将来人口予測に基づく 船橋市小学校の統廃合に対する考察

卒業研究論文
将来人口予測に基づく
船橋市小学校の統廃合に対する考察
学籍番号
11D8104033L
小石智也
中央大学理工学部情報工学科田口研究室
2015 年 3 月
あらまし
本研究では小学校の最適な学区割当て,統廃合とその影響について分析を行うことを目
的としている.自治体の行った国勢調査や住民基本台帳を基に市の人口から生徒数を集計
し,メッシュに変換してデータ構成を線形計画法で解析する.解析結果から各学校での通
学距離や学校規模の影響を算出する.
キーワード:小学校統廃合,人口予測,学区割当て,線形計画問題
i
目次
第1章 はじめに ......................................................................................................... 1
1.1
研究背景 ........................................................................................................... 1
1.2
研究目的 ........................................................................................................... 2
1.3
論文構成 ........................................................................................................... 2
第2章
利用データの概要 ........................................................................................... 3
2.1
船橋市について................................................................................................. 3
2.2
学区データ ........................................................................................................ 3
2.3
人口データ ........................................................................................................ 5
2.4
将来人口予測 .................................................................................................... 7
2.5
地域データ ........................................................................................................ 9
2.6
その他の使用データ........................................................................................ 10
第3章
3.1
データの作成手法 ......................................................................................... 12
点データのメッシュ変換 ................................................................................ 12
3.1.1 領域の包含関係 ........................................................................................ 12
3.2
欠損点の補完 .................................................................................................. 15
3.2.1 欠損点とは ............................................................................................... 15
3.3
生徒数の概算 .................................................................................................. 18
3.4
将来人口予測 .................................................................................................. 18
第4章 最適化及びその評価 ..................................................................................... 19
4.1
変数,定数の説明 ........................................................................................... 19
4.2
学区割当ての変更と最適化 ............................................................................. 19
4.2.1 移動距離(TMD:Total Movement Distance)最小化 ........................... 19
4.2.2 学校規模間の差の最小化 .......................................................................... 22
4.3
地域の安全性の考慮........................................................................................ 26
4.4
将来の諸問題に対する小学校の最適化について ............................................. 30
ii
4.5 統廃合の定式化............................................................................................... 32
4.6 人口推移ペースと適切な改革スケジュールについて ........................................ 42
4.7
教育的予算についての試算 ............................................................................. 46
4.7.1 学級数の最小化 ........................................................................................ 46
第5章
おわりに ....................................................................................................... 48
5.1
まとめ ............................................................................................................. 48
5.2
今後の課題 ...................................................................................................... 48
謝辞 ............................................................................................................................ 50
参考文献 ..................................................................................................................... 51
iii
第1章
1.1
はじめに
研究背景
日本社会の少子化の急速な進行に伴い,義務教育学校は喫緊に解決すべき課題
を抱えている.子どもの数は減少し,都市部と地方での二極化が進んでいる[1].高
度経済成長期に多く建設された学校は,1 学年に 1 学級を下回る生徒数の学校とプ
レハブ校舎で増築を求められるような大規模な学校に分かれ,学校規模でも偏り
が生まれており,学校のあり方についての見直しが求められている.
教育内容や指導内容については以前から盛んに議論されている一方で,通学学
区や通学状況に関する研究はあまり行われていない.特に登下校中の交通事故や,
事件は図 1.1,図 1.2,図 1.3 のように多く,小学校抱える課題の一つであり,地
域の実情に合わせた登下校時の安全確保が改めて問われている.
図 1. 1 小学生の交通人身事故 時間別発生状況(平成 25 年 東京都)[2]
図 1. 2 犯罪被害時の件数
時間別発生状況(平成 25 年 千葉県)[3]
1
図 1. 3 犯罪被害時の様態の内訳(平成 25 年 千葉県)[3]
1.2
研究目的
本研究では船橋市において地域の特性,将来予測を考慮して,学校規模,通学距
離を研究したものである.適切な学区割当て,学校の統廃合スケジュール,それに
伴う学校規模の将来的な推移についての考察する.
1.3
論文構成
2 章に使用するデータ,3 章ではそれを取り扱う計算手法とデータの構成手法,
4 章では最適化のための定式化とその結果に基づく考察を述べる.
2
第2章
利用データの概要
本章では対象とする船橋市で使用するデータについて述べる.
2.1
船橋市について
船橋市は,千葉県の北西部に位置し,人口は平成 22 年度現在で約 60 万人の
都市である.これは中核市で最大の人口であり,千葉県内でも千葉市に次ぐ人
口第二位の都市である[4].東京のベッドタウンとして,人口は増加の一途をたど
っている.
市域は東西約 14 ㎞,南北 15 ㎞に広がる.南部は商業施設,工場が多く,中
部は住宅地として開発され人口が多い.北部では農地もあり,多種多様な農作
物が栽培されている.
交通に関しては鉄道網が発達しており,9 本の路線が通り,37 の駅がある.
都心から郊外を結ぶ東西方向の路線が多い一方で南北への鉄道網は少ない.道
路に関しては人口に対して広い道路が少ないが,しかし市内ほぼ全域で高度に
市街化されているため,道路整備は困難であり,渋滞しやすいとされている
[5].
このような特徴を持つ船橋市に対して,地域による人口の分布,市内の交通状
況を考慮した学区割当てを考える.
2.2
学区データ
船橋市が公表している小学校全 54 校と,図 2.1 に示す対応する学区の地図を使
用する[6].これを GoogleMap と地図に照合し,多角形として頂点の座標を採集す
る[7].
図 2. 1 市の公表している船橋小学校の学区
3
データの基本属性
・学校名識別コード
:学校順の 1~54 のコード
・x 座標
:緯度を平行直交座標系に変換したもの
・y 座標
:経度を平行直交座標系に変換したもの
表 2. 1 抽出した船橋小学校の座標データの一部
これを全学校に対して可視化したものが図 2.2 である.
可視化には統計ソフト R を用いた.図中の数字の位置が学校の所在地であり,x
軸,y軸の単位はメートルである,数字のない領域は飛び地,または選択学区を表
す.グラフは元データより左隅が原点となるよう x 方向に+37250,y 方向に-
9000,全点を平行移動している.
4
図 2. 2 市内全 54 小学校の学区
2.3
人口データ
人口データとは市内の丁目ごとに人口を集計したものである.自治体の人口及び
面積のデータは国勢調査をもとにした統計 GIS(地理情報システム:Geographic
Information System)を利用した[8].
国勢調査
国勢調査とは,日本国内の人口,世帯,産業構造の実態を明らかにし,国や地方
公共団体における各種行政施策の基礎資料を得ることを目的としている.国勢調
査は 10 年毎に行われる.国勢調査は国の最も基本的な統計調査であり,我が国に
住んでいる全ての人が調査対象となっている.
調査事項
本研究で利用した平成 22 年度国勢調査の調査事項は次の通りである.本論では
以下を利用する.
1.総人口・総世帯人口
5
①面積及び人口密度
2.男女・年齢・配偶関係
①年齢(各歳)
➁年齢別割合
統計 GIS
GIS とは国土交通省のコンピュータ上で様々な地理空間情報を重ね合わせて
表示するシステムのことである.本研究では国勢調査の丁目ごとの面積と人口
を可視化し,座標を抽出するために用いた.
図 2. 3 使用した GIS のインタフェース
これを GoogleMap と照らし合わせ,学区と同様に多角形の頂点として座標を
抽出した.なお船橋市は 328 の丁目で構成されるが,将来人口を推計するため正
確性の観点から図 2.4 に示すように近隣の自治体を人口 5000~30000 人(市内の
人口の 1~5%)とした地域に分け,かつ面積 1 平方 km 以上で統合して合計 34
の地域に分け,集計した.
例として図 2.3 は市場 1 丁目から市場 5 丁目に東町を加え「市場」とする.
データの基本属性
・統合元の情報
:どこの自治体を一括りにしたのか
・地域名識別コード
:地域順の 1~34 のコード
・𝑥座標
:緯度を平行直交座標系に変換したもの
・𝑦座標
:経度を平行直交座標系に変換したもの
6
・人口密度
:その領域内の人口を面積で割った商
これを R で出力したものを図 2.4 に示す.
..
図 2. 4 市内の集計した 34 自治体を人口密度に応じて色分けしたもの
2.4
将来人口予測
統廃合を長期的な視点を持って考慮するために,将来人口予測を用いる必要
がある.
船橋市は平成 22 年 10 月に実施された国勢調査結果に基づき,将来人口・世
帯数推計を実施した.近年の人口の伸びが高い値を示している,特に伸び率の
高い直近 5 年間の推移を参考にしたものを「上位推計」
,10 年前から 5 年前ま
での比較的緩やかな推移を参考にしたものを「下位推計」,過去 10 年間の平均
の推移を採用したものを「中位推計」として,3 つの水準で将来人口の推計を
行っている[9].
基本属性
・推計種類
:上位 中位 下位
7
・各推計年度 :
(平成)12 年
・年齢
17 年 22 年 32 年 37 年 42 年
:総人口 0~14 歳
47 年
15~64 歳 65~74 歳 75 歳以上
本研究では,
「子供の人口と割合の推移」が必要であるため,
・中位推計の総人口,0 歳から 14 歳の人口
を使用した.
船橋市内の総人口の予測を図 2.5,0 歳から 14 歳の人口予測を図 2.6 に示す.
図 2. 5 船橋市の将来の人口(全年齢)
図 2. 6 船橋市の将来人口(0 歳から 14 歳)
8
2.5
地域データ
より安全な通学路を目指すため,通学上,危険と思われる対象として交通量の
多い道路,鉄道網,河川を採用する.
① 鉄道は船橋市を通過,停車する8本の鉄道路線.
② 河川は市内の一級河川,二級河川,準用河川のうち流域面積が大きい東京湾
直流の高瀬川,谷津川,海神川と利根川水系「印旛沼」の神崎川と二重川[10].
③ 交通量の多い道路とは,国土交通省の 24 時間交通量(平成 17 年度道路交通
センサス)に示された,特に交通量の多く,混雑しやすい国道,県道等,全
12 の主要な道路とした[11].
これらを GoogleMap と照合して折れ線としてその連続する線分の端点の座
標を抽出した.
データの基本属性
・地理的物体情報
:1.鉄道 2.道路 3.河川
・識別コード
:それぞれ1からコードをつける
・x 座標
:緯度を平行直交座標系に変換したもの
・y 座標
:経度を平行直交座標系に変換したもの
・危険度(道路のみ)
:交通量に応じて 0 から3をつける
これを可視化したものを図 2.7 に示す.
図 2. 7 市内の主要道路,鉄道網,河川図
9
その他の使用データ
2.6
その他本研究でデータとして用いた数値や基準と出典を表 2.1 に示す.
表 2.2 本研究で使用したその他の数値や基準の一覧
数値
値
出典
備考
「平成 22 年学校基本
全国の 7 歳から 12 歳の内,特
う生徒の割合
調査」[12]
別学校初等部(0.26%)及び私立
(全国)
「平成 22 年特別支援
の小学校(1.1%)の生徒を除いた
教育資料」[13]
割合.
公立小学校に通
基準
98.60%
ただし私立かつ特別支援学校
の割合はこれより十分小さい
ため無視するものとする.
死亡事故の多い
国道 14 号
道路
船橋市ホームページ
年 3 件と市内,県内最多
「死亡事故発生状況
(平成 25 年)
」[14]
1 クラスの人数
35 人
「平成 25 年学級編
1,2 年生は上限 35 人,3~6
制・教職員定数改善等
年は上限 40 人であるが,しか
に関する基礎資料 1」 し現在全国の殆ど(91.8%)の
適切な通学距離
3㎞
の上限
[15]
学級の人数は現在 35 人以下で
「平成 26 年学校基本
あるため,現実性の観点から一
調査」[16]
律でこちらの値を採用した.
「平成 24 年船橋市立
記載はないが,ユークリッド距
小,中学校の
離だと推測できる.
学校規模に関する基
本方針」[17]
平均通学歩行速
121m/分
度
金沢大学「横断的にみ
た通学における歩行
の変化」[18]
第一学年の割合
0.170
船橋市ホームページ
小学生の内,一年生である生徒
「平成 24 年度 10 月
の割合「7 歳の人口÷7 歳から
1 日住民基本台帳」
12 歳の人口」で導出.
[19]
以下同様,生徒数の総数が住民
基本台帳と国勢調査でわずか
に異なるため割合で導出した.
10
第二学年の割合
0.163
同上
第三学年の割合
0.167
同上
第四学年の割合
0.165
同上
第五学年の割合
0.170
同上
第六学年の割合
0.165
同上
標準規模校
12~24 学級
「平成 24 年船橋市立
一学年あたり 2~4 学級に相当
小,中学校の
する.
学校規模に関する基
本方針」
過小規模校
~5 学級
同上
小規模校
6~11 学級
同上
大規模校
25~30 学級
同上
過大規模校
31 学級~
同上
教員の平均年収
約 830 万円
給与.com「千葉県教員
平均給与月額×12+賞与(年額)
の給与」[20]
で導出した.
11
第3章
データの作成手法
本章では取得した各データを一元化するデータの構成手法について述べる.
方針としては,地理データをメッシュデータに変換して,各メッシュに人口,将来人
口や属する校区などの情報を割り当てる.
地域メッシュとは,ある地理的なデータを縦横に一定の幅の順番を持った格子に分
割したものである.
3.1
点データのメッシュ変換
取得した座標で多角形領域を構成したとき,内部にどのメッシュが含まれてい
るかを判定する手法を述べる.
3.1.1 領域の包含関係
多角形を連続する線分の集合として捉え,線分交差判定問題で考える.
領域の判定を行うメッシュの代表点をA(𝑥𝑎 , 𝑦𝑎 )とする,対象とする多角形を n 角
形 P とする.その頂点を𝑝𝑖 (𝑥𝑖 , 𝑦𝑖 )(i = 0,1, … , 𝑛 − 1)としてその2点間の𝑛 − 1本の辺
である線分𝑒𝑗 (j = 0, … , n − 2)として,領域外の1点の座標をO(𝑥𝑜 , 𝑦𝑜 )とする.
この多角形 P に対して,線分 AO との交点の数に応じて領域に含まれているか
は図 3.1,図 3.2 のように線分 AO と各線分𝑒𝑖 との交点の数の総和が,2𝑚 + 1 (𝑚 =
0,1,2, … )ならば点 A は P の領域に含まれ,2𝑚 (𝑚 = 0,1,2, … )ならば点 A は P の領
域に含まれないと判定できる.
図 3. 1 交点の数が 2m+1 で領域内
図 3. 2 交点の数が 2m で領域外
したがって各辺に対して線分𝑒𝑗 と線分 AO が交点を持つかを判定すればよい.
これは「点 A,O を通る直線が線分𝑒𝑗 と交差する」かつ「辺𝑒𝑗 の端点𝑝𝑖 (𝑥𝑖 , 𝑦𝑖 ),
𝑝𝑖 (𝑥𝑖+1 , 𝑦𝑖+1 )を通る直線が線分 AO と交差する」ことを満たせばよい.
直線 AO の方程式は
12
( xo  xa )( y  yo )  ( yo  ya )( xo  x)  0
(3.1)
である,この式に𝑝𝑖 (𝑥𝑖 , 𝑦𝑖 ),𝑝𝑖 (𝑥𝑖+1 , 𝑦𝑖+1 )を代入し,その値の符号を調べる.
𝑝𝑖 (𝑥𝑖 , 𝑦𝑖 )を代入した値𝑝𝛼 は
p  ( xo  xa )( yi  yo )  ( yo  ya )( xo  xi )
であり,𝑝𝑖 (𝑥𝑖+1 , 𝑦𝑖+1 )を代入した値𝑝𝛽 は
p  ( xo  xa )( yi 1  yo )  ( yo  ya )( xo  xi 1 )
である.この𝑝𝛼 ,𝑝𝛽 が異符号であれば直線 AO と線分𝑒𝑗 は交点を持つ.
したがって条件は
p  p  0
(3.2)
である.
同様にして直線𝑝𝑖 𝑝𝑖+1の方程式に点 A,点 O を代入した値をそれぞれ𝑝𝛾 ,𝑝𝛿 とす
ると線分𝑒𝑗 を通る直線と線分 AO が交点を持つ条件は
p  p  0
(3.3)
となる.従って線分𝑒𝑗 と線分 AO が交点を持つ条件は
p  p  0 かつ p  p  0
(3.4)
である.
これを全ての線分𝑒𝑗 に対し(3.4)を満たすか判定し,満たす j の個数が2𝑚個なら
P の領域には含まれず,2𝑚 + 1個なら P の領域に含まれる.
結果は図 3.3,図 3.4 のようになる.
学区 ID の剰余を取り色分けした.前頁の図では見えなかった欠損点(領域内
の黒点)が所々存在している.これは市内の学区にどこにも属していないと判定
された欠損領域があるためである.
13
図 3. 3 メッシュに変換した学区データ
図 3. 4 メッシュに変換した人口データ
14
3.2
欠損点の補完
3.2.1 欠損点とは
前述のように,本来領域内であるにも関わらず領域外と判定されてしまうメッ
シュが存在する.このような欠損領域の存在を防ぎたい.
学区データを変換したメッシュの集合を Xs とする,Xs の中でいずれかの学区
の領域に属していると判定されたメッシュの集合を S とし,どの学区にも属して
いないと判定された領域のメッシュの集合を S とする,同様に人口データを変換
したメッシュの集合を XP として,いずれかの地域に属していると判定されたメ
ッシュの集合を P,そうでないものを P とする.
この学区と地域のメッシュを一つにするために問題となるメッシュ S  P ,
S  P を欠損点と定義する,これを検出したものを図 3.5,図 3.6 に示す.
図 3. 5
S  P の検出
図 3. 6
S  P の検出
これらの欠損点の補完を行う.
(1) S  P の補完…そのメッシュと最短距離の学校の学区として補完する.
なお距離はマンハッタン距離とする.
(2) S  P の補完…距離の近い上位 2 つを「内分人口」として補完する.
なお距離は該当メッシュとその地域の重心間との距離とする.
15
マンハッタン距離とは
一次式で表される距離の一つ.各座標の差の絶対値の総和を 2 点間の距離と定
める. p1 ( x1 , y1 ) と p2 ( x2 , y2 ) とのマンハッタン距離 d は
d | x1  x2 |  | y1  y2 |
(3.1)
となる.
内分人口とは
ある点の集合 p  { p1 , p2 ,..., pn } に対して最近接となる上位二つの地域の人口
pi と距離 d i を近いものから p1 , p2 , d1 , d 2 とする.この時のある点の人口 P は
p
p1d 2  p1d 2
d1  d 2
(3.2)
と定義する.
多角形の重心の求め方
重心は多角形を領域内の一点と連続する 2 頂点で三角形分割した面積と重心の
積を全面積で割ることで求められる.n 角形の重心(𝑋𝑔 , 𝑌𝑔 )は
n
Xg 
 xi si
i 1
S
n
, Yg 
ys
i i
i 1
S
(3. 1)
n
S   si : 三角形の面積の合計(n角形の面積)
i
si : 三角形の面積(i  1,..., n)
( xi , yi ) : 三角形siの重心(i  1,..., n)
である.
これを用いてそれぞれの補完は図 3.7,図 3.8 のようになる.
これ以上の欠損点の割合は全体のメッシュに対して十分小さいため無視する.
16
図 3. 7 補完した学区データ
図 3. 8 補完した人口データ
17
3.3
生徒数の概算
本研究で扱う生徒数は「公立小学校に通う 7 歳から 12 歳」と定義する.
地域𝑖に属する公立小学校の生徒数は
地域iの生徒数=地域iの人口
市内の7歳から12歳の人口
 補正値 (3. 2)
市内の総人口
と定義する.
ただし補正値とは公立学校の在学者割合,メッシュの分割数の値である.
3.4
将来人口予測
将来の生徒数は現在の生徒数と将来の人口の変化の割合の積と定義する.
平成n年度の船橋市の地域𝑖に属する 1 メッシュあたりの生徒数𝑆𝑛𝑖 は
S ni  {現在の地域iの生徒数(地域iの総人口 市内7歳から12歳人口の割合)}
{将来の変化率(n  22年後の市内0歳から14歳人口の将来の変化率}
{補正値(公立小学校の割合やメッシュの分割数)}
(3. 3)
と定義する.つまり,
12

  14

P

j

   Q j ( n) 
1

 
 
Sni   Ai  j7    14j 0
    


Pj    Q j (n0 )  


  j 0

j 7
(3. 4)
A:ある地域
iの人口
i
Pj : 船橋全体のj歳の人口
Qj (n) : 船橋市全体の平成n年時のj歳の人口
n0 : 基準年
:公立小学校通う割合
:メッシュの分割数
と表される.
本研究では正確性の観点から 20 年先まで 5 年毎の推測に留める.
18
第4章
4.1
最適化及びその評価
変数,定数の説明
メッシュ(𝑋, 𝑌)の代表点の座標を ( x, y ) ( x, y  0,1,...,149) とする.
学校 k (𝑘 = 1,2, … ,54)に対して変数を
Pxyk :メッシュ(𝑋, 𝑌)に属する学校 k に通う生徒の人数
と定義する.また定数は
Pxy :メッシュ(𝑋, 𝑌)の現在の生徒の人数
(uk , vk ) :学校 k の座標
である.これを模式的に図示したものが図 4.1 である.
図 4. 1 変数と定数を使用したメッシュの模式図
4.2
学区割当ての変更と最適化
4.2.1 移動距離(TMD:Total Movement Distance)最小化
まず移動距離に注目した定式化を考える.生徒全員の総移動距離の最小化を問題
19
とする.
 P
54 149 149
minimize
k 1 x 0 y 0
subject to
54
P
k 1
xyk
xyk
(| uk  x |  | vk  y |
 Pxy .
(4.1)
(4.2)
なお,最適化にはソルバーである SCIP を使用した[21][22].
この問題を最適化した結果の学区割当てを図示すると図 4.2 になる.なおメッシ
ュ内の最も通う人数が多い学校で色分けした.
図 4. 2 総移動距離最小化の学区割当て
各メッシュに属する全生徒が移動距離最短となる学校に通っていることがわか
る.また学校5の一部の学区が海に跨っており現実的ではない結果である.更なる
現実的な条件が必要である.
20
4.2.1.1
学校規模の制限
学校 k の生徒数の上限を CAPACITY _ Upperk ,下限を CAPACITY _ Lowerk
として,各学校に対する生徒数を制約条件として付け加えた.現在の学校 k の生
徒数を Capacity k とする.ここで過大規模校の生徒数を
𝐸𝑆𝑆(𝐸𝑥𝑐𝑒𝑠𝑠𝑖𝑣𝑒 𝑆𝑐𝑎𝑙𝑒 𝑆𝑐ℎ𝑜𝑜𝑙),過小規模校の生徒数を
𝑇𝑆𝑆(𝑇𝑜𝑜 𝑠𝑎𝑚𝑙𝑙 𝑆𝑐𝑎𝑙𝑒 𝑆𝑐ℎ𝑜𝑜𝑙)として係数をα,βに対して上限,下限の値を
(Capacityk    ESS )
Capacityk  
CAPACITY _ Upperk  
ESS (otherwise)

Capacityk   (Capacityk    TSS )
CAPACITY _ Lowerk  
TSS (otherwise)

と定義する.即ち学校規模の上限は現在の生徒数に対して 1.75 倍まで,下限は
現在の生徒数に対しては 0.5 倍までは認めることにする.ただし,過大規模を上
回る場合は上限を𝐸𝑆𝑆,過小規模を下回る場合は下限を𝑇𝑆𝑆とした.
したがって追加する制約条件は
149 149
 P
x 0 y 0
xyk
149 149
 P
x 0 y 0
xyk
 CAPACITY _ Upperk
(4.3)
 CAPACITY _ Lowerk
(4.4)
とする.
なお,𝐸𝑆𝑆の値は 1050 人,𝑇𝑆𝑆の値は 175 人であり,   1.75 ,   0.5 とした.
4.2.1.2
変数の現実性の考慮
現実的な解の導出のために,変数に以下の条件を加える.現行の学区割当てによ
るメッシュと通学学校間での最大移動距離を MMD(Most Movement Distance)
として
| uk  x |  | vk  y | MMDのとき,Pxyk  0
(4.5)
とする.
ただし MMD の値は現行の学区割当てでの最大移動距離である 4.5 ㎞とした.
また海を跨ぐ学区間を横断禁止にするため学区3と学区5との間の通学を禁止し
た.以下の定式化全てでこの条件を加える.
目的関数を(4.1)
,制約条件を(4.2)から(4.4),変数の条件を(4.5)とした結果の学区
割当てを図 4.3 に示す.
21
図 4. 3 学校の規模と変数に条件付きの総移動距離を最小化の学区割当て
4.2.2 学校規模間の差の最小化
次に学校規模に注目して定式化を考える.学校規模の平均化を問題とする.学校kの望
ましい生徒数を𝐶𝐴𝑃𝐴𝐶𝐼𝑇𝑌_𝑀𝐼𝐷𝐷𝐿𝐸𝑘 とし,規模を平均化するために,次の二次の目的関
数を考える.
54 149 149
minimize
 ( P
k 1 x 0 y 0
subject to
54
P
xyk
xyk
2
 CAPACITY _ MIDDLEk )
(4.5)
 Pxy .
k
通学距離の条件も必要である.
(4.1)から(4.4)の定式化で導出した最小の総移動距
離を𝐷𝐼𝑆𝑇𝐴𝑁𝐶𝐸と係数δに対して制約条件
22
 P
54 149 149
k 1 x 0 y 0
xyk
(| uk  x |  | vk  y |  DISTANCE δ
(4.6)
を付け加える.
この問題に対して,計算時間 12 時間かけても解を得ることができなかった.計算時
間の高速化のため,学校規模の標準化を学校規模間の差の最小化と考えて問題とする.
問題とした学区割当てでの学校 k の生徒数
149 149
 P
x 0 y 0
xyk
と望ましい学校 k の生徒数𝐶𝐴𝑃𝐴𝐶𝐼𝑇𝑌_𝑀𝐼𝐷𝐷𝐿𝐸𝑘 の絶対値の差  k は
149 149
 k  CAPACITY _ MIDDLE k   Pxyk
x 0 y 0
と定める.この  k は学校 k が望ましい学校規模とどれだけ離れているかを示す値であ
る. k に対して  k の総和を最小化することで学校規模を標準化する.
したがって目的関数を
54

k 1
(4.7)
k
と定義して,制約条件
149 149
 k  CAPACITY _ MIDDLEk   Pxyk
(4.8)
x 0 y 0
149 149
 k  CAPACITY _ MIDDLEk   Pxyk
x 0 y 0
を追加した.δ=1.1に対して最適化を行うと図 4.4 となる.
23
(4.9)
図 4. 4 学校規模の標準化した学区割当て(𝛅=𝟏. 𝟏)
目的関数に距離が含まれていないため,遠方の学区へ割り当てられたメッシュ
が存在する,そこで目的関数
54

k 1
k
より十分小さな係数𝜇を用いて目的関数に移動距離の項を付け加え,
     Pxyk (| uk  x |  | vk  y |
54
k 1
54 149 149
k
k 1 x  0 y  0
とする.
 =0.0001 として(4.10)を最小化した結果は図 4.5 である.
24
(4.10)
図 4. 5 距離を考慮した学校規模標準化の学区割当て(  =0.0001)
図 4.4 に比べて遠方の学区へ割り当てられたメッシュが減ったことがわかる.
しかし,なお一部のメッシュが遠方に割当てられている.この理由は市内南部が口
過密地域であり,学校規模の上限に達した学校が存在するからである.通学距離,
学校規模に注目した結果が以下表 4.1 から 4.3 である.
表 4. 1 定式化別結果の比較:定式化の区分
区分 目的関数
0 元データ
1
(4.1)
2
(4.1)
3
(4.7)
4
(4.10)
定式化の条件
制約条件
変数の制限
(4.2)
(4.2)~(4.4)
(4.5)
(4.2),(4.6),(4,8),(4.9)
(4.5)
(4.2),(4.6),(4,8),(4.9)
(4.5)
25
誤差率(%)
-
表 4. 2 定式化別結果の比較:距離に関する評価
距離に関する評価
区分 改善率(%) 平均距離[m] 通学時間[s]
最大距離[m]
座標
0
758.83
627.13
4295 (132,139) [53]
1
13.35
657.54
543.42
3321 (121,139) [54]
2
13.09
659.47
545.01
3433
(9 29) [3]
3
7.53
701.72
579.94
3433
(9 29) [3]
4
9.64
685.66
566.66
3433
(9 29) [4]
改善率=(最適化後の平均距離 − 元データの平均距離) ÷ 元データの平均距離 × 100
通学距離に注目して総移動距離の最小化を行うと,通学距離が現行の学区割当てと
比べて約 13%短縮できることがわかる.
表 4. 3 定式化別学区割当ての比較:学校規模に関する評価
学校規模に関する評価
区分 平均学級数
標準偏差
過大規模校 過小規模校
0
16.7
6.8
2
2
1
17.6
6.7
3
0
2
17.6
6.0
0
0
3
17.3
3.8
1
0
4
17.5
5.4
2
0
学校規模に注目すると現行の学区割当てでは過大規模校が存在する一方で過小規模
校が存在しており,学校あたりの生徒数に偏りがある.学校規模を標準化すること
で,学校間での生徒数の偏りを現行の学区割当てより改善できることがわかる.
4.3
地域の安全性の考慮
次に地域の安全性も考慮した学区割当てを考える,
図 2.7 で示される船橋市内の 12 本の主要道路,8 本の鉄道網,5 本の河川の横断を
禁止する.横断を判定するバイナリ定数を𝐶𝑟𝑜𝑠𝑠 = {0,1}(横断=1,横断しない=0)
に対して変数 Pxyk の条件を
Pxyk  0
(| u k  x |  | vk  y | MMDかつCross  1)
と定め,(4.1)(4.2)で総移動距離を最小化させる.
結果は図 4.6 のように明らかに不適である.
26
(4.11)
図 4. 6 総移動距離を最小化した不適切な学区割当て
この理由に二つある.第一に現在の最大移動距離より最適化後の距離が大きくな
っているメッシュが存在するためである.第二に学校のない領域や道路で囲まれて
いるメッシュが存在するためである.そのため第一の問題に対しては最大移動距離
の値を実行可能解が存在する最小の値 6.5 ㎞にした.第二の問題に対しては地域の安
全性を考慮して表 4.4 に示す条件を解除した.
27
表 4. 4 条件緩和について
区分
道路
道路
道路
道路
線路
線路
線路
線路
線路
線路
河川
N
C
名前
理由
東関東自動車道
N
京葉道路
N
県道180号
N
市川印西線
C
京葉線 [全線]
N
武蔵野線 [全線]
N
総武線 [船橋]以西
N
京成本線 [京成船橋]以西
N
新京成線 [三咲]以北
N
東武野田線[全線]
N
全て
C
領域内に学校が存在しない。
学校規模を適切に守ることが不可能
備考
高速道路であるが全区間で高架
全区間で高架
トレードオフ
国道14号線
国道14号線
国道14号線
全区間で高架
全区間で高架
該当以西から高架
国道14号線
県道9号線
国道14号線
国道14号線
県道57、288号線
県道288号線
県道57号線、他
流域幅は非常に狭い
備考
死亡事故が多発
4車線道路
この変数の条件下で(4.1)(4.2)を最適化した学区割当てが図 4.7 を示し,学校規模
の上限と下限の制約条件にした(4.1)から(4.4)の最小化問題を解いた学区割当てを図
4.8 に示す.
図 4. 7 地域性を考慮した総移動距離を最小の学区割当て
28
図 4. 8 地域性,学校規模を考慮した総移動距離を最小の学区割当て
この二つを通学距離,学校規模に注目して結果を比較したものを表 4.5 から表
4.7 に示す.
表 4. 5 定式化別結果の比較:定式化の区分
区分
目的関数
0
5
6
制約条件
変数の制限
誤差率(%)
default
(4.2)
(4.2)
(4.11)
(4.2)
(4.2)~(4.4)
(4.11)
表 4. 6 定式化別結果の比較:距離に関する評価
区分 改善率(%) 平均距離[m] 通学時間[s]
0
5
6
-0.69
-0.42
758.83
764.07
761.98
627.13
631.46
629.74
29
0.5
0.5
最大距離[m]
座標
4295
6409
6409
(132,139) [53]
(136 131) [21]
(136 131) [21]
表 4. 7 定式化別結果の比較:学校規模に関する評価
区分 平均学級数
0
5
6
16.7
17.5
17.6
標準偏差
6.8
8.0
8.0
過大規模校 過小規模校
2
3
4
2
1
0
安全の確保のため交通量の多い一部の道路や線路の横断を禁止することは,通
学距離に大きな影響を与えない(平均約 10mの増加,最大移動距離は 2.2 ㎞増加
であるが,対象となる地域の人口密度は極めて低い)
.一方で学校規模に注目する
と生徒数の非常に少ない学校は減らすことができるが,しかし生徒数の非常に多
い規模の学校も増えてしまった.原因は船橋市南部の地域に人口が密集している
ため,道路や鉄道の本数も多いからである.そのため一部のメッシュに属する生徒
は道路や線路で囲まれて通える学校が制限されている.結果一部の人口過密地域
では望ましい生徒数を超えた生徒数の学校が存在してしまった.
4.4
将来の諸問題に対する小学校の最適化について
1.1.1 将来推計で見る学区割当ての課題
通学学区,学校規模は少子社会下では長期的にその影響を考える必要がある.
(3.6)より船橋市の生徒数の推定は図 4.9 に示す通りである.
図 4. 9 生徒数の推移
この推移に基づき,現行学区と区分 6 での学校規模の推移を図 4.10,図 4.11
に示す.なお図中の網掛けの領域が標準的な学級規模の範囲を示す.
30
図 4. 10 現行学区での学級規模の推移
図 4. 11 学区変更のみでの学校規模の推移
今後問題となるのは小規模校の増加である.大規模校の生徒数は人口の減少に
伴い次第に標準的な学校規模の生徒数となり改善される.しかし小規模校の生徒
数は減少し続けるため改善されることはない.したがって将来的には学区割り当
ての変更のみでは適正な学校規模が維持することはできない.
そこで学校を何校か統廃合し,将来にわたり適正な学校規模を保ち,なおかつ通
学距離の影響を抑える必要がある.
31
4.5
統廃合の定式化
統廃合を行う年を平成𝑡年度として,以下に変数を定める.
Pxyk
:学校𝑘に通うメッシュ ( X , Y ) の生徒数.
ただし条件は(4.11)である.
また定数を
Pxyt
: 𝑡年度のメッシュ ( X , Y ) の生徒数,
K
:学校数 54 校,
p :平成 22 年度と平成𝑡年度での生徒数の変化率であり,
p 
平成t年度の生徒数
平成22年度の生徒数
と定める.これに対して学校𝑘の生徒数の上限と下限の条件は
(Capacityk     p  ESS )
Capacityk     p
CAPACITY _ Upperk  
ESS (otherwise)

Capacityk     p (Capacityk     p  TSS )
CAPACITY _ Lowerk  
TSS (otherwise)

と定義する.
学校の統廃合校を以下の二つの手法で影響を検討する.
1.
市の実情から廃校にする学校の候補を統廃合する.
2.
数理計画法から導出された学校を統廃合する.
*1について
この手法を以下「選択統廃合」とする.
市の方策から統廃合は「学級規模が過小なものに行う」とある.したがって以下
の手法で統廃合を行う.
統廃合をする学校数を𝑛(𝑛 = 1,2, … , 𝐾 − 1)とする.なお初め𝑛 = 0である.
1.
年度𝑡に対して𝐾校の内,生徒数非 0 かつ生徒数最小の学校𝑘𝑛 を選び,
学校𝑘𝑛 に通うメッシュ ( X , Y ) の生徒数を変数 Pxykn とする.
2.
以下の式で総移動距離の最小化を問題とする.
32
 P
54 149 149
minimize
xyk
k 1 x 0 y 0
subject to
54
P
xyk
k 1
 Pxyt
1 4 91 4 9
 P
x 0 y 0
 P
xyk
 C A P A C I T_ Y
U p p ek r
(4.14)
 CAPACITY _ Lowerk
(4.15)
Pxykm  0
(m  1, ,.., n  1)

3.
(4.12)
(4.13)
xyk
149 149
x 0 y 0
(| uk  x |  | vk  y |
(4.16)
𝑛 = 𝑛 + 1と更新して 1 に戻る.総移動距離最小化の問題の実行可能解が無く
なるまでこれを繰り返す.
*2について
以下「最適統廃合」とする.
存続させる任意の学校数を𝑁𝑢𝑚,バイナリ変数𝐷𝑒𝑙𝑒𝑡𝑒𝑘 = {0,1}(存続=1,
廃校=0)として,総移動距離の最小化を問題とする.
 P
54 149 149
minimize
xyk
k 1 x 0 y 0
subject to
54
P
k 1
xyk
 Pxyt
149 149
 P
x 0 y 0
xyk
149 149
 P
x 0 y 0
xyk
(4.17)
(4.18)
 Deletek  CAPACITY _ Upperk
(4.19)
 Deletek  CAPACITY _ Lowerk
(4.20)
54
 Delete
k 1
(| uk  x |  | vk  y |
k
 Num .
(4.21)
ただし変数 Pxyk の条件は(4.11)である.
図 4.9 から生徒数が平成 22 年度から以降 20 年間で約 14%程減少するので統廃合
数は 10 校までとする.2つの手法に対して統廃合数の限界を表 4.7 に示し,統廃
合した学校の識別コードを表 4.8 に示す.
33
表 4. 8 統廃合法による年度別統廃合数の限界の比較
最適統廃合の「10+」は 10 校以上定式化では実行可能解が存在することを示す.
表 4. 9 統廃合法による統廃合校の比較
順序
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
最適
15
2
25
6
22
51
36
30
47
41
選択
22
15
2
51
19
38
36
42
46
-
数字が学校の識別コードを表し,青文字は最適,選択どちらの手法であっても統
廃合された学校を表す.
2つの手法の結果の学区割当てを図示したものが図 4.12 から図 4.15 である.
なお,
行った年度は全て平成 37 年度であり,
図中の☒印が統廃合した学校である.
34
図 4. 12 選択統廃合数:5 校
図 4. 13 選択統廃合数:9 校(限界数)
35
図 4. 14 最適統廃合数:5 校
図 4. 15 最適統廃合数:10 校(設定した上限)
36
二つの手法の結果を通学距離,学校規模に注目して比較したものが図 4.16 から
図 4.20 に示す.
図 4. 16 統廃合法による平均通学距離の推移比較 (H37 年度)
図 4. 17 統廃合法による平均学級数の推移比較 (H37 年度)
手法によらず限界数まで統廃合した結果,生徒一人あたりの増加する通学距離は平均
約 40m 以内である.理由は統廃合するとき,通学距離を最小化しているためである.
このことから統廃合の通学距離に与える影響は大きくないと考えられる.また統廃合
によって平均学級数を増加させることから,過小規模校の減少を期待できる.
37
図 4. 18 統廃合法による通学距離の比較 (統廃合数3,H37 年度)
図 4. 19 統廃合法による通学距離の比較 (統廃合数 5,H37 年度)
最大移動距離は二つの手法共通で 6.4 ㎞である.これは交通状況を条件とした移動距離最
小化した学区割当ての最大移動距離と等しい.したがって学校を統廃合しても,その最大移
動距離は学区割当ての最大移動距離を超えることはない.
38
図 4. 20 統廃合法による学級数の推移比較(H37 年度)
2つの手法を比べると,平均学級数に差はない.平均移動距離と移動距離の分散に注目す
ると最適統廃合が選択統廃合に比べて優れている.以降は最適統廃合で行うとする.
統廃合数が与える学級数の将来推移の影響を図 4.21 から図 4.23 に示す.
図 4. 21 統廃合数ごとの平均学級数の推移
39
図 4. 22 統廃合数 5 校による学級数の推移
図 4. 23 統廃合数 10 校による学級数の推移
なお,一人当たりの通学距離は年度の影響を殆ど受けない(±5m 以下)
.
統廃合数に応じた通学距離の変化を図 4.24 に示す.
40
図 4. 24 統廃合数による通学距離の比較(H37 年度)
41
4.6 人口推移ペースと適切な改革スケジュールについて
長期的な学校規模の偏りの改善に注目して最適統廃合を行い,その影響を考察する.
図 4.9 より 5 年毎に減少した生徒の割合に対して総廃合を考える.
𝑡年度の望ましい学校数は
 平成t年度の生徒数
t年度の学校数  

基準生徒数


と定義する.
ただし基準生徒数は
1.
平成 22 年度現在の 1 学校あたりの平均生徒数 600 人
2.
標準学校規模(18 学級)の生徒数 630 人
と定め,将来予測に基づく学校数を表 4.10 に示す.
表 4. 10 予測学校数
年度
予想生徒数[人]
[1]平均生徒数の場合の学校数
[2]標準学校規模の場合の学校数
22
32421
54
51
27
32773
55
52
32
31687
53
50
37
29493
49
47
42
27932
47
44
ここから,𝑡年度の統廃合数は𝑡 + 𝑚年度(𝑚 = 0,5,10,15,20)の学校数に対して,
t年度の統廃合数  平成22年度の学校数  max t  m年度の学校数  10
と定義する.
これに基づく統廃合数を表 4.11 に示す.
表 4. 11 予測統廃合数
年度
[1]平均生徒数の場合の学校数
[2]標準学校規模の場合の学校数
22
27
0
2
32
0
2
37
1
4
42
5
7
なお平成 42 年度の統廃合数は本来 11 校であるが,実行可能解を計算できる 10 校
までとした.
基準生徒数を平均生徒数としたときの統廃合を行った結果を図 4.25,図 4.26 に示す.
42
7
10+
図 4. 25 平均生徒数に対して統廃合を行った場合の学校ごとの学級数の経年推移
図 4. 26 平均生徒数に対して統廃合を行った場合の通学距離の経年推移
43
基準生徒数を標準学校規模の生徒数としたときの統廃合を行った結果を図 4.27,
図 4.28 に示す.
図 4. 27 標準学校規模の生徒数に対して統廃合した場合の学校ごとの学級数の経年推移
図 4. 28 標準学校規模の生徒数に対して統廃合した場合の通学距離の経年推移
44
二つの手法は学校を人口の減少に合せて望ましい学校数になるよう統廃合する
点で共通している.結果として統廃合を行うことで小規模な学校を統廃合し,標準
規模の学校にすることができる.また通学距離が大幅に増えることはない.これは
目的関数で移動距離を最小化しているため,図 4.15 のように統廃合した学校の近
隣の学校に通うことが可能なためである.このためこのスケジュールで統廃合を
行うことは将来にわたり学校規模の偏りを是正することができる有効な手段だと
言える.
一部の学校では生徒数が非常に多い学校が発生するが,しかしそれは一時的な
ものであり,これ以上の生徒数は徐々に減少するため増加することはない.したが
って都市部に多い大規模な学校は新規に校舎を立てるのではなく,プレハブ校舎
や近隣の公共施設を一部借用する等で対応の方が望ましいと推測できる.
45
4.7
教育的予算についての試算
小規模な学校の乱立はコストの面から考えても適切ではない.学級の数だけ担任
となる教員が必要となり,学校の数だけ管理職の教員が必要である.
学校一校を廃校にすると,1 学級あたりの生徒数の上限から生じる「余りの学
級」が各学年分無くなるため,市全体の総学級数は約 6 学級ほど減少する.本研究
では学級の数を教員数とする.教員一人当たりの給与を平均年 830 万円だと仮定す
ると 1 校統廃合にする人件費だけで約 5000 万[円/年]程費用を削減を見込むことが
できる.そこで学級数に注目した指標を目的関数,制約条件にして問題を考える.
4.7.1 学級数の最小化
学校𝑘の学年𝑔(𝑔 = 1, … ,6)の学級数を整数変数𝐶𝑘𝑔 と定義する.定数としてメッシ
ュ(𝑋, 𝑌)の学年𝑔の生徒数を𝑃𝑥𝑦𝑔 ,1 クラスの生徒数 CLASS を定め,移動距離の最小
化を問題とする.
ただし CLASS の値は 35 とし,変数𝑃𝑥𝑦𝑘𝑔 の条件は図 4.31 で示される最大移動距
離と道路などの横断を制限した条件(4.11)である.
 P
54 149 149
minimize
xykg
k 1 x  0 y  0
subject to
54
P
(| uk  x |  | vk  y |
 Pxyg
xykg
(4.21)
(4.22)
k
149 149
 P
x 0 y 0
xygk
 Ckg  CLASS .
(4.23)
これでは実行可能解を計算できなかった(計測時間は 12 時間).そこで整数変数
′
𝐶𝑘𝑔 を実数として移動距離最小化の問題とした.この𝐶𝑘𝑔 の値を𝐶𝑘𝑔
として学級数の
最小化を問題とする.ただし DISTANCE は(4.6)と同一であり,実行可能解を持つ
ように𝛿の値を調整する.
54
minimize
6
 C
k 1 g 1
subject to:
54
P
k 1
xykg
 Pxyg
149 149
 P
x 0 y 0
(4.24)
kg
xygk
(4.25)
 Ckg  CLASS
(4.26)
Ckg   Ckg  Ckg   1
(4.27)
 P
(4.28)
54
6 149 149
k 1 g 1 x  0 y 0
(| uk  x |  | vk  y | D I S T A N Cδ
E.
xykg
46
δの値によらず実行可能解を導出できなかったため(計測時間は 12 時間),
′
𝐶𝑘𝑔 に次の条件を付け加える.𝐶𝑘𝑔
の小数部分を降順ソートした
𝐷𝑖 (𝑖 = 0,1, … ,324)に対して制約条件(4.27)を,
  (i  50)
C kg  C kg

Ckg   Ckg  Ckg   1 (50  i  100)

  (i  100)
C kg  C kg

と定める.δ 1.2 のときの結果を図 4.に示す.
図 4. 29 学級数最小化(𝜹 = 𝟏. 𝟐) 学級数 982
𝛿を増加させても学級数は整数の範囲では変化しない.したがって現実的な通学距
離で学級数を減少させるために統廃合は必須ではないと言える.
平成 22 年度現在,船橋市内の総学級数は 1074 学級であるため,92 学級を削減で
きる.費用に換算すると年間約 7.4 億円に相当するため,多額の費用を削減できる.
また 1 学級の人数を 40 人としたとき,同様に学級数を最小化すると 851 学級で
あり,市全体で学級数を 223 学級削減が可能である.これを費用に換算すると年間
約 18.5 億円削減が見込める.
47
第5章
おわりに
まとめ
5.1
本研究では小学校の最適な学区割当て,統廃合とその影響について分析を行うことを
目的とした.第2章では自治体の行った国勢調査や住民基本台帳,道路状況から市内の
データを収集した.第3章ではデータの構成手法としてまず地理データをメッシュに変
換した.次に人口を集計し,メッシュあたりの生徒数を導出した,最後に将来の人口推
移からメッシュあたりの生徒数の予測をした.第 4 章の前半では構成したデータを用い
て学区割当てを距離,学校規模に注目した指標を目的関数として学区割当てを最適化す
る問題を線形計画法として定式化した.後半では統廃合を含めた将来予測に基づく学校
規模と通学距離,学校規模の影響を考察した.最後に学校の費用の観点からも考察を行
った.
結果として現行の学区割当ては将来において,生徒数が 1 学年に2学級以下となるよ
うな小規模な学校の割合が増加するという課題を抱えていることがわかった.学校の統
廃合はその課題への有効な解決手段の一つである.学校の統廃合が通学距離に与える影
響は少なく,生徒数の少ない学校を統廃合することで適切な生徒数の学校にすることが
できる.
統廃合の実施スケジュールを人口の減少推移に合わせた望ましい学校数になるよう
に統廃合する必要がある.そうすることで将来にわたり学校の生徒数の偏りを改善し,
学校規模を安定させることが可能であることがわかった.
また学校の費用は,学区割当ての割り当てだけでも十分な額を削減できることがわか
った.
5.2
今後の課題
より現実的な解の導出が課題である.それぞれのステップで計算や処理時間の都合上,
考慮しなかった部分を補完することでより実社会に即した結果が見込めると言える.
データに関して
地域データの基本属性は本研究では主要な交通網と河川のみを対象としたが,
他にも危険と思われる歓楽街や,通学時に大幅な迂回をしなければならない広域
な建造物等を対象に含めることでより安全な学区を検討できる.また人口データ
に関しても,統合する人口や面積の基準を下げることでより狭い範囲での人口密
度の計算が可能となる.人口過密の地域と過疎地域の境界付近に位置する学校で
は,より精度の高い学区割当てが可能になると考えられる.
48
最適化に関して
本研究では変数に整数を用いた学校の統廃合,学級数最小化させる問題の中に
実行可能解が計算できなかった問題があった.線形計画法の定式化において変数
の条件を工夫したりすることで本研究では計算できなかった問題も解くことがで
きる可能性があると推測できる.
49
謝辞
本研究を進めるにあたり,多くのご指導ご助言をいただいた中央大学理工学部情報工学
科の田口東教授には心から感謝いたします.また多くのご助言,ご協力をいただいた田口研
究室の皆様に心から感謝いたします.
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