脆弱X症候群

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脆弱 X 症候群
脆弱X症候群
図1.左:46,X,fra(X)(q27.3)
図1.左:46,X,fra(X)(q27.3).右:
46,X,fra(X)(q27.3).右:46,Y,fra(X)(q27.3)
.右:46,Y,fra(X)(q27.3).
46,Y,fra(X)(q27.3).
脆弱 X 症候群は男性 5,000 人に 1 人、女性 10,000
国際規約に従って正常染色体(Y染色体)を先に書
人に 1 人の割合で、Down
人の割合で、Down 症候群に次いで多い知的
き、異常染色体(fraX
き、異常染色体(fraX)を後に書いています。
fraX)を後に書いています。
障害を伴う症候群だとされています。知的障害、顔
1.完全変異(full
1.完全変異(full mutation)保因者の表現型
mutation)保因者の表現型
貌の特徴(長い顔、大きい耳)、巨大睾丸を三主徴
とするX連鎖劣性遺伝病ですが、男性・女性共に罹
1)男児
患し、女性や 5 歳以下の男児では臨床的特徴が少な
知的障害、自閉傾向、多動、注意力の欠如を認め
いとされています。
ます。注意の持続期間が短く、目的もなく何かをか
葉酸欠乏培地で培養した細胞を染色体分析すると
きまわしていると思うと突然放り出して駆け出し、
Xq27.3 に脆弱性(ギャップ・切断)が発現する(脆
に脆弱性(ギャップ・切断)が発現する(脆
全く関係のないことをやりだします。5歳以下では
弱 X)ことを Sutherland (1977) が発見したことを
顔貌の特徴、巨大睾丸などの特徴はありません。時
顔貌の特徴、巨大睾丸などの特徴はありません。時
契機として、広く知られるようになりました。責任
に Sotos 症候群様(過成長、大頭、特有の顔貌)の
遺伝子は Xq27.3 にある FMR1 で、1991
で、1991 年に同定
症状を見ることがあります。
されました。遺伝子から 100 bp 上流にある CCG 三
2)成人男性
塩 基 反 復 配 列 の 数 が 55~230 の 前 変 異
知的障害は必発です。長い顔、大きい耳、突出し
(premutation)を持つ女性からその息子(娘)に
premutation)を持つ女性からその息子(娘)に
た眼窩上縁、長い顎、ぎごちないしゃべり方、反響
遺伝するときに、コピー数 230 以上の完全変異(full
(full
言語、常同症(手をひらひら、指を咬む)、巨大睾
mutation)に増幅することによって発症します。一
mutation)に増幅することによって発症します。一
丸(75%
丸(75%)などが特徴ですが、知的障害以外に表現
75%)などが特徴ですが、知的障害以外に表現
般集団女性の 260 人に一人が前変異をもちます。詳
型異常を認めないこともあります。
し く は Hagerman et al.
al. (2002) 、 Gardner and
3)成人女性
Sutherland (2003)をご参照ください。
(2003)をご参照ください。
完全変異を持つ女性の 60%は軽い知的障害(
60%は軽い知的障害(IQ
は軽い知的障害(IQ
50~70)を示しますが、そのほかの表現型異常はほ
50~70)を示しますが、そのほかの表現型異常はほ
図1は脆弱Xの部分核型です。男性核型(右)は
1
05f
脆弱 X 症候群
common fragile sites の発現が多いので、推奨でき
とんどありません。
ません。
2.前変異(premuta
2.前変異(premutation
premutation)保因者の表現型
tion)保因者の表現型
脆弱 X の発現細胞 4%以上を陽性とします。
4%以上を陽性とします。50%
以上を陽性とします。50%
男性の 12%、女性の
12%、女性の 5%が知的障害を伴います。
5%が知的障害を伴います。
以上になることはありません。発現細胞が 4%以下
4%以下
中年以降の男性で進行性の小脳性失調症・パーキン
なら、他の培養法を併用して確かめます。適正な条
ソ ン 病 ・認 知 能 の障 害 をき た す こと が あ りま す
件で培養・検査すると、完全変異をもつ男性中の脆
(Rogers et al., 2003)
2003)。女性では早期閉経の原因の
弱X陽性者は 99%
99%、女性は 60%、前変異をもつ男性
60%、前変異をもつ男性
ひとつで、30
ひとつで、30 歳で閉経したときはその 4%、
4%、40 歳で
では 21%、女性では
21%、女性では 12%で
12%で fra(X) 陽性です。染色
閉経したときはその 25%が前変異の保因者だと推
25%が前変異の保因者だと推
体分析で fra(X) 陽性なら、DNA
陽性なら、DNA 検査(Southern
検査(Southern
定されます(Hundscheid
定されます(Hundscheid et al., 2000)
2000)。
blotting)で確かめる必要があります。
blotting)で確かめる必要があります。
脆弱Xの染色体検査で陽性検体は 2%前後に過ぎ
2%前後に過ぎ
ませんが、同じ検査対象を G- バンド分析すると
3.染色体検査
脆弱 X 症候群の検査は DNA の PCR 分析、
3~5%の割合で脆弱X以外の染色体異常がみつかり
3~5%の割合で脆弱X以外の染色体異常がみつかり
Southern blot 法などによるのが正確・安価で、前
ます。XXY,
ます。XXY, XYY から不均衡型相互転座、欠失、過
変異・完全変異の両方を検出できます。にもかかわ
剰マーカー染色体など知的障害を伴うありとあら
らず DNA 検査は健康保険が適用されないので、手
ゆる染色体異常を含み、知的障害以外の表現型を参
間がかかり、高価で不正確、前変異を検出できない
照した鑑別診断が充分になされていないことを示
照した鑑別診断が充分になされていな いことを示
などの欠点がある染色体検査が用いられているの
すものです。そのため、脆弱Xの検査には G-バンド
が実状です。この実状をふまえて、染色体分析によ
分析を併用するのが望ましいと思われます。ちなみ
る脆弱X症候群の検査を解説します。
に、小頭・低身長・唇裂・口蓋裂のどれかひとつで
1)培養法
もあれば、それだけで脆弱X症候群を除外できます。
i) Fluorodeoxyuridine (FUdR) 添加培養:
2)検査対象者の選定
血清 10%を添加した普通培地で培養最後の
10%を添加した普通培地で培養最後の 24
i) 男女を問わず原因不明の知的障害・自閉(男
時間、20
時間、20 ng/ml (0.1 μM) FUdR を加える。
性患者の 6%、
6%、 女性患者の 25%は知的障害以外
25%は知的障害以外
ii) 過剰 thymidine 添加培養:
の症状がありません)
。これに加えて次の何れか
血清 5%を添加した葉酸・
5%を添加した葉酸・thymidine
を添加した葉酸・thymidine 欠乏培地
に当たるとき:
で培養最後の 24 時間、300
時間、300 mg/L thymidine を加え
a) 前記の表現型異常
る。
b) 家系に診断不明の知的障害。
iii) 葉酸欠乏培地:
c) 家系に脆弱 X 症候群の患者・保因者。
葉酸・thymidine
葉酸・thymidine を含まない培地に血清 2~5%
ii) 家系に診断不明の知的障害・脆弱 X 症候群の
(血液中の血清も加算)を加え、3~4
(血液中の血清も加算)を加え、3~4 日培養。
患者。
iv) Methotrexate 添加法
iii) 染色体分析の結果が表現型と一致しないとき。
上記の複数の条件に該当する患者を選べば脆弱
College of American Pathologists (CAP) は各検
X症候群の検出率は高くなり、原因不明の知的障害
体について2種の染色体分析法を用い、各分析法で
だけで他の表現型異常がなく、家族歴も陰性の患者
男性 50 細胞、女性 75 細胞を分析することを定めて
を選べば検出率は低くなります。X連鎖知的障害は
います。上記の4種のうち、FUdR
います。上記の4種のうち、FUdR 添加法は普通の
100 種以上が知られているので、X連鎖知的障害だ
培養液を用い、染色体標本が良質で Xq27.3 以外の
からといって脆弱X症候群とは速断できません。
脆弱部位(common
(common fragile sites)
sites)の発現が少なく、
推奨できます。葉酸欠乏培地・methotrexate
葉酸欠乏培地・methotrexate 添加法
4.家系調査
は共に葉酸欠乏培地を必要とし、分裂指数が低く、
脆弱X症候群の家系は必ず前変異の保因者がお
2
05f
脆弱 X 症候群
り、完全変異の保因者もいる可能性があるので、家
列の数は 6~55
6~55 回が正常です。脆弱 X 症候群の家系
系のメンバーを検査することが理論的に適当です。
系のメンバーを検査することが理論的に適当です。
では前変異(55
では前変異(55~
55~230 回に増幅)の女性保因者から
家系のメンバー(本人・両親・同胞・その他)の検
子に伝達されるに従って増幅して完全変異
査 に は 染 色 体 分 析 は 不 適 当 で 、 PCR ま た は
(230~
230~1000 回)になり、同時に CpG 島のメチル化
Southern blotting を用います。患者本人の染色体検
を来します。家系の女性で“反覆配列の比較的多い
査の結果も、DNA 検査で裏付ける必要があります。
前変異の保因者”・“完全変異の保因者”は次の世
前変異の保因者”・“完全変異の保因者”は次の世
脆弱 X 症候群の遺伝子(FMR1)の CCG 反覆配
代で完全変異をもつ患者の原因になります。
図2.FRAXA,
図2.FRAXA, D, E, F
3
05f
5.DNA
5.DNA 検査
editors.
StB12.3 をプローブとする Southern blotting、
blotting、
Chromosome
脆弱 X 症候群
abnormalities
and
genetic counseling. 3rd ed. Oxford: Oxford
PCR 法、methylation
法、methylationmethylation-sensitive PCR 法などがあり
Uni
University Press, 2004. 218−
218−232 p.
ます。いずれも CCG 反復配列を含む断片の長さの
Hagerman RA, Hagerman PJ, editors: Fragile X
syndrome: Diagnosis, treatment, and research.
違いを検出します。
3rd ed. Baltimore: Johns Hopkins Press, 2002.
6.FRAXA,
6.FRAXA, E, F, D
Hundscheid RD, Sistermans EA, Thomas CM,
Xq27 近くの脆弱部位は4種類あります(図2)。
Braat DD,
DD, Straatman H, Kiemaney LA,
FRAXD は脆弱X(FRAXA
(FRAXA)
FRAXA)よりセントロメア側(近
Oostra BA, Smits AP: Imprinting effect in
位)にある common
common fragile site で、G
で、G-バンド分析
premature
で位置の違いによって区別でき、表現型異常を伴い
pater
paternally inherited frag
fragile X premutations.
ません。
Am J Hum Genet 66:413−
66:413−418, 2000.
ovarian
failure
confined
to
FRAXE は葉酸感受性で CCG 反復配列の増幅に
Rogers C, Partington MW, Turner GM: Tremor,
より軽度の知的障害を生ずるなど、FRAXA
より軽度の知的障害を生ずるなど、FRAXA に似て
ataxia and dementia in older
older men may
います。
indi
indicate a car
carrier of the fragile X syndrome.
FRAXF は表現型異常を伴いません。
Clin Genet 64:54−56,
64:54 56, 2003.
Rousseau F, Heitz D, Mandel JL: The unstable
文献
and methylatable mutations causing the
Gardner RJ, Sutherland GR: The fragile X
frag
fragile X syn
syndrome. Hum Mut 1:91−96,
1:91 96, 1992.
梶井 [2005 年1月]
年1月]
syn
syndrome. In: Gardner RJ, Sutherland GR,
4