直近の株式急落について(処方箋・中国景気減速について) ○この相場の処方箋はあるのか? 株安連鎖が止まらない。震源地は中国だったが揺れが大きく、どの市場にも逃げ場が無い状 況に陥っている。このような状況ではと投資家たちはリスクに過敏になる、リスク資産から 一目散に逃げてしまう習性だと思うしかない。筆者は中国リスク(後述)を正当に評価した 相場では無いと感じているが、ここまで株式市場が痛んでしまったのだから今後の世界経 済に負の資産効果を与え世界経済減速懸念が現実化するだろう。誰かがこれを止めなけれ ばならない。もちろん政府および中央銀行の政策しかない。政策オプションは以下の通り。 (中国政府) ・追加利下げ ・巨額財政出動 (米国FRB) ・利上げ延期 ・追加緩和(QE4) (日本銀行) ・追加緩和(QE3) (欧州中央銀行) ・追加緩和(QE2) ベストシナリオは日米欧中の当局が強調して上記の政策全てを行うことだが高望みだろう そもそも政府・中銀が株価自体を政策目標に掲げている訳ではない。ただ、先にも述べたが 株式市場の低迷による負の資産効果に無策ではいられないだろう。中国の追加利下げが一 番実現可能性が高いが影響は限定的に思われる。筆者は、日米欧中協調の政策は望めないも のの米中協調の政策を出すことで事態が収拾する可能性があると踏んでいる。それは、中国 が巨額財政出動に踏み出すことと米国が利上げ延期を表明することがセットで打ち出され ることだ。なぜ米中協調かというと、単にG2 論に与している訳ではなく、人民元が米ドル とペッグ(管理フロート制)し米国の金融政策を中国が感受しなければならない理由がある からだ。中国は景気下支えのため通貨安を志向しているが(人民元も切り下げた)、米国が 利上げを実施するとドルと共に人民元も高くなってしまう構図がある。この構図こそが市 場混乱の要因だという指摘もある。アジア通貨危機原因もそうだった。したがって、米国が 利上げを延期することで中国の景気減速不安も和らぐだろう。そして震源地の中国で財政 出動によって景気を支えればよい。中国は政府累積赤字対GDP比で約 40%(先進国平均 より相当低い)と財政出動余地が十分にある。しかし、今のところ米中が協調するような動 きは表立って確認されていない。政策がそろうには少々先の話になるかもしれない。 8 月 26 日 黒田日銀総裁ニューヨークで講演 8 月 27 日-29 日 ジャクソンホール(カンザスシティ連銀年次経済政策シンポジウム) ※黒田日銀総裁が出席 9月3日 欧州中央銀行理事会 9月4日 米雇用統計 9 月 4 日-5 日 G20 財務相中央銀行総裁会議 9 月 10 日-11 日 APEC財務相会合 9 月 16 日-17 日 FOMC 米国の金融政策を確認するには 9 月中旬のFOMCを待つしかない。その意味ではしばら く市場の不透明感は続くかと思われる。 ○中国の景気減速についての考察 中国経済の減速が世界経済に悪影響を与えるのではないかという共通理解がある。これを とらえるには中国リスクのスケール感を知る必要がある。中国政府は中国経済が『新常態 (ニューノーマル) 』に入ったと論じている。改革開放以降 10%程度の高成長を続けてきた が、現在では 7%成長を維持できるかどうかの議論がなされている。 『新常態』とは本年 3 月 5 日の全人代で李克強首相によって表現されたものだ。同時に経済成長目標を7%前後 に引き下げた。しかし、最早この 7%ですら疑問符が投げかけられている。 人民元切り下げは市場に誤ったメッセージを発してしまったのかもしれない。通貨を調節 しなければならないほど低迷しているととらえられている。ゆえに 7%成長を維持できない リスクを大きくとらえてしまっている節がある。 「7%成長しなければ中国経済破綻する」論 がその最たるものだ。6.9%成長で中国経済が破綻する姿など冷静になればどれだけ荒唐無 稽かわかるだろう。重要なのは中国経済が破綻することに真実味を持ってしまっている点 だ。中国経済減速リスクが中国経済破綻という虚像に変貌している。欧州債務危機の際に欧 州連合解体論がまことしやかに叫ばれたが結局欧州連合は解体されなかった。中国経済破 綻論はそれに近い。 GDP 成長率は労働力投下による寄与、資本蓄積(投資)による寄与、経済効率向上(技術 革新など)による寄与の 3 つに分けられる。中国経済の最たる問題は過剰投資にある。なぜ 過剰なのかは下記の数値を見れば明らかになる。 中国 GDP 成長率 1.1979 年~2011 年 平均 10% 労働力 1% 資本蓄積 5% 経済効率 4% 2.2012 年~2015 年 平均 7% 労働力 1% 資本蓄積 5% 経済効率 1% 1と2の期間で大きく異なるのは経済効率による寄与が大きく下がったことである。経済 効率の寄与が下がるのは高度成長から安定成長へ移行する際にかならず発生する。効率化 できる余地が次第に減るからだ。一方で資本蓄積は変わっていない。これら 3 つの要素は 互いに影響しあう。1では 4%の経済効率寄与を生むために労働力寄与と資本蓄積寄与がそ れぞれ 1%・5%必要だったと言える。2では1の期間と同じだけ労働力寄与と資本蓄積寄 与をもってしても経済効率寄与は 1%にしかならないと言える。労働力寄与は変わっていな いので資本蓄積が相対的に過剰になっていることが分かる。大部分の資本蓄積が無駄にな っているのかもしれない。その無駄は、無秩序開発によってできたゴーストタウンと銀行の 不良債権に代わっている。これが問題なのは中国当局も分かっているはずだ。だからこそ 『新常態』を掲げたのだろう。 『新常態』は単に経済成長をあきらめることではなく過剰投 資問題を解決するスローガンであるはずだ。問題解決には過度な資本蓄積は控えなければ ならず、どうしても GDP 成長を鈍化させなければならない。中国経済に勢いがなくなると いった漠然とした理由ではなく政策的な話である。妥当な経済成長率が 6%台なのか 5%台 なのかは分からない。成長率の鈍化というより抑制ととらえたほうが実態に近いかもしれ ない。逆に必要な投資であれば投資総額が減じられても経済効率寄与度を引き上げること で補うこともできる。AIIB のプロジェクト(大陸間鉄道・空港・港湾整備)はその一環で あろう。中国政府は『新常態』実現のストラテジーを今以上に浸透させなければならない。 成長率の問題のほか不良債権化の問題がある。銀行融資の20%が焦げ付いた場合、政府財 政がこれを負担することは十分可能であると考えられている。銀行融資の焦げ付きに対し、 3.7 兆ドルある外貨準備の取り崩しや国債発行による資本注入など対策がとれる。銀行融資 の 20%は 17.6 兆元に上る。これは中国財政が負担可能な範囲である。中国の累積赤字対 GDP は 41%と低く、米国・英国・ドイツ・フランスの平均値である 90%を基準として計 算すると、中国政府は 32 兆元の累積赤字を許容できる。これなら銀行融資の 30%~40% を許容できる計算になる。20%の焦げ付きを想定しているのは、2014 年末のギリシャの不 良債権比率が 20%を超えていたことに基づいている(記・横山光) 。
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