日消外会 誌 14(2):133∼ 140,1981年 肝再生 に関す る実験的研究 一 長崎大学医学部外科学第 2 教 室 ( 指導 : 土 屋涼 教授) 向 井 憲 重 STUDIES OF PANCREATIC RECNERAT10N AFTER SUBTOTAL PANCREATECTOMY IN RATS Norishtte MUKAI 2nd Department OF surgcry2 Nagasaki nivcrsity l」 Sch001 0f Medicine (Director:PrOi Ryoichi Tsuchtta) ラ ッ ト膵広範切除後の残 存膵 における 外分泌お よび 内分泌細胞 の再生能 につ いて ,thymidine‐ H3を 用 いた autOradiographァ に よる DNA合 成能,陣 放射能活性,nuclear volume,残 存膵重量の測定等 によ り 検討 し,さ らに Sandmeyer型 糖尿病発生 と陣 ラ島細胞再生 との関連性 について も追求 した 。陣広範切除 後,残 存膵は著明な重量増加を認 め,膵 放射能活性は 3日 目よ り10日目まで高値 を示 した。外分泌細胞は 術後早期 よ り活発な DNA合 成を行い,細 胞分裂 に よってその数的減少を補 い, さらに20日目以降 hyper_ trOphyを呈 した.残 存陣 ラ島細胞 において も3日 目を ピー クに 活発 な DNA合 成による細胞増殖 が,10 日目よ り20日目まては細胞肥大 が認 め られたが ,40日 日以降 これ ら細胞の変性像が散見 され, この時期 に 糖尿病 の発生が認め られた 。 索引用語 :膵 広範切除,Sandtteyer型糖尿病, 膵再生,autOradiograPhy,nuclear volume 格 言 近年,膵 の良性,悪 性疾患 に対 し根治性を計 る意味 で 膵 の広範切除が 行 われ るようにな り1ン ち そ の結果術後 の陣機能障害が重要な問題 として残 されている。膵 は外 分泌お よび内分泌機能を有 し,膵 広範切除 によ り陣機能 不全をきた しやすい。 しか し,実 験的 には,陣 外分泌の 機能的予備力は大であ り,臨 床的 に も陣広範切除後の外 分泌機能不全発生は少ない。一方,内 分泌障害 として膵 広範切除後, Sandmeyer型 糖尿病 3)4)が 発生す ることは よく知 られている。一般的 に,膵 の再生能は低い とされ ているが,外 分泌な らびに内分泌細胞に区分 して経時的 に再生率を具体的に提示 した研究は少ない。本研究 では ラ ッ トに対 し膵広範切除を行い,残 存膵 におけ る外分泌 お よび内分泌細胞 の 再生能 につ き, autOttdiographァ に よる DNA合 成能,陣 放射能活性,残 存膵重量)nuclear 生後 2カ 月∼ 3カ 月, 体重 140∼180g(平 均 157g)の ウィス ター系 ラ ッ トの雄を使用 し,オ リエ ンタル実験動 物用固型飼料 MFぉ ょび水にて飼育 した。 35匹の ラ ッ トに対 し眸広範切除を施行 し, さらに対照群 として35匹 のラ ッ トに,開 腹後,陣 と結腸間膜 の剣離術 のみを施行 した。 2.陣 広範切除術 ラ ッ トは手術前 12∼24時 間絶食 とし,エ ーテル全身麻 酔下 に正 中切開 にて開腹 した.ラ ッ ト膵 は薄 い膜状構造 biliary を塁 してお り, gastric,sPlenic,duodenaェ,Para‐ segmentに 大別 され る5)(Fig.1). 膵広範切除術は Foglia6)の 方法 に準 じ, 十 二指腸 と 胆管の間に囲まれ る Pa昭_biliary segmentのみを残 し! 他 の 3つ の Segmentは すべて 切除 した。 その切除量は V。 lumeな どに より検討を試み,さ らに Sandmeyer型糖 尿病発生 と膵 ラ島細胞再生 との関連を も追求 したので報 約90%で ある。陣広範切除群"対 照群共閉腹前 に生理的 食塩水5mlを 腹腔内に注入後,腹 壁は 2層 縫合 にて閉鎖 し,術 後 12∼24時 間 より水及び飼料 の投与を開始 した. 告す る. なお,抗 生物質は全 く使用 しなかった。 実験方法 1.実 験動物 3,実 験群 の設定 膵広範切除群,対 照群をそれぞれ 7グ ル ープに分け, 障 再生 に関 す る実験的研究 2(134) Fig.1. Anatomy of the rat PanCreas. 日消 外会 誌 1 4 巻 2号 判定は細胞核内の銀粒子数が 3個 以上を陽性 とし Cellの 才 二 . PorQbi110ry 陣放射能活性 は 摘出膵か ら約5mgの 際片を 採取 し, luen(Packard)にてホモジ counting vial内 で lmlの Sも ー ンス タゲルを ネ トし,9mlの イ 加え,陪 所 にて24時間 100型液体 シンチ レーシ ョンシス 静置後, Beckman LS‐ テムにて10分間 1回測定 し,dPm′mgに 換算 した。 nuclear volume測 定 には 光顕用標本を使用 し, 外分 にて 写真撮影 した後, 同 倍 泌組織 お よび ラ島を 1,000倍 率 で 撮影 した マイ クロメーターにて,acinar cellぉょ び iSiCt Cellの 核 の長径 お よび短径 を測定 し,Koulisch7) a2b(a:half of the smaller の報告 した式,す なわち4/3π diameter,b:half of the greater diameter)を用 ヽヽ て算 核は 1ラ ッ ト 出 した。なお,acinarぉ ょび iSlet Cellの につ き,そ れぞれ 100個測定 した. 実験成績 1)体 重 各 グル ー プは 5匹 とし,術 後第 1日 ,3日 ,5日 ,10日 , 20日,40日 ,60日 目に屠殺 した。 さらに 5匹 を 0日 群 と して屠殺 した。 膵広範切除群 の術後第 1日 日の体重減少は対照群に比 しやや高度 であ り,術 前 の体重へ の回復 も,対 照群 が 3 日日で既 に術前体重を上廻 ってい るのに対 し,切 除群 で 4.検 査内容お よび方法 は10日以上を要 した。その後両群共に順調な体重増加を 体重は手術時 より屠殺時 まで 5日 毎 に測定 した。 空腹時血糖は手術時 お よび屠殺時 に尾切断 に より採血 み とめ るが,20日 日以降切除群 の体重 は対照群 に比 し, 増加が低率であった (P<0・001)(Fig.2). にて測定 した。 3H) 組織標本 は 屠殺前 12時間以上絶飲食 と し,(6‐ し,OTB法 Fig.2. Body weight of sublotally pancreatectomi‐ 卜SD. zed and control rats after operation.Mean― thymidine O.5μ Ci/g体 重を 腹腔内に 注入 し, 1時 間後 エ ーテル全身麻酔下 に,陣 広範切除群 は残存膵を,対 照 中にて固定 した。 光学顕微鏡用標本 は,脱 水,パ ラフ ィン包埋後,卯 片 て染色 し検鏡 した。 を Itematoxylineteosineに や資 地 ■ 0≡ ぁ t On biliarγ segmentの みを摘出 し, 光 顕 お よ び 群 は para‐ autoradiograplly用 標本 として 採取 した。 輸出膵 はそれ ぞれ重量測定を行 った のち,直 ちに10%ホ ルマ リン溶液 100 autoradiogttPhy用 標本作製 は, 採 取固定 した 陣組織 パ ン 片を ラフィ 包埋後,4μ の切片と し, 脱 パ ラフ ィン 後,暗 室内で DiPping法により SAKURA,NR‐ M2液 体 字L剤 (小西六写真工業株式会社製)を 塗布 し,シ リカゲ ルを入れた 暗箱 に入れ, 5℃ に 保存 し, 露 出期間 は30 日間 とした。30日後現像定着を行 い,同 標本を,HCma‐ line‐ eosineにて染色 し, 1,000倍にて光顕下 に lab‐ toXγ eling indexを 標本 は 1ラ 測定 した。autOradioglaplly用 postoperative day *: Pく (0・001 -― :Pancreatectomized rat(n=5), ……・ :COntr01 rat(n=5). 2)空 腹時血糖 ッ トにつ き 少な くとも3枚 以上作製 し, 外 分泌及 び 内 膵広範切除群 におけ る第 1日 目の血糖値は術前 の平均 値 土標準偏差値が96.6±9.2mg/dlに対 し,271.1± 67.5 分泌細胞 ともに1,000個の核を数えて測定 した.labeling mg/dlと 高値を示 し, ま た 対照群 との 間 に も 有意 の差 3(135) 1 9 8 1 年2 月 Fig.3. BIoOd sugar levels of subtotallァ tectomized and control rats.Mean― Pancrea‐ 卜SD. 対 照群 は 86.3±7.3mgに す ぎず , 明 らか に 有意 の 差 (p<0,001)が 認 め られた (Fig,4). 4)残 存膵放射能活性 液体 シンチ レー シ ョンに よる残存膵 の放射能 活性 をull mg/dl postoperative day *: Pく (0・001, *米: Pく く0,05 -― :Pancreatectomized rat(n=5), … …・ :COntrOl tat(n=5). やF 的 引 0≡ や 0≡ り付 o常 o宮 付 島 H S F O ﹁ O o常 ︻ 0> 0︻ h d的 ■ 0 ● ooHコ Fig.4. Weight of residuaI Pancreas after subtotaI nPared with weight of corresPonding resection coコ segment in controls.MeanttSD. 0 1 5 5 10 20 postoperative day (P<0・ 001)を 認 め た。 しか し,術 後 3日 目には 術 前 値 に まで下 降 し,術 後 3日 , 5日 ,10日 ,20日 の血 糖 値 は *: Pく (0・001 -:PanCreatectomized rat(n=5), 4 ±16.7mg/dl,129.6 dl,119・ それぞれ,116.2±32.8mg′ 4 6.4mg/dIと 27.lmg/dl,133.8± はぼ 安定 した値を と ± …,一・ :COntrol rat(n=5). り,対 照群 との間にも 有意 の差 は 認 め られない.し か 33.6mg/dl(P<0・05),第 60日 目 し, 第 40日目 174.0± 001)と 再 び増加 し,対 照群 と 192.0± 28.4mg/dl(P<0・ Fig.5。 Pancreas homogenate radioactivity. WIeanTSD. dpm/mo の間 に有意 の差が認め られた (Fig.3)。 すなわち切除群 は 1日 目に一過性 の高血糖 を示 し,一 高血糖 に移行 し,多 飲,多 尿 お よび尿糖 の出現をみ るに 至 った, ラット陣 は薄い膜状構造を呈 しているが,膵 広範切除 群 においては 日が経 つ につれ実質臓器 の如 く肥厚を示 し iliary segmentで た。Paraも あ る 残存膵 の 湿重量 (N= 3.8mgで 52.6± 5)は ぁ り,切 除群 の 1日 目は 112.1土 0 0 0 0 0 0 2 1 3)残 存膵 の肉眼的所見及び湿重量 ヽ や ﹁, ︻ や 0雨 0 ﹁ ● 付 ︻ “ い Oh OH 面 高 旦ほぼ正常血糖 に回復 したのち,40日 日以降 に持続性 の 26mgと 約 2倍 に増加 した。 これは術後残存膵 の 浮腫 が 最 も強 い時期 であ り,浮 腫が改善 され るに したがい, 3 日目84.5±16.4mg,5日 目82.8±20.7mgと ゃゃ減少を こヤ ま105.7±18.Omg, 20日 目 不 した。し か し, 10日 ロ ヤ 26 3mg,40日目223.8±32.9mgと 増加 の傾向を 139.7± する 示 した。対照群 も体重 の増加につれ,わ ずかに増カロ 28.9mgで 178.2± ぁるのに対 し, が,60日 目で切除群が 5 10 20 postoperative day postoperative *:P<0.01 -:PanCreatectomized rat(n=5), ………:COntr01 rat(n=5). 膵 再生 に関す る実験 的研究 4(136) 定 した.切 除群 の前値が 1,071±200dPm′mg(N=5) に対 して,第 1日 目は 1,189±480dPm′mgを 示 し,対 照 群 と有意 の差は認め られない。ただ し,こ の時期は術後 の浮腫が最 も強 く, しか も5mg膵 組織片あた りの COunt Fig.7. 日消 外会 議 1 4 巻 2号 AutoradiograPhァ of Pancreas of subtotally PanCreatectomized rat 5 days after oPeration. Four acinar cell nuclei are labeled with grain of thymidine‐3H.II.Eo stain. 〉 く1,000. 値を示 したので,浮 腫 がなければ より高値を示す ものと 考え られ る.切 除後 3日 , 5日 ,10日 目の値 は,そ れぞ れ 1,938±230dPm/mg,2,403± 260dPm/mg,2,096± 277 dPm/mgを 示 し, 対 照群 に比 し 有意 の増加 (P<0・01) を認めた。 しか し,20日 ,40日 ,60日 目では放射能活性 は低下 し,対 照群 との間に有意差はない (Fig.5). すなわち切除群における残存膵放射能活性は術後 5日 目を ピー クに 3日 より10日 目まで高値を示 した。 5)aciner cellの DNA合 成能お よび nuClear v。 lume 3Hを thymidine‐ による DNA 用 いた autOradiographァ 合成能を labeling indexで 表わ した。 切除群において は,前 値0.32±0.20%(N=5)よ り,第 1日 目2.56土 0.68%,3日 目4.46±0.52%を , 5日 目には5,37± 1.25 %と ピー クを示 し,そ の後やや低下 して,10日 目3.80土 0。41%を 示 した。 この期間中対照群 との間に有意 の増加 (P<0・001)を 認めた。そ の後20日 目には0.30±0。18% と前値 と類似の値を示 し,40日 日で再 び1.17±0.17%に Fig.6. Pancreas acinar cell nuclear labeling indi‐ ces in subtOtally pancreatectomized and cOntrol ra ts,MeanttSD. Fig.8. Nuclear volume of acinar cells in subtot tally Pancreatectomized and control animals after oPeratiOn.MeanttSD. c u メヵ 宮 「 > Ft S H 宮 postoperative day り 00 ︻毎卓 ︻ 的 費 H︻ 0, S ︻ ﹁ ︻ O c h SS ﹁ OG *: Pく (0・005 -:Pancreatectomized rat(n=5), ……・ :COntrOl rat(n=5). 上 昇 したのち,60日 目では前値お よび対 照群値 と同様 な 値 を とった 。す なわ ち labeling indexは 2峰 性 を示 した (Fig.6).Fig.7に 腺房細胞 の核 内に取 り込 まれた粒子 な らびに核分裂像を示す 。 lumeを み る と,手 術時 は 34.4 腺房細胞 の nuclear v。 2.4cu.μ ± で, 術 後両群 ともに 増加を示 し,10日 目ま O l チ 5 1o 20 POStOperative day *: Pく(0・001 :PanCreatectomized rat(n=5), …… :COntr01 rat(n=5). 1o で有意 差は認 め られ ない。 対照群 において 10日 日以降, nuclear volulneの増加 は認 め られないが,切 除群 では, 2 0 日目5 8 . 9 ±1 1 . 4 c u . ,μ4 0 日 目6 4 . 2 ± 6 . 2 c u . ,μ6 0 日目 6 1 , 2 ±6 . O c u . μと増加 し, 対 照群 と 有意 の差を 認めた く P < 0 ・0 0 5 ) ( F i g . 8 ) . すなわち,陣 広範切除後の残存捧 aciner cellは 1日 1981年 2月 5(137) 目より10日目まで活発な DNA合 成が行なわれ, hyper‐ PlaSiaを塁 し,20日 日以降では主 として細胞の hypertr‐ Fig. 10. Autoradiogram of PanCreas of subtotally days after oPeratiOn. Pancreatectomlzed rat 5 Two isiet cell nuclei are labeled. H.E.stain. OPhyが 認 め られた。 6)iSlet Cellの DNA合 成能 お よび nuClear volume 膵 ラ島細胞 の labeling indexは Aお よび B細 胞 を区 ×1,000. 別 して 測定す る事が 困難なために, 全 体 として 預」 定し た。なお, ラ ッ ト眸 ラ島内はほ とん どが B細 胞 で 占め ら れてお り,A細 胞 は ラ島周辺部 にわずかに散在す る分布 を示 した。 切除群 における ラ島細胞 の labeling indexは, 第 3 日目を ピー クに, 1日 目より60日 目まで,対 照群に較ベ 高値を示 し, 有 意 の差が 認め られた (p<0・001).す な わち,labeling indexは , 1日 目1.06±0.41%,3日 目 2.52±0.43%, 5日 目 1.37±0.4%,10日 目 1.40±0.35 42±0。17%,40日 目0。 %,20日 目0.62±0.20%,60日 目 0.12±0.04%を 示 し,明 らかに DNA合 成能 の元進を認 めた。 しか し,外 分泌細胞 のそれに較べ るとやや低値 で Fig. 1l び20日 日 (P<0・001)で 対照群 との間に有意差が認 め ら れた (Fig.11)。 しか し40日 日以降,全 く増加は認め ら れず,対 照群 との間に有意差は認め られない. islet cells in subto‐ MeantSD. あ る。 (Fig.9,10). islet cell nuclear volumeを み ると,手 術時は40.1土 5.3cu.μ であるが , 切 除群 において, 3日 目47.8±7.8 Cu・μ,5日 目48.0±5.8cu.μ,10日 目53.3±5.2cu.μ;20 日目60.1±2.6cu.μ と増加 し, 10日 目 (P<0,01)お よ Nuclear volume of・ tally Pancreatectomized and control animals. CU 70 昌 ) 常 d H 宮 Fig.9. Labeling indices of islet celis in subtOtally 互 ean=L pancreatectomizod and control animals. ヽ SD. 60 50 10 50 20 10 0 1 5 ︱︱︱ ︱︱︱ 川 比 封﹁ 州﹁ い 00 ﹁ ●F 一 旺 宮 ﹁ ︻ oつ d ︻ ︻ H Oo や o﹁ 0﹁ 5 10 20 postoperative day *: Pく (0・001 (0・01, **Pく -:PanCreatectomized rat(n=5), ………:COntr01 rat(n‐ 5) す なわ ち,膵 広範切除後 の ラ島細胞 は ,あ ず か に hy― 示すが, そ の 呈 し, そ の後 hypertrOphyを Perplasiaを 再生能 は腺房細胞 に比 し低 い。 光顕的 に40日 日以降 で , ラ島は不整形を示 す ものが 多 く,線 維化 を伴い,島 細胞 は萎縮 し, 紡 錘///の 濃染す る 核 を有す る 細胞 が 増 加 し ,__■、、、ェ__ 0 1 5 5 10 __」 L______… 20 こ. ブ 考 察 膵広範切除術後 の病態生理 お よび残存膵 におけ るT//態 学的変化 に関 しては多 くの報告があ り,膵 再生 に関す る postoperative day *: Pく (0・001 一 :Pancreatectomized rat(■ …… :COntrOl rat(n=5). …エ ーー =5), 報告 も少な くない.Fimer8)は 障全摘大 に対 し, 8カ 月 間イ ンス リン投与を行 い, 断端 か ら 0.5gの 膵組織 の再 6(138) 解再生 に関す る実験的研究 日消 外会 誌 1 4 巻 2号 生を証明した。 COndOrell19)ら は20匹の大 に対 し30∼50 間 の観察 で, 80%以 上の 切除例 に 糖尿病発現 をみた と %膵 切除を 行 い, 陣 部分切除に よって 再生が 刺激 され るこ とを示唆 した。 Lehv&Fitzgerald10)はラ ッ トの約 し,DragstedP4)は 80∼90%切 除 で 糖尿病は 発生 しない とした。水本 ら17)18)は ,犬 を用いて膵広範切除後 の糖代 謝 と陣内分泌機能 の変動を観察 し,88%以 上の切除では 50%眸 切除を行ない,残 存膵 の著明な重量増加 と acinar CeHの 再生を証明 し, さ らに PearsOnll)も 同様に, 50 %,70%,90%陣 切除後 の再生能を検討 し,切 除量を増 す程再生率は高率であった と述べている。 本研究は ウィスター系 ラ ッ トの雄を使用 し,90%膵 切 除後 の残存膵 におけ る再生能を外分泌な らびに内分泌細 胞 に区分 して,経 時的 に分析 したものである。膵広範切 除後,残 存膵 は 肉眼的に 球状 に 肥大 し, 術 後40日 目で は,術 直後 の 4倍 以上の重量増加を認めた。 thymidine_ 3Hを 用いた 液体 シンチ レーシ ョンに よる膵放射能活性 は,Lehv10)らは術後30時間を ピー クに第 1∼ 2.5日で増 加をみた としているが,本 実験 では第 5日 目を ピー クに 第 3日 より10日目まで高値を示 した。 まず膵外分泌系 の再生をみる 目的で腺房細胞 の autoト adiOgraphγ に よる DNA合 成能 を labeling indexで み ると,第 5日 目の5.37%を ピー クに,第 1日 日より10日 目まで高値を示 し,対 照群 の 3乃 至10倍に達 した。 また 術後40日 目に軽度の上昇を示 した。一方,nuclear volume は,切 除群 において40日 目まで増加をつづけ約 2倍 に増 大 し,対 照群 に比 し20日以降で明 らかに hypertroPhyを 呈 した。 すなわち, 残 存膵 aciner cellはまず活発な DNA合 成が行われ, 細胞分裂によってその 数的減少を 補 い,そ の後細胞な らびに核 の肥大が起 こ り,膵 の再生 が完成す るものと思われ る。 Scow12)は90%膵 切除 ラ ッ トにおいて, 術 後 の消化吸 収機能は正常であった と述べ,HOtz13)は , 70%切 除 で は外分泌機能は正常であ り,90%切 除では術後 2週 間前 後 で トリプシン,ア ミラーゼ排出量 が正常 の約60∼80% に減少す るが, 5週 前後 で 正常化す ると報告 した。Dra‐ gstedP4)は犬を用 いて90∼95%陣 切除を行い,消 化吸収 機能 に障害はない もの と述べてい る。 この ように,膵 外 分泌 に関 してその機能的予備力は大で,正 常 の約 5%陣 組織が残れば消化吸収機能 に障害はない もの とされてい る。 これ らの事実は,膵 外分泌組織 の再生に よる機能 の 代償 も一 因 と考え られ る. つ ぎに膵大量切除後 の 膵内分泌細胞 の再生 と Sandm‐ eyer型 糖尿病発生の関係 について 検討 した。 一般 に膵 広範切除後, ヽヽ わゆる Sandmeyer型 糖尿病が発症す る 事 は古 くより知 られてお り,こ の病態生理 に関 し多数 の 15)崎 ) 17)18)19)20)211吉 161ま 報告がある 岡ら 犬膵切除後28日 術後早期 に糖尿病が発症 し,70∼ 80%切 除 では 6週 以降 には じめて糖尿病が 発生 し, 70%以 下 の 切除では 糖尿 19)はラ 病 の発生がみ られない と報告 した.Martinら ッ トに対 し膵広範切除を 行ない, 正常血糖, 尿糖陰性 の “Pre,diabetic Period"を 経 て, 20日 日以降高血糖, 尿 “ eariγ 糖陽性 の diabetic Period"に 移行すると述べ た 20)は ラ ット膵広範切除後 の残存陣 ラ島 B細 胞を が,吉 野 電子顕微鏡的 に観察 し, B細 胞が切除に より量的減少を きた している上に,そ れを代償す るための残存膵 B細 胞 の持続的な機能元進状態がい っそ うB細 胞 の消耗,機 能 廃絶を起 こし,さ らに数的減少をきた して糖尿病発生 に 至 ることを示 唆 した. 本実験 では ラ ッ ト膵広範切除後第 1日 目に高血糖を生 じるが,そ の後20日 目までは正常血糖を維持 し,40日 目 以降に糖尿病 の発生をみた.切 除群 におけ る残存膵 ラ島 細胞 の DNA合 成能 は 3日 目を ピー クに 実験全経過 を 通 じ,対 照群 よ り高値を 示 した。 ただ し, 細胞増殖度 は 外分泌細胞 に 比較す ると幾分低値 であ った。 ・uclear V。 lumeも 膵切除後20日 目までは有意 に増加を示すが,40 日日以降 では ラ島は不整形を示す ものが多 くな り,種 々 の程度 の線維化を伴 いなが ら,島 細胞 は萎縮 し,紡 錘形 の濃染す る核を有す る細胞が増加 した。すなわち,陣 広 範切除 のラ島細胞はまず DNA合 成が行われ hyperPIasia を塁 し,つ いで hypertroPhyを きたすが,40日 目以降で は これ ら細胞 の変性像を散見す るようになる。 したが っ て長期経過例 では,再 生能低下,体 重増加 に よるイ ンス リン消費量 の増加,B細 胞 の機能元進 に続 く消耗な どが 原因 とな って糖尿病が発生す るもの と推定 された。 以上,膵 外分泌お よび内分泌細胞 の間 には再生能 に幾 分差果 が認め られたが,そ の理 由は明 らかでない。おそ らく Stem Cellに 差があるためか, ま たは同一 の Stem CeIIから発生 したものであれば 分化過程 におけ る生物 学的特性 に差異があるためであろ う。 なお,ラ 島 の再生 能 は実験 に用いる動物 の種属や年齢 によって大 きく左右 され る。五 島21)は 膵広範切除犬 にて,残 存膵 ラ島の hy‐ PerPlattaは 全 く認 め られなかった としているが, ラ ッ hyPertr‐ トを用いた 本実験では 明 らかな hyperplattaと 。Phアが 認 め られている。 Friedman22)は , ラ ッ ト陣切 除後 の残存際 ラ島の主な形態的変化は hγ perPlasiaで ぁ 1981年2月 7(139) るのに対 し, 大 では degenerationが 主体 であった と述 べ ,その理 由として,実 験 に用いる犬はほ とん どが adult であ り,若 い成長期 の動物 とは反応が異な るもの と報告 している. 321, 1907. 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