労働契約申込みみなしとは? - 松沢社会保険労務士事務所

<H27 年 8 月 31 日発行>
松沢社会保険労務士事務所
ライフサポートまつざわ
今月のテーマ
労働契約申込みみなしとは?
~平成27年10月1日施行!現行労働者派遣法~
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平成24年の改正派遣法で、派遣先・発注者の直接雇用の「労働契約申込みみなし」制度として規定化さ
れ、改正法施行後3年間の猶予期間を置いて、平成27年10月1日から施行されます。
「労働契約申込みみなし」制度は、派遣先・発注者が、法所定の4つの違法行為を行った場合に、その時
点において、当該派遣労働者に対し、「労働契約の申込みをしたものとみなす」というものです。
派遣先としては、無用な法的紛争を回避するためにも、今一度、派遣や請負が適正に行われているか総
点検をしておくべきでしょう。
<労働契約申込みみなしの基本的パターン>
〔派遣先・発注者の違法行為〕
① 禁止業務への派遣の受入れ
派遣元事業者
請負事業者
労働者派遣契約 ② 無許可、無届業者からの派遣の受入れ
業務請負契約
違法行為
③ 派遣可能期間の抵触日を超える派遣の受入れ
④ 偽装請負により請負人の労働者を派遣役務で
受入れ
派遣先・発注者の申込みみなし
により労働者は派遣元を退職
派遣先
発注者
違法行為存在
①~④の違法行為を
行った場合
労働者
(派遣・請負業務)
平成27年10月1日以降、①~④に該当する違
法行為がある場合は、原則として、その時点で、
労働契約申込みみなしが成立します。
当該派遣労働者は、就労している場所も従事し
ている業務も同じで、使用者のみが派遣元から
派遣先に交替することになります。
その時点で
派遣先は
当該派遣元と同一の労働条件で
当該派遣労働者に対して
労働契約を申し込んだとみなす
善
意
無
過
失
の
立
証
行った行為が①~④
に該当することを知ら
なかった、かつ、知ら
なかったことにつき過
失がなかった場合
申込みみなしは不成立
1
「申込みみなし」制度のイメージ図
違法行為の発生
派遣労働者が承諾の意思表示(承諾する旨の意思表示は本人の自由)
派遣先に違法行為の認識がない場合
派遣先に違法行為の認識がある場合
承諾の意思表示を受けて事実調査開始
違法行為存在
申込みみなし
成
立
違法行為否認
紛争
申込みみなし
成
立
善意無過失立証
申込みみなし
不
成
立
違法行為とされる偽装請負とは?
本来、派遣法第26条に定める労働者派遣契約を派遣元・派遣先の会社間で締結すべきところを、脱法目
的をもって、請負その他の名目で契約を締結し、労働者派遣の役務の提供を受けた場合に該当します。
■客観的にみれば、偽装請負になっていたとしても、直ちに労働契約申込みみなし制度が発動するとい
うわけではありません。
■上記④の偽装請負には主観要件があり、労働契約申込みみなしとなる法律の適用を免れる目的(脱
法目的)が認定されるということが前提となっています。
■指揮命令等を行い偽装請負等の状態となったことのみをもって、「偽装請負等の目的」を推定するもの
ではない」としています。
■脱法目的をもって偽装請負とされる場合の例は、次のとおりです。
〇事例1
労働者派遣で役務を受けながら抵触日が到来したのに、クーリング期間を置かずに継続して業務を行う
目的で、実態を全く変更せずに契約名義のみを請負に切り換えて業務を継続させた場合
〇事例2
発注者側の都合で短期間で大量の派遣社員による業務処理が発生し、本来日雇い派遣で対応すべきも
のを法律上制限があるので請負契約名義により労務の提供を受けた場合
〇事例3
派遣先・発注者側として労働局から調査を受けて、偽装請負として是正指導を受けたにもかかわらず、実
態の改善をして適正化しないまま、同じような請負契約を繰り返して労務の提供を受けていた場合
〇事例4
同じ会社のA工場で偽装請負と指導され、労働局の指導を受けて工程、製造方法、形態といったあり方を
適正化して是正したのに、それを知りながら同じ会社のB工場では同じような形態の旧態的なままで実態
上発注者の指揮命令下で請負名義の契約として偽装請負を繰り返した場合
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<参考判例>
松下プラズマディスプレイ事件
~最高裁判決(2009 年 12 月 18 日)~
プラズマディスプレイパネルを製造していた松下電器産業の子会社(松下)は、家庭用電化製品の
製造を請負うパスコ社との間で業務委託契約を締結し、パスコ社の従業員たる本訴訟の一審原告
(原告)を作業に従事させていました。
原告は、作業にあたって松下の従業員から指示を受けていました。
原告は松下に対し、この就労形態が実際には業務請負ではなく労働者派遣であり、いわゆる偽装請
負にあたるとして、直接雇用するよう申し入れました。また、大阪労働局に偽装請負であると申告
しました。
大阪労働局は、その従業員の申告を受け、業務委託契約を解消して労働者派遣契約を締結するよう、
松下に対し是正指導を行いました。
それをうけて、パスコ社は業務請負から撤退し、原告はパスコ社を退職しました。
その後、原告からの直接雇用してほしいとの要望に対し、松下は1年4か月間の有期での直接契約
の申し入れを行い、原告は期間については別途異議をとどめる旨の意思表示を行いつつ、上記契約
期間での直接雇用契約を締結して就労しました。
その一方で、原告は松下に対し、期間の定めのない雇用契約とすることを求めていましたが、松下
は、1年4か月が経過したことにより、上記契約期間の満了をもって契約が終了したとして従業員
の就労を拒みました。
原告は、松下に対し、期間の定めのない雇用契約上の地位を有することの確認や慰謝料支払いを求
めて訴訟を提起しました。
一審の大阪地裁は、原告の慰謝料請求を一部認めた以外は、原告の請求を棄却しました。
これに対し、大阪高裁は、原告と松下の直接の雇用関係を認めました。
その理由として、原告は松下からの直接の指揮監督のもとで労務に従事しており、使用従属関係が
あったこと、原告の給与は松下がパスコ社に支払った業務委託料からパスコ社の利益を控除したも
のを基礎としているので、松下が原告の給与の額を実質的に決定する立場にあったことをあげてい
ます。
そして、松下・パスコ社間の契約及びパスコ社・原告間の契約は、偽装目的のもので公序良俗に反
し無効であり、上記のような実体関係(使用従属関係・労務提供関係・原告の給与額を決定する関
係)を法的に根拠付けるのは、原告と松下との間の雇用契約以外にないので、黙示の雇用契約の成
立が認められる、としました。
最高裁は、この大阪高裁の判断を覆して、松下と原告間に雇用契約が成立しているとは認められな
いとしました。
最高裁は、実態からすれば、原告はパスコ社から松下に派遣されていた派遣労働者であり、この派
遣は労働者派遣法の要求する手続きを経ていない点で労働者派遣法に違反しているとしました。
しかし、このような労働者派遣法違反があったからといって、原告とパスコ社との間の雇用契約は
無効にならない、と判断しました。
そして、松下がパスコ社の原告採用について関与しておらず、原告の給与決定に事実上も関与して
おらず、むしろ、パスコ社自身が原告の配置等の具体的な就業態様を決定しうる地位にあったこと
を認定しました。
そして、これらの事情からは、松下と原告側において黙示的な雇用契約関係が成立していたとはい
えないと結論づけました。
したがって、松下と原告間において雇用契約が成立したのは、明示的に1年4か月の有期雇用契約
が締結された時点であると認定し、この契約には、期間の満了後も雇用契約が継続されるものと期
待されるような特段の事情はなかったものとして、松下と原告間の雇用契約は期間の満了をもって
終了すると判断したのです。
※この最高裁判決により、業務委託を行った場合に企業が予想しなければならないリスクがかなり
軽減されたといえるでしょう。
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