樹状細胞分化・運命を制御する骨髄微小環境の同定と機能解析 東京

樹状細胞分化・運命を制御する骨髄微小環境の同定と機能解析
東京医科歯科大学難治疾患研究所生体防御学分野 小内 伸幸
樹状細胞(dendritic cell: DC)は、ほぼ全ての組織に分布し、病原性微生物の侵入を素
早く察知して、サイトカインを産生して貪食細胞を活性化し、同時に病原性微生物由来の
抗原を T 細胞に提示して免疫反応を始動•制御する重要な免疫担当細胞である。この DC は
強力な抗原提示能力を持つ従来型 DC(conventional DC: cDC)と抗ウイルス作用を持つ I 型
インターフェロン産生能力に卓越した形質細胞様 DC(plasmacytoid DC: pDC)の2つのサブ
セットに大別される。我々はこの DC サブセットを源となる共通 DC 前駆細胞(common DC
progenitor: CDP)を発見した。CDP は CD115 陽性(CD115+ CDP)と陰性(CD115‒ CDP)の 2 つ
前駆細胞から構成されていることも見出している。この CDP から各 DC サブセットへの分化
は骨髄内で実行・決定されている。骨髄には造血幹細胞の機能を維持している微小環境、
ニッチ細胞が存在する。このニッチ細胞は細網細胞、血管内皮細胞、間葉系幹細胞や骨芽
細胞などから構成され、サイトカイン、ケモカインや細胞接着因子を発現して幹細胞性を
維持しているが、他の前駆細胞への役割は不明である。そこで骨髄内の DC 分化制御機構を
明らかにするため、CD115‒ CDP に強く発現する転写因子 E2-2 の遺伝子発現調節領域の下流
に蛍光タンパク質遺伝子、Ksabiraorange(KuOr)を組み込んだレポーターマウスを作製し、
CD115‒ CDP の可視化を行った。また、Clec9A 分子が CD115+ CDP に特異的に発現し、この抗
Clec9A 抗体を用いると同細胞が可視化可能であり、このレポーターマウスと Clec9A 染色に
よって骨髄内の CDP の局在と各ニッチ細胞との相互関係を検討した。驚くべきことに、CDP
は特定のニッチ細胞とは相互作用している訳ではなく、骨髄内に一様に局在していた。
造血系サイトカイン Flt3 リガンドは DC 分化に必須なサイトカインである。そこで我々は
Flt3 リガンド産生細胞を可視化する目的で Flt3 リガンド-mCherry レポーターマウスを作
製した。このマウスを用いて骨髄内の Flt3 リガンド産生細胞を検討した結果、予想に反し
て、T 細胞、NK 細胞、NK-T 細胞が主な産生細胞であった。この中で、特にメモリーT 細胞
が主要な Flt3 リガンド産生細胞であった。さらに T 細胞に抗原刺激を与えると Flt3 リガ
ンド産生が増強することが明らかとなった。これらの結果から、CDP から分化した DC は末
梢のリンパ節において病原性微生物由来の抗原をナイーブ T 細胞に提示して獲得免疫を始
動させる。抗原刺激を受けたナイーブ T 細胞はメモリーT 細胞へと活性化•分化し、病原性
微生物の排除に働く。一方で、一部のメモリーT 細胞は骨髄内に移行して Flt3 リガンドを
産生して CDP に働きかけ DC サブセットへの分化を誘導するというポジティブフィードバッ
ク分化制御モデルが示唆された(図)。