(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №315 大型商業施設開店に対する道路整備について (株)修成建設コンサルタント 田中 博 (株)修成建設コンサルタント 田村 容子 (株)修成建設コンサルタント ○藤本 敦 論 文 要 旨 大型商業施設の開店に伴い、対象交差点へ流入する交通量が大幅に増加することが見込まれたため、交差点形状 の改良・交差点へ近接する施設への出入場方式の検討・通学路の改善等の対策を検討した。また、シミュレーショ ンなどを用いて、住民等へのわかりやすい資料作成を行った。 キーワード:大型商業施設,交差点改良,交通シミュレーション ま え が き 70m 1分07秒 30m 0分09秒 近年、大型商業施設の出店が多く見られている。大型商 140m(50m) 2分16秒 (17時台) No.1 業施設の出店により、既存道路において交通需要が増加す 70m 0分19秒 70m 0分19秒 ることが考えられ、交通容量に対する懸念も大きい。 50m 0分26秒 No.4 その懸念に対して、交差点改良による改善が 1 つの解決 策として挙げられる。交差点改良の実施について、需要率 60m(20m)1分08秒 (16時台) 80m 0分22秒 計算・交通シミュレーションなどを用いて、検討を行った。 180m(70m) 3分55秒 (16時台) 1.課題の把握 40m 0分22秒 (1)現状の課題 No.2 大型商業施設の開店に伴う課題を把握するにあたり、 30m 0分20秒 大型商業施設開店予定地の周辺道路における交通状況 450m(270m) 6分13秒 (16時台) 等を交通量調査や現地踏査を実施し、開店に伴って助長 されると想定される現状の課題を把握した。 100m(60m) 2分26秒 (16時台) No.3 340m(240m) 4分49秒 (16時台) 1)周辺交差点における渋滞状況の把握 大型商業施設開店予定地の周辺道路の主要交差点にお 210m(100m) 2分28秒 (16時台) いて、交差点方向別交通量状況調査を行った。渋滞長調 図-1 最大渋滞長図 査の結果、No.3 に最も交通が集中しており、大型商業施 設開業による交通需要が特に増加すると見込まれる休 2)渋滞原因の把握 日に、北側流入部で通過時間が 5 分を超えるなど渋滞し それぞれの交差点において需要率計算により交差点容 ている(図-1、表-1)。 量不足の有無、現地調査により箇所特有の円滑性阻害要 表-1 最大渋滞長一覧表(休日) 最大渋滞長 通過時間 北側流入部 東側流入部 南側流入部 西側流入部 北側流入部 No.2 東側流入部 南側流入部 北側流入部 東側流入部 No.3 南側流入部 西側流入部 北側流入部 南東側流入部 No.4 南西側流入部 北西側流入部 No.1 ― 50m ― ― 70m ― ― 270m 240m 100m 60m ― ― 20m ― ― 2分16秒 ― ― 3分55秒 ― ― 6分13秒 4分49秒 2分28秒 2分26秒 ― ― 1分8秒 ― 因を把握した。以降は No.3 交差点の渋滞要因をについ 時間帯 て取り上げる。 ― 17時台 ― ― 16時台 ― ― 16時台 16時台 16時台 16時台 ― ― 16時台 ― ①交差点需要率の計算結果 現状の交差点需要率は 0.592 であるが、 交通容量比が西 側、南側の右折、北側の直進において 0.8 を超えている。 また、滞留長については西側右折で 60m を超えている (表-2)。さらに大型商業施設の開店に伴う交通需要 の増大により、周辺道路における交通混雑が予想される。 - 1 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №315 表-2 現況の交差点需要率 交通量 交差点の需要率 左折・直進 北 右折 左折・直進 西 交通 右折 容量比 左折・直進 南 右折 左折・直進 東 右折 北 右折 西 右折 滞留長 南 右折 東 右折 休日 0.592 0.602 0.275 0.412 0.930 0.595 0.826 0.592 0.534 18.8 60.8 55.6 36.1 C) No.3 交差点はそれぞれの交差点角に商業施設等が あるため、交差点の半径が R=4.0m 程度と小さい。道路構 造令の普通自動車の最小回転半径 R=12.0m より小さいた め、スムーズに左折出来ない構造となっている(図-4)。 ②箇所特有の円滑性阻害要因 A) No.3 交差点には大きな需要がある既存の商業施設 出入り口があり、交差点直近で施設駐車場へ流入する構 造となっている。特に南側から来場する車両は当該交差 点を右折後に進入する必要があるため、交差点の混雑に 影響を与えている(図-2)。 No.3 交差点 図-4 交差点の左折状況 (2)将来予想される課題 1)周辺交差点における混雑の助長 現状においても、混雑が確認されたが、大型商業施設 施設への進入 に交差点の右 折が必要 の開店に伴う交通需要の増大により、周辺交差点で混雑 が助長されることが想定される。そこで、将来交通量配 分の結果に基づいて、交通需要率計算により交差点容量 不足の程度、ミクロシミュレーションにより視覚的な渋 既存商業施設 滞状況の助長程度を把握した。 ①交差点需要率の計算結果 特に交通量の増加が見込まれる休日において現況と将 来の比較を行った。そのため通学時の影響がなく、交雑 度は平日に比べて低い(表-3)。 図-2 既存商業施設への現況進入方法と混雑状況 表-3 休日の将来交差点需要率 交通量 交差点の需要率 左折・直進 北 右折 左折・直進 西 交通 右折 容量比 左折・直進 南 右折 左折・直進 東 右折 北 右折 西 右折 滞留長 南 右折 東 右折 B) 特に渋滞しているNo.3 交差点は小中学校の通学路 に指定されている。そのため通学・下校時間帯には、多 くの児童が当該交差点を横断し、右左折交通が阻害され る要因の1つとなっている(図-3)。 図-3 通学時の車両右左折阻害状況 - 2 - 現況 0.592 0.602 0.275 0.412 0.930 0.595 0.826 0.592 0.534 18.8 60.8 55.6 36.1 将来 0 .8 06 0 .9 18 0 .2 76 0 .6 28 0 .9 44 0 .8 75 0 .9 40 0 .7 93 0.534 18.8 60.8 6 4 .4 36.1 (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №315 2.対応策 ②ミクロシミュレーションの結果 (1)既存商業施設の出入場方法の検討 モデル作成においては、「歩行者横断」「左折車の 速度低下」「既存商業施設への車両出入り」に特に留意 既存商業施設の南側入口において、右折進入を許可する してモデルを作成した。その結果、捌け交通量について ことにより、当該交差点での北向右折車両を削減する(図 相関係数 0.989 となり高い再現性を確保出来た(図-5)。 -7)。 そのモデルを用いて、改良を行わない場合の将来の増 加交通量を流入させたところ、特に南側においては約 No.3 交差点 3km の滞留長が予測された(図-6)。 右折進入の許可→禁止 施設への進入に 交差点の右折が 不要となる 既存商業施設 図-5 捌け交通量の相関について 右折進入の禁止→許可 右折退場の許可→禁止 図-7 既存商業施設の出入場方法の変更 約 3km (2)通学路の変更 小学校の通学経路を図-8のように変更し、当該交差点 図-6 将来予測 での横断交通量を削減することで、横断交通による右左折 車への影響を小さくした。 (3)課題のまとめ 上記(1)、(2)より、対応すべき課題として、以 下が抽出された。 No.3 交差点 ・ 既存商業施設の出入場方法の検討 ・ 登下校する児童が当該交差点を通過しないような通学 路の経路変更 ・ スムーズに左折出来るような交差点形状の改善 図-8 通学路の変更 - 3 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №315 (3)交差点改良の実施 (2)交通シミュレーション 交差点の半径を大きくすることで、スムーズに左折出来 対応策を実施した場合のモデルについて確認すると、南 るようにした。(図-9)。 側の最大滞留長は約 2km となり、交差点改良により交通混 雑が改善されることが予測された(図-10) 。 改良後 現 況 大きくふくらんで 左折しなければな らない。 約 2km スムーズに 左折できる。 図-9 交差点改良 3.効果予測 図-10 将来予測(2) 2.の対応策を実施することによる改良効果について、 4.おわりに 交差点需要率および交通シミュレーションにより予測を 大型商業施設開業に伴う交差点改良について検討を行 行った。 った。交通シミュレーション等を行うことにより、地元説 (1)交差点需要率 明等においてわかりやすい資料を作ることが出来た。その 左折をスムーズにする交差点改良により、需要率が改善 ため改良の必要性について理解いただけた。その結果、早 している。加えて、既存商業施設の出入場方法を変更する 急な対策実施を実現できた。 ことで、交差点需要率および右折滞留長をさらに改善する 今後の課題として、開店後の交通状況の把握により想定 ことが可能となる(表-4) 。 された課題の改善状況の把握や、新たな課題の発生等につ いて把握する必要がある。開店後の交差点混雑状況によっ 表-4 改善の有無による交差点需要率 交通量 交差点改良 既存商業施設の出入場変更 交差点の需要率 左折・直進 北 右折 左折・直進 西 交通 右折 容量比 左折・直進 南 右折 左折・直進 東 右折 北 右折 西 右折 滞留長 南 右折 東 右折 現況 なし なし 0.592 0.602 0.275 0.412 0.930 0.595 0.826 0.592 0.534 18.8 60.8 55.6 36.1 なし 0.806 0.918 0.276 0.628 0.944 0.875 0.940 0.793 0.534 18.8 60.8 64.4 36.1 将来 あり なし 0.801 0.918 0.276 0.628 0.902 0.875 0.940 0.793 0.534 18.8 60.8 64.4 36.1 ては、交差点単体だけではなく、図-11に示すような道 路網での整備の検討も実施していく必要がある。 あり 0.76 8 0.918 0.276 0.628 0.90 2 0.875 0.65 3 0.793 0.534 18.8 60.8 45 .2 36.1 図-11 交通誘導施策 - 4 -
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