非定型抗酸菌IV群 による全身感染症の1例

358
感染症学雑誌
第54巻
第7号
非定 型抗酸 菌IV群 に よる全 身感 染 症 の1例
川崎市立川崎病院内科
大関
一郎
松岡
康夫
入 交昭一 郎
同 病理
福
田
純
藤森
一平
也
(昭 和55年2月16日
受 付)
(昭 和55年3月18日
受 理)
Key word: Atypical mycobacteria infection
は じめ に
脾,腎
非 定 型 抗 酸 菌IV群 よ る ヒ トへ の感 染 は稀 で,呼
吸 器 や 関節 な どへ の感 染 が い くつ か報 告 さ れ て い
る程 度 で あ り,全 身 感 染 症 の報 告 は な され て い な
は 触 知 せ ず,下
入 院 時 検 査 所 見(Table
(+++),沈
セ フ ァ ロス ポ リ ン系 抗 生 剤 で あ るCefamandole
9/dl,Ht18%と
(CMD)に
が200%と
γ-gl 2.0g/dl,
2.0g/dl,
例
LDH2,
肝 機 能 で はT-Bil
I-Bil
161IU
(+),ク
1.30g/dl
と 高 値,血
寒 冷 凝 集 反 応128倍
家 族 歴:特 記 す べ き事 な し.
は,尿
既 往 歴:64歳,特
発 性血 小 板 減 少 性 紫 斑 病 と診
異 常 を 認 め な か つ た.
断 され,以 後 約2年
間 にわ た りス テ ロイ ド剤 服 用
頃 よ り食 欲 不 振,P区
気,赤
色 尿 が 出現,3月12日
能,全
身倦 怠 感 著 明 で,歩 行 不 能 とな つ た.3月
頃 よ り食 事摂 取 不
ち に入 院 となつ た.
識 混 濁,脈 拍94/分,整,血
度.左
高 度 の 貧 血,網
圧130/66mmHg,呼
吸
頚 部 に 小 豆 大 の リ ンパ 節 を数 個触 知 した.
胸 部 打 聴 診 上 は異 常 な く,腹 部 は軽 度 膨 満,肝,
接 法 と も陽 性,
で あ つ た.細
菌学的検査 で
腹 部 レ線 は
状 赤 血 球 の 著 明 な 増 加,ク
ーム
昇 な どの所 見 か ら 自
入 院 後 経 過(Fig.1),直
み た.そ
ち に プ レ ドニ ゾ ロ ン
投 与 を 開 始,症
の 後PSLの
現,急
状 の軽 快 を
漸 減 を した が,5月10日
左 足 関 節 の 発 赤,腫
右 鎖 骨 上 窩 の リ ン パ 節 腫 大,右
険 結 膜 貧 血 著 明,眼 球 結 膜 黄 疸 軽
D-BiI
78IU,
己 免 疫 性 溶 血 性 貧 血 と診 断tた.
よ り高 熱
入 院 時 所 見:体 格,栄 養 中 等,体 温38.4℃,意
3.38g/dl,
.血液 培 養 と も に 陰 性,胸
(PSL)1日60mgの
14目 当院 内科 を受 診,貧 血,黄 疸 を指 摘 され,直
20/分,整,眼
培 養,
状赤血球
白分 画 で は
清 反 応 で はCRP6
ス 試 験 直 接 法 陽 性,LDH上
現 病 歴:昭 和52年3月7目
間 値164mm
と 増 加,GOT
ー ム ス 試 験 は 直 接,間
主 訴:全 身 倦 怠 感.
して い た.
沈1時
梢 血 で は 赤 血 球132万,Hb4.9
高 度 の 貧 血 が あ り,網
考 察 を加 え報 告 す る.
症
所 見 では 蛋 白
著 明 に 増 加 し て い た.蛋
に よ る全 身 感染 症 の1例 を経 験 した の で,若 干 の
67歳, 女 性.
1):尿
渣 は 異 常 な く,赤
と著 明 に 亢 進,末
患 者: M・Y
的反 射 は
認 め ら れ な か つ た.
い.今 回 我 々 は 自己 免 疫 性 溶 血 性 貧 血 に 合 併 し,
て症 状 の改 善 をみ た 非定 型 抗 酸 菌IV群
腿 の 浮 腫 な し.病
脹 が 出 現,そ
頃
の後
季 肋 部 の腫 瘤 も出
激 に 増 大 し た.又
胸 部 レ線 上 両 下 肺 野 に 異
常 陰 影 を 認 め た.Fig.2は
こ の 時 の 胸 部 レ線 所 見
で,左
下 肺 野 に 淡 い 辺 縁 不 整 な 円 型 陰 影,右
肺 野 横 隔 膜 に 近 く索 状 陰 影 が 認 め られ た.CEZ,
下
359
昭 和55年7月20日
Table
1
Laboratory
Fig.1
DKBの
投 与 及 び抗 結核 療 法 な ど施 行 す る も解 熱
せ ず,5月19日,右
季 肋 部腫 瘤 の生 検 を施 行,病
理 組 織 学 的 に は 皮 下膿 瘍 で,膿 の細 菌 培 養 に て非
定 型 抗酸 菌 が 検 出 され た.さ
月5日 に か け,数
らに5月25日
か ら6
回 に わ た り左足 関節 穿 刺 を施
Clinical
findings
Course
行,白
濁 し た 滑 液 を 得,そ
ろ,そ
の い つ れ か ら も非 定 型 抗 酸 菌 を 検 出 した.
の培 養 を行 つ た と こ
セ フ ァ ロス ポ リ ン系 抗 生 剤 Cefamandole
に の み 感 受 性 を 認 め ら れ た.そ
CMD
6gを
投 与,投
与 後2∼3日
こ で6月4日
(CMD)
よ り
し て 解 熱 し,
感 染症 学 雑 誌
360
Fig.2
the
Chest
lower
X-ray
area
showing
of both
abnormal
shadow
on
lung
第54巻
第7号
下 膿 瘍 及 び 関 節 穿 刺 液 の培 養 か ら 非 定 型 抗 酸 菌 が
検 出 さ れ た.本
桿 菌 で,普
菌 は 抗 酸 菌 染 色 陽 性 の グ ラ ム陽 性
通 寒 天 培 地 に 発 育 せ ず,22℃
の 条 件 下 の 小 川 培 地 で2∼3日
形 成,ナ
イ ア シ ン テ ス ト陰 性,コ
淡 黄 色 で あ つ た.こ
抗 酸 菌IV群
か ら42℃
で成 熟 コ ロニ ー を
ロ ニー の色 調 は
の こ と か ら,本
菌 を非 定 型
と 同 定 し た が,M.fortuitumな
M.cheloneiな
のか
の か ,こ
れ 以上 の 同 定 は残 念 な が
ら 施 行 で き な か つ た.本
症 例 で は特 発 性 血小 板 減
少 性 紫 斑 病,そ
の 後 自己 免 疫 性 溶 血 性貧 血 の 診 断
で 長 期 に わ た りス テ ロイ ド剤 の 投 与 を 受 け て お
り, opportunistic
infectionと
感 染 経 路 で あ る が,ま
し,そ
Fig.3
after
Chest
X-ray
showing
no
abnormal
shadow
chemotherapy
考 え ら れ る.こ
の
ず 化 膿 性 足 関 節炎 が 出現
の後 リンパ節 腫 大 及 び腹 部 皮 下 膿 瘍 を認 め
て い る こ とか ら,足
関 節 腔 か ら血 行 性 に 散 布 さ れ
た と考 え ら れ る.又
肺 異 常 陰 影 に つ い て は,喀
疾
の 培 養 か ら は 非 定 型 抗 酸 菌 は 検 出 し得 な か つ た
が,左
足 関 節 炎,皮
下 膿 瘍 とほ ぼ 同 時 に 出現 して
い る こ と,CMD投
ら,非
与 で軽 快 して い る こ とな どか
定 型 抗 酸 菌 に よ る肺 炎 の 可 能 性 が 最 も疑 わ
れ た.ヒ
トに お け る 非 定 型 抗 酸 菌IV群
め ず ら し く,国
の 報 告1)に
立療養所非定型抗酸菌共同研究班
よれ ば,最
も多 い と され る肺 感 染 症 に
関 して も,1975年4月
か ら1976年3月
間 に わ ず か2例,そ
ま で の1年
の 他 の 感 染 症 に お い て も,木
下 ら2)のM.fortuitumに
Kellyら3)の
よ る 皮 下 膿 瘍 の 報 告,
関 節 へ の 感 染 の 報 告 ,Leeら4)の
立 腺 へ の 感 染 の 報 告 な ど あ る が,本
に,非
の感 染 症 は
定 型 抗 酸 菌IV群
前
症例 の よう
に よつ て 全 身 感 染 症 を お こ
した例 は我 々の調 べ得 た範 囲 内 で は報 告 が み られ
右 鎖 骨 上 窩 リンパ節 腫 大 は急 速 に縮 少,消 失,肺
な い.従
の異 常 陰 影 も 消 失 した(Fig.3).左
感 受 性 は 低 く,そ
赤,腫
脹 も軽 減 した が,排
足 関節 の発
膿 は続 き,解
熱後 の
来 よ り本 菌 に お け る化 学 療 法 剤 に 対 す る
れ て い た が,本
の 臨床 効 果 は ほ とん どな い と さ
症 例 で はCMPが
有効 で あつた
培 養 で も非 定 型 抗 酸 菌 を 検 出 し た.7月9日
に
CMDを
中止 した と ころ,中 止後4日 して再 び 高
溶 血 性 貧 血 に 合 併 した 非 定 型 抗 酸 菌IV群 に よ る 全
熱 が 出現,CMDを
身 感 染 症 の1例
再 開,症 状 の 改 善 を み た が,
消 化 管 出血 が 出現,全 身 状 態 が 急 激 に 悪 化,死
こ と は 注 目 に 価 す る と思 わ れ る.以
に つ き報 告 し た.
(本 例 の 要 旨 につ いて は第53回 日本 感 染 症 学会 総 会
に お い て報 告 し た.)
亡 した.
考
察
本 症 例 は剖 検 す る事 は で きなか つ た が,腹 部 皮
上 自己 免 疫 性
昭 和55年7月20日
361
文
1)
53:
2)
献
国 立 療 養 所 非 定 型 抗 酸 菌 共 同 研 究 班:
65-72,
soft tissues by acid-fast bacilli other than
tubercle bacilli. J. Bone Joint Surg., 45:
327-336, 1963.
4) Lee, L. W., Burgher, L. W., Price, E. B. and
Cassidy, E.:
Granulomatous prostatitis association with isolation of mycobacterium
kansasii and mycobacterium fortuitum. J. A.
M. A., 237: 2408-2409, 1977.
結 核,
1978.
木 下 三 枝 子,
妹 尾 浩 一,
稲 田 修 一,
小笹正三
郎, 斉 藤
肇, 山 岡 弘 二: Mycobacterium
fortuitum
に よ る 皮 下 膿 瘍 の1例,
日 皮 会 誌, 87:
315-319,
1977.
3) Kelly, P. J., Weed, L.A. and Lipscomb, P. R.:
Infection of tendon sheaths, bursae, joints, and
A Case Report on Generalized Infection of Atypical Mycobacteria (Group IV)
Ichiro OZEKI,
Yasuo MATSUOKA,
Shoichiro IRIMAJIRI,
Ippei FUJIMORI
and Junya FUKUDA
Kawasaki Municipal Hospital
A
2
years,
at
the
ray
64
years
right
and
mycobacteria
but
The
but
prednisolone
of
the
abnormal
no
detected
were
to
left
treat
ankle.
shadow
colonies
to
able
detected
from
on
agar
findings,
auto-immune
hemolytic
Thereafter,
appeared
pus
on
from
and
Gram
yellowish
anemia
subcutaneous
the
lower
area
for
abscess
of
both
about
were
lung
on
found
chest
X-
the
left
ankle
joint
cavity
and
subcutaneous
blood.
positive
matured
bacilli
and
were
colonies
on
Ogawa's
stainned
positively
medium
22-42 •Ž
by
acid-
in
a few
group
IV.
medium.
mentioned
improve
the
sputum
as
slightly
including
to
in
the
characterized
formed
antibiotics,
were
were
not
They
Various
day,
were
bacteria
stainning.
According
per
taking
arthritis
hypochondrium,
Atypical
days
female,
purulent
examination.
abscess,
fast
oid,
developed
above
they
antituberculosis
in
clinical
symptomes.
were
drugs,
identified
were
just
not
atypical
effective.
mycobacteria,
Only
Cefamandole,
6g