+s s=0 k=1 )−λw γ ( s ( ) ) ( b s z ∏ πt+k−1 W Ro ∏ πt+k−1 (−λw )w t+s t Ro × (1 − λw )Wt − Nt+s R πt+k Λt+s πt+k Wt+s ∞ ∑ k=1 k=1 34 補論 ( Ro )−λw ∞ ∑ W[ ] s ↔ 0 = Ei,t (βωw ) ΛN × WR s=0 ( ( )γ−1 ) ( Ro )−λw −1 Ro Ro −λw W W (1 − λw )WiRo − −λw γ N W (−λw )N R R Λ W W WR ( ) s ∑ × W̃tRo + (π̃t+k−1 − π̃t+k ) + − λw Λ ( ( N −λ Λ Ro W WR k=1 ( w γ ( N )γ−1 ) Ro −λw W WR )−λw )γ−1 ( N ( (−λw )N WiRo WR )−λw WiRo WR Ñt+s + −λw Λ )−λw −1 ( ( N R WiRo R W̃ W R t+s W o WR )−λw )γ ( (5.4) 中間財企業 生産関数を所与として、中間財企業は以下の費用最小化問題に直面している。 ( ) ( L) R min iL t Lj,t = it Wt Nj,t Nj,t subject to Yj,t = Zj,t Nj,t この費用最小化問題を以下のラグランジュ関数を用いて解く。 ( ) R L = iL t Wt Nj,t + mcj,t (Yj,t − Zj,t Nj,t ) Nj,t についての一階条件は ( ) R ( L) R 1 ∂L = iL t Wt − mcj,t Zj,t ⇒ mcj,t = it Wt ∂Nj,t Zj,t 全ての中間財企業が同じ費用最小化問題に直面していることに注意して対数近似する。対 数を取り、定常状態との差を取れば、 ( ) log mct = log iL t + log Wt − log Zt { ( L) ( L )} ( ) ⇒ (log mct − log mc) = log it − log i + log WtR − log W R − (log Zt − log Z) R ⇒ m̂ct = îL t + Ŵt − Ẑt 35 b Λ̃t+s − zt+s W これをまとめて、π̃tw = W̃tR − W̃t−1 + π̃t より ( W ) π̃tW − π̃t−1 = β π̃t+1 − π̃t } (1 − βωw )(1 − ωw ) { + −W̃tR + γ Ñt − Λ̃t + Ztb ωw (1 + γλw ) ) 補論 貸出金利決定式の対数線形近似は次のように行う。なお、ここでは it はグロスの金利 を表すことに注意されたい。 iL îL t ( )θD ( )θ C ( ) ( ) D 1 1 θ D −1 V D C D = +θ ρ L i − i + c LL̂t − θ ρ Y −θ −1 iV − iD + c Y Ŷt L Y ( )q ( ) 1 + qρD Φq−1 iV − iD + c ΦΦ̂t + ρD iV îVt − ρD iD îD t Φ )−2 R R ( εF − εF 2 A εF − εF 2 χ εF − εF 2 Φ χχ̂t + R Φ AÂt + Aχ Φ (−1) W R W Ŵt + R W 2 W 2 2 χA εF − εF 2 2Φ Φ̂t + R W 2 iD îD t C D ( ) ( ) D D C D V i − iD + c L̂t − θC ρD iV − iD + c Ŷt iL îL t = i ît + θ ρ ( ) + qρD iV − iD + c Φ̂t + ρD iV îVt − ρD iD îD t χA εF − εF 2 χA εF − εF 2 R χA εF − εF 2 Φ χ̂ + Φ Â − Φ Ŵt t t WR 2 WR 2 WR 2 χA εF − εF 2 +2 R Φ Φ̂t W 2 ( ) C ρ̂t = θ L̂t − Ŷt , ϑ̂t = q Φ̂t より、 + ) ( )( ( ) D V D D D D D V V + ρ i − i + c ρ̂ + ϑ̂ + i 1 − ρ î î = ρ i iL îL t t t t t ( ) χA εF − εF 2 Φ χ̂t + Ât − ŴtR + 2Φ̂t WR 2 îL t ) ( ) ( )( 1 { D V V D D D D V D = L ρ i ît + i 1 − ρ ît + ρ i − i + c ρ̂t + ϑ̂t i )} χA εF − εF 2 ( R Φ χ̂t + Ât − Ŵt + 2Φ̂t WR 2 (5.5) 続いて、銀行資本のプレミアムを近似する。 ξ V ξˆtV ) ( F,M ) ( ) ( F,M ) χA ε + εF L A ε + εF Φχχ̂t + (1 − χ) Φχχ̂t WR 2 V WR 2 ( ) ( F,M ) ( ) ( F,M ) 1 − χ χA ε + εF (1 − χ)L χA ε + εF + ΦLL̂t − ΦV̂t V WR 2 V WR 2 ( ) ( F,M ) ( ) ( F,M ) L χA ε + εF L χA ε + εF +(1 − χ) ΦÂt − (1 − χ) ΦŴtR V WR 2 V WR 2 ( )( ) ( ) ( F,M ) L χA 1 L χA ε + εF F,M F,M +(1 − χ) Φε ε̂t + (1 − χ) ΦΦ̂t V WR 2 V WR 2 L =− V ( 36 補論 定常状態では ( ξ V = (1 − χ) L V )( χA WR )( εF,M + εF 2 ) Φ であることに注意すると、 χ V ξ V ξˆtV = − ξ χ̂t + ξ V χ̂t + ξ V L̂t − ξ V V̂t 1−χ ( ) 1 2 V V R εF,M ξ V ε̂F,M +ξ Ât − ξ Ŵt + + ξ V Φ̂t t 2 εF,M + εF εF,M χ χ̂t + χ̂t + L̂t − V̂t + Ât − ŴtR + F,M ξˆtV = − ε̂F,M + Φ̂t 1−χ ε + εF t 倒産確率 Φt を近似すると、定常状態では Φ = εF,M −εF εF −εF (5.6) であることに注意して、 εF,M F,M ε̂t εF − εF εF,M F,M εF,M − εF Φ̂ = ε̂t t εF − εF εF − εF εF,M − εF Φ̂t = ε̂F,M t F,M ε ΦΦ̂t = となる。 以下の 4 式から ξ V , iV , W R を求める。 ( A )( F ) (V ) χ ε̄ − εF D i =i +ρ i −i +c + Φ2 WR 2 ( )( A )( F ) L χ ε̄ + εF V ξ = (1 − χ) V WR 2 ( ) ( ) 1 mc = iL W R Z ( V) iD i = (1 − ξ V ) ( ) ( ) ( ) ここで,I L = iL , I D = iD , I V = iV とすると ( A )( F ) ( ) χ ε̄ − εF L D D V D i =i +ρ i −i +c + Φ2 WR 2 ( A )( F ) ( L) ( D ) (( V ) ( D ) ) χ ε̄ − εF i = i +ρ i − i +c + Φ2 WR 2 ( A )( F ) ( V ) χ ε̄ − εF L D D D I =I +ρ I −I +c + Φ2 WR 2 L D D 37 (5.7) 補論 となる.また同様に, ( ) ( L) R 1 mc = i W Z ( ) 1 = I LW R Z ( ) iV = iD (1 − ξ V ) ID = (1 − ξ V ) となる.以上より ξ V , iV , W R はそれぞれ, ξV = ただし M = (1 − χ) (L) V A χ ( ) ε̄F +εF 2 M WR , ID −1 (1 − ξ V ) ( L ) I = mc Z iV = WR が成り立つ. 続いて、価格設定に関する式の近似を行う。 (∫ λp −1 λp 1 Yt = p ) λpλ−1 Yj,t 0 (∫ 1 Yt = 1 1+λp )1+λp Yj,t 0 p p 廣瀬 (2012) では,中間財の代替弾力性 θt > 1 として価格マークアップ率を λt = 1/ (θtp − 1) としている.この論文では,中間税の代替弾力性を定数 λp > 1 として一定の 価格マークアップ率を pm = λp / (λp − 1) としている.ここで価格マークアップ率を時 間変化するとして仮定を変更することにする.t 期の価格マークアップ率 pm を pm = λp,t λp,t − 1 38 補論 とする.このとき Eq. 9 は, (∫ λp,t −1 λp,t 1 Yt = ) λλp,t−1 p,t Yj,t 0 となる.よって利潤最大化問題は、 (∫ maxPt ) λλp,t−1 λp,t −1 λp,t 1 1 − Yj,t Yj,t ∫ p,t Pj,t Yj,t dj 0 0 と書き表すことが出来る.この最大化問題の解、Eq. 10 は ( Yj,t = Yt Pj,t Pt )−λp,t となる.これを Eq. 9 に代入すると, Yt = ∫ 1 ( ( Yt 0 (∫ 1 (( 1= 0 λp,t Pj,t Pt (∫ 1 1 = Pt 1 = Pt 1 ( 1−λ Pj,t p,t 1−λp,t Pt = ( 1−λ Pj,t p,t p,t dj ) λλp,t−1 p,t λp,t ) λp,t −1 ) dj ) λp,t1 −1 ) dj 0 1 λλp,t−1 dj Pj,t ( λp,t −1 λp,t )1−λp,t ) 0 (∫ (∫ Pj,t Pt )−λp,t ) ) 1−λ1p,t ) dj 0 となる. 次に価格設定式の仮定を変更する.Calvo 型の価格硬直性に加えて Smets and Wouters (2007) にならい,ωp の割合の企業は,1 期前のインフレ率 πt−1 と定常状態のインフレ率 π の加重平均に従って価格を設定すると仮定する.1 期前のインフレ率に対するウェイト を γp とする.企業が t 期に価格を最適に設定した後、t + s 期まで最適に価格を設定しな 39 補論 かった場合の独占企業 j が生産する財の価格は, γ p Pj,t+s = πt+s−1 π 1−γp Pj,t+s−1 s ∏ ( γp ) = Pj,t πt+k−1 π 1−γp = Pj,t k=1 s {( ∏ k=1 πt+k−1 )γp } π π となる.よって企業の利潤最大化問題は, maxEt Pj,t ∞ ∑ [( Pj,t+s Pt+s ωps ∆s,t+s s=0 ζ −1 ただし ∆s,t+s = β s (ct+s /ct ) )1−λp,t+s ( Yt+s − mct+s Pj,t+s Pt+s ] )−λp,t+s Yt+s となる.利潤最大化問題に財の価格の式を代入すると, ( ) s {( )γp } 1−λp,t+s ∏ π P t+k−1 j,t π Yt+s max Et ωps ∆s,t+s Pj,t Pt+s π s=0 ∞ ∑ k=1 ( −mct+s Pj,t Pt+s s {( ∏ πt+k−1 )γp } π π )−λp,t+s Yt+s k=1 となる.Pj,t に関する一階条件は最適化した価格を Pt∗ とすると, ( ) s {( )γp } 1−λp,t+s ∏ π t+k−1 −1+λp,t+s −λ Et π Yt+s (Pt+s ) (Pt∗ ) p,t+s (1 − λp,t+s ) ωps ∆s,t+s π s=0 k=1 ( s )−λp,t+s ∏ {( πt+k−1 )} λ −1−λp,t+s +λp,t+s mct+s Yt+s (Pt+s ) p,t+s (P ∗ ) =0 π ∞ ∑ k=1 ( ) s {( )γp } 1−λp,t+s ∏ π t+k−1 −1+λp,t+s π Yt+s (Pt+s ) (−1 + λp,t+s ) Et ωps ∆s,t+s π s=0 k=1 ( s )−λp,t+s ∏ {( πt+k−1 )} λ −1 −λp,t+s mct+s Yt+s (Pt+s ) p,t+s (P ∗ ) = 0 π ∞ ∑ k=1 40 補論 ( )1−λp,t+s s {( ) } ∏ γ p πt+k−1 −1+λp,t+s Et ωps ∆s,t+s π Yt+s (Pt+s ) (−1 + λp,t+s ) π s=0 k=1 ( s )−λp,t+s ∞ ∏ {( πt+k−1 )} ∑ λ −1 = Et ωps ∆s,t+s mct+s Yt+s (Pt+s ) p,t+s (P ∗ ) λp,t+s π s=0 ∞ ∑ k=1 となる.これより [ ] (∏s {( πt+k−1 )})−λp,t+s ∑ λp,t+s s ∆ mc Et ∞ ω Y (P ) λp,t+s s,t+s t+s t+s t+s k=1 s=0 p π [ ] Pt∗ = (∏s {( πt+k−1 )γp })1−λp,t+s ∑ s Yt+s (Pt+s )λp,t+s −1 (−1 + λp,t+s ) Et ∞ π s=0 ωp ∆s,t+s k=1 π が成り立つ.ここで両辺を Pt で割ると, Pt∗ = Pt Et [ ∑∞ s s=0 ωp ∆s,t+s [( mct+s (∏ s k=1 {( πt+k−1 π )})−λp,t+s ] Yt+s (Pt+s ) λp,t+s λp,t+s P −λp,t+s ] )γp })1−λp,t+s −1+λp,t+s π Y (P ) (−1 + λp,t+s ) P 1−λp,t+s t+s t+s k=1 [ ] {( (∏ )})−λp,t+s ( ) ∑ πt+k−1 Pt+s λp,t+s s s∆ ω mc Y λp,t+s Et ∞ s,t+s t+s t+s k=1 s=0 p π P [( ] = ( ) ∏s {( πt+k−1 )γp })1−λp,t+s ∑ Pt+s −1+λp,t+s s π Y (−1 + λp,t+s ) Et ∞ t+s k=1 s=0 ωp ∆s,t+s π P Et ∑∞ s s=0 ωp ∆s,t+s {( ∏s πt+k−1 π t が成り立つ.次に対数線形近似を行う。等式 20 は Qt = Pt∗ Pt [ ( )λp,t+s ] {( πt+k−1 ) })−λp,t+s Pt+s Et mct+s π Yt+s P λp,t+s k=1 π [ = ( )−1+λp,t+s ] (∏s {( πt+k−1 )γp })1−λp,t+s ∑∞ s Pt+s Et s=0 ωp ∆s,t+s π Yt+s Pt (−1 + λp,t+s ) k=1 π ∑∞ s s=0 ωp ∆s,t+s ( ∏s ここで ( Pt+s Pt ) ( )( ) ( )( ) Pt+s Pt+s−1 Pt+2 Pt+1 = ··· Pt+s−1 Pt+s−2 Pt+1 Pt = πt+s × πt+s−1 · · · πt+2 × πt+1 s ∏ = πt+k k=1 41 補論 とする. Pt∗ Qt = Pt ] {( πt+k−1 ) })−λp,t+s ∏s λp,t+s π Yt+s ( k=1 πt+k ) λp,t+s Et mct+s k=1 π [ ] = {( ( ) }) ∑∞ ∏s ∏s 1−λp,t+s −1+λp,t+s πt+k−1 γp Et s=0 ωps ∆s,t+s π Yt+s ( k=1 πt+k ) (−1 + λp,t+s ) k=1 π [ ] (∏s {( πt+k−1 ) })−λp,t+s ∑∞ ∏s λp,t+s Et s=0 ωps ∆s,t+s mct+s π Y ( π ) λp,t+s t+s k=1 k=1 t+k π [ ] = (∏s {( πt+k−1 )γp })1−λp,t+s ∑∞ ∏s −1+λp,t+s Et s=0 ωps ∆s,t+s π Y ( (−1 + λp,t+s ) t+s k=1 k=1 πt+k ) π ∑∞ s s=0 ωp ∆s,t+s [ ( ∏s 対数線形近似しやすいように変形する。ここで ∆s,t+s についてこのモデルでは ∆s,t+s = βs ( ct+s ct )ζ −1 と定義された Total discount factor であるが ( ct+s ct )ζ −1 の部分が限界効 用ということになっている。効用関数にも変更を加えたので限界効用も修正する必要が ある。 Ut = Ei,t [ −Λt+s ∞ ∑ s=0 [{ β −1 1+γ 1−ζ Hi,t+s Ct+s − 1 − ζ −1 1+γ ( ) )( ) Pt+s−1 ( Pt+s−1 V 1 + iD + 1 + ξt+s−1 1 + iVt+s−1 Vt+s−1 t+s−1 Dt+s−1 Pt+s Pt+s FOC ( ) −1 1 − ζ −1 Ct−ζ + Λt = 0 ) Pt ( −βΛt+1 1 + iD − Λt = 0 t Pt+1 ( ) −ζ −1 ( ) Pt 1 − ζ −1 Ct+1 − Λt+1 β 1 + iD =0 t Pt+1 ( ) −ζ −1 1 − ζ −1 Ct+1 = −Λt+1 ) Pt −1 −ζ −1 ( Ct−ζ − βCt+1 1 + iD =0 t Pt+1 ( ) −1 1 − ζ −1 Ct−ζ Λt+1 = −ζ −1 Λt (1 − ζ −1 ) Ct+1 = Ct−ζ −1 −1 −ζ Ct+1 ( )−ζ −1 Ct+1 = Ct 42 } ]] 補論 となる。 Pt = (∫ 1 0 1−λ Pj,t p,t dj ) 1−λ1 p,t を書き換えておく。価格集約式 1 = (1 − ωp ) Qt 1−λp,t + ∞ ∑ [ Qt−s s=1 ( s ( ∏ πt−k )γ π π πt−k+1 k=1 )]1−λp,t 価格集約式から [ 1−λp,t 1 = (1 − ωp ) Qt + ∞ ∑ ] ωps Q1−λp,t s=1 ∞ ∑ [ = (1 − ωp ) Q1−λp,t 1 + ( = (1 − ωp ) Q1 − λp,t ] ωps s=1 1 1 − ωp ) Q=1 Et ∞ ∑ ωps β s {(−1 + λp ) Q − mcλp } = 0 s=0 {(−1 + λp ) − mcλp } = 0 { } (−1 + λp ) mc = λp 43 補論 対数線形近似 Et ∞ ∑ { ωps β s ( (−1 + λp ) s=0 ) s ∑ γp π̃t+k−1 − π̃t+k + k=1 (−1 + λp ) Q̃t − mcm̃ct+s λp + (λp − mcλp ) λ̃p,t+s Et ∞ ∑ { ωps β s (−1 + λp ) { } s=0 Et ∞ ∑ {( ωps β s s=0 Et ( (−1 + λp ) λp s ∑ s ∑ γp π̃t+k−1 − π̃t+k k=1 ( { m̃cλp + λp − + (−1 + λp ) Q̃t − (−1 + λp ) λp s=0 } ) } λp λ̃p,t+s }=0 ) ˜ + Qt − mct+s + (λp − 1) ˜ p,t+s λ γp π̃t+k−1 − π̃t+k ( {( ωps β s × =0 ) k=1 ∞ ∑ s ∑ } ) γp π̃t+k−1 − π̃t+k 1 1 − ωp β =0 ) Q̃t + } − m̃ct+s + (λp − 1) λ̃p,t+s =0 k=1 より、 Q̃t = (1 − ωp β) Et ∞ ∑ {( ωp β s × s=0 s ∑ ) } π̃t+k − γp π̃t+k−1 + m̃ct+s − (λp − 1) λ̃p,t+s ))} ) k=1 ここで Et ∞ ∑ {(( ωps β s s=0 s ∑ ( π̃t+k − γp π̃t+k−1 = k=1 1 1 − ωp β Et ∞ ∑ ωps β s (π̃t+s − γp π̃t+s−1 ) s=1 であることを用いると、 Q̃t = Et ∞ ∑ { ωp β s (π̃t+s − γp π̃t+s−1 ) + (1 − ωp β) s=0 ∞ ∑ ( ωps β s m̃ct+s − (λp − 1) λ̃p,t+s ) } s=0 となる。この式の t + 1 期をとると Et Q̃t+1 = Et ∞ ∑ { ωp β s (π̃t+s − γp π̃t+s−1 ) + s=2 (1 − ωp β) ∞ ∑ ( ωps β s m̃ct+s − (λp − 1) λ̃p,t+s s=1 差をとって ( ) Q̃t − ωp βEt Q̃t+1 = ωp β (π̃t+1 − γp π̃) + (1 − ωp β) m̃ct − (λp − 1) λ̃p,t 44 ) } 補論 価格の集約式については 1 = = (1 − ωp ) Q1−λp,t + ∞ ∑ 0 = (1 − ωp ) (1 − λp ) Q̃t−s + 0 = Q̃t + ( s ( ∏ πt−k )γp π π πt−k+1 k=1 ∞ ∑ [ ωps (1 − λp ) Q̃t + s=1 { ωps ωps Qt−s s=1 [ ∞ ∑ [ Q̃t−s + s=1 s ∑ } s ∑ )]1−λp,t ]] γp π̃t−k − π̃t−k+1 k=1 γp π̃t−k − π̃t−k+1 k=1 ここで ∞ ∑ s=1 ωps s ∑ k=1 ∞ 1 ∑ s γp (π̃t−k − π̃t−k+1 ) = ω (γp π̃t−s − π̃t−s+1 ) 1 − ωp s=1 p 一期前にずらすと、 ωp Q̃t−1 = − ∞ ∑ ωps Q̃t−s − s=2 ∞ 1 ∑ s ω (γp π̃t−s − π̃t−s+1 ) 1 − ωp s=2 p 差をとって Q̃t − ωp Q̃t−1 = −ωp Q̃t−1 − Q̃t = 1 ωp (γp π̃t−1 − π̃t ) 1 − ωp 1 ωp (π̃t − γp π̃t−1 ) 1 − ωp この式を代入して、 ωp2 β 1 ωp (π̃t − γp π̃t−1 ) − (Et π̃t+1 − γp π̃t ) = 1 − ωp 1 − ωp ( ) ωp β (Et π̃t+1 − γp π̃t ) + (1 − ωp β) (1 − ωp ) m̃ct − (λp − 1) λ̃p,t ハイブリッド型NKPC (π̃t − γp π̃t−1 ) = β (Et π̃t+1 − γp π̃t ) + ztp = ) (1 − ωp β) (1 − ωp ) ( m̃ct − (λp − 1) λ̃p,t ωp (1 − ωp β) (1 − ωp ) (−λp + 1) λ̃p,t ωp 45 補論 とすれば最終的に、 p p (π̃tp − γp π̃t−1 ) = β(Et π̃t+1 − γp π̃tp ) + を得る。 46 (−ωp β)(1 − ωp ) m̃ct + ztp dωp (5.8)
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