お菓子な世の中を

すぎなみ学倶楽部 www.suginamigaku.org
027 小黒敏行さん
-2007年1月19日掲載-
お菓子な世の中を 小黒敏行さん 株式会社アイネット 代表取締役社長
プロフィール : 1953 年生まれ。
昭和 53 年青山学院大学理工学部研究科修了後、小林香料株式会社へ入社。
昭和 60 年4月 株式会社フタバ入社 ( 現在のアイネット )。
1998 年2月 代表取締役社長に就任(ベイスターズ優勝の年!)。
趣味 : 将棋2段 落語。
スポーツ : ジョキング ベイスターズの応援。
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■流通市場の変化と
ナショナルブランド
『ナショナルブランドのお菓子を販売する
■日本のお菓子 のはまさに消耗戦です。びっくりするくらい安
く売るお店がありますが、果たして誰が得を
するのでしょう?』
大学では化学を専攻、予期せぬ形で家業
に戻った (昭和 60 年) アイネット、 小黒敏行
社長へのインタビューは、 逆にナショナルブ
ランドを 「使いこなした」 アイワイグループ、
鈴木敏文氏の考え方を思い起こさせる。彼
は品揃えの充実に疑問を呈し (売れ筋は限
▲数多くの商品がずらり並ぶショールーム
られていて且つうつろう。 また日本人の消費
そこにたどり着いた瞬間、雑念は一掃され
は画一的)、 他店見学に意味はない (所詮
る。「お菓子の図書館」とでも表現したらよい
二番手商法であり、二番手商法で儲かる時
のだろうか。 そこには 「癒される」 なんて陳
代ではない) と喝破した。 鈴木氏は出版取次
腐な言葉には置き換えられない厳粛さと、日
ぎ会社出身で、小黒社長同様業界の異邦人
本全国津々浦々から 「集合」 したお菓子との
である。二人は全く正反対の道を進んでいる
対話がある。世代によって最初に対話するお
ようでいて、ロジックは殆ど変らないと思え
菓子は違えど、 その対話がまた別の対話を
た。 鈴木氏は社会の、 一般的には知覚され
誘う。 事実見学に訪れる方たちの多くが、 想
井の頭線永福駅を下車し北に歩く。杉並
にくいニーズに忠実であり、その結果として
定外の 「足止め」 を食らうとのこと。 ここには
区立郷土博物館へたどり着く手前に、小黒
巨大な流通グループを形成した。小黒社長
「安さで勝負」 の空気は全く存在しない。
敏行さんの経営するアイネットがある。ご近所
はあくまでも一つ一つのお菓子に忠実なの
の人たちにとって、 毎月末日曜日朝 10 時か
である。
▲本社で毎月末日曜日朝 10 時から催される「ガレージセ
ールは大人気」
『お菓子は何百年もコミュニケーションツ
ら催される通称 「ガレージセール」 は定番中
ールとしての役割を果たしてきました。売り場
の定番。 アイネットファン向け (勿論誰でも
『ナショナルブランドが席巻し、数多くのお
には、 決め打ちで買いにこられる方、 美味し
参加可能) に商品が格安で販売されるバザ
菓子屋さんが淘汰されてしまいました。必死
そうなものや、昔懐かしいお菓子を探しにこ
ーである。
にがんばっているところも風前の灯です。は
られる方が混在しています。でもどんな方だ
っきり言って売ることに長けていないし、ま
って、 一緒に食べる人と、 「あれっ?」 という
日本の 「好景気」 が記録的長さに達すると
た、ナショナルブランドのように規模を拡大す
感覚を共有できれば、 それだけで幸せにな
いう。 「いざなぎ景気」 を超え、 企業収益は
るのは、 誰にでもできる話ではありません。
れるのではないでしょうか。 また日本のお菓
史上最高の水準にあるとも報道される。勿論
でも日本のお菓子にはたくさんの特徴がある
子はシンプル、 且つ 「凛」 としたパッケージ
儲かっている企業とそうでない企業の差は
わけでして。 あ、 そうだ、 ショールーム案内し
が施されておりますから、 暗いところに陳列さ
激しく、「勝ち組負け組み」などという表現は、
ますよ』
れていても、 むしろ強く自己主張するので
当たり前すぎて廃棄処分寸前の扱いだ。でも
す。 海外の方で、 部屋の飾りとして買い求め
ずしも決まった法則があるわけではない。と
りわけアイネットの 「戦い方」 は清々しい。
る方もたくさんいらっしゃいます。 賞味期間の
問題はありますけれど(笑)』
1
→
よく観察してみれば、 「勝ち方負け方」 に必
027 小黒敏行さん
-2007年1月19日掲載-
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『海外のお菓子と比べると、 当たり前です
報の発信基地沖縄というブランドには高い付
た。 やはり社員とのコンタクトを増やしていく
目的で立ち上げたわけですが ・ ・ ・ ・ ・ 』
が日本のお菓子は種類が多い。 デザインか
加価値がある。ナショナルブランドが取扱うに
ら微妙な味の違いまで。 実際にお菓子屋さ
は小さすぎるけど、アイネットの売り場にはも
んが日本に何社存在するかを統計する作
ってこいだ。目の前に広がるのは困難ばかり
業は不可能に近いとも言われております。さ
ではない。
創業以来長い歴史を誇るアイネットではあ
るが、 東京、 それこそ杉並区における知名度
て、私達とお取引いただく会社はおよそ 500
は決して高いとはいえない。 商品に触れた
社、扱い品目は 5000 アイテムほどになりま
家業に戻り、一回り若い社員について一
り、 売り場を訪れた経験がある方が圧倒的多
す。 一般的に 2500 アイテムを超えると営業
から修行した小黒社長は、 そのスマートな容
数のはずなのに、 だ。 小生の勝手な推測だ
効率が著しく悪化するといわれるこの業界
貌からは創造できないほど「骨太」である。
が (そしてこのような意見を述べることはアイ
で、 私達は会えて多品種に取り組みます。
「アイネット(卸向け)」、「東京カレン(専門店
ネットにとって全く意味がないどころか有害
アイネットは人と美味しさを結ぶ情報ステー
向け)」、「味の花壇(高級スーパー向け)」、
かもしれないが)、 アイネットにとっての主役
ションだと自負しているのです。ナショナルブ
「アセンド(健康がテーマ)」という四つの自社
はお菓子であり、 お菓子を食べる人はその
ランドは均質性、及び価格の面で社会に貢
オリジナルブランドの製造 ・ 卸。売場提案 ・
次なのではないかとさえ思えてくる。 勿論悪
献しているのでしょうけれども、私達はお菓子
管理。 菓子一括物流システム 「おまかせア
い意味で書いているのではない。
の持つ文化的役割や、コミュニケーションに
イネットSS80」 は、 2006 年8月期決算で同
おける役割を大事にしたい。食の安全も喧伝
グループの 100 億を超える売り上げに貢献
される現代は、お菓子が作られていく過程の
する。
ainet-kashi.co.jp/)、 会社概要、 社長挨拶に
ストーリーも、味に他なりません』
■アイネットの挑戦
ア イ ネ ッ ト の ホ ー ム ペ ー ジ(http://www.
は 「変化に対応しうる人たれ」 という創業者
『売場提案に商品知識が欠かせないのは
の言葉が引用されていて、新たな進路を切り
当たり前ですが、それよりも一つ一つの店舗
拓いていく宣言がなされているが、 一つ一つ
を、手作りでデザインしていく喜びに満ち溢
のお菓子にとって、 流通の変化についていく
れた社員が成功するようです。食べることが
のは困難の極みである。 アイネットはお菓子
大好きな社員が多くて、健康管理は結構悩
を主役にして変化に対応し続ける。ていく。
みの種ですが。若い社員でも女性でも年齢
その役割を実直に果たしていく。 そのために
に関係なく活躍しています。大きな売り場を、
アイネットの知名度は、 今のままが一番いい
信頼を勝ち得ていきなり任されることもしばし
のであろう。
ばです。 5000 種類の商品を、 季節やスペー
ス、 お客様の年齢層などを考えながら陳列し
■お菓子な世の中を!
ていく工夫、 イコール喜びがお菓子を引き立
▲ショールームに並ぶ商品は多種多彩なラインナップ
てるのです』
アイネットがその使命を実現し続けるに
は、ナショナルブランドを取扱うスーパーマー
主役は?
ケットなどに比肩する商品回転率を維持し、
かつ廃棄ロスを最小化させなくてはならな
『戦前クラモチというデパートの地下売り
い。 独自の流通システム開発から商品開発
場、 お菓子の専門店で小黒健次という、 私
まで、 何一つ怠ることはできないのである。
の父の親戚が働いておりました。出身は新潟
幸いにもオンライン化にはいち早く着手、 且
県です。 昭和 21 年に、 東高円寺の馬橋で
つ流通業界の激変は、 昔ながらのお菓子問
独立し、 その時に父が呼び寄せられたので
屋からの脱却に良い意味で一役買った。
す。 昭和 31 年に(株)双葉商店として法人の
インタビューを終えて感じたのは、現代社
スタートを切りました。 その後社名変更や合
会における自分本位主義の弊害だ。「癒され
業務縮小や後継者難で廃業を考えるお菓
併を経て現在のアイネットがあるわけです
たい」 とか 「自分に対するご褒美」 とか、 現実
子屋さんの存在は、アイネットにとって商品
が、私はいつもアイネットを経営している不思
逃避的な 「現代用語」 も、 カテゴリーとしては
開発のチャンスみたいなもの。 機械を買い取
議、つまり思いもよらなかったお菓子の流通
自己中心の最右翼に分類される。 おかしな
ったり、 「後継者」 を紹介することで存続さ
業に携わっている不思議を感じます。いつ
世の中である。
せ、 自社の販売網に乗せる。 ニッキやハッカ
か、 例えば引退するとか、 他に時間ができ
確かに諸外国との関係において、日本人
▲それぞれの商品に社長の思いが込められている
たとすれば作るほうにまわりたいですね。 勿
が自己主張しない人種であるとの評価が定
論お菓子ですけれども。 最近 「お菓子な社
着するのは由々しき問題(定着している)で、
近元気な沖縄のお菓子。 健康ブームと、 情
長の良いどれ日記というブログ」 をはじめまし
とりわけ外交問題においては、あってはなら
2
→
などがそのいい例で、 縮小したとはいえ、 無
視できない規模のマーケットが存在する。 最
027 小黒敏行さん
-2007年1月19日掲載-
→
ない話 (残念ながらたくさんある) である。 し
かし日本的な言葉を介さない、 例えば 「阿吽
の呼吸」 とか 「以心伝心」 などに代表される
コミュニケーション ・ スキルは、自分を客観的
に見る ・ 表現するためのスキルとして (あくま
でもスキルとして、 だ!) 最高のものであると
思う。 要は二つの異なったコミュニケーショ
ン ・ スキルを上手に使いこなさなくてはなら
ない社会に、 歴史的必然性において我々は
暮らしているのだ。 そして我々には、 それに
対応できるだけの十分な能力があると思う。
そうなっていった (と小生が勝手に仮説を
立てているだけだが) 歴史的必然性を、 前
向 き に 時 代 の コ ス ト と し て 受 け 入 れ、 今 一
度、 特に人間以外の何かに主役に置き換え
た(動物愛護みたいなレベルの話とは違う)
発想、 行動を少しでも増やしていけば、 おか
しな世の中は変っていくと思う。
お菓子が主役、日本の長い歴史の中で誕
生した、それこそ星の数ほどあるお菓子には
自然と人類の英知が包み込まれている。静
かに一寸お菓子でもつまんでみませんか。
アイネットと一緒に、 「お菓子な世の中」 を
作っていきませんか。
(文 : 河田淳)
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