交通事故相談ニュース 35号 (2015年10月1日) 7 1 判例 平成27年3月4日最高裁大法廷判決 (裁判所時報1623号1頁、自保ジャ ーナル No.1938・1頁) ■ 事案の概要 Y 社に雇用されていた A は、長時 間の時間外労働や配置転換に伴う業 遅滞するなどの特段の事情のない限り、その塡補の対 象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に 評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地か らみて相当であるというべきである。 」 「所論引用の当裁判所第二小法廷平成16年12月20日判 決は、上記判断と抵触する限度において、これを変更す べきである。 」 2 解説 務内容の変化等の業務に起因する 被害者が加害者の不法行為によって死亡又は後遺障 心理的負荷の蓄積により、精神障害 害を残し、労災保険法上の障害補償年金や遺族補償年 (鬱病及び解離性とん走)を発症し、 金あるいは国民年金法・厚生年金法上の障害年金や遺 病的な心理状態の下で、自宅を出た 族年金等の公的保険給付が行われた場合、これらの給 後、河川敷のベンチでウイスキー等 付が、損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させ を過度に摂取する行動に及び、そ るに足りないときは、まず、遅延損害金に充当されるの のため、翌日死亡した。A の相続人 か、それとも元本との間で損益相殺的な調整が行われ (両親)である X らは、Y 社に対し、 るのか。この点に関し、かつて死亡事案に関する事案 不法行為(安全配慮義務違反)に基づき、損害賠償を求 と、後遺障害に関する事案とのふたつの判例が存在して めた。 いた。 なお、X1は、労災保険法に基づく葬祭料の支給を受 まず、最二小判平成16年12月20日裁判集民事215号 けたほか、労災保険法に基づく遺族補償年金の支給を 987頁(平成16年判決)は、被害者死亡の事案について、 受け、又は受けることが確定しており、X2は、同様に 支給された(あるいは支給が確定した)遺族年金は遅延 労災保険法に基づく遺族補償年金の支給を受け、又は 損害金から充当されるべきであるとした。 受けることが確定している。 原審は、遺族補償年金は、A の死亡による逸失利益 これに対し、最一小判平成22年9月13日民集64巻6号 1626頁(平成22年判決)は、被害者が後遺障害を負った の元本との関係で、しかもその塡補の対象となる損害が 事案について、支給された(あるいは支給が確定した) 不法行為の時に塡補されたものとして、損益相殺的な 障害年金は、同一性かつ相互補完性のある損害の元本 調整をすべきであると判示したため、Xらは上告受理申 との間で損益相殺的な調整を行うべきであるとした。 立てを行った。 そこで、平成22年判決が出された後、死亡事案につ いても、後遺障害事案と同様に解すべきではないかが問 ■ 判旨 題とされた。 上告棄却 本判決は、被害者の死亡事案であっても、平成22年 「被害者が不法行為によって死亡した場合において、 判決と同様に元本との間で損益相殺的な調整を行うと判 その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金 示して、遺族補償年金等の公的保険給付部分について の支給を受け、又は支給を受けることが確定したとき 平成16年判決を変更した。 は、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償 なお、本判決は、平成16年判決のうち公的保険給付 年金につき、その塡補の対象となる被扶養利益の喪失 に係る部分を変更したものであり、公的保険給付と性質 による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する を異にする自賠責保険金についての判断については平 逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な 成22年判決の事案で同時に申立てられた上告受理申立 調整を行うべきものと解するのが相当である。 」 がすでに不受理となっており、本判決でも触れられてお 「被害者が不法行為によって死亡した場合において、 その損害賠償請求(権)を取得した相続人が遺族補償年 金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したとき らず、何ら変更されたものではないと思われる。 (東京弁護士会 武谷 直人) は、制度の予定するところと異なってその支給が著しく (公財)日弁連交通事故相談センターは、全国39支部で「示談あっ旋」 (無料)を行っています。
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