遠隔行動誘導システム 産総研 ○大山 英明 Wearable Behavior Navigation System 1.はじめに GPS ナビゲーション機能を持つ携帯電話が広く普及して います.屋外の移動については,目標地点に移動するため し,それを現場協力者の装着したカメラの画像に重ねて表 示し,現場協力者の動作の誘導を行います. 応急手当の専門家 に,歩くべき方向について,適切なナビゲーションを受ける 現場協力 者のカメ HMD上の ラ画像 カメラ、 専門家の手 カメラ、 のCG画像 モーシ ョンセ + ンサ他 ことができます. ウェアラブル技術,ユビキタス技術の進歩により,歩行の ナビゲーション(誘導,指示)だけではなく,一般的な人間 応急手当を行う 現場協力者と患者 口頭指示 モーショ ンセンサ + HMD HMD の動作・行動の誘導,指示が実現されると期待されていま す.一般の行動に関して,普通の人は他人からの指示を必 要としません.しかし負傷者や急病人の隣に立っているな ら,専門家による応急手当の指示が必要となるでしょう.私 専門家の手のCG画像と 応急手当現場の画像を 重ね合わせた画像 達は,現場の情報を専門家に送り,専門家の動きを分かり 半透明の白い 手が専門家の 手のCG画像 易い形で提示し,それを真似ることで,専門的な技能を現 場で実現するシステムを開発しています[1][2][3].これを遠 隔行動誘導システムと呼んでいます.英語名は,Wearable Behavior Navigation System(WBNS)としています.本稿では, 図1 専ら視覚と言葉による指示のみを利用する簡易型の遠隔 行動誘導システムについて紹介します. AR 技術を用いた遠隔行動誘導システム 専門家のカメラ画像 専門家 専門家の手 2.ウェアラブル遠隔行動誘導システム 2.1 遠隔行動誘導システム 画像圧縮 (libjpeg) 現場協力者 ネットワーク 画像圧縮 専門家が,応急手当を行う人の行動を効率よく誘導,指 + 示するために,鍵となる第 1 の基本技術は専門家と応急手 現場協力者のカメラ画像 当を行う人との感覚情報の共有技術です.現場の情報が 無ければ,専門家は,患者の状態を知ることは出来ません. 重畳画像 図2 + 重畳画像 遠隔行動誘導システムの情報処理 私たちが開発している,応急手当のための遠隔行動誘導 専門家の手の画像の抽出は,現時点では,非常に簡単 システムでは,応急手当を行う人が,マイクとウェアラブルカ なもので,カメラ画像を RGB 空間から HSV 空間に変換し, メラを装着し,現場の情報を専門家に送ります. 色 相 (H: Hue) , 彩 度 (S: Saturation) , 明 度 (V: Value 第 2 の鍵となる基本技術は,応急手当を行う人の動作を (Lightness))のそれぞれの値が,特定の範囲にある領域とし 誘導するために,専門家の動作を見せる技術です.基本 て抽出します.抽出する領域は,専門家のいる環境に応じ 的には,専門家の動作を現場協力者が見て,真似ることに て,マニュアルで調整します.さらに,その領域に対応する よって,応急手当の動作の指示,誘導が実現されます.多 明度(V)画像を専門家の手の画像として,現場協力者のカ 様な動作の指示,誘導を可能とするために,拡張現実感 メラ画像と重ね,それを専門家と現場協力者で共有します. (AR: Augmented Reality)技術によって,応急手当を行う人 単純な処理のため,専門家の手の誤抽出の問題が生じま のカメラ画像に,専門家の手の CG 画像を重ね合わせて表 すが,人間の高度の認識能力により,大きな問題にはなっ 示する遠隔行動誘導システムを開発しました.図 1 にその ていません. 概念図を示します. 2.3 遠隔行動誘導システムによる応急手当の様子 2.2 遠隔行動誘導システムの情報処理の概要 図 3 に遠隔行動誘導システムを用いて,三角巾を使って 現在開発中のシステムでは,図 2 に示すように,専門家 腕を吊る作業を行った様子を示します.三角巾の利用法を の装着したカメラの画像から専門家の手・腕の画像を抽出 知らない人でも,専門家の指示に従って,効率良く,応急 手当が可能です. するため,現場作業員と熟練作業員のカメラは同じ物を用 いています. 図 3 三角巾による応急手当の様子 3.過酷環境作業のための行動誘導システム 前述の応急手当の支援だけでなく,災害現場等の過酷 な環境下での作業の支援でも,遠隔地の専門家による行 動誘導は有効と期待されています.現場にいる熟練してい 図 6 レバーの取り付け作業の様子 図 6 に示すように,評価実験として,工場を模擬した配管 ない作業員の能力を高めるため,過酷環境での作業のた 模型を用いてレバーを回転させ,コックをひねる作業やレ めの遠隔行動誘導システムを開発しています[4]. バーを配管に取り付ける作業を行いました.特に口頭では 説明しにくい作業には,遠隔行動誘導システムは有効であ り,様々な作業について,遠隔地の専門家の指示誘導で 高度の作業を行える可能性が有ります. 4.おわりに 本稿では,遠隔地にいる専門家の技能を現場で実現で きるウェアラブルな遠隔行動誘導システムを紹介しました. 発表では,3D モーションセンサを用いた画像安定化技術 図4 現場作業員用システム や人間の姿勢計測技術等についても,紹介する予定です. なお,現在,遠隔行動誘導システムの実用化のための協力 者を求めておりますので,ご興味のある方はよろしくお願い いたします. 謝辞 本研究は,JST CREST「パラサイトヒューマン」(研究代 表:前田太郎大阪大学教授)の支援により行われました. 参考文献 [1]前田太郎他,CREST パラサイトヒューマンネット HP, 図5 専門家用システム http://www-hiel.ist.osaka-u.ac.jp/parasite/ [2]大山英明その他,「ウェアラブル行動誘導システムに関 図 4 に示すように,過酷環境で利用するため,現場にい する研究-共通プラットフォーム技術による簡易型パラサイ る作業員用のシステムを構成するカメラ,単眼 HMD,ノート トヒューマンシステムの開発」,第 9 回計測自動制御学会シ PC 等のデバイスは,防水・防塵仕様のものを利用していま ステムインテグレーション部門講演会(SI2009),2009 す.また,HMD は作業員の視野を妨げないように取り外し 可能です.一方,図 5 に示すように,熟練作業員用システ ムを構成するカメラ,両眼HMDは,必ずしも防水・防塵仕 様である必要はありません.ただし,現場のカメラ画像に熟 練作業員の CG 画像を重ねて表示する際の処理を簡略化 [3]E. Oyama, et al., ”A Study on Wearable Behavior Navigation System - Development of Simple Parasitic Humanoid System -”, ICRA 2010, pp. 5315-5321, 2010. Oyama and Naoji Shiroma,“Behavior Navigation System for Use in Harsh Environments”, SSRR2011, pp.272-277, 2011. [4]Eimei
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