ジオポリマーによる焼却飛灰中 のセシウム不溶化メカニズム

西松建設技報 VOL.38
に必要な最適作製条件および不溶化メカニズムを確認した.
ジオポリマーによる焼却飛灰中
のセシウム不溶化メカニズムの
確認
3.セシウム不溶化性能確認実験
実験では,塩化セシウム(CsCl)1 wt%を添加した都
市ごみ焼却飛灰を用いてジオポリマーを作製し,大型
椎名 貴快 *
原田 耕司 *
放射光施設 SPring-8 のビームライン BL01B1 において,
Takayoshi Shiina
Koji Harada
養生温度を 20℃,50℃,80℃,105℃と変えて一定時間
ごとに X 線吸収端微細構造(XANES)分析を行い,ジ
オポリマーの硬化進行による化学状態の経時変化を調べ
1.はじめに
た(写真− 1)
.
本実験における代表結果として,図− 1 に養生温度
放射性セシウムに汚染された廃棄物の安全な処理技術
20℃と 105℃での結果を示す.同図より,20℃室温環境
の開発は喫緊の課題である.特に,可燃ごみの熱処理に
下ではガスの発泡によって不明瞭なスペクトルを示し,
より発生するごみ焼却飛灰中のセシウムは水に極めて溶
時間が経過しても塩化セシウムからの変化は確認されな
出しやすいことが知られており,不溶化技術が求められ
かった.一方,養生温度 105℃では,経過時間 4 時間 50
ている.著者らは京都大学大学院高岡教授らの研究グ
分以降では,練混ぜ直後の時間帯と比較して明らかなス
ループと共同で,セメント固型化処理よりもセシウムの
ペクトルの変化を確認でき,セシウム周りの構造変化
不溶化性能に優れた技術としてジオポリマーに注目し,
を確認できた(図− 1).観察の結果,化学形態として,
不溶化メカニズムの解明を目指した.実験では,事前試
塩化セシウム(CsCl)がセシウムを含むケイ酸塩鉱物
験の結果から選定した配合に基づいて材料を練混ぜ,養
の一つであるポルサイト(ポルックス石:CsAlSi2O6)へ
生温度や経過時間がセシウム固定化性能に与える影響を
と変化し,安定化合物が生成されていることを確認できた.
大型放射光施設 SPring-8(兵庫県播磨科学公園都市)な
次に,ジオポリマー硬化体の溶出試験を実施し,ジオ
どにおいて確認した.その結果,セシウムを含んだ焼却
ポリマー作製時の養生温度と経過時間がセシウムの不溶
飛灰をジオポリマー技術により所定条件の下で固めるこ
とで,セシウムイオンが化学的に安定した鉱物形態を成
し,溶出しにくくなるメカニズムを確認した.本報では
実験結果から得られた知見について報告する.
2.ジオポリマー
ジオポリマーは,フランスの Davidovits
1)
,2)
が提唱し
た材料で,アルミノケイ酸塩(フィラー),アルカリ溶
液(アルカリ活性剤)およびケイ酸水溶液が反応して生
成される非晶質の縮重合体(ポリマー)の総称である.
写真− 1 SPring-8 での実験セル
ジオポリマーの反応は,アルミノケイ酸塩がアルカリ溶
液と反応しアルミニウム(Al)やアルミノケイ酸塩中の
金属元素などが溶解し金属イオンとして存在し,その溶
解した金属イオンが架橋構造を形成することでポリマー
化して生じる.この固化の過程で,金属がジオポリマー
内の構造に固定され安定化することから重金属固化剤と
しての研究が先行している.高岡教授らの研究グループ
による先行研究
3)
では,ジオポリマーには鉛(Pb)や
亜鉛(Zn)などの重金属の固定化の他,安定同位体セ
133
シウム( Cs)を不溶化する効果も確認されている.し
かしながら,セシウムの不溶化性能を高めるための作製
条件については明らかにされていない.そこで,養生温
度や養生時間を検討水準とした実験を行い,セシウム固定
* 技術研究所土木技術グループ
図− 1 養生温度別 Cs-K 吸収端スペクトルの経時変化
(左:養生温度 20℃,右:養生温度 105℃)
ジオポリマーによる焼却飛灰中のセシウム不溶化メカニズムの確認
西松建設技報 VOL.38
化性能に与える影響を確認した(図− 2)
.試験の結果,
養生温度が高温ほど早期に溶出率は小さくなり,時間経
過とともに溶出率は緩やかになった.本結果とスペクト
ル分析の結果を比較すると,溶出率の変化とセシウムの
スペクトル変化に関係性が認められ,セシウムの化学形
態変化つまりポルサイト状化合物の生成が不溶化の主因
であると考えられた.
4.セシウム長期溶出試験
ジオポリマーによるセシウムの長期固定化性能を確認
図− 2 養生温度別セシウム溶出率の経時変化
するため,溶出試験の時間を一般的な 6 時間よりも延長
表− 1 配合仕様(練混ぜ量 100g 当り)(g)
して 28 日間で評価した.試験に用いた配合は全 3 配合
(a)メタカオリン GP 配合
とし,
(a)メタカオリンをフィラーに用いたジオポリマー
配合,
(b)副産物(フライアッシュ,高炉スラグ微粉末)
を用いたジオポリマー配合,(c)一般的なセメント固型
化配合である(表− 1)
.なお試料はすべて 2 mm 以下
に粉砕して溶媒との接触面積を大きくし,一般的な評価
中性灰
メタカオリン
NaOH
溶液
25
25
16.7
水ガラス(ケイ酸ナトリウ
ム水溶液)(2 倍希釈)
水ガラス
超純水
16.7
16.7
(b)副産物 GP 配合(GP 溶液比 40 wt%)
方法よりも溶出しやすい条件の下で実施した.
試験の結果,溶出時間 28 日での溶出率は(c)セメン
ト固型化配合で 80%以上と極めて高い値であった(図
− 3)
.一方,ジオポリマー配合では時間が経過しても
中性灰
ASh
フライアッシュ
FA
高炉スラグ微粉末
BFS
GP 溶液
GP
33.7
18.4
7.8
40
(c)セメント固型化配合(W/C = 1.05,Ash/C = 2.0)
セシウム固定化性能を保持しており,(b)副産物 GP 配
合で 16.3%,
(a)メタカオリン GP 配合で 7.4%と極め
中性灰
Ash
水
W
セメント
C
49.4
25.9
24.7
て低い結果であった.また溶媒の pH 値および電気伝導
率の測定結果を表− 2 に示す.pH 値は試験開始直後は
12 程度であったが,
(c)セメント固型化配合で上昇傾
向が見られた.電気伝導率の値は,(c)セメント固型化
配合で 3,550 mS/m となり,ジオポリマー配合の約 1.4
∼ 1.6 倍の値であった.これは溶出による金属元素の濃
度変化が影響している.
5.まとめ
セシウムを含む焼却飛灰をジオポリマーに混合し,養
図− 3 長期溶出試験結果
生温度 105℃で 24 時間以上を保つことで,セシウムが
表− 2 溶媒中の pH 値および電気伝導率の経時変化
ポルサイト状の安定化合物に変化し,水に極めて溶け出
しにくい性質となることが判明した.
項目
配合
pH 値
1日
3日
7日
28 日
(a)配合
12.0
12.0
12.0
12.0
11.7
(b)配合
12.0
12.1
12.1
12.1
12.2
(c)配合
11.9
12.2
12.4
12.5
12.5
電気 (a)配合
伝導率 (b)配合
(mS/m) (c)配合
2,130
2,120
2,190
2,170
2,160
2,320
2,370
2,370
2,470
2,590
3,090
3,320
3,500
3,500
3,550
謝辞 : 本実験計測にご指導ご協力を頂いた大型放射光施
設 SPring-8 の関係各位に心より謝意を表します.
参考文献
1)Davidovits, J., Bonett, A. and Mariotte, A. M.: The
disaggregation of stone materials with organic acids
from plant extracts, an ancient and universal tech-
溶出時間
6 時間
surface ceramics, Proc. 22nd Symp. on Archaeom-
nique, Proc. 22nd Symp. on Archaeometry, Univer-
etry, University of Bradford, pp. 213–217, 1982.
sity of Bradford, pp. 205–12, 1982.
3)中村尊郁:都市ごみ焼却残渣中有害金属のジオポリ
2)Bouterin, C. and Davidovits, J.: Low temperature geo-
マーによる不溶化処理,京都大学工学部卒業論文,
polymeric setting of ceramics: fabrication of black-
2012.
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