羽曳野市立生活文化情報センター「ホール M」の音響設計 * ―シュー

羽曳野市立生活文化情報センター「ホール M」の音響設計 *
―シューボックスをベースとした音楽指向多機能ホールの例―
○高橋顕吾、小林 哲、川上福司(ヤマハA開センター)
1.はじめに
羽曳野市立生活文化情報センターは、情報
学習センター・図書館・ホールからなる複合
文化施設として 2001 年4月にオープンした。
約 700 名収容の「ホールM」は、平土間イ
ベントから、音楽演奏まで広範囲な用途が要
求され、
正面には 43 ストップのパイプオルガ
ンが設置されている。音響設計上は平土間形
式での極端な残響過多を避けながらも、音楽
演奏時に十分な響きを確保することが重要課
題であった。そこでワンルーム・シューボッ
クス形式をベースとしながら、様々な可変機
構を採用して音場の最適化を図った。なお、
オルガン導入についての検討課題と対応策に
ついては別報にまとめる1)。
表1に施設概要を、図1にホールの平面、
断面図を示す。
2.ホール用途と形態可変
ウィーンとの姉妹都市関係にある羽曳野市
のホールとして、
“音楽”
は設計当初から重要
な用途であった。これに加えプロセニアム形
式での講演、軽音楽、及び簡単な音楽劇、さ
らには施主や地域団体の要望である平土間形
式でのパーティ、音楽イベント等まで幅広い
用途への対応が必要であった。このため図1
及び、
表2に示す各種の可変機構を導入した。
特に、可動プロセニアムについては残響短縮
のため表面吸音処理としている。また可動段
床部については、一般のロールバック式がノ
イズ、着座感等問題が多いため、通常のホー
ル椅子と可動床を用いて平土間化を実現した。
表1.施設概要
名称
:羽曳野市立生活文化情報センター
「ホールM」
所在地
:大阪府羽曳野市軽里 1 丁目 144 番地
建築主
:羽曳野市
設計・監理 :㈱山下設計
音響設計 :ヤマハ㈱A開センター
施工
:㈱大林組
工期
:1999 年 7 月∼2000 年 12 月
収容人員(N):約 700 席 容積(V):9292m3
表面積(s) :3973 ㎡
V/N:13m3
①回転反射板
18m
34m
【平面】
②可動プロセニアム ③舞台幕
⑥天井幕 ⑦吸音カーテン
15m
【断面】④可動段床+椅子
図1.ホール平面及び断面図
⑤昇降ステージ
【プロセニアム形式】 【ワンルーム形式】
表2.ホール用途と可変機構
用途
室形態
可変機構
音楽
ワンルーム形式
①回転反射板(側反)
講演
プロセニアム形式 ②可動プロセニアム(吸音仕上げ)
軽音楽
③舞台幕+オルガン隠し
④可動段床+
平土間 平土間形式
イベント
ホール椅子(背倒れ式)
共通
各種舞台位置 ⑤張出し昇降ステージ
+スライドステージ
共通
吸音調整
⑥正面バルコニー天井幕
⑦ライトギャラリー吸音カーテン
写真1:各形式でのホール内観
*Acoustical design of LIC Habikino “hall M”
–An example of multi purpose hall of the shoe-box style mainly used for music–
by K.Takahashi,T.Kobayashi and F.Kawakami(YAMAHA Ad. Sys. Dev. Center)
○○ワンルーム形式+音場支援システム
△ワンルーム形式
残響時間(Sec)
3.0
2.0
1.0
□プロセニアム形式
×平土間形式
63
125
250
500
1k
周波数(Hz)
2k
4k
8k
図4.残響時間周波数特性
LE5(%)
・主階席
:28.9%
・正面バルコニー:28.1%
・サイド 〃 :18.7%
・全体平均 :26.7%
図5.側方反射音特性(LE5)
80
70
60
D50(%)
3.室内音響設計と測定結果
3-1.基本室形状:
ホールの基本室形状は、音響性能上定評の
ある「ワンルーム・シューボックス型」とし、
この形状の理想とする室内寸法を採用した。
即ちホールの横幅(W=18m)に対して十分な
天井高
(H=15m)
を確保し、
正面バルコニー、
二段のサイドバルコニーを配置した。そして
座席配置や勾配の最適化により、音楽演奏に
とって重要な「残響感」
、
「拡がり感」
、
「音量
感」に寄与するパラメータが、専用コンサー
トホールと同等の水準に達するよう設計した。
音楽以外の講演・式典、更には平土間イベン
ト等の用途に対処するため、前述の可動プロ
セニアム、回転側反、舞台・客席の吸音幕等
を用いて舞台形態の可変と併せた残響時間の
調整をしている。
3-2.測定結果:
残響時間を図4に示す。ワンルーム形式で
は、一席あたり 13m3と、十分な室容積が奏効
し、空席状態の残響時間は 2.3 秒∼2.2 秒(ラ
イトギャラリー側壁のカーテン無し∼有り.
平均吸音率α=0.15∼0.16)
、満席状態での推
定値は 2.1 秒前後(α=0.17)と、クラシック
演奏に十分な響きが確保されている。
一方、プロセニアム形式では、吸音性の可
動プロセニアムや舞台幕等の設置、舞台回転
側反開放により、空席 1.3 秒(α=0.22)と、
約1秒短くなる。しかしながら、これらの建
築的な可変方式によるライブネス制御では自
ずと限界があり、よりライブな音場が好まれ
る音楽
(例えばシンフォニーやオルガン音楽、
等)のために、本ホールでは、
“音場支援シス
テム”を導入した。これにより催し物に応じ
た大幅な残響可変(最大約2倍まで)が可能
となっている(システム使用時の残響時間の
詳細については別報に示す1))。平土間形式に
おいては舞台及び客席の吸音幕を用いること
により、空席 1.56 秒(α=0.20)と、問題のな
い残響特性が実現されている。
音楽演奏時に重要な「拡がり感」を表す側
方反射音(LE5)の分布を図5に示す。全席平
均で 27%、
特に主階席の平均は 29%と専用ホ
ール並みの性能が得られている。また、会話
の明瞭度を示す D50(図6)は、ワンルーム
形式で 26%、プロセニアム形式では 49%と、
多機能ホールとして十分な値となっている。
50
○プロセニアム形式
×同形式+SR 使用時
○プロセニアム形式
×同形式+SR 使用時
40
30
□平土間形式
20
△ワンルーム形式
10
63
125
250
500
1k
2k
4k
8k
周波数(Hz)
図6.各形式の D50 値(平均値)
また、平土間形式でも中音域で 40%が確保さ
れており、当初の設計目標は実現された。
4.まとめ
音楽専用ホールに匹敵する意匠と音響性能
を維持しながら平土間形式まで、まさに変幻
自在な新しい「音楽指向多機能ホール」が実
現できた。これは各用途に適した形態可変と
吸音力の最適化、及び音場支援システムが十
分に機能した結果である。
【参考文献】
1)高橋他、パイプオルガンを持つ多用途ホールの音響設計手法
日.音.講.論.,2001.10