人権が生きる学校・授業づくりE

第2分科会「人権が生きる学校・授業づくりE」
司 会 者 池上 英夫(北稜高校)
津嶋 基宏(ひのくに高等養護学校)
報 告 者 前田 博美(広安小学校)
上人教
向坂
松浦
大林
記 録 者 佐藤
理子(緑ヶ丘小学校) 荒尾市同教
寛 (神尾小学校)
荒玉人同推協
由佳(御岳小学校)
矢部同研サークル
一生(山鹿中学校)
渡邉 至誠(来民小学校)
会場責任者 加藤 敬之(御船中学校)
1 分科会の概要
(討議の柱)
自分の大切さとともに他の人の大切さを認め、そのことが態度や行動となるような学びや表現の場が、家庭
や地域とも連携しつつ学校の中にどう創造されているか、みんなで明らかにしよう。
(基調提案)
以前、私は家庭訪問の際、ある保護者から「先生のいう人権とは何ですか」と問われ、一瞬考えて「子ども
たちがニコニコと元気に学校に通うことです」と話したことがあります。みなさんの目の前の子どもたちは、
ニコニコ元気に学校に通っていますか?学校や教室、地域の中で、頭が下がったり、休んでいる子どもはいま
せんか?その原因が自分の責任ではないところで、重荷を負わされていることはないでしょうか?そんな自分
の責任でないところで重荷を背負わされている、いわゆる差別によって苦しんでいる子どもたちをはじめ、す
べての子どもたちが、頭を上げ、生まれたところや家族、地域をいつまでも誇りにできる学習こそが、人権部
落問題学習と呼ばれています。
人権部落問題学習は、部落問題を中心に、水俣病、ハンセン病、
「障害」者差別など、さまざまな人権問題に
ついて学ぶ中で、なかまとつながっていく学習活動です。 具体的な人権課題の学習を通じて、差別をなくす生
き方を選択する子どもたちを育てることが、人権部落問題学習の大きなねらいになります。
特に、部落問題学習には、人間の尊厳をかけて差別と闘ってきた被差別部落の人々のたくましさ、やさしさ、
人と人との絆の強さなど今を生きる私たちにとって学ぶべきことが数多くあります。さらに、水俣病の語り部
の方々、ハンセン病回復者の方々の生き方から、子どもたちや教職員を励ます人権学習の中身は作られてきま
した。
差別は、人と人をバラバラにして、人を苦しめます。2008年に高校現場で、教職員が生徒指導の場で生
徒に対して「早く平民に戻れるようにせよ」と言った差別発言事件は、被差別部落の人々を深く傷つけ、教育・
啓発に対する願いを打ち砕きました。また、昨年相次いで、県内の学校で何件もの部落差別発言が発生しまし
た。その中の学校現場で起きた差別発言の多くは、社会科や人権学習の中で学んだ、賎称用語を使ったもので
した。子どもたちは、知識として学んだ言葉を遊びやケンカの中で、相手を蔑んだり攻撃したりするために使
ってしまったのです。また昨年度起きた水俣病に対する差別発言も知識としての学びにとどまり、自分や家族
との重なり学習まで達していなかったのだと思います。相次ぐ差別事件・事象は、私たち自身の人権感覚のな
さを表しているように思います。自分自身の人権感覚を検証し、確かなものにするために、私たちが学習し直
さなければならないと思います。
人権学習の積み重ねが県内のすべての学校・社会教育の場で行われることで、二度と差別事件・事象が起こ
らない人権尊重の学校・まち作りになると考え、強く願います。
今日の4本のレポートでは、人権部落問題学習を通じて、私たちがいま一度学びとできる大切な時間です。
目の前の子どもたちがいつまでも差別をなくすところでつながり、明るくニコニコとふるさとや家族を誇れる
教育内容の創造について、ここにいるすべてのみなさんとつくっていきましょう。
(2011県人教「研究課題」参照)
2 報告の概要
○前田レポート「ぼくもがんばる」
校区探検を実施する過程において、健さんが堂々と学習会のことを語れるように親さんとの話し合いを通し
て、集会所をコースの中に組み入れて実践していくレポート。
○向坂レポート「ぼくも、それを知っています」
集団生活の中でうまく自分の思いを伝えられず友達に手を出してしまうとうまさんをクラスの中心に据えて、
人権学習を通じて周囲の子どもたちがとうまさんを理解していくレポート。
○松浦レポート「お父さんの手」
母親が外国人である春奈さんの家庭に足を運び、父親の思いを理解することから始め、春奈さんに、父親の
仕事を、そして春奈さん自身の暮らしを見つめさせることで、親への思いを綴らせていくレポート。
○大林レポート「おかしいと言える人はかっこいいと思いました」
5年、6年と続けて担任したクラスと一緒に創り上げてきた人権学習の実践を通して、成長していく子ども
たち、特にまさるくんを中心に報告をしていくレポート。
※詳細は報告集を参照のこと。
3 討論の概要
○前田レポート
広安小学校が以前から企画しながら実施できなかった校区探検。その実践の報告を巡って、学校長、旧担任、
人権教育主任、旧職員等からも、今までどうして実践できなかったのか等それぞれの思いや実体験が語られて
いきました。そしてそれを実現させるまでに至る過程において、学校はどのように動き、また保護者との意見
交換の有無等も討論されました。さらにフロアからも何のための集会所や地域の人権センターなのかというこ
とを、私たち教師がしっかりと認識して、そこに通う子どもたちが胸を張って通えるように、自分たちにでき
ることは何なのかをもう一度考えたいという意見もありました。
特に討議の中心になったのは、校区探検の実践をきっかけにして「学習会」をどう捉えるのか、子どもたち
にどのように伝えていくのか、ということでした。それは取りも直さず、当該校の今後の取り組みがより重要
になってくるということであり、地域の意見がどうなのか、行政との関わり等大事にしなければならないこと
も数多く出されました。
○向坂レポート
女の子が走り回っていたのをとうまさんのせいにしようとしたことに対する話し合い(現場を見ていたある
女の子が疑問を投げかけ、みんなで話し合い、自分たちがしていたおかしさを日記に書き出していくに至る過
程)を通して子どもたち自身が変容していく様子は人権同和教育の一つの成果であることが確認できました。
また、こだわりが強いとうまさんに関してクラスの取り組みとして気をつけていることは、何か起こったら
みんなで話し合いをすることであり、そういう実践を通して実は報告者である先生自身がお母さんやとうまさ
んの頑張りに気付いた最初の一人目であったことが見えてきました。討論の方向性としては、私たち教師自身
が子ども一人一人をどのように見ているのかが問われていきました。教師がきつい思いをしている子、その親
さんに気付かされたこと等が出し合われ、とうまさん自身の変容についても様々な角度から討議することがで
きました。
○松浦レポート
報告者である松浦さん自身が自分の母親のこと、そして自分のことを語りながら、どうして自分が同和教育
に関わっていくのかを伝えてもらったことで、子どもたちが自分自身と親の暮らしに向き合い、親への見方(否
定的な)、考え方を変えていくこととの重なりが参加者にも分かりやすい形で見えていきました。教師自らが語
ることの大事さを改めて認識した場面でした。
家に足を頻繁に運ぶことで関係が築けたこと、母親の存在はあるのだが見えないこと等が明らかになってい
き、春奈さんに暮らしを見つめさせるための教材の選定も論議の一つのポイントになっていきました。暮らし
を見つめることでどんな力をつけさせたいのか、差別やおかしさとどう闘わせたいのかについても話が及び、
親の仕事、暮らしの基盤を見つめさせることで、親に対する周囲の偏見に言い返す力や自己肯定感を持たせた
いという報告者の思いも伝わってきました。
○大林レポート
まさるくんは1年生の時からクラスの中心に据えられており、周りの子どもたちはまさるくんを排除も責め
もしないが、できなくて当たり前のように見ている雰囲気や支え合いの名の下に、力をつける機会を奪われて
いるように見えたことが語られていき、自分のことを自分の言葉で表現していく力をつけて、まさるくんの言
葉が学級に響き渡るような取り組みをすることを心がけられたことが見えてきました。人権学習においては何
年生でどの教材をするというように決めたものはなく、中心に据える子どもの課題を明らかにし学級の実態に
合わせ、教材を選んでいることや地域の各学校で子どもの姿から授業をつくるということを大事にしているこ
と等地域の実体も含めて語られました。中心に据える子の課題は何かを明らかにしなければ課題に迫る実践は
できないという信念の下、繰り返し伝える手法をとられていることも分かりました。これからの課題として、
人権学習の中学校との連携が問われていることも見えてきたことの一つです。小学校だけでなく、中学校でも
学ばなければ、人権に対する力は落ちてしまう。人間関係は認識により変わるのであり、それが差別をなくす
子どもを育てることに繋がることを確認できたと思います。そして「全ての学習(こと)はつながっている」
という言葉、記憶しておきたい一つです。
「ガイシャ」という言葉を差別するために用いていた子どもたちが、
人権学習を進めていく中で、自然と自分たちの言動のおかしさに気づき、自らの意識で止めていくというその
成長ぶりに、人権・同和教育が持つ力を実感することができました。
4 まとめ
○成果
4本の報告に共通しているのは、担任として子どもの家庭に事ある毎に足を運び、その子どもは勿論、親の
暮らしをしっかりと把握して、人権部落問題と重ねたり、教師自らの生き方に重ねたりしながら、その子ども
をクラスの中心に据えて、日常の繋がりを大事にすることでいろいろな課題の克服に向けて一つ一つ前へ進ま
れている、その先生方の姿勢でした。私たちが学ぶべきは、人権・同和教育の基本とも言えるその実践そのも
のであったと思います。学校や学習会、地域、職員集団などで、部落差別をはじめあらゆる差別を許さない、
反差別の集団作りを形成する展望や熱の見えた分科会でした。
○課題
校区探検に関して、地域の方からも、様々な考えや思いを持っておられる地域の人達がいらっしゃることを
踏まえて、その人達の思いもくみ取ってもらいたいという、今後に期待するが故の意見も出てきて、最初の一
歩を踏み出した学校への期待は小さいものではないと実感しました。そういう思いを受けて、学校がどのよう
に動いていくのか、これからの大きな課題だと思います。一歩を踏み出すことの難しさを感じると共に、さら
に継続していくことの難しさを乗り越えていくことが今後の大事な課題になってくると思います。教育の主体
は私たち教師であり、学校です。地域の声を全く無視するわけにはいきませんが、こだわりすぎても何事も前
には進みません。学校総体としての同和・人権教育に対する姿勢のあり方が問われてくるのだと思います。今
回は直接担当された先生お一人の実践報告だったのですが、機会があれば学校総体(団体)の実践報告をお願
いしたいと強く思いました。