第142回 胸部レ線読影会 呼吸器病の最新話題:肺がんと肺線維症の治療 東京医科大学病院呼吸器内科教授 瀬戸口 靖弘先生 肺癌と肺線維症の治療に関しての最新の知見を講演いただいた。 癌は細胞分裂の過程で、遺伝子変異により突然変異細胞が出現することで生 じるが、既存の抗がん剤は細胞分裂を阻止することを標的としていた。80 年代に画期的な薬剤としてシスプラチンが登場し、その後90年代には抗癌 剤の併用療法や外来化学療法が盛んになった。しかし癌遺伝子、癌抑制遺 伝子の解析がすすみ、遺伝子を標的とした分子標的薬が開発のメインとな り、2002年にゲフィチニブ(イレッサ®)が登場。その後肺癌は新たな時 代を迎えた。既存の化学療法の時代にはPFS(無増悪生存期間)は治療をし ても6か月程度であったが、ゲフィチニブはPFSを10か月に延長、最近は更 なる延長が得られている。 ゲフィチニブはEGFR遺伝子変異のある肺腺癌に有効なEGFRチロシンキナ ーゼ阻害剤(EGFR-TKI)であり、EGFRはHERfamilyのチロシンキナーゼ 受容体で、がん組織の増殖や転移に強く関与。EGFR遺伝子変異にはサブタ イプがあり、その下流の伝達経路も多数存在。どのタイプかで治療効果に差 があり、PI3K−AKt経路では進行も早いが、治療効果が非常に高く、末期 症例でも早期に劇的な効果が得られることもあり治療選択の可能性が広が った。EGFR変異は治療効果へのマーカーであるが、EGFR−TKIには耐性 も存在する。その原因としてEGFRのT790M二次的遺伝子変異、Met遺伝 子増幅、HGF(肝細胞増殖因子)の過剰発現が報告されている。また、 Kras遺伝子変異は耐性のマーカーであるが、喫煙者はEGFR遺伝子変異が陽 性でもKras遺伝子変異発現により、耐性を獲得してしまうなど複雑な要素 が関与するため、禁煙は肺癌治療にも重要である。 ALK遺伝子変異も注目されている。ALK遺伝子変異は非小細胞肺癌の4%程 度に発現し、腺がん、若年者、非喫煙者に発現しやすい。ALK遺伝子阻害 剤はクリゾチニブ(ザーコリ®)があるが、耐性獲得の問題が大きかった。 昨年新たにアレクチニブ(アレセンサ®)が登場し。クリゾチニブ耐性でも 効果を認め、PFSの更なる延長と耐性獲得が少ないという特徴をもつ。 肺癌治療は組織型のみならず、遺伝子変異により治療法、予後に大きな差が 生じ、遺伝子変異に基づいた治療選択が必要な時代となった。 IPF(肺線維症)治療にも新たな選択肢が出現。IPFにはステロイドの有効 性は否定されており、治療にはピルフェニドン(ピレスパ®)が選択とな る。ピルフェニドンは努力肺活量の低下抑制が報告されており、生存期間の 延長も認めた。しかし、作用機序が不明な点も多く、食欲不振や日光過敏 で中止となる症例もある。 新 た な 選 択 肢 と して チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ 阻 害 剤 で あ る ニ ン テ ン ダ ニ ブ (BIBF1120)が登場する。血管増殖や線維化の抑制効果も期待されてお り、努力肺活量の低下の抑制だけでなく急性増悪の抑制の可能性も期待され ている。 このように、肺がんでも肺線維症でも新薬開発の中心は分子標的薬となって おり、各患者に合わせた遺伝子変異を含めた治療選択が必要となってきてい る。 プロモターはDNAをどこから読込むか決め、エクソンはタンパク質の設計 図となります。 DNAがそれぞれの時期に正常に作成されているか常にチェック機能が働い ています。 1cmの早期癌になるためには30回の分裂が必要で、5年以上かかります。こ のサイズの癌には10億個の癌細胞があります。10cmのサイズには1兆個の 癌細胞があります。 p53やRbは代表的な癌抑制遺伝子です。 EGFRの信号伝達機構には大きく3ルートあり、増殖、apotosis、血管新 生、転移を起こすように働いています。EGFRに増殖因子(リガンド)が結 合すると、非対称的な二量体(ダイマー)形成が起こり、キナーゼドメイン にATPが結合します。ATPのリン酸が調節ドメインのチロシン残基に移され ると、このリン酸化チロシンに種々のタンパクが結合し、次々と下流のタン パクが活性化されます。特に重要なのがRAS-RAF-MAPK経路と PI3KAKT経路です。 エクソン18は遺伝子1個変異、19は10個欠損、21は1個の変異による事 がわかっていて奏効率が異なります。またエクソン20は挿入変異で薬の耐 性に関与しています。変異はチロシンキナーゼドメインのエクソン18-21の 領域に集中しています。様々な変異が見られるが、エクソン21のコドン 858においてロイシンがアルギニンに変化する点突然変異(L858R: 42.7%)と、エクソン19のコドン746-750の欠失変異(48.2%)が多い です。イレッサを投与しているうちに抵抗性となる症例もいます。このよう な抵抗例の約半数では、イレッサ投与開始後にエクソン20のコドン790が スレオニンからメチオニンに変異(T790M)したがん細胞が増殖し、 EGFR-イレッサの親和性がEGFR-ATPよりも弱くなることで抵抗性を獲得 すると考えられています。 P13-Kルートは増殖が早くここが優位に働く人は、EGFR-tkiのsupper responderとなります。 ただ喫煙者にはK-rasのmuutationがあり、EGFRーtkiの耐性となります。 (バイパストラック) 新しいHGFR-tkiのアフェチニブはエクソン19変異株によく効きますが、副 作用で酷い下痢が多く認められます。 線維芽細胞などの間葉系細胞から産生される、肝細胞増殖因子(HGF)は上皮 内皮系細胞の増殖分化機能の調節に関与するため、またその受容体である cMetも含め、HGFが高発現しているとFGFE-tkiの耐性を生じます。 肺の原発巣には著効しているが、HGFの多い肝転移にはMet,P13Kを介し た増殖が起こるため、耐性を示しています。 がんなどにおける体細胞ゲノム・遺伝子異常の一種としての融合遺伝子と は,がん細胞における染色体の転座,挿入,逆位などの組換えの結果,複数 の遺伝子が連結されて 生じる新たな遺伝子であって,かつ通常,融合タン パク質をコードするものを言います。 ALK融合遺伝子とは、なんらかの原因によりALK遺伝子とほかの遺伝子が 融合することでできる特殊な遺伝子のことです。ALK融合遺伝子があると、 この遺伝子からできるタンパク質(ALK融合タンパク)の作用により、が ん細胞を増殖させるスイッチが常にオンとなり、がん細胞が限りなく増殖し てしまいます。EML4遺伝子はプロモターとして作用します。 胃癌の転移と間違う事があるので注意が必要です。 ALK陽性に対する新たな薬であるalectinibは、EML4-ALKによる腫瘍増殖 を抑制します。ATPはALK融合タンパクのエネルギー源でalecensaはATP より先に結合する事で癌が増殖する事を抑制します。 ザーコリ(crizotinib)はALK阻害薬の1種です。重大な副作用として間質性肺 炎が言われています。 血管新生に関わるVGEF(血管内皮細胞増殖因子)、EGFR(上皮成長因子 受容体)およびRET(Rearranged during Transfection)を標的とする経 口のキナーゼ阻害剤で、甲状腺随様癌で承認されています。 これからは、きちんとした遺伝子検査をして、driver mutationを見ないと 治療の選択ができない時代になってきています。 特に非喫煙者には良い結果が出てるので、喫煙者とかなり予後の差が出てく る可能性があるので、禁煙を薦めましょう。 IIPsは現在7種の間質性肺炎に分類され、その中でもIPFが1番症例が多 い。 ステロイドはIPFの治療として、生存率で有意差が出ませんでした。 ピレスパはNSAIDの1種です。具体的にはどこに作用して効いているのかよ く分かっていません。副作用として、日光過敏症や食欲不振、体重減少が認 められます。 新 た な 選 択 肢 と して チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ 阻 害 剤 で あ る ニ ン テ ン ダ ニ ブ (BIBF1120)が登場します。血管増殖や線維化の抑制効果も期待されてお り、努力肺活量の低下の抑制だけでなく急性増悪の抑制の可能性も期待され ています。ただし副作用としてかなり酷い下痢が生じています。
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