Title 全固体型リチウム硫黄電池の正極における硫黄活物質の活 性化と電池特性( 内容と審査の要旨(Summary) ) Author(s) 永田, 裕 Report No.(Doctoral Degree) 博士(工学) 乙第74号 Issue Date 2015-03-25 Type 博士論文 Version ETD URL http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/51021 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。 別紙様式第12号(論文内容の要旨及び論文審査の結果の要旨) 氏名(本 籍) 永田 学 位 の 種 類 博 学位授与 番号 乙第 74 号 学位授与 日付 平成 27 年 3 月 25 日 専 物質工学専攻 攻 学位論文 題目 学位論文審査委員 裕(広島県) 士(工学) 全固体型リチウム硫黄電池の正極における硫黄活物質の活性化と電 池特性 (Activation of sulfur active material in positive electrode of an all-solid-state lithium sulfur battery and that battery performance) (主 査) 教授 海老原 昌弘 (副 査) 教授 杉浦 隆 教授 櫻田 修 論文内容の要旨 リチウムイオン電池は高容量電池として携帯機器やパソコンなどに広く使用され,その重要性が増 している.しかし,現行のリチウムイオン電池の改良では新たな要求に応えることはできなくなって きており,革新電池の実用化が強く望まれている.その中で,硫黄活物質を用いた全固体型リチウム 硫黄電池は固体電解質が不燃物であることから安全性の観点からも非常に魅力的な電池といえるが, 反応点が固体−固体界面であるため,硫黄活物質の反応性の低下により,実用に耐え得るエネルギー密 度が得られない問題がある.そこで,硫黄自体の反応性改善に重点を置き,全固体型リチウム硫黄電 池の正極の研究を開始した.全固体型リチウム硫黄電池の正極合材は硫黄活物質,Li2S-P2S5 系固体電 解質及び導電材の 3 成分からなる系とし,硫黄活物質の反応性の変化を固体電解質による変化と導電 材による変化の二つに分け,それぞれについて議論する. 第 2 章では,固体電解質中の P/S 比が硫黄活物質の反応性と相関があることを見出し,P/S 比が大き いほど活性化エネルギーが低下し,硫黄の反応性が向上することを示した.また,反応性の評価基準 として,放電初期の電位から硫黄の反応性を判断できることを提案した.さらに,正極合材以外の構 成が同一である電池の活性化エネルギーを求め,P/S 比の大きな固体電解質を正極に用いた系におい て活性化エネルギーが小さくなることを示した.以上,放電初期の電位の関係と活性化エネルギーの 両面から固体電解質中の P/S 比を高めることで硫黄活物質の反応性を向上できることを示した. 第 3 章では,導電材であるカーボンの特性が硫黄の反応性に与える影響を示した.導電材−硫黄活物 質間の電子移動はその接点(反応点)の数と反応点での電子移動性を考慮する必要がある.反応点数を 増やすためには比表面積が大きいことが優位と考えられ,反応点での電子移動性を高めるためには導 電材に電場が印加されやすいことが優位と考えられる.3−2では,正極合材中の硫黄活物質の充填率 が 50%の系にて,比表面積の大きな活性炭を用いた系にて,充放電レート 1C にて 100 サイクル後に 硫黄重量当たり 1600 mAh g−1 を超える容量が得られ,さらに,正極合材重量基準で 11000 W kg−1 の出 力が得られ,硫黄活物質—導電材間の反応点増加が優位に作用したと考えられる.さらに3−3では, 硫黄活物質の充填率を 60%まで増加した系にて,活性炭に高導電率な導電性高分子である PEDOT/PSS を複合化することで導電率を向上させ,電池特性が向上することを示した.このとき,硫黄活物質の 充填率 50 %の系では見られなかったが,60 %の系では導電率の低い活性炭を用いた場合,充電容量が 大きく低下する傾向がみられており,全固体型リチウム硫黄電池において充電と放電の反応性が異な る可能性を示した.これは,放電反応によって生じる硫化リチウムよりも充電反応において反応界面 で生じる硫黄の絶縁性が高いため,反応点から少し離れた点を次の反応点とする場合に,より高い電 場が必要となるため導電率の寄与が大きく現れたのではないかと推測される.これにより,硫黄活物 質の充填率が高い系では導電材の導電率も非常に重要になってくることを明らかにした. 第 4 章では,硫黄充填率を 60 %まで高めた系において,硫黄充填率 50 %の系よりも固体電解質の P/S を大きくすることで硫黄の反応性を高めた方が,電池特性が向上することを示した.これは,硫 1 黄充填率向上に伴い,硫黄の反応性が大幅に低下するため,その低下分を補う必要があるためと考え られる.また,固体電解質の代わりに絶縁体である P2S5 のみを用いた系において,P2S5 が充放電反応 中に Li を取り込み,固体電解質を自己形成することにより,二次電池として振る舞う現象を見出した. これにより,硫黄,P2S5,活性炭とありふれた材料にて高い電池特性が得られる正極合材を得ること ができ,安価で高性能な革新電池として十分に適用できる可能性を示した. 第 5 章では,全固体型ナトリウム硫黄電池においても前述の手法により硫黄活物質の反応性が向上 し電池特性が大幅に改善され,一般的に硫黄活物質の反応性を向上できる手法である可能性を示した. 以上の結果から,全固体型リチウム硫黄電池または全固体型ナトリウム硫黄電池の特性を向上さ せるための有用な指針を示し,大幅に電池特性を向上できた. 論文審査結果の要旨 リチウムイオン電池は高容量電池として携帯機器やパソコンなどに広く使用され,その重要性が増 している.そのため,リチウムイオン電池の理論限界をはるかに超える革新電池の実用化が強く望ま れており,現行の10倍の理論容量を有する硫黄活物質を用いたリチウム硫黄電池は有力な候補として 大きな興味がもたれているが,実用に耐え得る硫黄の含有量または電流値では十分なエネルギー密度 が得られないという問題があった.そこで,硫黄自体の反応性改善に重点を置き,全固体型リチウム 硫黄電池の正極の研究を行っている. 第1章の序論に続き,第2章では,固体電解質中のP/S比が硫黄活物質の反応性と相関があることを 見出し,P/S比が大きいほど硫黄の反応性が向上することを示している.また,正極合材以外の構成が 同一である電池の活性化エネルギーを求め,P/S比の大きな固体電解質を正極に用いた系において活性 化エネルギーが小さくなっていることを明らかにし,硫黄活物質に新たな可能性を示した. 第3,4章では,導電材であるカーボンの特性が硫黄の反応性に与える影響を示している.正極合 材中の硫黄活物質の充填率が50%の系では,比表面積の大きな活性炭を用いた系にて,充放電レート 1Cにて100サイクル後に硫黄重量当たり1600 mA h g–1を超える容量が得られ,さらに,正極合材重量基 準で11000 W kg–1の出力が得られ,硫黄活物質-導電材間の反応点増加が優位に作用したと考えられる. さらに,硫黄活物質の充填率を60%まで増加した系にて,活性炭に高導電率な導電性高分子である PEDOT/PSSを複合化することで導電率を向上させ,電池特性が向上することを明らかにしている 第5章では,全固体型ナトリウム硫黄電池においても前述の手法により硫黄活物質の反応性が向上 し,電池特性が大幅に改善され,リチウム系だけでなく一般的に硫黄活物質の反応性を向上できる手 法である可能性を示している. 以上のように,本論文は全固体型リチウム硫黄電池の正極における硫黄活物質の活性化と電池特 性を明らかにしたものであり,学術的ならびに実際上寄与するところが少なくない.よって,本論文 は博士(工学)の学術論文として価値あるものと認める. 最終試験結果の要旨 平成27年1月23日に学位論文の内容を中心とし,これに関連する事項について試問を行った結 果,合格と判定した. 発表論文(論文名、著者、掲載誌名、巻号、ページ) 1) Activation of sulfur active material in an all-solid-state lithium–sulfur battery, Hiroshi Nagata, Yasuo Chikusa, J. Power Sources, 2014, 263, 141-144. 2) A lithium sulfur battery with high power density, Hiroshi Nagata, Yasuo Chikusa, J. Power Sources, 2014, 263, 206-210. 3) All-Solid-state Lithium sulfur Batteries using a Conductive Composite Containing Activated Carbon and Electroconductive Polymers, Hiroshi Nagata, Yasuo Chikusa, Chem. Lett., 2014, 43, 1333–1334. 4) Transformation of P2S5 into a Solid Electrolyte with Ionic Conductivity at the Positive Composite Electrode of 2 All-Solid-State Lithium–Sulfur Batteries, Hiroshi Nagata, Yasuo Chikusa, Energy Technology, 2014, 753-756. 5) An All-Solid-State Sodium–Sulfur Battery Operating at Room Temperature Using a High-Sulfur-Content Positive Composite Electrode, Hiroshi Nagata, Yasuo Chikusa, Chem. Lett., 2014, 43, 1335–1336. 3
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