横浜国立大学 大学院工学研究院 大山 俊幸 研究室(機能性高分子) 連絡先:[email protected], tel/fax: 045-339-3961(大山直通) 高分子化合物は汎用、高性能、機能性を持つものなど、生活のあらゆる分野に浸透しており、今 や必要不可欠なものとなっています。また、生体を構成するタンパク質や、遺伝情報を担う DNA なども高分子化合物です。このように非常に多くの可能性を持つ高分子化学の中でも、我々の研究 室では高分子ならではの「機能」を持ったポリマーの合成と特性評価を中心に研究を行っています。 O O CH3 O O O (1)新規感光性ポリマー C O C O N N の開発 CH3 C n O O 感光性ポリマーは、光が H3C CH3 ポリカーボネート ポリエーテルイミド 当たった部分の特性(溶解 スキーム1 RDP によって感光性を付与できる市販エンプラの例 性など)が変化するポリマ ーです。感光性ポリマーの 膜にフォトマスクを通して光を照射 したのちに現像を行うと微細パター ンを形成できることから、集積回路 (IC)の作製や、IC を載せる基板の 配線パターンの形成、印刷用の刷版 作製など、幅広く利用されています。 当研究室では、ポリイミドなどの 図1 感光性ポリイミドによる エンプラに感光性を付与し利用する 微細パターン形成(~10μm) 方法について研究しており、市販のエンプラなどにそのまま感光 性を与えることができる「反応現像画像形成(RDP)」の開発に 成功しています。RDP の利用により、市販のポリカーボネートや ポリイミド、ビニルポリマーなどに容易に感光性を付与できるた 図2 研究成果の新聞記事 め、半導体の保護膜など様々な分野への利用が期待できます(ス (化学工業日報) キーム1, 図1, 図2)。現在は、RDP の原理の解明を進めると ともに、低環境負荷の現像液やポリマーの利用、高分子と無機化合 物の両方の特性を備えた感光性有機/無機ハイブリッドなどにつ いての研究を精力的に行っています。また、RDP を応用した膜表 面の選択的修飾法についても研究を進めています(図3)。 総説・解説:大山俊幸,科学と工業,88, 405-414 (2014).;大山俊幸,ネッ トワークポリマー,34, 261-271 (2013). など 論文: T. Kawada, A. Takahashi, T. Oyama, J. Photopolym. Sci. Technol., 27, 219-222 (2014). など 特許:特開 2014-48562 など 図3 RDP による緑色蛍光ラ ベル化剤の露光部選択的修飾 (5μm line and space) (2)低環境負荷ネットワークポリマーの開発 ネットワークポリマー(熱 硬化性樹脂)は、硬化後に架橋 された構造となることから優 れた熱的・機械的・電気的特性 を示し、汎用材料をはじめ電 気・電子材料、複合材料などの 先端材料用樹脂としても広く 使用されています。当研究室で は、木屑や草木などから容易に 得られるリグニンを原料とし た「バイオマスネットワークポ O H3C CH3 O OCN OCN CH2 O NCO OCN CH2 OCN O n 高耐熱・低熱膨張エポキシ樹脂 超高耐熱シアナート樹脂 O CH2 N O O O N N O O ベンゾオキサジン(高性能フェノール樹脂) O O エポキシ樹脂用新規改質剤 スキーム2 省エネルギー対応ネットワークポリマー N O n リマー」の開発に取り組んでおり、 従来の熱硬化性樹脂と遜色のない 性能を示すバイオマス由来ポリマ ーを得ることに成功しています(右 図)。また「省エネルギー対応ネッ トワークポリマー」として、高耐熱 性かつ低熱膨張率を示す熱硬化性 樹脂や、熱硬化性樹脂本来の優れた 性質を損なうことなく欠点である 「もろさ」を大きく改善した超高耐 熱樹脂などの開発に成功していま す(スキーム2)。このテーマの一 部については、実用的応用にむけて 企業との共同研究も行っています。 セルロース ミクロフィブリル化で鋼鉄 の5倍の強度と石英ガラス 並みの低熱膨張性 高強度樹脂部材 樹脂中へ混錬 日本国内のエポキシ 樹脂出荷実績(*2) 17.5万t(2007年) エポキシ化 エポキシ樹脂 リグニン 木質バイオマス 未利用木質 バイオマス量(*1) 500万t(2007年) ポリフェノール構造を有し、 未利用木質バイオ エポキシ樹脂とその硬化 マス中の低分子リグ 剤の両方に利用可能 ニン量 50~75万t + 硬化剤 エポキシ 樹脂硬化物 燃焼⇒CO2 家電品 配線基板 産業用機器 発電機・受変電 機器用絶縁材料 電気機器 への応用 *1 バイオマス・ニッポン総合戦略推進アドバイザリーグループ第10回会合(2008/3/17)資料より *2 エポキシ樹脂工業会HPより 総説・解説:大山俊幸,高橋昭雄,ネットワークポリマー,29, 175-187 (2009). など 論文:岡本真,高橋昭 雄,大山俊幸,ネットワークポリマー,35, 94-101 (2014). など 特許:特開 2012-82342 など (3)ポリペプチド側鎖の動的組換えによる高次構造制御とタンパク質的特性の発現 タンパク質は特定の高次構造にフォールディングすることで機能を発現します。フォールディン グのための情報はモノマーであるアミノ酸の配列として記憶されていますが、モノマー配列の設計 原理は明らかになっていません。タンパク質的な性質を示すポリマーは、漏斗状のエネルギー曲面 (フォールディング・ファネル)をもつと考えられており、このようなエネルギー曲面をもつため には「1.様々な相互作用が可能な多種のモノマーからなるヘテロポリマーである」「2.フラス トレーション(相互作用の矛盾)が最小となる配列でモノマー単位がヘテロポリマー中に配列して いる」ことが必要とされています。 本研究室では、これらの条件を満たし、タンパク質と同様の原理で機能を発現するポリマーを創 出すること目的とし、熱・光などの刺激の存在下でのみ可逆的に切断・再結合が起こる動的共有結 合を側鎖に含むポリペプチドを合成しています。そして、このポリペプチドの動的側鎖組換え反応 (図4)を行うことにより、高次構造が大きく変化していくことを明らかにしています。現在は、 この側鎖組換えポリペプチドにタンパク質的な特性(タンパク質的な変性挙動や、酵素や抗体のよ うに特定の分子を認識する機能など)を発現させるための検討を進めています。 動的結合組換え 動的共有結合部位 多様な側鎖官能基の安定な配列 → 高次構造の変化 図4 ポリペプチド側鎖の動的組換え 発表:中川和俊,井上侑紀,大山俊幸,高分子学会年次大会予稿集,64, 3Pd022 など
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