1 課題名 1-3 Ae 丹沢大山の自然環境の保全と再生に関する研究開発 自然環境の総合的な管理技術の開発研究 個人・家庭で行える防除に関する研究 研究期間 平成 19~20 年度 予算区分 県単(地域科学技術振興事業 担当者 岩見光一 政策課題研究) 【目的】 ヤマビル生息地で野外活動などを行う場合には、ヤマビルの吸血被害に合わないよう個人的な予防 対策が必要である。このため、ヤマビルに吸血されることの多い身体部位の特定とその対策などにつ いて調査研究を行った。 【方法】 吸血被害に関する既存のアンケート資料や研究資料などをもとに、ヤマビル被害予防対策の研究を 行った。 ① ヤマビルの活動時期については、山中ほかの「ヤマビルの生態に関する基礎的研究-索餌行動の 及ぼす気温・湿度の影響と索餌行動の間隔」を参考に、本県のヤマビル発生時期の特定を行った。 ② 吸血される身体の被害部位については、1980 年から 1982 年 10 月神奈川県林業試験場ほか2事業 所が行った山林労働者へのアンケート調査を参考に被害部位の特定を行った。 ③ ヤマビルの標本製作法について新日本動物図鑑などによれば、炭酸水、硫酸マグネシウム、クロ レトン、ニコチン酸、アルコールなど滴下して麻痺させるとしている。このため、8月下旬、殺ヒ ルや忌避効果のある身近な防除剤として、アルコール、塩、食酢、市販の虫よけ剤(ディート 12% 剤)、家庭用の中性洗剤を使用して、被服や長靴などに散布・塗布することによる被害予防法に関す る試験を自環保Cの樹木園において実施した。 試験方法は、市販のタオル地の雑巾に上記の防除剤を散布又は浸潤させ、1週間放置して完全に 乾かした状態にして手を包み、その後ヤマビルの飼育ケージに手を入れ、吸着したり、吸着後に移 動したりするヤマビル数を観察した。また、食塩は飽和食塩水を作り(塩分濃度 25%)、食酢は原 液(穀物酢、酸度 4.3%)、中性洗剤は原液に水道水を 20%入れ撹拌したものにそれぞれ雑巾を浸潤 させ 1 週間乾かした。虫よけ剤は雑巾に噴霧してから1週間おいた状態で試験を実施した。なお、 アルコールは揮発性が高いため濃度を 40%に希釈して試験当日の 30 分前に噴霧した。 【結果及び考察】 ヤマビルの活動時期 山中ほかの報告によると、ヤマビルの野外における活動の最低温度は 10℃、最低湿度は 60%であ るとしている。また、索餌行動には明確な休止期というものはなく、前記条件がそろえば季節に関 係なく活動するとしており、個体サイズの違いで 70 は、大きな個体より小さな個体のヤマビルの方が 60 50 低温下で活動的であるとしている。 自環保Cの気象観測結果から、ヤマビルの活動 季節を考察すると最低温度が 10℃以上となるの は概ね3月中旬から 11 月中旬頃となる。これを、 % ① 神奈川県林業試験場 五城目営林署 東北電力秋田支店 40 30 20 10 0 足 2008 年の自環保 C でヤマビル観察状況と比較して 手 腹・背中 みると、初回発生の観察日は3月 15 日で、最低気 図 5-1 温 11.2℃、最高気温 20.6℃、最終発生の観察は 査結果(1980―1982) 11 月 13 日で最低温度 6.9℃、最高気温 19.6℃と 首・頭部 吸血部位 ヤマビル吸血被害部位のアンケート調 概ね山中の報告どおりの結果であった。 ② 吸血された身体被害部位 1980 年から 1982 年 10 月、本県林業試験場及び林野庁五城目営林署、東北電力秋田支店が共同で 山林労働者に対するヤマビルの被害に関するアンケート調査を行っている。アンケートは、吸血部 位のほか、吸血の有無、被害場所、気象状況、吸血回数、症状など多岐に渡っているが、今回予防 措置に活かすため被害部位に関し調査した結果を図 5-1 に示した。 この調査は、アンケート対象者を山林労働者としたため、一般の森林利用者などは入っていない が、調査結果では足が 53%、手が 26%と両者で約 80%を占め、残り 20%が腹や背中、首・頭とな っている。 このように、被害の多くが地面に接する身体部位で発生していることから、この部位での防除を 中心に予防対策をとることが重要と思われる。なお、腹や背中、首や頭部などを吸血された原因と して考えられることは、草丈の高い草地の下刈り作業や腰を下ろして休んでいるときに上着やバッ クなどに付着していたヤマビルが、首筋や頭部に侵入し吸血したものと考えられる。 ③ 忌避効果のある薬剤等 身近にある忌避効果が高い薬剤等として、アルコール、食塩、食酢、市販の虫よけ剤(ディート)、 中性洗剤を使い、それぞれの薬剤等を市販のタオル地の雑 巾に噴霧又は浸潤させ、乾燥させてヤマビル忌避効果の試 験を実施した(図 5-2)。試験の結果は、アルコール、食酢、 市販の虫よけ剤の3薬剤等の忌避効果が高く、次いで食塩、 中性洗剤は効果が少なかった(表 5-1)。 忌避効果の高い薬剤のうち、アルコールについては高い 殺ヒル効果や忌避効果が認められたが、効果は約1時間と 持続性に欠けるため、野山に出かけるとき携帯し、吸血し ているヤマビルを体から放すのに使用するのが適当と思わ れる。 図 5-2 忌避効果試験の様子 また、食酢や市販の虫よけ剤(ディート)については、布に塗布した場合に食酢の臭いが問題と なるが、食酢、ディートとも比較的長く忌避効果が続く(約1ヶ月)ことが認められた。塩につい ては飽和食塩水として湿っている状態では高い忌避効果があるが、乾いた状態の布にはヤマビルが 吸着してしまい、その後の移動は見られないもののやや不安が残る結果となった。 5-1 薬剤のヤマビル防除効果試験の結果 表1 薬剤表 のヤマビル防除効果試験の結果 ヤマビル防除効果試験結果 薬剤の種類 処理① 処理② 吸着防除効果 移動防除効果 その他 エチルアルコール 40%希釈液に浸潤 30分間放置 ◎ ◎ 持続性が欠ける 食 塩 飽和食塩水に浸潤 1週間放置 ○ ◎ 水希釈性が高い 雑穀酢(酸度4.3%) 原液に浸潤 1週間放置 ◎ ◎ 水希釈性がやや高い 虫よけ剤(ディート剤) スプレー散布 1週間放置 ◎ ◎ 持続性が高い 中 性 洗 剤 20%希釈液に浸潤 1週間放置 ○ ▲ 殺ヒル効果が低い ④ 考察 本県のヤマビルの活動期は、最低温度が 10℃以上の時期で概ね3月中旬から 11 月中旬である。 また、被害予防対策としては、吸血被害部位は手足の被害が 80%程度を占めることから、袖口や手 袋及び靴下や長靴、ズボンの裾にあらかじめ忌避作用のある薬剤等を塗布して乾くのをまって着用 するのが効果的である。(直接人体に塗らなくとも防除効果はある。) なお、首筋や頭などの予防については、上着の裾から背中にかけて忌避剤を塗布することや忌避 剤を塗布したタオルを首に巻くなどすることである。 次に、殺ヒル効果や忌避効果の高い薬剤等については、食酢(原液)、市販のディート成分を含有 する虫よけ剤の防除効果が高く、塩は湿っている間は高い効果があるが、乾くとヤマビルが吸着す る危険性がある。アルコールは高い効果があるが持続性に欠けるのが問題である。ただし、アルコ ールは即効的な殺ヒル効果があるため、ヤマビルの殺虫のためや吸血されたときにヤマビルを体か ら放すために使用すると非常に効果的である。なお、中性洗剤は効果が少なく使用しないのが無難 である。また、薬剤等が付着しにくいゴム製の長靴や滑らかなカッパなどは、ヤマビルが吸着しや すくいため、幅 10cm 以上の布(ヤマビルの伸体長5-8cm)に忌避剤などを塗布したものをヤマビ ルが潜り込みやすい箇所にまくなどの注意が必要である。薬剤等は必ず布製など付着しやすいもの に予め塗っておき使用することが予防上の要点である。
© Copyright 2025 ExpyDoc