平成 27 年 7 月 16 日 工学部情画像科学科「応用光学」 千葉大院融合科学 椎名 8光の伝搬その1 8. 光の伝搬 その1 ランベルト・ベールの法則 Lambert-Beer law 我々人間が白色光の下において光源でない物質の色を見るとき、その物質の色は、その物質が吸収し た光の波長の色の補色である。例えば、赤い物体を見るとき、実際はその物体は赤色の補色である青緑 色を吸収しているだけであって、その物体を青緑色の光の下で見れば、光は全て吸収されてしまうから、 その物体は黒く見えることになる。 また、我々が純粋に見る液体の色は、その液体中の色素によるものであって、例えば何か赤い液体が あれば、それは青緑色の波長の光を吸収する物質、すなわち赤い色素が液体中に存在することになる。 さらに、その色 素の溶液中の濃度が高ければ、その色はより濃く見える。赤色がより濃く見えるとい うのは、目に入ってくる光の波長のうち、補色である青緑色の波長の光がより少なくなるということで ある。 実際に、均質な媒質を通過する際の光の強度の減少は、ランベルト・ベールの法則によって定式化さ れている。まず、ランベルトの法則によれば、強さ I0 の入射光がこの試料中を距離 l 進んだときの透過 光の強さ、すなわち媒質中の光路長 l における透過光の強さ I は、以下の式で表される。 ' I $ log10 %% "" = −al & I0 # a は媒質ごとに定まる比例定数で、特に吸光係数と呼ばれる。 さらに、試料の濃度 c が小さいとき、ベ ールの法則が成り立ち、a と c の間に次の関係が成り立つ。 a = εc εは試料の種類により、濃度にはよらない定数で、c の単位をモル濃度(mol·dm−3)、l の単位を cm とし た時のεをモル吸光係数という。この式は、a は試料の濃度 c と比例することを表している。 ここで、 光の吸収の程度である吸光度 A を、 & I log10 $$ % I0 # !! = A " という式で定めると、以上から、濃度の違う同じ種類の試料中で、同じ距離を通過した光の吸光度 A は、 その試料の濃度 c と比例することがわかる。 以上より、色を持つ物質は、何かしらの波長の光を吸収しているということだから、溶液中の発色す る物質の濃度を測定するとき、その溶液に光を通過させた際の吸光度を測定すれば、濃度が分かるとい うのがこの測定法の原理である。ただし、これは人間の目から見た色を例にとっているだけであって、 この吸収 する光の波長が必ずしも可視領域である必要はない。 まとめると、媒質に入射する前の光の放射照度を I0、媒質中を距離 L 移動したときの光の強度を I と したとき ( I log10 && ' I0 % ## = −al = −εcl $ ここで a は吸収係数、εはモル吸光係数と呼ばれる。c は媒質のモル濃度である。 41 平成 27 年 7 月 16 日 工学部情画像科学科「応用光学」 千葉大院融合科学 椎名 8光の伝搬その1 以上の原理から、試料溶液中の対象となる物質の濃度を定量的に測定するには、まずその物質を何ら かの形で発色する物質へと変換し(測定したい物質と 変換後の色素の濃度が比例すれば、その色素の濃 度を測定することで、間接的に目的の物質の濃度が分かる)、あらかじめ対象となる物質の吸収する波 長のピーク付近の光のみを測定に用いてやる必要がある(例えば、白色光を用いて赤色の溶液を測定し ても、その際通過する光のうち、青緑色の光以外は色素に全く吸収されずに通過してしまうから、光の 強度と溶液中の赤い色素の濃度は純粋には比例しない)。同様に、その光が対象となる物質以外の物質 に吸収されないようにする 必要がある。 また、実験に用いるセル自体の光の反射や、光が溶液中で透過せずに散乱してしまうことなどにより、 どうしても誤差が生じてしまう。実際の測定においては、このような影響は無視できないから、対象と なる物質が含まれない溶液も同様に測定して、これを吸光度 0 として(I0 をこの時の透過光の強さとし て)比較する(対照実験)。あとはランベルト・ベールの法則による式を用いてそれを試料溶液と比較し、 定量的に濃度を導き出すことができる。 しかし、実際には誤差の影響をできる限り減らすために、あらかじめ濃度既知の溶液を測定しておい て、吸光度と溶液の濃度の関係をプロットしたグラフ(これを検量線という)を作成しておき、これに試 料の結果を当てはめる。さらに、上述のランベルト・ベールの法則は一般に希薄溶液でしか成り立たず、 濃度が高くなるに従い、検量線はその定式から本来想定される直線ではなくなる。しかし、ランベルト・ ベールの法則が成り立たずとも、濃度が高くなるにつれて吸光度が高くなる という関係が崩れず、あ る濃度に対してある吸光度が定まるならば、そこには一対一対応の関係があるから、やはり吸光度から 濃度を測定することができる。こ の濃度を定量的に知るためには、同様に既知の濃度の溶液を測定し て濃度と吸光度の関係をグラフにしておき、それと濃度未知の試料の吸光度を比較してやればよい。 光の減衰 幅 dx の大気層に光が入出力する場合を考える。 大気層を透過した波長λの光の減衰量 dI(λ)は、 入射光 I(λ)と大気層の幅 dx に比例して次式の関 係を得る。 dI(λ ) = −I(λ )s'(λ, x)ρ dx ここで、ρは光を減衰させる物質の密度、s’(λ,x) は単位質量あたりの消散係数である。上式を積分 42 平成 27 年 7 月 16 日 工学部情画像科学科「応用光学」 千葉大院融合科学 椎名 8光の伝搬その1 して、 消散係数 s’(λ,x)は散乱係数α’(λ)と吸収係数 k’(λ)の和で表される。 s'(λ ) = α '(λ ) + k '(λ ) 実際の大気では特に可視光に対して、k’(λ)は小さく、光は散乱によって減衰する。また、s’(λ,x)は位 置および波長に依存しないものとして簡易化して次式をえる。ここで、σは大気減衰係数であり、s’(λ) ρをマクロに扱ったものと同義となる。 I = I 0 exp(−σ x) 従って距離 R までの大気透過率は次式となる。 T (R) = I = exp(−σ R) I0 次に大気を通した目標物の見え方について考える。距離 R 離れた目標物から目に入る光の強度を考え る。 観測者から距離 x 離れた暑さ dx の大気層から散乱される光の強さは大気層の厚さ dx と減衰係数σに比 例し、Aσdx で表される。この光が観測者に到達するまでに減衰することから、 dB = Aσ exp(−σ x)dx となる。観測者と目標物までの大気を考慮すると、 R B= ∫ dB = A[1− exp(−σ R)] 0 ここで、そらの明るさ(背景光)は、 R Bh = ∫ dB = A 0 従って、B は背景光と距離 R とで表される。 B = Bh [1− exp(−σ R)] コントラストは目標物からの光と背景光との差を背景光で規格化することで定義される。 43 平成 27 年 7 月 16 日 工学部情画像科学科「応用光学」 千葉大院融合科学 椎名 8光の伝搬その1 C= B − Bh = −exp(−σ R) Bh 目標物が背景光よりも暗い場合には負の値となり、逆に明るい場合には正の値をとる。 今、目標物の輝度が B0 で与えられる時、瞳に入る明るさは、 B = B0 exp(−σ R) + Bh [1− exp(−σ R)] このときのコントラストは、 C= B0 − Bh exp(−σ R) Bh 正のコントラスト(B0>Bh)の場合にはコントラストは際限なく大きくとることができる。一方、黒い目 標物の場合は距離 0 で-1、距離無限大で 0 となる。前者は灯台や航空灯火等のコントラストに、後者は 視程のそれに該当する。 視程は黒い目標物に対するコントラストが瞳のしきい値(Δ:0.02〜0.05)に等しい場合の距離で定義さ れる。つまり、C0=-1、C=-Δとなるときが視程 V となる。 Δ = exp(−σ V ) 1 1 3.912 V = log = σ Δ σ ~Memo~ 44 (Δ = 0.02)
© Copyright 2024 ExpyDoc