2015 年 9 月 24 日 No.1 数学を学ぶ (微分積分 2)・授業用アブストラクト §1. 無限級数の定義 ここでは、(無限) 級数という概念を導入し、級数の収束と発散、級数の和を定義する。後半 ∞ ∑ 1 では、正項級数が収束するための必要十分条件を述べ、 が収束することを示したり、小 n2 n=1 学校以来親しんで来た「小数」の意味を考える。 ● 1 - 1 : 級数とは 数列 {an }∞ n=1 に対して、その各項を初項から順番に + という記号でつないだ‘ 形式和 ’ a1 + a2 + · · · + an + · · · · · · を無限級数、または、単に、級数と呼び、 ∞ ∑ (1 - 1 a) an n=1 と書き表わす。ここで、足し算の記号 + や和の記号 ∑ を用いているが、足し算を実行した結 果を表わしているわけではないことに注意する。 例 1 -1 -1 ∞ 1 ∑ (1) 級数 を調和級数という。 n=1 n ∞ ∑ (2) 実数 a, r に対して、級数 arn−1 を初項 a、公比 r の (無限) 等比級数という。 n=1 ● 1 - 2 : 級数の収束 ∞ ∑ 級数 an に対して、第 1 項から第 n 項までの和 n=1 (1 - 2 a) Sn = n ∑ ak k=1 を第 n 部分和という。 第 n 部分和を第 n 項とする数列 {Sn }∞ n=1 が収束するとき、級数 極限値 (1 - 2 b) を級数 ∞ ∑ an は収束するといい、 n=1 S = lim Sn n→∞ ∞ ∑ an の和と呼ぶ。和 S も級数と同じ記号 n=1 る級数に対して、記号 ∞ ∑ ∞ ∑ an で書き表わす。したがって、収束す n=1 an は、形式和と実数の2つの意味を持つことになる。どちらの意味 n=1 で使っているのかは、前後の文脈で判断する。 –1– 例 1 -2 -1 無限等比級数 ∞ ∑ (1 - 2 c) arn−1 n=1 は |r| < 1 のとき収束し、そのときの和は (証明) a である。 1−r Sn を与えられた級数の第 n 部分和とする。Sn − rSn を計算することにより、r ̸= 1 のとき、 a(1 − rn ) 1−r n となることがわかる。|r| < 1 のとき、 lim r = 0 であるから、{Sn }∞ n=1 は収束して、 (1 - 2 d) Sn = n→∞ ∞ ∑ a(1 − rn ) a = n→∞ 1−r 1−r arn−1 = lim Sn = lim n→∞ n=1 □ となることがわかる。 ● 1 - 3 : 級数の収束と線形性 ∞ ∞ ∑ ∑ 級数 an , bn が収束するとき次の (i),(ii) が成り立つ。 n=1 (i) 級数 n=1 ∞ ∑ (an + bn ) も収束して、その和について、 n=1 ∞ ∑ (1 - 3 a) (an + bn ) = n=1 an + n=1 (ii) 任意の実数 k に対して、級数 (1 - 3 b) ∞ ∑ ∞ ∑ ∞ ∑ bn . n=1 (kan ) も収束して、その和について、 n=1 ∞ ∑ ∞ ∑ n=1 n=1 (kan ) = k an . ● 1 - 4 : +∞ に発散する級数 ∞ ∑ 級数 an が +∞ に発散するとは、その第 n 部分和を第 n 項とする数列 {Sn }∞ n=1 が +∞ n=1 に発散するときをいい、これを ∞ ∑ (1 - 4 a) an = +∞ n=1 と書き表わす。 例 1 -4 -1 (証明) 調和級数 ∞ 1 ∑ は +∞ に発散する。 n=1 n 自然数 k = 1, 2, 3, . . . を1つ固定すると、k ≤ x なる任意の x ∈ R に対して、 1 1 ≥ k x であるから、不等式 ∫ k+1 ∫ k+1 1 1 1 = dx ≥ dx k k x k k –2– を得る。この両辺を k が 1 のときから n のときまで足し上げると、調和級数の第 n 部分和 Sn について ∫ n+1 n n ∫ ∑ 1 1 ∑ k+1 1 Sn = ≥ dx = dx = log(n + 1) k x x k 1 k=1 k=1 が成り立つ。ここで、n → ∞ のとき log(n + 1) → +∞ であるから、Sn → +∞ とわかる。つ □ まり、調和級数は +∞ に発散する。 ● 1 - 5 : 正項級数 ∞ ∑ 級数 an が正項級数であるとは、すべての n について an ≥ 0 であるときをいう。 n=1 正項級数の第 n 部分和を第 n 項とする数列は単調増加列であることから、正項級数につい ては、収束するか、+∞ に発散するか、のどちらか一方のみが成り立つ。 定理 1 - 5 - 1 ∞ n {∑ }∞ ∑ 正項級数 an が収束するための必要十分条件は、数列 ak n=1 が上に有界になるこ n=1 k=1 とである。 例 1 -5 -2 正項級数 ∞ ∑ 1 1 1 1 + ··· =1+ + + 2 n 4 9 16 (1 - 5 a) n=1 は収束する。 (証明) n ≥ 2 に対して n n ( n ∑ ∑ ∑ 1 1 1) 1 1 = − ≤ =1− <1 2 k (k − 1)k k−1 k n k=2 k=2 k=2 {∑ n 1 }∞ となるから、数列 は上に有界である。よって、正項級数 (1 -5 a) は収束する。 □ 2 n=1 k=1 k ∞ 1 ∑ は収束する。その和を ζ(α) α n=1 n と書き、ゼータ関数値という。実は、ζ(2) = π 2 /6 = 1.644934066848226..... である。 注意 1 - 5 - 3 一般に、実数 α > 1 について、無限級数 ● 1 - 6 : 実数の m 進小数表示 m を 2 以上の整数とする。このとき、次の形の正項級数 ∞ ∑ an (an = 0, 1, · · · , m − 1) (1 - 6 a) mn n=1 は常に収束し、その和は [0, 1] の中にある。逆に、任意の実数 x ∈ [0, 1] は (1 - 6 a) の形の級数 の和として表わされる。実際、x = 1 のとき、 ∞ ∞ 1 ∑ ∑ 1 m−1 m = (m − 1) = (m − 1) (1 - 6 b) 1 =1 mn mn 1− m n=1 n=1 –3– と表わされる。 0 ≤ x < 1 のとき、0 ≤ mx < m であるから、a1 ≤ mx < a1 +1 を満たす a1 ∈ {0, 1, · · · , m− 1} が見つかる。このとき、x1 = mx−a1 とおくと、0 ≤ x1 < 1 となる。今の操作を x1 に対して 行うことにより、a2 ≤ mx1 < a2 +1 を満たす a2 ∈ {0, 1, · · · , m−1} が見つかり、x2 = mx1 −a2 とおくと、0 ≤ x2 < 1 となる。以下同様にして、{0, 1, · · · , m − 1} の元からなる数列 {an }∞ n=1 と 0 ≤ xn < 1 を満たす数 xn からなる数列 {xn }∞ n=1 であって、xn = mxn−1 −an (n = 1, 2, · · · ) を満たすものを構成することができる。但し、x0 = x とおく。このとき、n = 1, 2, · · · に対 して、 a1 x1 a1 a2 x2 a1 a2 an xn + = + + = ······ = + + ··· + n + n m m m m2 m2 m m2 m m となることがわかる。したがって、 n ∑ 1 ak xn x − = n < n k m m m x= が成り立つ。m ≥ 2 なので k=1 1 ∞ { mn }n=1 は 0 に収束する。よって、 n ∑ ak (n → ∞) x − → 0 mk k=1 これは、 x= ∞ ∑ an mn n=1 と書けることを意味する。 実数 x ∈ [0, 1] が (1 -6 a) の形の級数の和として表わされるとき、x = (0.a1 a2 a3 · · · )m と書き 表わし、x の (無限) m 進小数表示と呼ぶ。m = 10 のときには、単に x = 0.a1 a2 a3 · · · のよう ∞ ∑ an に表わす。つまり、小数 0.a1 a2 a3 · · · · · · とは、級数 の和で与えられる実数の表示の n n=1 (10) ことであり、実体としては、その実数自身を表わす。すなわち、an = 0, 1, 2 · · · , 9 (n = 1, 2, · · · ) として、 (1 - 6 c) 0.a1 a2 a3 . . . . . . = ∞ ∑ an (10)n n=1 が成立する。 例 1 - 6 - 1 (1 - 6 b) より、 1 = (0. m−1 m−1 m−1 · · · · · · )m のように書ける。特に、m = 10 の場合を考えて、 1 = 0.999 · · · · · · □ を得る。 –4– 2015 年 9 月 24 日 No.1 数学を学ぶ (微分積分 2) 演習問題 1 1-1. 次の各級数の和を求めよ。 ∞ ∑ 1 (1) 2 n=1 4n − 4n − 3 (2) ∞ ∑ (−1)n n=1 ( 2 )2n−1 3 1-2. 調和級数が +∞ に発散することの証明に習って、級数 することを示せ。 ∞ ∑ 1 は +∞ に発散 n=1 n(2 log n + 1) ヒント:積分の値を求めるときには、関数 F (x) = log(2 log x + 1) を微分してみるとよい。 –5– 数学を学ぶ (微分積分2) 通信 [No.1] 2015 年 9 月 24 日発行 ■ 学習内容チェックシートについて ◦ 学習内容チェックシートは、与えられた用紙の所定の枠内に、黒の鉛筆またはシャープ ペンで直接書き込んで、次回の授業時に提出してください。 ◦ 授業中以外の時間に、じっくり考えて、丁寧に書いてください。 ◦ 提出された学習内容チェックシートは次々回に返却します。 ◦ 「課題をこなした」と認められる学習内容チェックシートには、確認印を押します。確 認印の押された学習内容チェックシートは、間違えた箇所 (※印) があったとしても再 提出する必要はありません。 ◦ 「課題をこなした」と認められない学習内容チェックシートには、「要再提出」「再提出 不許可」 「未提出扱い」の印を押します。 「要再提出」の印が押されていた場合には、指 摘された枠 (※印) の中の解答をきれいに消しゴムで消し、正解に書き換えた上で、返 却された回の次の授業時に再提出してください。 ◦ じっくり考えて解いていないと判断されるもの、丁寧に書いていないと判断されるも の、空欄があるもの、必要以上に書き込んであるものは、原則として未提出扱いにな ります。提出期限が過ぎて提出した場合にも、未提出扱いになります。「未提出扱い」 の印が押された場合には、その回の学習内容チェックシートを再提出することはできま せん。 ◦ 再提出することができるチャンスは2回までとします。2回再提出しても、なおかつ、 「課題をこなした」と認められない場合には、再提出不許可になります。 「要再提出」の 印が押されていた場合には、どこをどのように間違えたのか、慎重に考えて修正してく ださい。 ◦ 学習内容チェックシートの設問は、アブストラクトをよく読み、講義をしっかり聴けば、 すべて答えることができるものばかりです。しかし、どうしてもわからない場合には、 オフィスアワーの時間帯に質問に来てください。ヒント等を出します。 ■ 次回予告 今回は、主に級数の和が求められる場合を扱いましたが、一般に、和を求めることは易しく ありません。和は求められなくても、収束判定法を使うと、級数が収束するか否かを知ること ができる場合があります。次回は級数が収束するための最も基本的な判定法—比較判定法とダ・ ランベールの判定法—を学びます。 –6– 2015 年 9 月 24 日 数学を学ぶ(微分積分2)第1回・学習内容チェックシート 学籍番号 氏 名 Q1. 次の表を完成させてください。ページ欄にはその言葉の説明が書かれているアブストラク トのページを書いてください。 ページ 級数とは? 意味 p. 級数の第 n 部分和と p. は? 級数の和とは? p. 正項級数とは? p. 小数 0.a1 a2 a3 . . . . . . p. の意味は? Q2. 次の表を完成させてください。 解決方法・方針 初項 a, 公比 r (̸= 1) の等 比級数の第 n 部分和 Sn = n ∑ ark−1 を求めるには? k=1 正項級数 ∞ ∑ an が収束するこ n=1 とを示すには? Q3. 次の に適当な言葉や数字を入れてください。 • 級数 級数 ∞ ∑ n=1 ∞ ∑ an , ∞ ∑ bn が収束するとき、級数 n=1 ∞ ∑ (an + bn ) および任意の実数 k に対して n=1 kan は収束し、その和は次の公式を使って求めることができる。 n=1 ∞ ∑ , (an + bn ) = n=1 • 調和級数 ∞ 1 ∑ は n=1 n • 0.99999 . . . . . . = するが、級数 ∞ ∑ n=1 ∞ ∑ kan = 1 は 2 n=1 n . する。 . Q4. 第1回の授業で学んだ事柄について、わかりにくかったことや考えたことなどがありまし たら、書いてください。
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