エチオピアでのNGO 活動 ―あいのり学校建設の経験からー

エチオピアでのNGO 活動
―あいのり学校建設の経験からー
エチオピアで開かれている教育勉強会において、3月3日に国際飢餓対策機構(Food for the
Hungry: FHI)の森田哲也氏により、プレゼンテーションが行われました。男女がピンクのワン
ボックスカー「ラブワゴン」に乗り込んで、世界中を恋愛しながら旅をするというフジテレビの人
気バラエティー番組「あいのり」の企画で始まった「あいのり基金」を使用して、2004年にFHIが
エチオピアにて実施した学校建設プロジェクトについて発表していただきました。プレゼンテー
ション及び質疑応答の内容は以下になります。 (記録:利根川佳子)
〔まとめ〕
・ 「あいのり」は高視聴率番組であるため、広報の優先順位が低い NGO にとって、その宣伝力
は大変魅力的なものであったが、その一方で、番組の人気が高いだけに、プロジェクト批判が
多くなるという懸念も FHI の中ではあった。しかしながら、結果的には、視聴者から大きな反響
を受け、寄付金もさらに集まった。
・ 「あいのり」の視聴者の若い世代に開発教育の機会を与えることができた。
・ 直接プロジェクトに寄付金を使用したいというテレビ局側と、FHI側の事業運営費及びモニ
タリング、完成後フォローアップに必要な車両の購入への理解を得るのが大変だった。
・ 企業(テレビ局)のスケジュール、速い仕事のペースとエチオピアの住民、現地スタッフのゆっ
くりしたペースの違いが、プロジェクト実施において難しい点だった。企業のペースに合わせる
必要が合ったため、FHI と住民の間に信頼関係を作る時間が十分にもてなかった。企業側に
は、開発の現場の事情をもっと理解してもらう必要があった。
・ NGO スタッフは、大手NGO経験者の高学歴の人々が多く、スタッフを育てる意識が少ない。
生き方や規律がきちんとしていて、実務が出来る人を雇い、育てるべき。
〔プレゼンテーション〕
(1)あいのり学校建設を行った理由。
① 高視聴率番組の宣伝力―NGO の弱点の穴埋め
「あいのり」視聴率14∼15%をとっている高視聴率番組であり、広報の優先順位が低い NGO
にとって、その宣伝力は大変魅力的なものであった。その一方で、番組の人気が高いだけに、
プロジェクト批判が多くなるという懸念も FHI の中であった。
② 若い世代へのアピールー 開発教育へのインパクト、誤解のリスク
「あいのり」の視聴者は中学生及び高校生が中心であるため、若い世代に開発教育の機会を与
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えることができると考えた。 その一方で、番組時間が30分しかない中で、どれだけ適切に状況
を理解してもらえるのか、ましてや誤解を招くリスクもあった。しかしながら、結果的には視聴者
から2000通のメールの反響を受けた。
③ 明確なビジョンと関心― ディレクターの人柄
ディレクターの開発への関心の高さ。
「あいのり基金」は「あいのり」のメンバーがアフリカの飢餓や貧困の現状を目の当たりにしてショッ
クを受け、番組として何かできることはないかと設置され、視聴者に向けて募金をよびかけたもの
であった。(その当時では 1000 万円以上が集まっていた。)
(2)プロジェクトサイト選定背景
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サシガ郡:首都のアジスアベバから西部へ380キロ
学齢期児童約40%が不登校。児童数は504人(建設開始当時)。
1教室に平均100人以上の生徒がすし詰め状態。
PTA活動:共同農地での作物栽培を通じて得た収入があり、校舎建設に必要な石材を掘
り出しなどもおこなっていた。
(3) プロジェクト運営
学校建設委員会を設置し、FHI/ETHIOPIA、郡教育局、学校・PTA 共同で行われた。本当は、PTA
からも寄付を募るなど、住民参加を促したかったが、テレビ局側のスケジュールに合わせる必要
があったため、急ぎで行う必要があった。
(4)「あいのり」との交渉
①事業運営費及びモニタリング、完成後フォローアップに必要な車両の購入への理解
直接プロジェクトに寄付金を使用したいと思うテレビ局側と FHI 側の運営費及びモニタリング、フ
ォローアップに必要な車両の必要性を理解してもらうのは大変だった。
結果的にはプロジェクト費合計 850 万円の内10%が運営費となった。
② 情報の公開
「あいのり」ホームページにて 2 ヶ月に 1 回、最新情報を送る約束。
③ ピンク・・・学校校舎及び車両は、「あいのり」のイメージカラーのピンクにする約束。(パワ
ーポイントファイルの写真をご参照)
(5) 完成
学校はオロミア州スタンダードのコンクリート校舎(4教室)を 7 ヶ月で建設。約 400 万円。
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(6) 効果
① コミュニティーの関心アップー校舎増築への貢献度
学校サイトの近くの建物を教室に使用するようになり、校舎増築に向けて1世帯につき 40 ブ
ル(1ブル=約 13 円)の寄付金も集めるようになった。現在は 1 万ブル近く集まっている。
②
教育事務所の優先度―学年数の増加
今までは 4 年制だったのが、5年制に拡張。さらに、6年制に拡張する予定。(注:エチオピア
の初等教育は8年制。)
教育事務所から有資格教師を派遣。
③ 日本での宣伝・教育効果― 開発教育資料として利用
学校の完成式の様子及び飢餓の状況が「ありのり」で放映され、そのビデオが開発教育の教
材として学校で使用されている。子供たちにとっても「あいのり」で放映されたということから取
っ掛かりやすいものとなった。
④ 「あいのり基金」寄付額倍増
エチオピアでの「あいのり学校」放映後、テレビ局へ多くの問い合わせが寄せられ、「あいのり
基金」もさらに寄付金が増え、現在までに2000万円近くまでに上っている。
(7) 課題
1―費用効果:
① 建てると増える・・・教室数不足は続く
学校を建てれば、生徒数は増え、教室はまた不足する。本当に教育状況を改善できているの
かという疑問を常に持ち続けてしまう。
② シロアリ対策、昨今の建築資材価格の高騰
シロアリが多い土地柄、コンクリートの校舎にせざるを得なかったが、土壁など他の校舎スタ
イルを提案すべきだった。ドナーとしては見栄えの良いコンクリート校舎を建てたいという希望
もあった。
② 経験の共有から政策へ提言、影響力行使。
NGOの草の根レベルの経験を政策に影響させるためのビジョンを持つ必要がある。政府
へのロビイングはできないだろうか。
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2―タイミングとペース:
① プロジェクト初期段階としての有効性
②
住民との関係作りに有効だったか?
学校建設委員会を設置してから、もう少し時間をおいてからプロジェクトを始めたかった。住民
に、FHIを理解してもらい、FHIと住民との間の関係作りが必要だった。FHIとは学校建設して
くれるリッチな団体との認識をされかねない。
③
スタッフの負担:時間との戦い
日本のテレビ局のペースとエチオピアの現地スタッフ、住民とのペースが異なる。
④
ビジネスが期待することとの違い
ビジネス側に、現場で働く開発援助の分野について、仕事のペースも含め、理解してもら
うべきであった。
3− コミュニケーションの重要性:
① ドナー教育・・・既に支援をしている人々に対して。
②
頻繁に連絡することの重要性・・・月次報告のみならず、課題などを含め報告すべきだっ
た。
③ NGO 組織内の「学習・気づき」を促す有効な手段・・日本の事務所も現地の状況を理解
できる。
(8) 展望
① 学習するNGO づくり
多くのNGOは、人材不足や資金不足のため人事部がない。
FHIの場合、人事部はあるが、物資購入など Administration も含んでいる。
② スタッフ育成(Human Resource Department 強化)
• キャリア偏重から規律重視へ
NGO スタッフは、大手NGO経験者の高学歴の人々が多く、スタッフを育てる意識が少ない。
生き方や規律がきちんとしていて、実務が出来る人を雇い、育てるべき。
• 組織の理念を個人に落とし込むプロセス重視
なぜこの組織で働くのか。コミュニティへの貢献、組織への貢献を重視すべき。
③ 情報・知識マネージメント
• 教えるよりも共有し、有効な「気づき」へ
• 「感動組織」へ
感動できるストーリーをスタッフが自ら感じ、それをさらに他人へも共有することが、結
果的に組織の活性化につながる。
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〔質疑応答〕
Q.あいのり学校の FHI の中での位置づけは?
FHI はプロジェクト・サイトであるサシガ郡で総合開発計画(Integrated Development Program)を実
施しており、その一部として捉えている。今までに住民トレーニングやリーダーシップトレーニング
や農作物の生産向上等の農業プロジェクトを実施している。
Q ドライバーについて
ドライバーは、あらゆる現場に行っており、ワークショップやトレーニングも隅で聞いており、実は
知識を得ている場合が多い。彼らを有効活用すべきである。
Q.フォローアップはどうおこなうのか?
プロジェクトは3年ごとに政府と契約を結び、最終的には、政府との合意の元、政府に引き渡すが、
政府のキャパシティを上げないまま、引き渡すことには問題がある。キーパーソンをトレーニング
する必要有り。また、プロジェクト立案の中で、政府との関係作りも重要。
Q.寄付集めはどのように行っているのか?
日本では、日本と途上国のつながりを強調する他、途上国の状況を説明し、寄付金を集めている。
これからは、企業のリソースなども使うべき。
〔参考サイト〕
日本国際飢餓機構(FHI)ホームページ http://jifh.fhi.net/
フジテレビ「あいのり」ホームページ http://wwwz.fujitv.co.jp/ainori/index.html
あいのり募金:あいのり学校建設プロジェクト(「あいのり」ホームページ内)
http://www.fujitv.co.jp/ainori/bokin/school_001.html
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