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2015.2.18@J.I.フォーラム
日本の財政、本当はどうなのか
-金融とあわせて考える-
池尾 和人
慶應義塾大学経済学部
金融政策とは
金融政策の実際は、金融資産の売買。
バランスシートで考えることが肝要。
 中央銀行の負債が、ベースマネー。
 統合銀行の負債が、マネーストック。
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量的緩和(金融緩和)
財政スタンス
は一定
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量的緩和による効果
政府と中央銀
行を合わせた
統合政府のレ
ベルで考える
と、ベースマ
ネーによる資
金調達比率が
高まることに
なる。
民間銀行が貸
出を増やさな
い限り、マ
ネーストック
には変化は生
じない。
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貸出金利は長期金利に連動
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金融緩和の効果(伝統的な場合)
短期金利の低下幅ほど、長期金利は低下
しない。 → 利ざやの拡大。
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金融緩和の効果(非伝統的な場合)
短期金利がゼロの下限にある中で、長期
金利の一層の低下を図る。 → 利ざやは一
層圧縮される。
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財政ファイナンス(金融仲介)
財政赤字が
拡大
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貯蓄余剰下では問題は顕在化しない
財政赤字を賄っているのは、中央銀行が
財政ファイナンスを行っている場合も、
民間部門の貯蓄超過(と海外からの資本
純流入)。
中央銀行(日銀)は独自の財源をもって
いるわけではない。
しかし、貨幣発行益(seigniorage)とい
うのが存在するのではないか?
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彼らは何を言っているのか?(1)
「日銀は原理的には国債を永久に保有で
きるので、政府はその償還に頭を悩ます
必要はない。」(ワインシュタイン、
2014/12/29付日経新聞「経済教室」)
ベースマネーは無償還(irredeemable)
である。すなわち、それ以上は換金でき
ない。準備預金は日銀券のかたちでしか
引き出すことができず、現在の日銀券は
不換紙幣である。
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彼らは何を言っているのか?(2)
「日銀は国債をコストをかけずにただで
買っている。10兆円分の国債を購入して、
仮に2割損してももうけは8兆円ある。日
銀の利益は国庫に渡ってきた。国債の価
格が下がっても、財務省が埋めればそれ
でいいだけだ」(原田泰氏、2015/1/21
http://www.asahi.com/articles/
ASGDS5TCMGDSULFA034.html)
貨幣発行益の現在価値は貨幣発行額。
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貨幣発行益の現在価値
今期の期初に貨幣1単位を発行し、その資
金を運用すると、期末に金利 r が稼げる。
その後も各期の期末に同じだけの金利収
入が永久に稼げる。
この r, r, r, というフローの系列の現在
価値は、
r
r
r
1 r

(1  r )
2

(1  r )
3

1
実際には、経費等がかかる。
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ベースマネーの需要と供給
ベースマネー需要量に見合って供給され
たベースマネー供給量については、「償
還に頭を悩ます必要はない」し、貨幣発
行益を享受できる。
現状はゼロ金利制約下にあって、「流動
性の罠」的な状況にあるので、ベースマ
ネー需要量はきわめて弾力的に増加し、
著増しているベースマネー供給量と釣り
合いを保っている。
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ベースマネー需要が減少したら?
しかし将来、インフレ予想が本格的に高
まることが あれば、ベースマネーを保有
する魅力は激減することになるので、他
の条件が一定であれば、ベースマネー需
要は大幅に減少するとみられる。
このときに、なお かつベースマネー供給
量の削減が行われないとすれば、ベース
マネー需要量をそれに一致させるように
何らかの条件が変化しなければならない。
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恒久的量的緩和(permanent QE)
出口を想定した量的緩和であれば、ベー
スマネーの増加は一時的なものにとどま
るはず。→ 将来、得たつもりの貨幣発行
益を戻さなければならない。
出口なき量的緩和(permanent QE)にな
ると、現在一時的に膨らんでいる貨幣発
行益分は、将来のインフレ税で償還され
ることになる。→ Permanent QEは、
Helicopter money policyと同等。
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貯蓄不足に転じる懸念
民間部門の貯蓄超過はいつまで続くのか。
バランスシート調整の完了、高齢化の進展等
は、貯蓄超過の減少要因。
2020年代中のいずれかの時期に、銀行預金が
純減し出すと予想されている。
対外純資産を取り崩していくとしても、
2020~30年代に日本経済は胸突き八丁を迎
える。
残された時間的余裕は、存外に短い。
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財政再建目標(1)
債務残高の対GDP比の安定化が目標とい
うのは、正しい。
PB
D
D
 (r  g )
計算すると、     
Y
Y
Y 
ただし、D = 公的債務残高、Y = GDP、PB = 基
礎的財政収支(Primary Balance)、r = 利子率、
g = 成長率。
D
     0 となる必要。
Y 
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財政再建目標(2)
2つの部分、
PB
D

と (r  g )
。
Y
Y
 金融抑圧(financial depression): r < g
とすることで、債務圧縮を図る。
 ピケティは、r > g を主張。ただし、資本
収益率と安全利子率はリスク・プレミア
ム分だけ乖離する。
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内閣府の試算(2015年2月)
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日本の人口推移 2010
17.5%
http://www.bowlgraphics.net/tsutagra/03/ から引用。
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日本の人口推移 2020
25.5%
http://www.bowlgraphics.net/tsutagra/03/ から引用。
21
日本の人口推移 2030
33.6%
http://www.bowlgraphics.net/tsutagra/03/ から引用。
22
日本の人口推移 2040
38.6%
http://www.bowlgraphics.net/tsutagra/03/ から引用。
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ご静聴、有り難うございました。
Thank you very much!
池尾 和人『連続講義・デフ
レと経済政策』日経BP社、
2013/07/16
● Kindle版も発売中。
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