細胞工学 目次 №1 細胞壁・細胞膜 ....................................................

細胞工学 目次
№1
№2
№3
№4
№5
№6
№7
№8
№9
№10
№11
№12
細胞壁・細胞膜 .................................................................. 2
染色体外遺伝子 .................................................................. 2
酵素 .................................................................................. 3
宿主とベクター .................................................................. 6
細胞への遺伝情報導入法 ..................................................... 8
ライブラリー ..................................................................... 8
プローブ........................................................................... 10
プローブ標識法 ................................................................. 11
目的遺伝子の検出.............................................................. 12
目的遺伝子を検出するクローニングの種類 ........................ 15
クローニングした遺伝子の解析法 ..................................... 16
遺伝子配列決定法 ............................................................ 17
-1-
№1
細胞壁・細胞膜
①細胞壁
細胞膜の外側の(セルロース)層
1) 植物細胞
一次細胞壁:セルロース,ヘミセルロース,ペクチン
二次細胞壁:セルロース,ヘミセルロース,ペクチン,リグニン,クリン,ロウ
2) 下等植物 (藻類,菌類など)
セルロースを含まず、多糖類が主成分
3) 原核細胞
グラム陽性菌:大部分がペプチドグリカン
グラム陰性菌:脂質
②細胞膜
1) 構造
リン脂質二重膜 (疎水基が内側(内部),親水基が外側(表面))
全体の 50%がタンパク質 (膜タンパク質)
2) 流動性
脂質の組成により大きく影響を受ける
3) 透過性
水分子は自由に透過
4) 輸送
膜を透過しにくい物質は輸送タンパク質(膜タンパク質)が関与
a) 受動輸送
濃度勾配に従って高濃度側から低濃度側に輸送
b) 能動輸送
濃度勾配に逆らって輸送
エネルギー(ATP など)が必要
c) 巨大分子の輸送
ⅰ) エンドサイトーシス …細胞の外から内に取り込み
ⅱ) エキソサイトーシス …細胞の内から外に排出\
№2
染色体外遺伝子
①染色体外遺伝子
(細胞質遺伝子,非核ゲノム)
細胞内で、染色体とは独立して複製・分配される
原核生物 …プラスミド
真核生物 …ミトコンドリア DNA,葉緑体 DNA
-2-
②ミトコンドリア DNA (mtDNA)
一つの動物細胞には数百個のミトコンドリアが存在
各々、数コピーの環状二本鎖 DNA を含む
ヒトの場合、約 16.6kbp の環状二本鎖 DNA
後生動物(単細胞性動物を除く動物)では mtDNA が 15~20kbp
遺伝子がコンパクトに配置 …イントロンが見当たらない
③葉緑体 DNA
環状二本鎖 DNA
藻類:90~300kbp
陸上植物:120~160kbp
rRNA(4 種),tRNA(30~32 種),タンパク質(70 種)も持つ
※葉緑体 RNA
mRNA はポリ A 構造,キャップ構造をもたない
№3
酵素
○遺伝子操作に用いられる酵素
1) DNA を切る
2) 〃 をつなぐ
3) 〃 を合成する
4) 〃 を修復する
5) DNA の高次構造を変化させる
①ヌクレアーゼ
DNA を切断する
エンドヌクレアーゼ … 鎖の途中から切断
エキソヌクレアーゼ … 鎖の端から切断
②制限酵素 (エンドヌクレアーゼ)
1) 3 種の型
Ⅰ型:認識配列と切断部位の関係が一定でない
Mg2+,S-アデノシルメチオニン,ATP が必要
Ⅱ型:認識配列内もしくは隣接した特異的な位置で DNA を切断
Mg2+が必要
Ⅲ型:認識配列から約 25 塩基程度下流で切断
Mg2+,ATP が必要
2) 命名
起源菌の属名と種名の最初の 2 文字をイタリックで表す
[例] Eco RⅠ (Escherichia coli)
Bam HⅠ (Bacillus amyloligue fascines)
3) 認識配列
4~8 塩基
パリンドローム構造 (回文構造)
-3-
4) 切断部位
a) 平滑末端
AluⅠ:
―AG|CT―
―TC|GA―
b) 粘着末端
Bam HⅠ (5’突出型): ―G|GATCC―
―CCTAG|G―
KpnⅠ
(3’突出型): ―GGATC|C―
―C|CTAGG―
5) 頻出
4 塩基認識:44=256 塩基に 1 回
6 塩基認識:46=4086 塩基に 1 回
③DNA を切断する酵素
1) 制限酵素
2) デオキシリボヌクレアーゼ (DNaseⅠ)
エンドヌクレアーゼ活性
1 本 or 2 本鎖 DNA をランダムに切断
3) Bal31(エキソ)ヌクレアーゼ
1 本鎖 DNA…エンドヌクレアーゼ
2 本鎖 DNA…5’,3’両末端から切断 (エキソヌクレアーゼ)
4) λエキソヌクレアーゼ
2 本鎖 DNA を 5’末端から切断
5) エキソヌクレアーゼⅢ
二本鎖 DNA を 3’末端から切断
6) Mang Bean ヌクレアーゼ
一本鎖に特異的なエンドヌクレアーゼ
7) S1 ヌクレアーゼ
一本鎖を切断するエンドヌクレアーゼ
8) リボヌクレアーゼ (RNaseH)
DNA-RNA ハイブリッドの RNA を分解
cDNA の作成に用いる
④DNA をつなぐ
リガーゼ
リン酸ジエステル結合でヌクレオチド鎖を連結
-4-
⑤DNA の合成
1) DNA polymerase
DNA polymeraseⅠ-Large フラグメント (Klenow フラグメント)
…DNA polymeraseⅠの 5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を取り除いたもの
5’→3’ポリメラーゼ活性と弱い 3’→5’エキソヌクレアーゼ活性
↓
DNA 鎖の合成,末端の平滑化,塩基配列の決定
2) T4 DNA polymerase
一本鎖 DNA に対する 3’→5’エキソヌクレアーゼ活性(DNA polyⅠの 250 倍)
5’→3’エキソヌクレアーゼ活性はない
→ 3’突出末端の平滑化
3) Taq polymerase
耐熱性菌(Thermus aquaticus)
最適温度(72℃),高温で失活しない
※PCR 法 (Polymerase chain reaction)
DNA を増幅させる
材料:鋳型 DNA,DNA poly,プライマー,基質(dNTP)
二本鎖 DNA を 95℃で一本鎖 DNA に変性させ、50℃でプライマーに結合
させる。その後、70℃で Taq polymerase によって、DNA を合成する。
温度サイクルを n 回行うと、2n 倍に増幅
4) ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ
一本鎖または二本鎖 DNA の 3’-OH 末端に、鋳型に非依存的にデオキシリボヌ
クレオチドを重合する酵素
→ 3’末端の標識に用いられる
5) 逆転写酵素
レトロウィルス由来の酵素
RNA を鋳型とし、DNA を合成
6) ポリ A ポリメラーゼ
真核細胞の mRNA 前駆体の 3’末端にポリ A 鎖を付加する酵素
⑥DNA を修飾する酵素
1) 脱リン酸 (アルカリフォスファターゼ)
2) リン酸付加 (T4 ポリヌクレオチドキナーゼ)
3) メチル基付加 (メチラーゼ)
制限酵素部位特異的メチラーゼ
⑦核酸の高次構造を変化させる酵素
1) ヘリカーゼ
らせん構造の巻き戻し,開裂,変性
2) トポイソメラーゼ
-5-
№4
宿主とベクター
①宿主 (host)
組換え DNA を増やす細胞 (大腸菌)
②ベクター (vector)
外来性の DNA を組込み、宿主細胞中で増えることのできる DNA
(プラスミド,ファージ,ウィルス)
③ベクターの条件
1) 宿主細胞内で複製し、娘細胞に安定的に分配される
2) 制限酵素部位を持つ
3) 選択マーカーを持つ
4) 宿主細胞から容易に回収できる
④プラスミド
1) 細菌の染色体外遺伝子のひとつ
宿主染色体とは独立して自律増殖できる寄生性の遺伝因子
2) 通常環状二本鎖 DNA
例外:酵母のキラープラスミド
3) サイズ
2~200kbp
4) コピー数
1,2 個~数十,数百個
⑤大腸菌プラスミド
1) F 因子系
Fertility(稔性)因子
大腸菌に雄株の性格を与える
94.5kbp (約 60 の遺伝子を含む)
内 4 割が F 線を形成,5 割が雌株への DNA 移行
2) R 因子系
R…Resistance
抗菌性物質に対する耐性因子
3) coli E1 系
コリシン E1(抗生物質)を生産する大腸菌株より得られた約 6kbp のプラスミド
⑥酵母のプラスミド
1) 2μm プラスミド
6318bp の二本鎖 DNA (長さ 2μm)
酵母核内に存在し、ヒストンと結合
2) キラープラスミド (キラー粒子)
二本鎖 RNA
自己複製のための遺伝子 10 個
他の菌株の増殖を妨げる因子を合成する遺伝子
-6-
⑦バクテリオファージ (細菌ウィルス,ファージ)
1) 基本構造
遺伝子物質としての一本鎖もしくは二本鎖 DNA または RNA をタンパク質の殻(キ
ャプシド,コート,頭)が包んだもの
・正二十面体 (尾部ナシ) …MS2 ファージ
・正二十面体+尾部
…T2,λファージ
・繊維状
…M13
※繊維状は、コートタンパク質が器形となり、中に核酸が存在し栓タンパク質
が栓をする。
2) ビルレントファージ (溶菌ファージ)
感染すると増殖して娘ファージ粒子を産生し、宿主を必ず溶菌する
T 系ファージ
3) テンペレートファージ (溶原ファージ)
感染すると増殖し、溶菌もするが育成条件によってはプロファージとして宿主を
溶原菌とすることもできる。
λファージ,P1 ファージ
⑧遺伝子工学で用いられるバクテリオファージ
1) λファージ
線状二本鎖 DNA (48502bp)
両 5’末端に 12 塩基の一本鎖相補配列を持つ
4 つの遺伝子群から構成
|
1. 頭部のタンパク質に関する遺伝子群
|
2. 尾部のタンパク質
〃
|
3. DNA の複製
〃
↓
4. DNA の組換え
〃
ファージ粒子産生に必須でない領域を他の DNA に置き換える事ができる
↓
λファージベクター
λファージの線状二本鎖 DNA の中央部はファージの増殖,感染に必要でない。こ
の部分に外来の DNA を挿入してもファージとして感染,増殖できる。
(約 45~53kbp)
2) φX174 ファージ
環状一本鎖 DNA (5386kb),11 個のタンパク質
正二十面体構造の大腸菌ファージ
3) M13 ファージ
約 4.6kb の環状一本鎖 DNA
宿主細菌を殺さずに大量増殖し、細胞外に放出
⑨取り込む DNA のサイズと使用目的によるベクター選択
・10kb 程度 :プラスミドベクター (pBR322,pUC 系)
・10~20kb :λファージベクター
・50kb 程度 :コスシドベクター
・100kb 程度 :P1 ファージベクター,ミニ F プラスミド
・数百~100kb:YAC ベクター
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※・ミニ F プラスミド
…約 94.5kbp の環状二本鎖 DNA のプラスミドの自律増殖に必須な 5.5kbp に薬荷抵
抗因子を負荷させたもの。
・YAC ベクター
…酵母人口染色体ベクター (Yeast Artificial Chromosome)
酵母を宿主とするベクター
№5
細胞への遺伝情報導入法
①物理的方法
1) エレクトロポレーション法 (電気穿孔法)
キュベットに入れた細胞に短時間の高圧電気パルスを与え、細胞膜に DNA が通過で
きる程度の小孔を一過性につくり DNA を取り込ませる
2) マイクロインジェクション法 (微量注入法)
ガラス毛細管を用いて顕微鏡下で直接細胞に DNA 断片を挿入
核に直接注入することも可能
3) パーティクルガン法
金粒子に DNA 分子を付着させ、銃のような装置で細胞内に打ち込む
②化学的方法
1) リン酸カルシウム法
リン酸溶液+DNA を含む塩化カルシウム溶液
→ DNA-リン酸カルシウムの微細な沈殿
→ 細胞が食作用によって取り込む
2) DEAE-デキストラン法
(DEAE:ジエチルアミノエチル) DNA を含む DEAE-デキストラン溶液に細胞を懸濁
し、室温で 30 分程度放置する。
DNA と DEAE-デキストラン複合体を細胞が食作用で取り込む
※DEAE-デキストランは細胞に対する毒性が高い
※浸透圧ショックや DMSO 処理と組合わせると導入効果があがる
3) リポフェクション法
DNA 分子をリン脂質を用いた人口脂質小胞で包み込み、その小胞と細胞を融合させ
ることにより DNA 断片を細胞内に導入する
№6
ライブラリー
①遺伝子ライブラリー
1) ゲノムライブラリー
DNA 全体を断片化して作成
イントロンの有無,発現の調節機構などの情報も含む
2) cDNA ライブラリー
mRNA から合成した cDNA のライブラリー
特定の場所,特定の時期で発現している遺伝情報
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②ライブラリの作成
1) ゲノムライブラリ
(1) ゲノム DNA の抽出
細胞の磨砕 → タンパク質の分解,変性 → NDA を含む核酸を水層に回収
→ RNase で RNA を分解
(2) DNA の断片化
適当な制限酵素(Ⅱ型)を用いる
※Ⅱ型は認識配列,切断部位が固有
(3) ベクターに連結
(4) 宿主中で増殖
(5) 回収
2) cDNA ライブラリ
cDNA … mRNA に相補的な DNA
※塩化セシウムによる密度勾配遠心
CsCl 溶液を 80,000rpm で遠心 → 濃度勾配 (1.05~1.85g/cm3)
タンパク質(1.2g/cm3),DNA(1.7g/cm3),RNA(1.9g/cm3)
→ 臭化エチジウム (DNA に結合し、紫外線によりオレンジ色の蛍光発色)
(1) 全 RNA(r,t,m)の抽出,精製
(2) mRNA のみを回収
オリゴ dT セルロース カラム用いる
(3) mRNA から cDNA を合成
mRNA を鋳型とし、逆転写酵素で cDNA を合成する
(4) RNase(RN アーゼ H)で mRNA を分解
(5) DNA ポリメラーゼにより二本鎖 DNA とする
(6) ベクターに取り込み、宿主中で増幅
図.ゲノムライブラリーの作製
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№7
プローブ
①プローブ (探査子)
…核酸どうしのハイブリッド(二本鎖)形成を利用して、相同な塩基配列を検出するため
に使う分子
②放射性同位体(RI)プローブ
αもしくはγ位に 32P を持つヌクレオチドを用いることが多い
・検出法
オートラジオグラフィー
放射線を X 線フィルムで感光させ、可視化させる
3
H, 32P, 35S
③非放射性プローブ
DNA にビオチン標識したヌクレオチド(B-dUTP(TTP))を取り込ませる
※ビオチン …ビタミン B 群の一種。アビジン(卵白に含まれる糖タンパク)と強く結
合する。
1) 検出法 (代表例)
ビオチン標識をした DNA に卵白アビジン(四量体)を加え、アルカリフォスファター
ゼ(AP)またはペルオキシダーゼ(POD)を反応させる。これにニトロブルーテトラゾリウ
ム(NBT),5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート(BCIP)を加え、青紫色に発色
させ可視化させる。
2) 検出法 (その他)
抗酵素抗体や抗ビオチン抗体を用いる方法
金や蛍光物質で標識する方法
化学発光法
フォトビオチン(光活性基導入ビオチン)を用いる方法
3) 検出法 (ビオチン標識を用いない方法)
a) AAF 標識法
AAF …N-アセトキシ-N2-アセチルアミノフルオレン
AAIF …AAF のヨード誘導体
AAF と DNA を 37℃の暗所で 2 時間おき、DAN 中の G に特異的に AAF を結合させ
る。AAF に特異的に結合する抗 AAF 抗体(一次抗体)を結合させ、それに AP または
POD を付加させた抗 IgG 抗体(二次抗体)を結合させる。二次抗体中の AP または POD
に NBT-BCIP が結合し、青紫色を発色する。
対象となるDNA
AAF標識プローブ
G
G
一次抗体 一次抗体
二次抗体 二次抗体
染色
N
H 2N
C
O
N
Na 2 S2 O5
N
R
O
HNOCH 3
O
N
R
SO3 H
H2 NOCH3
R2
N
N
NH 2
N
CH 3
O
HN
NH 2
ハイブリッド
形成
N
N
O
R1
Guanine
AAF
N
R
SO3 H
b) ケミプローブ標識法 (シトシンへのスルホン基の導入)
a) AAF標識法
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b) ケミプローブ標識法
シトシン部位をスルホン化させ、抗スルホン抗体を結合させる。それに AP 二次抗
体を結合させ、NBT-BCIP で発色させる。
c) DIG 標識法
DIG…ジゴキシゲニン (digoxigenin)
スペーサーアームを介して UTP,dTTP に DIG を結合させる。抗 DIG-AP 標識抗体
を結合させ、NBT-BCIP で発色させる。
d) 化学発光法
X 線フィルムを感光させて検出
№8
プローブ標識法
① 5’末端標識
1) 5’末端のリン酸基(31P)を、アルカリホスファターゼに
よって OH とする。
T4 ポリニクレオチドキナーゼと[γ-32P]-ATP を用い
て 5’末端に 32P を付加する
NH 2
(a) ATP
HO
O
O
O
Pγ O
Pβ O
OH
OH
P α O CH2 O
OH
4'
4) PCR による標識
5’末端標識したプライマーを用いて PCR を行う
→ 確実に標識できる
N
N
5'
2) 一本鎖,二本鎖 DNA ともに用いることができる
3) mRNA の 5’末端標識法
a) 脱キャップ (m7G を取り除く (過ヨウ素酸酸化,
アニリン処理))
b) キャッピング酵素(mRNA グアニルトランスフェラ
ーゼ)と[α-32P]-GTP を用いて 5’末端に標識する
N
N
1'
2'
3'
OH
OH
NH 2
(b) dCTP
N
HO
O
O
O
Pγ O
Pβ O
OH
OH
P α O CH2 O
OH
4'
O
5'
N
1'
2'
3'
OH
(c) ddATP
H
NH 2
N
N
② 3’末端標識
1) 5’突出末端
Klenow 断片または T4-DNA polymerase と
[α-32P]-dNTP を用いて 3’末端を標識
HO
O
O
O
Pγ O
Pβ O
OH
OH
P α O CH2 O
OH
4'
N
N
5'
1'
2'
3'
H
プローブの標識に用いられる
H
2) 3’突出末端,平滑末端
各種ヌクレオチドの構造と標識位置
末端核酸付加酵素(ターミナルデオキシヌクレオチ
ジルトランスフェラーゼ:TdT)と[α-32P]-dNTP を用いて 3’末端を標識する
→同一ヌクレオチドの繰返しはプローブとしての特異性を低下させる危険性が
ある。
そこで[α-32P]-ddNTP を用いると 1 ヌクレオチドしか取り込まれない。
3) RNA の 3’末端標識
RNA リガーゼと[32P]-pCp を用いる。
反応効率が悪く、現実的にはあまり行われない
4) poly A polymerase による RNA の標識
poly A polymerase と[α-32P]-ATP を用いて、poly A 鎖を 3’末端に付加する
- 11 -
③均質標識
1) ニックトランスレーション法
DNaseⅠにより二本鎖 DNA に切れ目(ニック)を入れる。DNA polymeraseⅠの 5’→3’
エキソヌクレアーゼ活性により片方の鎖を削り取り、ポリメラーゼ活性により標識
したヌクレオチド([α-32P]-dNTP)を取り込ませる。
反応温度に注意:16℃を超えると折り返し構造ができてプローブとならない
2) T4 DNA polymerase による標識
T4 DNA polymerase は dNTP の非存在下で 3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を持つ。
DNA 鎖の中央の二本鎖部分をいくらか残し、両端(3’側)から分解する。[32P]-dNTP
を加え、5’→3’ポリメラーゼ活性により、DNA 鎖の片側のみを均質に標識する
3) DNA polymeraseⅠ(Klenow 酵素)による標識
ランダムプライマを用いて Klenow 酵素と[α-32P]-dNTP(dCTP のみでも良い)を加え
て反応させる。
→ Taq polymerase による PCR での標識も可能
4) 逆転写酵素による標識
RNA を鋳型とし、DNA を合成する
5) RNA polymerase による標識
DNA を鋳型とし、[α-32P]-dNTP を用いて、RNA polymerase によって RNA を合成
№9
目的遺伝子の検出
①ブロッティング
核酸やタンパク質を電気泳動後、ゲルにニトロセルロース膜や濾紙を重ねて、膜上に
写し取ること。
・泳動パターンがそのまま固定でき、拡散などにより乱れない
・プローブと反応させやすい
サザンブロット法,ノーザンブロット法などがある
②サザンブロット法 (DNA が対象)
特定の遺伝子(DAN 断片)をフィルター上に検出する方法
E.M.Southern が考案
電気泳動を行い、ブロッティングし、プローブを結合させて検出する
③ノーザンブロット法 (RNA が対象)
細胞中で発現している遺伝子転写物(mRNA)のサイズや存在量を解析する方
細胞から RNA を抽出(全 RNA,mRNA)し、変性アガロースゲル電気泳動によって、ナイ
ロンメンブランヂルターに固定する。それをプローブとのハイブリダイゼーションを
行う。
④ウェスタンブロット法 (タンパク質が対象)
免疫ブロット法(immuno-blotting)ともいう。
電気泳動でタンパク質を分離し、疎水性の膜に写し取り固定する。
抗原に特異的な抗体を用いて検出する。
- 12 -
⑤サザンウェスタン法
DNA 結合タンパク質を DNA でブロッティング(検出)する
⑥ウェストウェスタン法
タンパク質 A にタンパク質 B(A 結合タンパク質)を結合させ、B に対する抗体で検出す
る。
⑦ノースウェスタン法
RNA 結合性タンパク質を RNA で検出
ウェストウェスタン法
- 13 -
⑧コロニーハイブリダイゼーション (コロニーハイブリッド形成法)
プラスミドベクターなどによって作成したライブラリーから目的とするクローンを選
び出す方法
1) コロニーを形成したプレートにニトロセルロース膜(ナイロン膜)を接着させる
(コロニー膜に写し取る)
2) アルカリ処理して DNA を変性させる
3) 中和した後 80℃で 2 時間熱処理し、プラスミド DNA を膜に固定する
4) プローブを結合させる
⑨プラークハイブリダイゼーション (プラークハイブリッド形成法)
※プラーク (溶菌斑)
ファージと細菌を寒天培地上で混合培養すると、薄い膜ができるがファージ感染
で溶菌した部分は、増殖がなく斑点として寒天表面が露出する。
λファージベクターによって作製したライブラリーなどから目的とするクローンを選
び出す方法
1) プラークを形成したプレートにニトロセルロース膜(ナイロン膜)を接着させる
(コロニー膜に写し取る)
2) アルカリ処理して DNA を変性させる
3) 中和した後 80℃で 2 時間熱処理し、プラスミド DNA を膜に固定する
4) プローブを結合させる
図 16.5 の補足
・クローニングとハイブリッド形成を 2~3 回繰り返して目的のプラークを単離する
・単離したファージは取り扱いが不便なため、プラスミドベクターに移す(⇒サブク
ローニング)
⑩ in situ ハイブリダイゼーション
※ in situ …元の位置で
細胞の DNA(RNA)を抽出せずに、プローブとハイブリダイゼーションを行う
1) ファージやプラスミドライブラリのスクリーニングの目的で、寒天プレート上の
ファージプラークや大腸菌コロニーをフィルターに吸着させて行う
2) 染色体内での遺伝子の位置決定を目的とし、染色体 DNA とのハイブリダイゼーシ
ョン
3) 組織切片,培養細胞などにおいて目的の遺伝子が発現している細胞を同定する目
的で、おもに mRNA とのハイブリダイゼーション
⑪差引きハイブリダイゼーション
ある組織や細胞で特異的に発現している遺伝子を濃縮・単離する方法
目的遺伝子が発現している細胞 A と発現していない細胞 B から mRNA を抽出し、A の
cDNA を合成する。A の cDNA と B の mRNA をハイブリダイズさせる。ハイブリッド分
子を除去すると目的の遺伝子が単離させれる。
⑫競合ハイブリダイゼーション
ハイブリダイゼーション反応時に、競合する DNA(RNA)を共存させることにより目的
の遺伝子を特異的に検出・分離する方法。
目的の遺伝子が発現している細胞(組織)から調整した cDNA をプローブとし、RI など
で標識する。発現していない細胞から調整した充分量の非標識 cDNA 存在下で、検定す
る核酸とハイブリダイゼーションする。共通の遺伝子どうしは結合し、特異的遺伝子の
みが検出される。
- 14 -
⑬ハイブリダイゼーションに影響を及ぼす要因
1) 温度 (15~25℃が適当)
2) 反応液中のイオン濃度 (0.15~1M-NaCl)
高い方がハイブリッド形成しやすく、安定
※1M-NaCl では非特異的なハイブリッド形成を引き起こすことがある
→ 洗浄の際に低濃度溶液を用いる
3) 核酸の長さ (最低でも 15 ヌクレオチド以上)
50 ヌクレオチド以上は望ましくない
4) 核酸の濃度 (高い方が望ましい)
№10 目的遺伝子を検出するクローニングの種類
①相同性クローニング
ハイブリッド形成を利用して行うクローニングの総称
目的の遺伝子と相補的な塩基配列を持つプローブが必要
タンパク質を解析し、アミノ酸配列からコドンの縮重を考慮して塩基配列を決定し、
プローブをつくる
cDNA ライブラリに PCR 法を適用したクローニングも可能
タンパク質の両末端のアミノ酸配列からプライマーを設計
↓
RT-PCR 法 (reverse transcription PCR:逆転写 PCR)
②相互作用クローニング
タンパク質間の相互作用(抗原抗体反応など)を指標として目的の遺伝子をクローニ
ングする方法 (ウェスタンブロット法など)
③機能相補クローニング
目的の遺伝子が発現することで宿主の突然変異を抑制(相補)する機能を指標として
クローニングする方法。酵母の突然変異株を宿主としたクローニングなど。
④発現クローニング (機能発現クローニング)
目的の遺伝子が発現して示す機能を指標として遺伝子をクローニングする方法。遺
伝子の塩基配列や産物のアミノ酸配列の情報は不要。ウェスタンブロット法やサウス
ウェスタンブロット法などがある。
⑤ポジショナルクローニング
遺伝性疾患において、原因遺伝子の染色体上の位置(ポジション)を種々の方法により
決定し、それを出発点として遺伝子のクローニングを進めていく。
※位置の決定
1) 疾患家系と多型性 DNA マーカーとの対応関係を利用した連鎖解析法
2) 染色体導入によって形質転換の有無を調べる方法
3) 患者のガン細胞に認められる染色体転廃や欠失などの染色体異常を指標と
する方法
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№11 クローニングした遺伝子の解析法
①アガロース電気泳動法
アガロースは毒性がなく化学的に不活性なので取り扱いやすい支持体である。
→ 高分子量の核酸の分画・精製
※分子量が小さいほど、アガロース濃度を上げなければならない
・縦型電気泳動
ゲルが薄く分離能が高いが、試料の保持量が少ない
ゲル濃度が低いとすべてが滑り落ちる
・可視化
電気泳動後、ゲルを臭化エチジウムで染色し、紫外線を照射し、写真で判断する
②ポリアクリルアミドゲル電気泳動法
アクリルニトリル(CH2=CHCN)を硫酸または塩酸で加水分解して得られるビニル化合物
(粉末,水溶液とも神経性毒物)
架橋剤や重合促進剤などを加えてゲル化
アガロースで分離困難なサイズの小さい核酸の分離 (1kb,特に 0.1kb 以下の場合
塩基配列の決定
たんぱく質の分離解析
通常縦型のスラブゲルを用いる
③パスルフィードゲル電気泳動法
電圧をパルス状に二方向に交互にかけることで、ふるい効果を上げ、巨大 DNA 分子の分
離に効果的(20kb を超える DNA でも可能)
※ 1%アガロースゲル (パルス時間などの条件)
→ 数十~数千の線状 DNA の分離も可能
④各種パルスフィードゲル電気泳動法
1) OFAGE
orthogonal-field-alteration gel electrophoresis
90°方向を変える
2) FIGE
field inversion gel electrophoresis
180°方向を変える,簡便,巨大 DNA の分離は悪い
3) TAFE
transverse alliterating field gel electrophoresis
垂直ゲルを用いてゲルの厚さ方向に流動,高分解能
4) RGE
rotary gel electrophoresis
一組の電極で挟んだゲルを回転させる
5) RFE
rotary field gel electrophoresis
d とは逆に電極を回転させる,小分子 DNA の分離不可
6) CHEF
contour-clamped homogeneous electric gel electrophoresis
24 個の電極を六角形に配置し 90°または 120°の角度で交互に電流を流す
7) PACE
programmed autonomously controlled electrode
f をコンピュータで制御する
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⑤制限(酵素)地図
Ⅱ型の制限酵素の DNA 上での相対位置を示す物理的地図
DNA の塩基配列解析などに用いられる
№12 遺伝子配列決定法
①Maxam-Gilbert 法 (化学法)
一方の末端のみを標識した DAN 鎖を、四種類の塩基それぞれに特異的な切断を行い、
生成した分解産物をポリアクリルアミド電気泳動により鎖長により分離し、バンドの相
対位置より塩基配列を読みとる。
1) 硫酸ジメチル → ピペリジン → G 開裂 (G)
2)
酸
→ ピペリジン → プリン塩基開裂 (A,G)
3) ヒドラジン → ピリミジン塩基開裂 (C,T)
4) 1.2M-NaCl + ヒドラジン → C
5) 1.2M-NaOH → A とわずかな C
②Sanger 法 (酵素法)
分析しようとする DNA を鋳型とし、そのすぐ上流に結合する標識プライマーを用いて
DNA polymerase で合成する。その際の基質にデオキシヌクレオシド 3 リン酸(ddNTP)を少
量加える。ddNTP が取り込まれると DNA 鎖の伸長がとまる。4 種の塩基をそれぞれの
ddNTP に用いて、反応を行い、それぞれのバンド長により塩基配列を決定する。
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