「腎結石症疑いには、エコーかCTか」 - JHospitalist Network

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「腎結石症疑いには、エコーかCTか」
Ultrasonography versus Computed Tomography for Suspected Nephrolithiasis N Engl J Med 2014;371:1100-­‐10. PMID: 25229916 2016年年6⽉月29⽇日
担当者 筑波⼤大学附属病院 総合診療療科
五⼗十野博基
症例:43歳男性 主訴:右下腹部痛
現病歴:受診前日の昼、結婚式に参加した。18時頃よ
り腹痛を自覚した。下痢・嘔吐なし。腹痛は右下腹部痛
で数十分周期で数十分続く痛み。VAS9/10。受診当日
排便あり。疼痛続くため、朝ERを受診した。
アレルギーなし、 内服:降圧薬、糖尿病の薬 既往歴:DM(+),HT(+),HL(+),不整脈なし
5年前に左尿路結石で入院あり。
バイタル:BT36.3℃、BP104/67mmHg、HR 86 reg
冷汗あり、腹部圧痛なし、CVA叩打痛なし、 尿検査:尿潜血3+ ‣疑問
結石の既往があり、血尿もある。 尿管結石症を第一に疑う。 次に行う画像検査は、超音波検査か、レントゲンか、CTか
EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)
Step2 論文の検索
Step3 論文の批判的吟味
Step4 症例への適用
Step5 Step1-4の見直し
Step 1疑問の定式化(PICO)
P: 尿尿管結⽯石疑い
I: 腹部エコー、レントゲン
C: 腹部CT
O:診断精度度、有害事象、
Step 2論論⽂文の検索索②
1次研究(primary studies)PubMedを利利⽤用
"Nephrolithiasis"[Mesh] AND ("ultrasonography"[Subheading] OR "ultrasonography"[All Fields] OR "ultrasonography"[MeSH Terms]) AND Randomized Controlled Trial[ptyp]
29件中1件⽬目に
The
n e w e ng l a n d j o u r na l
of
m e dic i n e
Original Article
Ultrasonography versus Computed
Tomography for Suspected Nephrolithiasis
研究デザイン
前向き、無作為化試験で、盲検化はされてい
ない研究である。⽶米国15の多施設で⾏行行われ
た。論論⽂文の概要は、
P 腎結石症の疑いで救急受診
I 救急医によるベッドサイドでの腹部エコー
C 放射線科による腹部エコー
C 腹部単純CT
OPrimary①診断の遅れ/見落としの結果、合併症を伴う 高リスク疾患と30日以内に診断 ②6ヶ月以内の総被曝量 背景
ベッドサイドでの超音波検査(Point-­‐of-­‐Care US)(POCUS)が
様々な領域で注目されている。腎結石診断のほか、外傷
のFASTや、新しいところではショックの鑑別にRUSH Exam(Pump-­‐Tank-­‐Pipesを評価) Emerg Med J. 2013 Jan;30(1):3-­‐8. The RUSH Exam
257
N Engl J Med 2011;364:749-­‐57. Table 1
Rapid Ultrasound in SHock (RUSH) protocol: ultrasonographic findings seen with classic shock states
RUSH
Evaluation Hypovolemic Shock
Pump
Hypercontractile
heart
Small chamber size
Tank
Flat IVC
Flat jugular veins
Peritoneal fluid
(fluid loss)
Pleural fluid
(fluid loss)
Pipes
Cardiogenic Shock
Obstructive Shock
Distributive Shock
Hypocontractile
heart
Dilated heart
Hypercontractile
heart
Pericardial effusion
Cardiac tamponade
RV Strain
Cardiac thrombus
Distended IVC
Distended jugular
veins
Absent lung
sliding
(pneumothorax)
Hypercontractile
heart (early sepsis)
Hypocontractile
heart (late sepsis)
Distended IVC
Distended jugular
veins
Lung rockets
(pulmonary
edema)
Pleural fluid (effusions)
Peritoneal fluid
(ascites)
Abdominal aneurysm Normal
DVT
Aortic dissection
Abbreviations: DVT, deep venous thrombosis; IVC, inferior vena cava; RV, right ventricle.
Normal or small IVC
(early sepsis)
Peritoneal fluid
(peritonitis)
Pleural fluid
(empyema)
Normal
Ultrasound Clin 7 (2012) 255–278
背景
腎結石症疑いへの腹部CTの使用頻度は10年で10倍 しかし、CTが予後改善に繋がるかは不明 コスト、被曝、時間の問題もある Acad Emerg Med. 2011 July ; 18(7): 699–707 Ultrasound Q. 2012 Sep;28(3):227-­‐33 腎結石症の疑いがある患者に対する初回画
像検査法は、CT と超音波検査のどちらにす
べきか意見が一致していない ‣ Inclusion criteria
• 2011年年10⽉月から2013年年2⽉月
• 18-­‐76歳で腹痛、側腹部痛あり
• 救急医が腎結⽯石を除外するために画像を
オーダー
‣Exclusion criteria
•  重⼤大な他の診断のリスクが⾼高いと医師が判断し
た場合(例例えば胆嚢炎、⾍虫垂炎、⼤大動脈瘤、腸
管の病気)
•  妊婦
•  肥満:男性129kg以上、⼥女女性113kg以上
•  ⽚片腎、腎移植後、透析中
‣介⼊入 IntervenVon
• Point-­‐of-­‐care ultrasound (ベッドサイドエコー):
トレーニングを受けた救急医が施⾏行行
• Radiology ultrasound:ガイドライン
に沿って放射線部で⾏行行うエコー
‣⽐比較 Comparison
腹部単純CT:local standardに沿って。
Outcome:Primary Endpoints
①診断過誤あるいは診断の遅れに関連して起こり得る,合併
症を伴う高リスク診断high-­‐risk diagnoses with complica_ons that could be related to missed or delayed diagnoses 具体的には、腹部大動脈瘤の破裂、敗血症を呈する肺炎、膿
瘍または敗血症を呈する憩室炎、腸管虚血または穿孔、腎梗
塞、膿瘍を呈する腎結石、尿性敗血症または菌血症を呈する
腎盂腎炎、壊死を有する卵巣捻転、虚血のある大動脈解離と
定義 ②6ヶ月以内の総被曝量 ③総コスト(まだ調査中で、今回は述べられていない) 追加の画像検査 を含むその後の管理は医師の判断に任せた. Outcome:Secondary Endpoints
重篤な有害事象、試験参加による重篤な有害事象 疼痛、救急再受診、入院、痛み、腎結石の診断精度 重篤な有害事象とは、死亡、重症、入院が必要、障害を
きたす、早期に診断していれば避けられた薬物治療、手術
その他インターベンション。 患者は、ランダム化から3,7,30,90日後に、これらoutcome
評価のため来院し、健康状態や受けた医療に関して構造
化面接で評価された。 ‣倫倫理理的配慮
全ての患者へのICと倫倫理理委員会の承認を得てい
る。
Commibee on Human Research and the ins_tu_onal review board at each par_cipa_ng site approved the study. All par_cipants gave wriben informed consent. Step 3 批判的吟味 治療療に関する論論⽂文のユーザーズガイド
①結果は妥当か
介⼊入群と対照群は同じ予後で開始したか
患者はランダム割り付けされていたか
ランダム化割り付けは隠蔽化(concealment)されていたか
既知の予後因⼦子は群間で似ていたか=base lineは同等か
研究の進⾏行行とともに、予後のバランスは維持されたか
研究はどの程度度盲検化されていたか(⼀一重〜~四重盲検) 研究完了了時点で両群は、予後のバランスがとれていたか
追跡は完了了しているか=追跡率率率・脱落落率率率はどうか
患者はIntention to treat解析されたか
試験は早期中⽌止されたか
介入群と対照群は同じ予後で開始
したか
ultr asonogr aphy vs. ct for suspected nephrolithiasis
患者はランダム割り付けされていた
か
3638 Patients were assessed for eligibility
229 Were ineligible
309 Declined to participate before eligibility confirmed
324 Were eligible, but declined to participate
• 2759名を1:1:1にランダムに割り付けた 各908, 893, 958名
2776 Underwent randomization
17 Withdrew before any data collected
1 Underwent point-of-care ultrasonography
8 Underwent radiology ultrasonography
8 Underwent computed tomography
2759 Were included in
intention-to-treat population
908 Were assigned to pointof-care ultrasonography
32 (3.5%) Were lost
to follow-up
876 Had at least one
follow-up assessment
893 Were assigned to
radiology ultrasonography
49 (5.5%) Were lost
to follow-up
844 Had at least one
follow-up assessment
958 Were assigned to
computed tomography
32 (3.3%) Were lost
to follow-up
926 Had at least one
follow-up assessment
ランダム割り付けは隠蔽化され
ていたか
Ranuni関数を用いた乱数表を使用 Randomiza_on was performed with the use of the RANUNI func_on in SAS sodware at the study website. The
n e w e ng l a n d j o u r na
既知の予後因⼦子は群間で似ていたか
Table 1. Baseline Characteristics of the Study Participants.*
‣2群間に差はない
(Table1の下部にno significantと記載) Characteristic
Point-of-Care
Ultrasonography
(N = 908)
Female sex — no. (%)
443 (48.8)
Age
Mean — yr
•  女性約半数、白人4割、4割に腎結
石既往、6割に血尿、5割にCVA叩打
痛あり 差とは違うが、 •  心血管リスクの高い患者が少なそう
である。糖尿病は1割で、高血圧が3
割、他は不明 •  40歳以下の若年者が半数で、65歳
以上は2%しかいない 40.1±12.4
Distribution — no. (%)
18–30 yr
250 (27.5)
31–40 yr
222 (24.4)
41–50 yr
223 (24.6)
51–64 yr
197 (21.7)
65–76 yr
16 (1.8)
Race or ethnic group — no. (%)†
Non-Hispanic white
369 (40.6)
Black
236 (26.0)
Asian
35 (3.9)
Native American
12 (1.3)
Pacific Islander
Hispanic
1 (0.1)
218 (24.0)
Mixed or other
32 (3.5)
Data missing
5 (0.6)
Self-reported pain score‡
8.3±2.0
Hospital admission directly from emergency
department — no. (%)
73 (8.0)
* Plus–minus values are means ±SD. The data exclude the 17 patient
but before any baseline data were collected. There were no significa
tic listed here.
† Race or ethnic group was self-reported.
‡ Pain was assessed on an 11-point visual-analogue scale, with highe
High-Risk Diagnoses with Complications
phy th
研究の進行とともに、予後のバラ
ンスは維持されたか
研究はどの程度度盲検化されて
いたか
• 盲検化は、患者・医療者ともにされていな
い • Pa_ents and providers were aware of the imaging method to which the pa_ents had been assigned. 研究完了時点で両群は、予後の
バランスがとれていたか
324 Were eligible, but declined to participate
追跡は完了了しているか 患者は、ランダム割り付けされた集団において解析さ
れたか
2776 Underwent randomization
17 Withdrew before any data collected
1 Underwent point-of-care ultrasonography
8 Underwent radiology ultrasonography
8 Underwent computed tomography
•  Figure1にあるとおり、全体で113人(4.1%)がlost。
群間での差はなし。 2759 Were included in
intention-to-treat population
908 Were assigned to pointof-care ultrasonography
893 Were assigned to
radiology ultrasonography
32 (3.5%) Were lost
to follow-up
876 Had at least one
follow-up assessment
49 (5.5%) Were lost
to follow-up
844 Had at least one
follow-up assessment
958 Were assigned to
computed tomography
32 (3.3%) Were lost
to follow-up
926 Had at least one
follow-up assessment
Figure 1. Screening, Randomization, and Follow-up.
•  解析はinten_on-­‐to-­‐treat principle groups of 5% for events with a prevalence of 10%,
0.34% for events with a prevalence of 0.5%, and
0.14 SD for radiation exposure. Our target sample size was 2500 patients. We used SAS software,
version 9.4, for all the analyses.
rectly to the hospital from the emergency department did not differ significantly among the groups,
suggesting that the severity of illness was similar in the three groups. A total of 113 patients
(4.1%) were lost to follow-up, with no significant
試験は早期中止されたか
•  予定追跡期間を完遂している。
治療療に関する論論⽂文のユーザーズガイド
②結果は何か
治療療効果の⼤大きさはどれくらいか
RRR・ARR・NNTはそれぞれいくらか
治療療効果の推定値はどれくらい精確か
上記それぞれの95%CI区間の範囲は適切切か・広
すぎないか
有意差がでていないため、これらの計算はしてい
ない。
結果 Primary 救急医
エコー(908例)
高リスク診断 6例(0.7%)
放射線科医
エコー(893例)
単純CT
(958例)
P値
3例(0.3%) 2例(0.2%) 0.30
はじめにエコー検査を施行しても、高リスク診断は増えなかった。 P値0.3と有意差がない 高リスク診断11例の内訳は、 尿路感染症から菌血症OR周囲の膿瘍形成が判明した症例が8例 小腸虚血の切除を要した症例、憩室炎で膿瘍を形成した症例、 卵巣捻転が1例ずつ 総被曝量
救急医
エコー(908例)
放射線科医
エコー(893例)
単純CT
(958例)
P値
10.1mSv
9.3
17.2
<0.001
エコー群で、被曝量は有意に少なかった。補足:下記は被曝の早見表 ○○mSvのイメージわきますか? 補足②:放射線被曝と先天異常
•  妊娠可能な女性の放射線検査は、時期を選べる
ならば、月経周期の最初の10日間(卵胞期)に施
行する。妊娠の可能性があれば先に妊娠検査をし、
十分な説明を放射線検査(被曝)の前に行う。 •  50msv以下の被曝では、胎児奇形、精神遅滞、発
育遅滞を増やすというエビデンスはない。小児癌
のリスクは、一般に1/3000の割合のところ、1/2000
に増やすかもしれない。 参考:UpToDate:Diagnos_c imaging procedures during pregnancy
結果 Secondary
割付に関連した重大な有害事象は、全部で12例。 その内訳は、急性胆嚢炎5例と多かった。 その他、ER再受診、入院、痛み、診断精度(感度8割、特異度5割)に
差はなし。ER滞在時間は、6.3,7.0,6.4時間で、放射線部エコーで長
かった Outcomeではないが、 •  エコー群で追加の検査が必要となりやすい •  救急医エコーの4割、放射線部エコーの3割が追加の画像検
査を 最初のER受診中に施行。これはCT群の5%と比較して、
有意に多かった。 •  腎結石が疑われた患者を対象にしたものの、6ヶ月時点までで 腎結石症と診断されたのは、31-­‐35%だった。
‣結果を⾔言葉葉にする
腎結石症を疑った場合、まず腹部超音波検査
を施行し、それから必要ならCT検査を追加して
も、合併症や診断の遅れは増えないで、被曝
量は減らせる。 今回は、エコーを先に検査しても、4割は追加
検査をしていた。 Step4 症例例への適⽤用
論論⽂文の結果が症例例に適⽤用できるか吟味する
結果を患者のケアにどのように適⽤用できるか
研究患者は⾃自⾝身の診療療における患者と似ていたか
患者にとって重要なアウトカムはすべて考慮されたか
⾒見見込まれる治療療の利利益は、考えられる害やコストに⾒見見合
うか
JAMAユーザーズガイドのP79-‐‑‒83参照
研究患者は⾃自⾝身の診療療における患者
と似ていたか
症例例43歳、糖尿尿病、⾼高⾎血圧あり、腎結⽯石の
既往あり、⾎血尿尿ありは、全て本研究に合致
している。
研究では、エコーのトレーニングを受けた
救急医が⾏行行っている。トレーニングを受け
ていない⾮非専⾨門医が⾏行行うと、診断精度度は落落
ちるだろう。
患者にとって重要なアウトカムは
すべて考慮されたか
• 臨臨床的にも患者にとっても重要な結
果が吟味されている。
• 予め設定されたアウトカム、コスト
に関してはまだ述べられていない。
⾒見見込まれる治療療の利利益は、考えられ
る害やコストに⾒見見合うか
害は増えず、被曝量量がエコー群で減ることは、
特に妊娠可能な⼥女女性では有⽤用な知⾒見見。
追加検査となったエコー群の4割では、ER初診
時のコストがむしろかかりそう。
今回コストは⽰示されなかった。
腹部単純CT 830点
腹部超⾳音波検査 550点
Step5 1-‐‑‒4の⾒見見直し
⽂文章疑問の定式化をうまく⾏行行ったことで、
それに合致した論論⽂文を選ぶことができた。 論論⽂文は⼀一次研究Pubmedから検索索した。
論論⽂文の批判的吟味では、結果は妥当で
あった。検査の特性から、盲検化は困難
だろう。 論論⽂文のまとめ
腎結石症を疑った場合、まず腹部超音波検
査を施行し、それから必要ならCT検査を追加
しても、合併症や診断の遅れは増えないで、
被曝量は減らせる。 比較的若年者が多く、心血管リスクは一部
不明である。腎結石疑いが対象だが、何を
もって疑うのかは不明で、最終的に腎結石と
診断されたのは3割にとどまっており、外的妥
当性が不十分かもしれない。 選択したマネジメント
尿管結石を疑い、 まず腹部USを施行した。結石は認めなかった
ものの、腎盂の拡張を認め、尿管結石症と判
断した。 鎮痛剤NSAIDsで症状は改善し、帰宅とした。
後日排石あり、分析の結果シュウ酸Caと判
明した。 より心血管疾患のリスクが高い症例では、 初めから腹部CT検査の施行も考えたい。 ちなみにレントゲンKUBについては、
大きなカルシウム、struvite、シスチン結
石では、検出できる。しかし、尿酸結石
や小結石、骨構造と重なった場合には
見逃す可能性があり。また、閉塞の有無
はわからない。 UpToDate