22. 非アルコール性脂肪性肝炎に対するニコチン投与の 影響

22 . 非アルコール性脂肪性肝炎に対するニコチン投与の
影響
愛知医科大学 医学部 消化器内科
中出 幸臣、金森 寛幸、山本 高也、
坂野 文美、大橋 知彦、佐藤 顕、
中尾 春壽、米田 政志
【目的】喫煙が慢性肝障害を悪化させるかは議論があり、喫煙の主成分
であるニコチンの非アルコール性脂肪性肝炎( NASH)に対する影響につ
いてはあまりわかっていない。これまでにニコチンは末梢脂肪組織に働
いて脂肪分解を促進するとの報告があるが、脂肪肝にどのような影響を
及ぼすかはあまり知られていない。そこで今回我々は、脂肪肝から慢性
肝炎を発症するコリン欠乏アミノ酸食( CDAA 食)NASH モデルを用いて
ニコチン投与の影響を検討した。
【方法】Wistar 雄性ラットの皮下にニコチン( 12 mg/kg/day)又は生理食
塩 水 を 充 填 し た 浸 透 圧 ポ ン プ を 埋 め 込 み、持 続 皮 下 投 与 し な が ら、
CDAA食および対照食(コリン含有アミノ酸 :CSAA 食)を自由摂取させ
た。6週後にラットを屠殺して肝臓と血液を採取し、血清ALT 値を測定
した。肝組織は HE 染色とオイルレッドO 染色を行った。凍結した組織
から肝中性脂肪量を定量し、また RNA を抽出した。脂質合成に関わる
stearoyl-Coenzyme A desaturase 1( SCD- 1 )
、肝 脂 肪 排 出 に 関 わ る
microsomal triglyceride transfer protein( MTTP)また肝炎症細胞浸潤に
関わるtumor necrosis factor-alpha( TNF-alpha)、Kupffer 細胞のマーカ
ーであるCD68のmRNAをリアルタイムPCR にて定量した。さらに肝炎
症細胞浸潤をスコアー(0; no foci、1; <2 foci、2; 2-4 foci、3; >4 foci)
により定量し、Kupffer 細胞の浸潤は CD 68 の免疫染色を行い比較した。
【成績】CDAA食 + 生食群は CSAA食+生食群に比べ、肝中性脂肪量、
血清 ALT値は著明に増加し、肝炎症スコアーおよび CD 68 陽性細胞数は
増加した。MTTP mRNA は CDAA 食 + 生食群で CSAA 食 + 生食群に比べ
有 意 に 低 下 し、SCD- 1 mRNA も CDAA 食 + 生 食 群 で 低 下 し た。TNFalphaおよび CD 68 mRNA はいずれも CSAA 食 + 生食群に比べ CDAA 食 +
生食群で上昇した。一方、CSAA 食 + ニコチン群は CSAA 食 + 生食群に比
べ、肝中性脂肪量、血清 ALT 値、肝炎症スコアーおよび CD 68 陽性細
胞数に著変なかったが、SCD- 1 mRNA のみ減少した。CDAA 食 + ニコチ
ン群では CDAA食 + 生食群に比べ、肝脂肪、肝中性脂肪量、肝炎症スコ
ア ーお よ び CD 68 陽 性 細 胞 数 も 減 少 し、SCD- 1 、TNF-alpha お よ び
CD68 mRNA はいずれも有意に低下した。一方 MTTP mRNA はニコチン
投与では著変なかった。
【結論】CDAA 投与は MTTP mRNA の発現を抑制し肝脂肪沈着を誘導
し、ニコチンの持続投与は SCD-1 の発現を抑制することで、肝脂質合成
およびマクロファージ遊走を抑制し、肝炎症細胞浸潤を軽快させる可能
性が示唆された。