SCIE SI2003 予稿原稿の書き方(サンプル)

遠隔行動誘導システム
産総研 ○大山 英明
Wearable Behavior Navigation System
1.はじめに
GPS ナビゲーション機能を持つ携帯電話が広く普及して
います.屋外の移動については,目標地点に移動するため
し,それを現場協力者の装着したカメラの画像に重ねて表
示し,現場協力者の動作の誘導を行います.
応急手当の専門家
に,歩くべき方向について,適切なナビゲーションを受ける
現場協力
者のカメ HMD上の
ラ画像
カメラ、
専門家の手
カメラ、 のCG画像
モーシ
ョンセ
+
ンサ他
ことができます.
ウェアラブル技術,ユビキタス技術の進歩により,歩行の
ナビゲーション(誘導,指示)だけではなく,一般的な人間
応急手当を行う
現場協力者と患者
口頭指示
モーショ
ンセンサ
+
HMD
HMD
の動作・行動の誘導,指示が実現されると期待されていま
す.一般の行動に関して,普通の人は他人からの指示を必
要としません.しかし負傷者や急病人の隣に立っているな
ら,専門家による応急手当の指示が必要となるでしょう.私
専門家の手のCG画像と
応急手当現場の画像を
重ね合わせた画像
達は,現場の情報を専門家に送り,専門家の動きを分かり
半透明の白い
手が専門家の
手のCG画像
易い形で提示し,それを真似ることで,専門的な技能を現
場で実現するシステムを開発しています[1][2][3].これを遠
隔行動誘導システムと呼んでいます.英語名は,Wearable
Behavior Navigation System(WBNS)としています.本稿では,
図1
専ら視覚と言葉による指示のみを利用する簡易型の遠隔
行動誘導システムについて紹介します.
AR 技術を用いた遠隔行動誘導システム
専門家のカメラ画像
専門家
専門家の手
2.ウェアラブル遠隔行動誘導システム
2.1
遠隔行動誘導システム
画像圧縮
(libjpeg)
現場協力者
ネットワーク
画像圧縮
専門家が,応急手当を行う人の行動を効率よく誘導,指
+
示するために,鍵となる第 1 の基本技術は専門家と応急手
現場協力者のカメラ画像
当を行う人との感覚情報の共有技術です.現場の情報が
無ければ,専門家は,患者の状態を知ることは出来ません.
重畳画像
図2
+
重畳画像
遠隔行動誘導システムの情報処理
私たちが開発している,応急手当のための遠隔行動誘導
専門家の手の画像の抽出は,現時点では,非常に簡単
システムでは,応急手当を行う人が,マイクとウェアラブルカ
なもので,カメラ画像を RGB 空間から HSV 空間に変換し,
メラを装着し,現場の情報を専門家に送ります.
色 相 (H: Hue) , 彩 度 (S: Saturation) , 明 度 (V: Value
第 2 の鍵となる基本技術は,応急手当を行う人の動作を
(Lightness))のそれぞれの値が,特定の範囲にある領域とし
誘導するために,専門家の動作を見せる技術です.基本
て抽出します.抽出する領域は,専門家のいる環境に応じ
的には,専門家の動作を現場協力者が見て,真似ることに
て,マニュアルで調整します.さらに,その領域に対応する
よって,応急手当の動作の指示,誘導が実現されます.多
明度(V)画像を専門家の手の画像として,現場協力者のカ
様な動作の指示,誘導を可能とするために,拡張現実感
メラ画像と重ね,それを専門家と現場協力者で共有します.
(AR: Augmented Reality)技術によって,応急手当を行う人
単純な処理のため,専門家の手の誤抽出の問題が生じま
のカメラ画像に,専門家の手の CG 画像を重ね合わせて表
すが,人間の高度の認識能力により,大きな問題にはなっ
示する遠隔行動誘導システムを開発しました.図 1 にその
ていません.
概念図を示します.
2.3 遠隔行動誘導システムによる応急手当の様子
2.2 遠隔行動誘導システムの情報処理の概要
図 3 に遠隔行動誘導システムを用いて,三角巾を使って
現在開発中のシステムでは,図 2 に示すように,専門家
腕を吊る作業を行った様子を示します.三角巾の利用法を
の装着したカメラの画像から専門家の手・腕の画像を抽出
知らない人でも,専門家の指示に従って,効率良く,応急
手当が可能です.
するため,現場作業員と熟練作業員のカメラは同じ物を用
いています.
図 3 三角巾による応急手当の様子
3.過酷環境作業のための行動誘導システム
前述の応急手当の支援だけでなく,災害現場等の過酷
な環境下での作業の支援でも,遠隔地の専門家による行
動誘導は有効と期待されています.現場にいる熟練してい
図 6 レバーの取り付け作業の様子
図 6 に示すように,評価実験として,工場を模擬した配管
ない作業員の能力を高めるため,過酷環境での作業のた
模型を用いてレバーを回転させ,コックをひねる作業やレ
めの遠隔行動誘導システムを開発しています[4].
バーを配管に取り付ける作業を行いました.特に口頭では
説明しにくい作業には,遠隔行動誘導システムは有効であ
り,様々な作業について,遠隔地の専門家の指示誘導で
高度の作業を行える可能性が有ります.
4.おわりに
本稿では,遠隔地にいる専門家の技能を現場で実現で
きるウェアラブルな遠隔行動誘導システムを紹介しました.
発表では,3D モーションセンサを用いた画像安定化技術
図4
現場作業員用システム
や人間の姿勢計測技術等についても,紹介する予定です.
なお,現在,遠隔行動誘導システムの実用化のための協力
者を求めておりますので,ご興味のある方はよろしくお願い
いたします.
謝辞
本研究は,JST CREST「パラサイトヒューマン」(研究代
表:前田太郎大阪大学教授)の支援により行われました.
参考文献
[1]前田太郎他,CREST パラサイトヒューマンネット HP,
図5
専門家用システム
http://www-hiel.ist.osaka-u.ac.jp/parasite/
[2]大山英明その他,「ウェアラブル行動誘導システムに関
図 4 に示すように,過酷環境で利用するため,現場にい
する研究-共通プラットフォーム技術による簡易型パラサイ
る作業員用のシステムを構成するカメラ,単眼 HMD,ノート
トヒューマンシステムの開発」,第 9 回計測自動制御学会シ
PC 等のデバイスは,防水・防塵仕様のものを利用していま
ステムインテグレーション部門講演会(SI2009),2009
す.また,HMD は作業員の視野を妨げないように取り外し
可能です.一方,図 5 に示すように,熟練作業員用システ
ムを構成するカメラ,両眼HMDは,必ずしも防水・防塵仕
様である必要はありません.ただし,現場のカメラ画像に熟
練作業員の CG 画像を重ねて表示する際の処理を簡略化
[3]E. Oyama, et al., ”A Study on Wearable Behavior
Navigation System - Development of Simple Parasitic
Humanoid System -”,
ICRA 2010, pp. 5315-5321, 2010.
Oyama and Naoji Shiroma,“Behavior
Navigation System for Use in Harsh Environments”,
SSRR2011, pp.272-277, 2011.
[4]Eimei