EU の対外経済関係と日本~回顧と展望

研 究 ノ ー ト
EU の対外経済関係と日本~回顧と展望
田中
信世
Nobuyo Tanaka
(一財) 国際貿易投資研究所
客員研究員
要約
近年の EU の貿易、投資など対外経済関係においては中国をはじめとす
る新興国の台頭を受けて、日本の重要性は低下しつつある。一方、経済の
低成長と高い失業率に悩む EU にとっては、貿易の拡大による経済の活性
化が重要な課題となっている。このため、EU では 2006 年に新通商戦略「グ
ローバル・ヨーロッパ」をとりまとめ、同戦略に基づき主要国との FTA
交渉を進めている。韓国との FTA はこの新通商戦略策定後最初の FTA で
あり、EU では同 FTA を自由化度の高い、「新世代 FTA」の見本として高
く評価している。現在、日本との間で進めている EPA 交渉は年内の合意
を目指しているが、EU では EU 韓国 FTA を念頭に、高度な内容での合意
を求めていることから、合意までにはまだまだ紆余曲折が予想される。
Ⅰ EU の貿易と投資
1.EU の商品貿易
本節では、最近の EU の貿易(商
<13 年に貿易収支は黒字に転換>
品とサービスの貿易)および外国直
2013 年における EU の域外商品貿
接投資(FDI)の動向について概観
易(輸出入額)は 3 兆 4,190 億ユー
する。
ロであった。
輸出は、リーマンショックの影響
46●季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101
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EU の対外経済関係と日本~回顧と展望
で 09 年に急激な減少を記録した。し
一方、13 年の域外からの輸入は 1
かし、その後増加に転じ 13 年には前
兆 6,820 億ユーロと前年比 6.5%減少
年比 3.2%増の 1 兆 7,370 億ユーロと
した。その結果、貿易収支は、02 年
いう記録的な水準に達した。
以降初めて黒字に転じた。
表1
2003
輸出
域外輸出計
米国
中国(2)
ロシア
スイス
ノルウェー
トルコ
日本
韓国
ブラジル
インド
輸入
域外輸入計
米国
中国(2)
ロシア
スイス
ノルウェー
トルコ
日本
韓国
ブラジル
インド
貿易収支
域外計
米国
中国(2)
ロシア
スイス
ノルウェー
トルコ
日本
韓国
ブラジル
インド
EU の域外貿易の推移(主要貿易相手国別 1)
(単位;10 億ユーロ)
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
861.9
227.4
41.5
37.3
71.4
27.7
30.9
41.0
16.5
12.4
14.6
945.2
235.7
48.4
46.1
75.3
30.8
40.2
43.5
17.9
14.2
17.2
1,049.5
250.8
51.7
56.7
86.3
33.7
44.6
43.7
20.2
16.0
21.3
1,162.4
267.0
63.7
72.4
89.5
38.4
50.0
44.8
22.8
17.7
24.2
1,234.3
259.6
71.8
89.2
93.1
43.5
52.8
43.7
24.7
21.3
29.2
1,309.1
248.1
78.3
105.0
100.6
43.7
54.5
42.4
25.5
26.3
31.4
1,094.0
203.8
82.4
65.7
88.8
37.5
44.5
36.0
21.6
21.6
27.5
1,363.2
242.7
113.5
86.3
110.5
41.9
61.8
44.0
28.0
31.5
34.9
1,554.3
264.1
136.4
108.6
142.1
46.8
73.3
49.1
32.5
35.8
40.6
1,683.1
292.8
144.0
123.4
133.5
49.9
75.4
55.8
37.8
39.7
38.5
1,737.0
288.2
148.3
119.8
169.6
50.2
55.8
54.0
40.0
40.1
35.9
935.3
158.4
106.6
71.3
59.3
51.1
27.4
72.6
26.1
19.2
14.1
1,027.4
159.7
129.2
84.9
62.2
55.3
32.9
74.9
30.8
21.8
16.4
1,183.9
159.2
161.0
114.0
66.7
67.2
36.2
74.4
34.6
24.1
19.1
1,364.6
170.7
195.8
142.7
71.6
79.2
41.9
78.4
40.9
27.3
22.6
1,446.8
177.4
233.9
146.9
77.0
76.6
47.4
79.3
41.7
32.9
26.7
1,585.2
182.8
249.1
180.4
82.7
95.9
46.3
76.5
39.7
36.0
29.6
1,235.6
155.3
215.3
119.6
80.9
68.9
36.4
58.4
32.5
26.1
25.5
1,532.1
173.4
283.6
162.1
85.5
79.0
42.8
67.4
39.5
33.4
33.4
1,728.3
192.0
294.8
201.3
93.5
93.9
48.4
70.8
36.3
39.1
40.0
1,798.6
206.5
291.6
215.1
105.9
101.0
48.3
64.7
38.0
37.4
37.5
1,682.4
196.0
280.1
206.5
94.3
90.0
50.4
56.5
35.8
33.0
36.8
-73.4
69.0
-65.1
-34.0
12.2
-23.4
3.5
-31.6
-9.7
-6.8
0.6
-82.2
76.0
-80.8
-38.8
13.1
-24.6
7.3
-31.5
-12.9
-7.6
0.7
-134.4
91.6
-109.3
-57.3
19.6
-33.5
8.4
-30.6
-14.4
-8.1
2.1
-212.2
96.4
-132.1
-70.3
16.8
-40.8
8.1
-33.7
-18.1
-9.6
1.6
-212.5
82.2
-162.0
-57.7
16.1
-33.2
5.5
-35.5
-17.0
-11.6
2.5
-276.1
66.3
-170.8
-75.5
18.0
-52.2
8.2
-34.1
-14.2
-9.7
1.7
-141.7
48.5
-132.9
-53.9
7.9
-31.4
8.0
-22.5
-10.9
-4.5
2.0
-178.9
69.3
-170.1
-75.8
25.0
-37.1
19.0
-23.5
-11.6
-1.9
1.5
-174.1
72.1
-158.4
-92.7
48.6
-47.0
24.9
-21.7
-3.8
-3.3
0.6
-115.5
86.3
-147.6
-91.7
27.6
-51.1
27.1
-9.2
-0.2
2.2
1.0
54.8
92.3
-131.8
-86.7
75.3
-39.8
27.4
-2.5
4.1
7.0
-0.9
(注 1)貿易相手国は 2013 年の輸出入金額の多いもの順。
(注 2)香港を除く。
(出所)EU 統計局(Eurostat)
季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101●47
http://www.iti.or.jp/
最大の輸出国はドイツで、EU の
した。大幅な減少となったのは、日
域外輸出の 27.1%を占めた。ドイツ
本(12.7%減)
、ブラジル(11.8%減)
、
に次ぐ主要輸出国は英国(13.3%)、
スイス(11.0%減)およびノルウェ
イタリア(10.4%)、フランス(10.2%)
ー(10.9%減)であった。輸入の 6
の 3 カ国である。
分の 1 を占める中国も 4.0%減少し
また最大の貿易黒字を記録したの
もドイツで、1,540 億ユーロの黒字で
たものの、中国は最大の供給国の地
位を維持した。
あった。ドイツに次ぐ黒字国はアイ
ルランド(225 億ユーロ)とイタリ
<主力商品は小幅な伸び>
ア(200 億ユーロ)である。
EU の 2 大輸出商品グループは機
械・輸送機器とその他の工業品であ
<スイス、韓国向けなどが増加>
る。13 年においては、これら商品の
13 年の輸出を主要輸出相手国別
輸出は、それぞれ 0.6%増、1.0%増
にみると前年と比べてかなりの変化
と小幅な増加にとどまった。13 年に
がみられた。大幅に増加したのは、
最も大幅に増加したのは、食品・飲
スイス向け(27.0%増)で、韓国、
料・たばこ(5.4%増)であった。
トルコおよび中国向けもそれぞれ
輸入では、鉱物性燃料・潤滑油が
5.8%増、3.1%増、3.0%増となった。
前年比 9.1%減と大きく落ち込んだ。
これに対して、インド向けは 6.9%減
鉱物性燃料・潤滑油のほぼ 3 分の 1
少し、ロシア(2.9%減)、日本(2.8%
(32.2%)はロシアからの輸入であ
減)
、米国(1.6%減)も減少した。
る。
EU の最大の輸出相手国は米国で、
13 年の EU の貿易黒字 546 億ユー
域外輸出に占める米国のシェアは
ロは機械・輸送機器と化学品の輸出
03 年の 26.4%から 13 年には 16.6%
が小幅増にとどまったものの、鉱物
に落ち込んだものの、依然として最
性燃料・潤滑油の輸入が減少したこ
大の輸出先である。
とによってもたらされた。
一方、輸入は、トルコ(4.4%増)
を除いて、主要国からの輸入が減少
48●季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101
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EU の対外経済関係と日本~回顧と展望
13 年のサービス輸出の主要輸出先
2.サービス貿易の黒字も大幅増
は米国(1,607 億ユーロ)で EU のサ
サービス貿易の拡大は経済成長に
ービス輸出(域内・域外の合計)の
つながることから、EU ではサービ
10.5%を占めた。スイス(830 億ユー
ス部門の活性化と貿易の拡大に力を
ロ、5.4%)
、中国(324 億ユーロ、2.1%)
、
入れている。
ロシア(292 億ユーロ、1.9%)
、日本
13 年における EU の域外サービス
(233 億ユーロ、1.5%)がこれに次
貿易は輸出が前年比 3.4%増の 6,844
いだ。輸入でも、最大の相手国は米
億ユーロと増加し、輸入は同 0.5%増
国(1,480 億ユーロ、全サービス輸入
の 5,112 億ユーロと微増にとどまっ
の 11.7%)であり、スイス(620 億ユ
た。その結果、サービス貿易の黒字
ーロ、同 4.9%)
、中国(210 億ユーロ、
は前年比 12.9%増の 1,732 億ユーロ
1.6%)
、ロシアおよび日本(いずれも
と大幅に増加した。
140 億ユーロ、1.1%)が続いた。
表2
EU および主要国のサービス貿易(2008、12、13 年)
(単位;10 億ユーロ、%)
輸出
EU
ユーロ圏(17カ国)
ドイツ
フランス
イタリア
ルクセンブルク
オランダ
オーストリア
スウェーデン
英国
日本
米国
2008
525.3
512.9
174.7
112.9
78.8
46.5
85.9
43.4
47.2
195.0
100.8
364.2
2012
661.9
626.7
210.5
168.3
81.8
56.2
103.8
47.1
55.3
227.9
113.3
507.1
輸入
2013
684.4
661.2
226.7
178.5
83.5
60.3
87.5
49.1
57.2
225.4
…
…
13/12増
加率
3.4
5.5
7.7
6.1
2.0
7.4
-15.7
4.3
3.6
-1.1
…
…
2008
454.0
470.0
200.3
96.4
87.4
26.5
76.5
29.1
35.9
138.3
114.9
274.7
2012
508.5
537.9
230.2
135.7
82.6
32.8
93.6
33.0
42.4
141.6
137.6
346.1
2013
511.2
549.1
239.9
142.3
60.5
36.5
73.7
33.7
43.9
136.4
…
…
貿易収支
13/12増
加率
0.5
2.1
4.2
4.9
-2.5
11.0
-21.2
2.1
3.6
-3.7
…
…
2008
71.3
42.9
-25.6
16.5
-8.6
20.0
9.5
14.2
11.3
56.7
-14.0
89.5
2012
153.4
88.7
-19.7
32.6
-0.7
23.4
10.3
14.1
12.9
86.2
-24.3
161.0
2013
173.2
112.1
-13.1
36.2
3.0
23.9
13.6
15.4
13.4
89.0
…
…
注)13 年は暫定値。EU とユーロ圏は域外貿易。個別加盟国は域内貿易を含む。EU は 08
年は 27 カ国、12 年と 13 年は 28 カ国。
季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101●49
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EU のサービス貿易を種類別に見
べて小幅な増加にとどまったものの、
ると、輸出入の 3 分の1(輸出 2,190
対外、対内ともにそれぞれ 5.4%、
億ユーロ、輸入 1,460 億ユーロ)が
2.1%増加した。
その他のビジネスサービスである。
EU の対外直接投資を投資先別に
次いで運輸(輸出 1,400 億ユーロ、
みると、12 年末の時点で、米国が全
輸入 1,160 億ユーロ)、旅行(輸出
体の約 32%(1 兆 6,550 億ユーロ)
1,010 億ユーロ、輸入 870 億ユーロ)、
と最大のシェアを占めた。加盟国の
金融サービス(輸出 590 億ユーロ、
中で米国への投資が多かったのは英
輸入 230 億ユーロ)と続いている。
国、フランスとドイツであった。
米国に次ぐ投資先国はスイスで、
3.EU の外国直接投資(ストック)
全体の 13%を占めた。スイスでの
EU 企業の主な活動は金融サービス
<対外、対内とも米国が最大>
である。次いでカナダ向けが多く、
11 年の EU の対外直接投資(スト
カナダは 12 年にはブラジルを抜い
ック)は 17%増加し、対内直接投資
て EU の対外直接投資の 5%を占め
も 20%増加した。12 年も 11 年に比
た。
表3
EU27 の主要投資先国別、受入国別直接投資残高(各年末)
(単位;10 億ユーロ)
EU27合計
米国
スイス
カナダ
ブラジル
ロシア
オーストラリア
香港
シンガポール
中国
日本
2010
4,237.0
1,266.9
555.5
197.7
198.9
130.6
120.2
112.3
109.5
81.0
98.1
域外向け直接投資
2011
2012
比率(12)
4,940.9
5,206.8
100.0
1,598.9
1,655.0
31.8
683.5
679.0
13.0
228.6
258.0
5.0
248.2
246.8
4.7
169.4
189.5
3.6
128.0
141.6
2.7
119.8
132.9
2.6
124.8
118.7
2.3
103.0
118.1
2.3
100.5
98.8
1.9
域外からの直接投資の受け入れ
2010
3,144.7
1,247.7
394.8
146.1
90.4
50.3
30.4
41.5
56.5
6.1
133.4
2011
3,768.1
1,526.8
482.6
139.0
96.9
57.2
35.9
64.7
60.3
18.5
147.0
2012
比率(12)
3,947.4
100.0
1,536.4
38.9
505.2
12.8
142.6
3.6
98.1
2.5
76.6
1.9
34.3
0.9
50.2
1.3
68.6
1.7
26.8
0.7
161.5
4.1
(出所)EU 統計局(Eurostat)のオンラインデータより作成
50●季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101
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EU の対外経済関係と日本~回顧と展望
アジアの主な投資先は香港、シン
Ⅱ
日本との貿易・投資関係
ガポール、中国であり、この 3 カ国
で 12 年のアジア向け直接投資のほ
本節では、EU の対外経済関係の
ぼ半分を占めた。日本(988 億ユー
中で、日本との通商関係の推移をみ
ロ)はアジアのトップ 3 カ国には入
るとともに、EU が日本との EPA 交
っていない。
渉を行うに先立ち 2009 年にシンク
一方、対内直接投資(ストック)
タンクに委託して実施した調査
でも、12 年末の時点で、米国が全体
「EU・日本間の貿易と投資障壁の評
の 39%(1 兆 5,360 億ユーロ)を占
価」
(以下、
「障壁評価調査」
)の中で、
め、EU への最大の投資国としての
EU や EU 企業が日本市場をどのよう
地位を維持した。米国の投資は金融
に位置付け評価しているのかについ
サービス部門が最も多く、製造業部
て概観する。
門がこれに次いだ。製造業部門の 3
分の 1 は石油、化学、医薬品、ゴム・
プラスチック製品であり、3 分の 1
1.輸出市場としての日本~EU の
見方
は食品、飲料およびたばこであった。
米国に次ぐ EU への投資国はスイ
スで、12 年には前年比約 5%増の
<輸出先としての日本の重要性
は低下>
5,050 億ユーロを投資した。EU への
EU と日本の貿易関係は両国(地
直接投資のシェアが比較的大きかっ
域)の経済にとって重要である。EU
たその他の国は日本とカナダ(各
と日本はそれぞれ世界の GDP の
4%)であり、ブラジル、ロシア、シ
24%と 6%を占め(14 年)
、世界貿易
ンガポール、香港がこれに次いだ。
(輸出)の 32%と 4%を占めている
中国の EU 向け投資は 12 年に 44%
(13 年)。13 年に EU は日本へ 540
増加したが、同年末の時点では中国
億ユーロの商品を輸出し、日本から
はまだ上位 10 カ国には入っていな
565 億ユーロを輸入した。
い。
日・EU 間の貿易の推移をみると、
日本は過去 10 年間に EU の輸出市場
季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101●51
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としての重要性を失いつつある。02
億ユーロの大台に乗り、中国は米国
年まで日本は、米国、スイスに次ぐ
に次ぐ第 2 の輸出先国に躍進した。
第 3 の輸出先国であった。しかし、
13 年は中国向け輸出は 1,483 億ユー
03 年には中国に抜かれて日本は 4 位
ロと米国(2,882 億ユーロ)、スイス
に転落した。04 年には、ロシア向け
(1,696 億ユーロ)に次ぐ第 3 の輸出
輸出の急増により、ロシアが第 4 位
市場となっている。また、EU の韓
の輸出先国となったため、日本は第
国向け輸出は、05 年から 10 年まで
5 位に後退した。さらに 05 年にはト
は 200 億ユーロ台で推移していたが、
ルコが第 5 位に躍り出たため、日本
11、12 年には 300 億ユーロ台に増加
は第 6 位に転落し現在に至っている。
し、さらに 13 年には初めて 400 億ユ
その間、EU の中国向け輸出は 10
ーロの大台に乗るなど、着実に日本
年に 1,135 億ユーロと初めて 1,000
表4
年次
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
輸入額
(100万ユーロ)
72,607
74,920
74,351
78,430
79,259
76,474
58,440
67,302
70,581
64,819
56,565
に迫りつつある。
EU の日本との貿易の推移(2003~13 年)
輸入
増加率
(前年比)
(%)
3.2
-0.8
5.5
1.1
-3.5
-23.6
15.2
4.9
-8.2
-12.7
輸出
貿易収支
域外輸出に
域外輸入に
増加率
輸出額
占める比率
(前年比) 占める比率 (100万ユーロ)
(100万ユーロ)
(%)
(%)
(%)
7.8
41,040
4.8
-31,567
7.3
43,469
5.9
4.6
-31,451
6.3
43,723
0.6
4.2
-30,628
5.7
44,753
2.4
3.9
-33,677
5.5
43,742
-2.3
3.5
-35,518
4.8
42,390
-3.1
3.2
-34,084
4.7
35,978
-15.1
3.3
-22,462
4.4
43,984
22.3
3.3
-23,318
4.1
49,075
11.6
3.2
-21,506
3.6
55,657
13.4
3.3
-9,162
3.4
54,076
-2.8
3.1
-2,489
総貿易額
(100万ユーロ)
113,646
118,389
118,075
123,184
123,001
118,865
94,418
111,286
119,657
120,476
110,641
(出所)EU 統計局(Eurostat)
52●季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101
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EU の対外経済関係と日本~回顧と展望
一方、日本の輸入を輸入相手国別
の解消が日 EU 間の最大の通商問題に
にみると、EU からの輸入は 601 億
なってきた。しかし、その後の EU の
ユーロと輸入全体の 9.4%を占め、
日本向け輸出の漸増傾向、日本からの
EU は中国に次ぐ第 2 の輸入先とな
輸入の低迷を反映して、
EU の対日貿易
っている(いずれも 13 年)。
赤字は 09~11 年には 200 億ユーロ台、
過去 10 年間の EU の対日貿易収支は
さらに 12 年には 92 億ユーロ、13 年に
03~08 年には 300 億~350 億ユーロ台
は 25 億ユーロに激減するなど、対日貿
の赤字で推移し、巨額の対日貿易赤字
易赤字は近年大幅に改善してきている。
表5
日本の主要輸出入相手国・地域(2013 年)
(単位;金額 100 万ユーロ、世界貿易に占める比率%)
輸入
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
輸入相手国・地域
世界
中国
EU
米国
オーストラリア
サウジアラビア
アラブ首長国連邦
カタール
韓国
マレーシア
インド禰泗い亜
輸入額
638,251
138,628
60,121
55,164
39,085
38,244
32,595
28,367
27,482
22,826
22,124
比率
100.0
21.7
9.4
8.6
6.1
6.0
5.1
4.4
4.3
3.6
3.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
輸出
輸出相手国・地域
輸出額
世界
547,974
米国
103,058
中国
98,959
EU
55,106
韓国
43,327
香港
28,639
タイ
27,594
シンガポール
16,074
インドネシア
13,060
オーストラリア
13,000
マレーシア
11,683
比率
100.0
18.8
18.1
10.0
7.9
5.2
5.0
2.9
2.4
2.4
2.1
(出所)Eurostat、IMF
季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101●53
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こうした EU の輸出市場としての
水準にとどまっているとしている。
日本の後退にはいろいろな要因が考
そして 08 年における EU の日本への
えられる。過去 10 年間の中国、ロシ
総輸出は、サービス輸出を含めて約
ア、トルコといった新興経済国の急
610 億ユーロであったが、日本にお
速な経済発展と比較して相対的に低
ける輸入浸透率がその他の主要輸出
い日本の経済成長が日本の輸出市場
相手国並みに上昇した場合には EU
としての地位低下の要因の一つに数
の日本向け輸出は 44%(270 億ユー
えられる。
ロ)増加すると分析している。
さらに、東アジア諸国の急速な経
済成長と経済統合に伴う地域内貿易
<関税は低い>
の拡大も EU の輸出市場としての日
EU の「障壁評価調査」は EU と日
本の地位低下をもたらした要因とな
本の関税について次のように分析し
った。
ている。すなわち、EU、日本とも関
現在 EU と日本が目指している
税は低く、平均関税率はともに 3.8%
日・EU 間の FTA(EPA)締結による
である。しかし、加重平均では日本
日本市場の開放は、こうした日本の
の関税率が 1.7%であるのに対して
地位低下の歯止めになり、二国(地
EU は 3.4%である。これは、EU が
域)間貿易に新たな刺激を与えるも
貿易額の大きい製品に高い関税を課
のと EU では期待している。
しているのに対して、日本の関税ピ
ークは EU が日本向けにそれほど大
<低い日本の輸入浸透率>
規模に輸出していない製品にあるこ
EU の「障壁評価調査」では、EU
とによる。
からの輸入を含む日本の輸入全般を
以上のことから、同調査では、日
押し下げている要因として輸入浸透
本の輸入水準の低さは関税では説明
率(総需要に占める輸入比率)の低
することはできないとし、EU・日本
さを挙げている。
間の貿易の低水準の理由を見つける
同調査では、EU の日本市場への
浸透は日本以外の市場と比べて低い
には非関税措置の影響を見る必要が
あると分析している。
54●季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101
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EU の対外経済関係と日本~回顧と展望
2.日本における非関税障壁
3.公共調達市場でも参入障壁
「障壁の評価調査」は、欧州委員
EU の「障壁評価調査」では、EU 企
会、世界貿易機関(WTO)、米国国
業の日本市場への参入を困難にして
務省などの政策文書の中で挙げられ
いる分野として公共調達を挙げてい
た日本市場の障壁を 215 件リストア
る。建設と運輸(電車またはその他の
ップし、このうち 194 件がいわゆる
都市交通機器を含む鉄道など)が主要
「非関税障壁措置」であるとしてい
な部門であるが、サービス部門(水処
る。194 件の内訳は、農業部門が 4、
理など)でも困難に直面しているとし
製造業部門が 99、サービス部門が 62、
ている。同調査によると、公共調達市
部門横断的な項目(関税手続きや競
場で EU 企業が直面している困難は 2
争政策など)が 29 件であった。
つのカテゴリーに分けられる。
表6
公共調達関連の非関税障壁措置
・調達の決定が非競争的なベースで行われている(EBC)
・公共調達システム(包括的な入札評価システム)が必ずしも常に使われていない(EBC)
・広範囲の入札業者の義務(USG)
・政府の情報通信入札における非競争的な規則(USG)
・政府調達における透明性の欠如(USG)
・政府の情報通信調達においてバックデートが認められている(USG)
・日本の特殊な調達要件(EBC)
・グリーン調達が国際的な慣行に対応していない(EBC)
・厳格な技術要件にあまりにも重点が置かれすぎている(グリーン調達)(EU)
・(公開)入札における制限的な資格要件(EU)
・公開調達手続きや競争手続きあるいは選択的な入札との間に実質的な相違がない(EU)
・調達規則の不十分な実施(EU)
・入札前の評価プロセスが長い(EU)
・EUの統一された入札業者データベースに匹敵するデータベースにワンポイントでアクセスできない(EU)
・2年ごとの公共調達契約への強制的な企業登録(EU)
・公共調達のための複雑な法的枠組みおよび英語版がないこと(EU)
・e調達における法的、技術的選択に関する情報交換が限られていること(EU)
注)カッコ内は政策文書の中で当該項目を障壁として挙げた機関。EBCはEuropean Business
Council in
注)カッコ内は政策文書の中で当該項目を障壁として挙げた機関。EBC
は European
Japan(欧州ビジネス協会)。
Business Council in Japan(欧州ビジネス協会)
(出所)コペンハーゲン経済研究所、「EU・日本間の貿易と投資障壁の評価」
季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101●55
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①市場アクセスの問題-当該分野が
日 本 の WTO の 政 府 調 達 協 定
されている。これに対して、日本の
しきい値は 1,500 万 SDR である。
(GPA)のコミットメントに含ま
このように、EU と日本とでは、
れていないか、コミットした金額
GPA の下でのコミットメントに相違
が WTO の基準以下であるため、
がある。このコミットメントは一般
外国企業は入札から除外されてい
的に協定締結国が同様のアクセスを
る。
認めるという条件付きで認められて
②公共調達規則の問題-当該分野は
いる。その結果、EU を含む多くの
GPA によって、原則として EU 企
GPA 署名国は日本と同様な方法で自
業にも開放されているが、調達に
国の市場に対する日本のアクセスを
関連する特別な規則により EU 企
制限してきた。
業は依然として困難に直面してい
る。
<日本の公共調達市場の規模>
公共調達規則に関連した問題の一
欧州委員会が 08 年に行った公共
例として「障壁評価調査」が挙げて
調達市場に関する研究、
「EU と主要
いるのは、JR や都市交通運営体の調
GPA 署名国の公共調達市場の規模に
達における「運行上の安全条項」で
関する比較分析」によれば、07 年の
ある。同調査では、この条項がその
日本の公共調達の市場規模は全体で
意図的な利用のために外国企業のア
5,650 億ユーロと推定されている。こ
クセスを事実上妨げているとしてい
れは日本の GDP の約 18%に相当し、
る。
EU の GDP 比 19%とほぼ同じである。
また、EU 企業が直面している問
公共調達市場の 83%(4,690 億ユー
題には市場アクセスの問題もある。
ロ)以上は GPA のしきい値以下であ
一例として挙げられるのは建設作業
ることから、これらは国内企業によ
のしきい値(threshold)(最低基準)
る小規模な契約によって構成されて
に関する EU と日本の違いである。
いる。市場全体の残りの部分は 2 つ
EU のしきい値は 500 万 SDR で、こ
に分けられる。
の金額以上の契約は外国企業に開放
ひとつは、日本の現在の GPA コミ
56●季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101
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EU の対外経済関係と日本~回顧と展望
ットメントの下で外国企業にすでに
た「潜在的にオープン」な市場は、
開放されているオープンな部分であ
EU がその他の締結国に対してすで
り、220 億ユーロ(しきい値以上の金
に開放をコミットしているが、日本
額の 23%、
公共調達市場全体の 3.8%)
にはレシプロ(相互主義)により開
である。このオープンな市場でも、前
放をコミットしていない市場である。
述のように調達規則に関連した問題
EU によると、EU が日本に対して
開放している調達市場は約 2,600 億
や契約手続きの問題がみられる。
もうひとつは、
「潜在的にオープン
ユーロに達し、しきい値以上の公共
な」部分である。これは、日本が GPA
調達の 70%(調達市場全体の 13%)
の適用対象から除外している部分
である。このことから、EU では、
(740 億ユーロ、調達市場全体の
GPA のレシプロ条項にもかかわらず、
13%)である。「潜在的にオープン」
日本は EU の公共調達市場へのはる
な市場の一部には国防関連の契約な
かに大きいアクセスから利益を得て
ども含まれているので、これを除い
いるとしている。
表7
日本の公共調達市場の規模(2007 年)
(単位;10 億ユーロ)
公共調達市場
市場規模
「オープン」;GPAの下で開放をコミットしている市場
22
「潜在的にオープン」;GPAの対象であるが適用除外となっている市場
74
GPAの対象とならない公共調達市場
469
公共調達市場合計
565
(出所)欧州委員会調査、2008 年
季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101●57
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ラムの策定(06 年)、④20 年の 12
4.低水準の対内投資残高
年比対日投資残高と対 GDP 比の倍
OECD の外国直接投資統計によれば、
日本の対内直接投資残高は OECD 諸国
増目標設定(13 年)、などの取り組
みを行っている。
の中では最低水準にとどまっている。
こうした対日投資拡大努力により、
07 年の対内直接投資残高の GDP 比は
13 年には日本の対内直接投資残高
OECD 加盟国平均で 33.8%であったが、
の GDP 比は 3.5%に上昇したが、こ
日本は GDP のわずかに 3.1%であった。
の間に EU も同比率を 50.6%に高め
これに対して、EU は 47.7%、米国は
ており、日本の外国直接投資の受け
16.2%、カナダは 35.7%である。
入れが諸外国と比べて低い状況は大
こうした対内直接投資の低水準を
きくは変わっていない。EU では、
打開するために、日本では、①対日
日本の外国直接投資受け入れ能力は
投資会議の設置(94 年)、②01~06
高いが実績が伴わない現状からみて、
年間の対日投資残高の倍増目標の設
対内直接投資受け入れの潜在力は大
定(03 年)、③対日投資加速プログ
変大きいとみている。
表8
対内直接投資額残高の GDP 比
(単位;%)
地域・国名
OECD加盟国平均
EU
米国
カナダ
日本
対内外国直接投資残高のGDP比
2007
2013
33.8
32.1
47.7
50.6
16.2
18.9
35.6
35.7
3.1
3.5
(出所)OECD、International Direct Investment Statistics, 2014
58●季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101
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EU の対外経済関係と日本~回顧と展望
日本の対内直接投資の水準が低い
Ⅲ
EU の FTA 戦略
理由のひとつとして、EU の「障壁
評価調査」は、OECD 諸国と比べて
1.FTA で貿易と投資の拡大を目
日本の M&A 取引件数が少ないこと
指す
を挙げている。
また、同調査は、日本に投資する
低成長と高失業率は近年の欧州経
場合の障壁についてのアンケート結
済を特徴づけるキーワードとなって
果も掲載している。これは、米国、
いる。
欧州およびアジアの企業 209 社を対
低迷する経済を活性化させるため、
象に日本に投資するうえでの障壁に
EUはこれまで、リスボン戦略(00
ついて聞いたもので、この調査では、
年)
、新リスボン戦略(05年)などを
「 言 語 」( 全 体 の 30 % )、「 課 税 」
策定し、現在は成長戦略Europe 2020
(24%)、
「労働コスト」
(13%)など、
(10年)により、経済の活性化を取
企業が障壁と考えるさまざまな項目
り戻そうと模索している。
が挙げられた。また、外国直接投資
一方、近年 EU では FTA の締結を
を増やすために日本政府が取るべき
通じた貿易の拡大が経済の活性化と
措置は何かという質問に対しては、
雇用の創出のために重要であるとの
「税の引き下げ」
(全体の 45%)
、
「労
認識が高まっている。こうした認識
働コストの引き下げ」
(38%)が多く
の高まりを背景に EU が 06 年に策定
挙げられ、これに次いで「簡素で、
したのが新通商戦略「グローバル・
弾力的な行政手続き」
(25%)という
ヨーロッパ」
(Global Europe)である。
回答が多かった。
「グローバル・ヨーロッパ」は EU
同調査では、ここに挙げられた「障
の経済成長にとっての FTA の重要
壁」のうち、行政手続きの複雑さは
性を強調したうえで、今後締結する
政府が比較的取り組みやすい問題で
FTA はこれまでの FTA とは異なる
あり、改善の余地が大きいと指摘し
「新世代の FTA」として位置付け、
ている。
関税の撤廃に加え、①包括的かつ野
心的な自由化の達成、②非関税障壁
季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101●59
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の撤廃、③投資、知的財産権、公共
の最初の FTA として EU 韓国 FTA を
調達、競争条項を含める、③環境、
締結した(11 年 7 月発効)。
社会問題の観点から持続的な発展の
さらに EU は韓国との FTA 締結後
条項を含める、などが重要としてい
も、カナダや中央アジア 6 カ国、ペ
る。
ルー、コロンビアとも FTA を締結し、
そのうえで、
「グローバル・ヨーロ
近隣諸国のウクライナ、モルドバ、
ッパ」は、FTA 交渉の対象国の選定
グルジアとの間でも「深化した包括
基準として、①市場の潜在力(経済
的な FTA」
(Deep and Comprehensive
規模と成長性)、②EU の輸出利益を
FTAs)を締結した。
損なう相手国の保護水準の 2 点を示
こうした各国との FTA の締結は
した。②は、EU の輸出・投資に対
EU 貿易の FTA カバー率の急速な拡
する相手国市場の閉鎖性や、関税水
大をもたらしつつある。
準および非関税障壁に加え、EU の
欧州委員会が 15 年 4 月にまとめた
競争相手国と当該国の FTA 締結状
FTA の効果に関する報告書によれば、
況などから判断されるとしている。
EU 貿易の FTA カバー率は「グロー
そして、交渉対象地域として特にア
バル・ヨーロッパ」策定以前には貿
ジア重視の姿勢を打ち出し、韓国を
易全体の 4 分の 1 以下であったが、
FTA 交渉の優先国の一つに掲げた。
現在は約 3 分の 1 であり、現在進行
こうして EU は 07 年 5 月に韓国と
中の FTA 交渉がすべて完了した場
の間で FTA 交渉を開始し、計 8 回に
合には EU 貿易全体の 3 分の 2 に上
わたる交渉の末、新通商戦略策定後
昇すると見込まれている。
60●季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101
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EU の対外経済関係と日本~回顧と展望
表9 EU の輸出入と投資残高~貿易と投資に占める FTA の比率
1 . 発効済みのFT A
チリ
メキシコ
南ア共和国
EFTA(1)およびトルコ
カリブ海諸国、太平洋諸国、ESA、
カメルーン(2)
韓国
地中海諸国(3)
西バルカン諸国(4)
グルジア、モルドバ
コロンビア
中米
2 . 締結済みのFT A( 未発効)
ウクライナ
シンガポール
カナダ
エクアドル
WA、EAC、SADC(5)
3 . 交渉中のFT A
日本
米国
ASEAN(6)
マレーシア
ベトナム
タイ
メルコスール
インド
中央アフリカ
4 . その他
商品貿易(2014)
輸入
輸出
27.1
31.1
0.5
0.4
1.1
1.7
1.1
1.4
14.3
15.8
サービス貿易(2013)
輸入
輸出
2 6 .6
29.1
0.3
0.5
0.7
1.1
0.8
1.0
15.9
19.3
FDI(ストック)(2013)
対内FDI
対外FDI
18.1
2 4 .3
0.1
0.5
0.6
2.1
0.2
0.9
13.9
16.2
0.6
0.8
1.6
1.0
1.0
0.5
2.3
5.0
0.9
0.1
0.8
0.4
6.8
0.8
1.0
1.6
0.2
3.2
29.3
3.2
12.2
5.0
1.2
1.3
1.1
2.7
2.2
0.4
36.8
2.5
6.0
1.4
0.3
0.6
0.3
7.2
1.0
1.7
1.9
0.1
2.5
31.6
3.1
18.2
3.0
0.8
0.4
0.7
3.0
2.1
0.3
30.0
1.1
4.3
0.7
0.1
0.4
0.5
6 .9
0.5
2.5
2.1
0.1
1.7
4 1 .9
2.7
30.1
2.8
0.6
0.3
1.1
1.8
2.3
0.2
2 4 .6
1.5
2.9
0.7
0.1
0.5
0.5
8.1
0.7
2.3
2.5
0.1
2.5
37.9
3.5
25.5
2.1
0.6
0.2
0.5
3.3
1.6
0.5
24.9
0.5
1.6
0.0
0.0
0.1
0.1
4.6
0.0
1.2
3.1
0.0
0.4
50.7
4.2
43.7
0.4
0.4
0.0
0.0
1.8
0.2
0.0
26.6
0.7
2.0
0.6
0.6
0.5
0.2
8 .8
0.6
1.9
4.6
0.1
1.6
4 5 .5
1.6
34.4
1.3
0.4
0.1
0.2
6.6
0.7
0.2
2 1 .5
注(1)欧州自由貿易連合(European Free Trade Association;EFTA)にはアイスラン
ド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスが含まれる。
(2)太平洋諸国 EPA にはパプア・ニューギニアとフィジーが含まれる。東南アフリカ
諸国との協定は暫定的にモーリシャス、セイシェル、ジンバブエおよびマダガス
カルに適用されている。
(3)地中海諸国にはアルジェリア、エジプト、ヨルダン、レバノン、リビア、モロッ
コ、パレスチナ自治政府、シリアおよびチュニジアが含まれる。シリアとの協定
は発効していない。リビアとの間では自由貿易協定はない。
(4)西バルカン諸国にはアルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア共和国、
コソボ、モンテネグロおよびセルビアが含まれる。
(5)西アフリカ(WA)、東アフリカ共同体(EAC)および南部アフリカ開発共同体の
EPA グループ(6 カ国)との間で 3 つの協定が締結されている。
(6)東南アジア諸国連合(ASEAN)には、ブルネイ・ダルサラーム、カンボジア、イ
ンドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タ
イおよびベトナムが含まれる。シンガポールはこの数字の中には含まれていない。
(出所)欧州委員会資料、“How Trade Policy and Regional Trade Agreements support
and strengthen EU Economic Performance”
季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101●61
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2.EU 韓国 FTA に対する EU の評価
って設立された特別委員会の定期会
合を通じて高められた。また電子・
<野心的で相互主義的な FTA の見
本>
電気機器、自動車および同部品、医
薬品、医療機器および化学製品に関
上記の FTA の効果に関する報告
する業種別付属文書は緊急事態が起
書では、協定発効後 3 年以上が経つ
こった場合に対処するためのツール
EU 韓国 FTA が EU の貿易に具体的
を提供している。さらに、協定は公
にどのような影響を及ぼしたのかに
共調達市場に対するアクセスを高め、
ついて以下のような分析をしている。
サービス部門に新たなチャンスをも
報告書ではまず、EU 韓国 FTA の
たらしている。
協定内容に関して、EU がこれまで
EU 韓国 FTA はまた、貿易と持続
締結してきた通商交渉の中で最も野
的な発展に関する包括的な章を含む
心的なものであると総括したうえで、
最初の FTA となった。地理的表示
以下のようにコメントしている。
(GIs)についても進展がみられ、生
EU 韓国 FTA は高度な相互主義に
ハム、チーズ、ワイン、ウイスキー
よって特徴づけられている。交渉ス
など EU の商業的に重要な 162 品目
タート前には、韓国の関税は EU の
が GIs リストに盛り込まれ、保護の
2 倍の水準にあったが(単純平均し
対象となった。
た関税率は EU の 6.6%に対して韓国
また、EU 韓国 FTA は協定の確実
は 17.6%)、協定により、双方とも 5
な履行に力点を置いている。EU 韓
年以内に農産品を含めて貿易額ベー
国 FTA 以前の協定では年 1 回開催さ
スで関税のほぼ 99%を撤廃するこ
れる委員会がひとつ設置されただけ
とになった。
であったが、EU 韓国 FTA では、協
協定は、関税の削減にとどまらず、
定の確実な履行を確保するために、
非関税障壁に関する包括的な条項を
貿易、関税など 7 つのテーマ別委員
含んでいる。複雑でコストのかかる
会に加えて、自動車、医薬品、政府
検査や承認要件が緩和され、規制問
調達、地理的表示など 7 つの特別作
題における透明性が、特に FTA によ
業グループが設置された。
62●季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101
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EU の対外経済関係と日本~回顧と展望
<貿易と投資に現れた FTA 効果>
由化された商品の EU の韓国向け輸
また欧州委員会の報告書は、EU
出は、それぞれ 46%増、37%増と輸
韓国 FTA による EU の貿易と投資へ
出拡大に寄与した。完全に自由化さ
の効果を次のとおり分析している。
れた商品のその他の世界向け輸出は
FTA 発効後 3 年目の EU から韓国
16%増であった。
への輸出は協定発効前と比べて
完全に自由化された商品の韓国向
35%増加した。EU の韓国からの輸
けとその他の世界向け輸出の増加率
入は、同期間に 6%増と安定的に推
の差は、FTA が 37 億ユーロの追加
移した。輸出が大幅に伸び輸入が弱
的な輸出を生んだことを示している。
含みで推移した結果、両国(地域)
部分的に自由化された商品の輸出は、
間で長期的に続いていた EU の貿易
韓国向けの 37%増に対して、その他
赤字(07 年 160 億ユーロ、10 年 110
世界向けは 19%増であったことか
億ユーロ)は、13 年には 36 億ユー
ら、これらの商品については約 10
ロの黒字に転じた。
億ユーロの追加的な輸出をもたらし
貿易の増加は、関税削減が大きか
た。その結果、EU 韓国 FTA は合計
った商品ほど大きかった。完全に自
で年間 47 億ユーロの追加的な輸出
由化された商品あるいは部分的に自
をもたらしたことになる。
表 10
EU の韓国向けとその他の世界向け輸出
(2013/14 の 10/11 年比増加率、単位;%)
EUの輸出
EU韓国FTAで完全に自由化された商品の輸出
〃 部分的に自由化された商品の輸出
〃 自由されていない商品の輸出
EUの輸出合計
(出所)表 9 と同じ。
韓国向け
46
37
9
35
その他世界向け
16
19
5
14
季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101●63
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一方、韓国の輸入を輸入先別にみ
EU の韓国への輸出は 6%増の 11 億
ると、中国からの輸入が継続して増
ユーロとなり、韓国からの輸入は
加した中にあって、EU のシェアも
20%以上増加した。
協定発効前の 10 年の 9%から 14 年
サービス貿易については、EU の
には 12%に増加した。これに対して、
韓国向け輸出は同期間に 18%増加
米国は米韓 FTA の締結にもかかわ
して 106 億ユーロに達した。韓国か
らず、10 年の 9.5%から 14 年には
らの輸入は 11%増の 56 億ユーロで
8.7%にシェアを落とした。そして日
あった。
本も同期間に 5 ポイントシェアを落
とした。
韓国から EU への直接投資は 10 年
の 131 億ユーロから 12 年には 185
産業部門別の結果も EU、韓国双
億ユーロへと大幅に増加し、EU の
方にとって好ましいものであった。
対内直接投資残高に占める韓国の比
EU 韓国間の貿易は主に機械・設
率は 0.5%となった。同期間に EU の
備、輸送機器、および化学製品に集
韓国への投資は 375 億ユーロから
中しており、EU はそれぞれの輸出
395 億ユーロへと穏やかに増加し、
を 23%、56%、9%増やした。一方、
韓国の投資受け入れ額の 34.5%を占
韓国のこれら産業部門の EU 向け輸
めた。
出もおおむね安定的に推移した。
EU の韓国向け自動車輸出は FTA
<協定の利用では課題も>
発効後の 3 年間に 20 億ユーロ(7 万
EU 韓国 FTA によって生まれたチ
4,600 台)から 38 億ユーロ(14 万
ャンスの活用という点では、韓国企
1,800 台)へと 90%増加した。同期
業の方が EU 企業よりも素早く行動
間に EU の韓国からの輸入も 26 億ユ
した。協定発効後 1 年目の特恵利用
ーロ(30 万台)から 40 億ユーロ(37
率は、EU では 30~40%と低水準で
万 5,000 台)へと 53%増加した。こ
あったのに対して、韓国では 70%に
れに対して、EU の韓国以外の国か
達した。これは、
「承認された輸出業
らの自動車輸入は同期間に 7%減少
者のステータス」を新規に取得する
した。また自動車部品については、
ための要件が、特に欧州の中小企業
64●季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101
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EU の対外経済関係と日本~回顧と展望
にとって時間とコストがかかると認
日本)と主要新興国(インド、ASEAN
識されたことに原因があるとみられ
<タイ、マレーシア、ベトナム>、
ている。この状況は、改善されつつ
メルコスールなど)を対象にしたも
あり、13 年 7 月からの 1 年間の EU
のでありる。これらの国には大きな
の特恵利用率は 65.9%まで高まった。
貿易・投資障壁が残っていることか
しかし、同期間に韓国の比率は
ら、大きな潜在力があるとみている。
81.3%に達しており、EU の特恵利用
そして、米国、日本など現在交渉
率が韓国よりも低い状態は依然とし
中の国との FTA が締結された場合
て続いている。
には、EU の GDP は中期的に 2%以
また、EU においては加盟国間で
上増加すると予測している。また、
特恵利用率に大きな差がみられる。
新しい FTA が創出する追加的な輸
キプロス、ラトビア、オーストリア、
出は EU 全体で貿易関連の雇用を
リトアニアなどでは利用率が 80%
200 万人以上生み出すことが期待さ
以上に達しているのに対して、エス
れている(欧州委員会、
「成長の外的
トニア、マルタ、ブルガリアの利用
な源泉-EU の主要パートナー国と
率は 40%以下にとどまっている。
の貿易と投資に関する経過報告書」
、
締結された FTA から企業が利益
12 年)
。
こうした考えに基づき、14 年 11
を得るためには、特恵についての企
業の関心を高めることが重要であり、
月に就任したユンカー欧州委員長は
自国企業と密接な関係にある加盟国
就任に際して環大西洋貿易投資パー
政府が、業界への周知という点で特
トナーシップ(TTIP)の締結を最も
別な役割を果たすことが期待されて
重要な政治的優先課題のひとつとし
いる。
て掲げ、欧州理事会も、15 年 3 月の
会合で TTIP を支援することを再確
3.米国、日本との FTA に注力
認している。
日本との間では、13 年 4 月に第 1
現在 EU が集中的に取り組んでい
回 EPA 交渉を開始して以来、15 年 4
る FTA 交渉は大規模経済国(米国と
月までに合計 10 回の会合を重ねて
季刊 国際貿易と投資 Autumn 2015/No.101●65
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きた。
EU 韓国 FTA を念頭に日 EU・EPA で
交渉においては、日本側の関心事
もレベルの高い内容での合意を主張
項である①自動車、電子機器等の鉱
しており、最終的な合意に至るまで
工業品の関税撤廃、②EU の規制の
には紆余曲折があるものと思われる。
透明性確保、③投資、サービス分野
の自由化、EU 側の関心事項である
(参考資料)
①自動車、医薬品、医療機器、食品
・ Copenhagen Economics, “ Assesment of
添加物などの非関税措置の撤廃、②
Barriers to Trade and Investment between
公共調達の自由化、③農産品、ワイ
EU and Japan”, 2009
ン等の関税削減、④地理的表示(GI)
などが焦点になっているものとみら
れる。
・ 欧州委員会、“Global Europe, competing
in the World, 2006”
・ 欧 州 委 員 会 、“ How Trade Policy and
交渉は大詰めを迎えているものと
Regional Trade Agreements support and
みられ、15 年 5 月に開催された日
strengthen EU Economic Pergormance”,
EU 定期首脳協議では、15 年末まで
2015
に大筋合意を目指すことが共同声明
に盛り込まれた。しかし、EU では
・ 欧州委員会、“The EU-Korea Free Trade
Agreement in Practice”, 2011
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