Page 1 273 「岡山大学法学会雑誌』第59巻第2号 (2009年12月) 労働

『岡叶大学法学会維誌』節59巻第2号(2009イド12日)
273
−
奈川県地方労働委員会に申し立てたり
その後、地労委の委員の
れをしたが、同社に拒否されたため、不当労働行為の救済を神
岡山公法判例研究会
最二判平成一九年二月二目民集六一巻一号八六頁
東芝労働組合小向支部・束芝事件−−−
労働組合からの脱退の自由と結社からの自由
︻事実の概要︼
社との間で、Ⅵ社はⅩに対して処分や不利益な取扱いをしない
了解の下に和解に向けて協議が開始され、Ⅹ及びA地連は、Ⅵ
に雇用され、同社の工場で業
︵被上批]人︶
︵上告人︶
は、平成元年四月一口、電気機械器具製造業
Ⅹ
の最大手であるⅥ社
る和解
こと、Ⅵ社はA地連に対して和解金を支払うこと等を内容とす
出
は、同工場の業務に従
支払うこと、A地連はそれが支払われた時に救済申し立てを取
本件和解に際して、Ⅵ社がA地連に和解金として二五〇万円を
︵本件和解︶をし、それと同時に、Ⅵ祉とA地連とは、
務に従事していた。Yl 労 組
一日、試用期間の満了 に 伴 い 同 労 組 に 加 入 し た 。 Ⅵ 社 と Ⅵ 労 組
り†げることを合意し、覚書
︵被上告人︶
事する従業員で構成され る 企 業 別 組 合 で あ り 、 Ⅹ は 、 同 年 七 月
との間で締結された労働 協 約 に は 、 い わ ゆ る ユ ニ オ ン ・ シ ョ ッ
を収り交わした。そ
プ協定とチェック・オフ協定があこれに基づきⅥ社は
の閲において、①ⅩはYl労斜に復帰するが、八地連の結もその
して、この和解と覚書の作成に当たり、Ⅵ社とⅩ及びA地連と
ままにすること、②ⅩにA地連の籍が残ることは内密とし、Ⅵ
︵本件覚書︶
Ⅹに支払う賃金から組合 費 を 控 除 し 、 こ れ を Ⅴ 労 組 に 納 付 し て
労組にも明らかにしないが、Ⅵ会社がⅩを不当に扱うなど特段
り、、、
した。
㈲
Ⅹは、割増賃金につ い て の 運 用 等 に 不 平 が あ り 、 そ れ に 関
するⅥ労耕の対応にも小 満 を 持 っ た こ と か ら 、 平 成 七 年 九 月 ご
の事情があれば、A地連はⅩがその組合員であることを主張で
が成立した。これ
ろ、一般労組である訴外 A 地 連 に 加 入 し た 上 で 、 Ⅴ 労 親 に 対 し
は、Ⅵ労組に所属し続けることをⅩに義務づけることをも内容
とするものであるじ
きるようになるという合意︵本作付随合意︺
Ⅹ及びA地連は、同 年 一 〇 月 三 日 、 Ⅵ 社 に 団 体 交 渉 の 中 人
て脱退届を送付した。こ れ に 対 し 、 Ⅴ は 、 そ の 受 理 を 留 保 し 、
㈲
脱退を思いとどまるよう Ⅹ の 説 得 に 努 め た 。
L■.
同 法(592〕274
Ⅵ礼は、本件和解及び 本 件 覚 書 に 従 い 、 A 地 遵 に 射 し 、 二 五
〇万円を支払い、A地連 は 、 こ の う ち 二 〇 〇 万 円 を Ⅹ に 交 付 し
七四
は、本件付随合意の存在を認め、Ⅹの脱退
︵東京高判平成〓ハ牛七パ一九ロガ判八七九号五日、判時一
八六五号一五有百○
番
の意思表ホはこの付随合意に反するものであるから効力を生じ
旨︼
﹁︰般に、労働組合の組合員は、脱退の自由、すなわち、
これに対して、Ⅹは、⊥告
ないとして、Ⅹの請求を棄却したり
川
破棄自判。
︻判
受理申立てを行った∩
た。Ⅹは、平成八年五H 二 九 H ご ろ 、 Ⅴ 労 組 か ら 脱 退 す る 旨 の
Ⅹは、その後、†場 内 で の 配 荷 転 換 等 に つ い て 不 満 を 抱 き 、
意思表示を撤回Lた。
Ⅴ労組の対応も不十分で あ っ た こ と か ら 、 稗 び Y l 労 組 に 不 満 を
㈱
Ⅴ労組はその受理を留保 し た 。 Y 労 組 は 、 上 記 配 置 転 換 等 に つ
持ち、平成一∴年九‖一 l 一 ‖ 、 Ⅴ 労 組 に 脱 退 届 を 送 付 し た が 、
いてⅥ杜と交渉をしたが 、 そ の 措 置 に は 問 題 が な い と の 結 論 に
達﹂た。このことを告げ ら れ た Ⅹ は 、 ︼ 層 不 信 感 を 募 ら せ 、 平
八日第二.小法廷判決・民集∴九巻一〇号一六二四頁、U野口同裁昭
へ最高故旧和囚人年伽第四九八号同五〇牢丁一り∴
その意思により組合自とLての地位を離れる山内を有するもの
︵本件
成∵二井五月∵⊥‖、Ⅴ 労 組 に 対 し 脱 退 の 意 思 衣 ホ を し
ところが、Ⅵ札は、 そ の 後 も Ⅹ の 給 与 か ら 組 合 費 を 控 除 し 、
と解される
冊
脱退︶、
ゝ杜に対してチェ ッ ク ・ オ フ の 小 直 を 申 L 入 れ た ∪
利∴二牛伽第五︰五号平成元年∵一日二一‖第一小法廷判決﹂
そこで、Ⅹは、本件脱退によ
これをⅤ労組に引き渡し て い た り
によれば、本件付随合意は、上記の脱退の口山を制限し、Ⅹが
Yl労組から脱退する権利をおよそ行使しないことを、Ⅵ杜に対
裁判集民事一五八‖写ナ∵九九頁参照﹁そうすると、前記事実関係
して約Lたものであることとなる。﹂
りⅤ労組の組合員として の 地 位 を 有 し な く な っ た こ と を 前 掟 と
された金額に州当する不 当 利 得 の 返 還 な ど を 、 ② Ⅵ 杜 に 対 し て 、
有しないことの確認、チ ェ ッ ク ・ オ フ に よ り 組 合 膏 と し て 納 付
から、その効力は、原則として、Xと合意の相†方であるゝ社
㈲
して、、≠Ⅴ労組に対し て 、 Ⅹ が Y 労 組 の 組 人 〓 員 と し て の 地 位 を
Ⅵ社がYl労組の組合督 を 控 除 し な い 金 額 の 賃 金 を Ⅹ に 支 払 う 義
﹁本作付随合意は、ⅩとⅥ杜との開で成立したものである
務を負うことの確認を求 め る 訴 え を 提 起 し た 。
してⅤ労組から脱退する権利を行使しても、Ⅵ社との間で債務
との間において発生するものであり、Xが本件付随合意に違反
本件の実質的な争点 は 、 労 働 観 含 か ら の 脱 退 の 自 由 を 制 限
㈹
においては、合意の相手方でない≠労組との間でもそのような
不履行の責任等の問題を生ずるにとどまる。前記事実関係め下
は、本件付随合意がなさ れ た 事 実 は 認 め ら れ ず 、 Ⅹ の 脱 退 の 意
問題を生ずると解すべき特別の根拠となる事山は認められな
︵横浜地裁川崎‡判平 成 l 五 年 七 日 人 口 労 判 八 七 九 号 ∴ 二 頁 ︶
する本作付随合意に効力 が 認 め ら れ る か ど う か で あ る 。 第 一 審
思表示は有効であるとL て 、 Ⅹ の 請 求 を 認 容 し た = し か し 、 原
275 労働組合からの脱退の山山と結什からの=山
について立ち入った判断を行ったけ
その意味で、本判決は
﹁一
般的に脱退の自由に関する判例法埋を検討する素材﹂︵島凹・後
い。﹂
掲二四国頁︶として、理論的に重要な意義を有するものである。
﹁また、労働組合は 、 組 合 員 に 対 す る 統 制 権 の 保 持 を 法 律
上認められ、組合員はこれ に 服 し 、 租 人 ‖ の 決 定 し た 活 動 に 加 わ
㈲
かし、労働観︿いはその性質において私的な任意団体であるから、
後掲のように労働法学の側から多くの評釈が出されている。し
であるために、
のであるが、それは、組合 か ら の 脱 退 の 自 由 を 前 提 と し て 初 め
それに関わる問題は、結社の自︺H
本判決については、その対象が﹁労働組合﹂
て容認されることである。 そ う す る と 、 本 件 付 随 合 意 の う ち 、
の守備範囲でもある。そこで、本評釈では、憲法学の観点から
り、組合費を納付するなど の 義 務 を 免 れ な い 立 場 に 置 か れ る も
Ⅴ労組から脱退する権利を お よ そ 行 使 し な い こ と を Ⅹ に 義 務 付
分析・検討を行うことで、本判決を
﹁労働法判例﹂としてのみ
を扱う憲法学
けて、脱退の効力そのもの を 生 じ さ せ な い と す る 部 分 は 、 脱 退
ならず、﹁憲法判例﹂として捉える叶能性を探ってみたい。
︵憲法一一一条︶
の自由という重要な権利を 奪 い 、 組 合 の 統 制 へ の 永 続 的 な 服 従
べきである。﹂
である。従来、糾合員の脱退の自由の問題は、それを制限する
を制限する労働者と使川音間の人‖意に効力が認められるか否か
本什で直接に問題となったのは、労働組合からの脱退の円山
一.従来の判例法理と本判決の意義
を強いるものであるから、 公 序 良 俗 に 反 し 、 無 効 で あ る と い う
﹁以上のとおりであ る か ら 、 い ず れ に し て も 、 本 件 付 随 合
意に違反することを理由に 、 本 件 脱 退 が そ の 効 力 を 生 じ な い と
佃
そして、前記事実関係の 下 に お い て は 、 Y . 労 組 の 主 張 す る そ
いうことはできない。
聞で争われてきた。その意味で、脱退の自由を制限する労働者
細入〓規約の有効性をめぐつて、もっぱら納入‖員と労働組人Llとの
をもつと考えられる。しかし、本
が認められ、それについての最高裁の
決が引用する国労広島地本事件
︵最三判昭和五〇年一一月二八
労働組合からの組合員の脱退の口内に関する判例には、本判
本評釈でもこの点に絞って検討を加えることにしたい。
労働組合からの脱退の白山の問題に帰着すると思われるので、
件の実質的な争点は、判旨からもわかるように、結局のところ、
判断は﹁先例的意義﹂︵同上︶
︵水町・後掲一一二一頁︶
と使用者聞の合意の効力が争われた本件には﹁事案の特殊性﹂
の余の理由により本件脱退 が 無 効 で あ る と す る こ と は で き ず 、
討︼
オフの中止を求めることは 許 さ れ な い と す る こ と も で き な い り ﹂
また、Ⅵ祉の主張するその 余 の 理 山 に よ り 、 L 生 = 人 が チ ェ ッ ク ・
︻検
はじめに
本判決は、労働組合から の 脱 退 を 制 限 す る 労 働 者 ・ 使 用 者 間
一
のム‖意を、組合員の脱退 の 自 由 を 根 拠 に 無 効 と 判 断 し た も の で
ある。その際、本判決は、 脱 退 の 白 山 の 理 論 的 根 拠 や 法 的 効 力
ヒ五
岡 法(592)276
い事山がある場︿Uには、組合の存続期間の定めの有無にかかわ
同条第一項と第一.項をへ∩わせると、結局のところ、やむを得な
七六
がある。ただし、 前 者 は 組 合 員 が 協 力 義 務 を 負 う 前 提 と
およびR本鋼管鶴見 製 作 所 事 件 ︵ 南 山 判 平 成 元 年 一 丁 一 月 二
一隼判決は、同条のうち上記命題にあたる部分が強行法規であ
らず、各組合員は常に脱退できることになる。そして、平成一
‖︶
臼︶
して﹁脱退する自由﹂
に言及したに過ぎず、後者も組合規如に
よる脱退制限を無効と判断 し た も の で あ っ て 、 脱 退 の 自 由 が 正
﹁やむを待ない事山があっても任意の脱退を
り、これに反する約定は効力を有しないと判ホした。その根拠
として、同判決は
面から取り上げられたわけ で は な か っ た 。 こ れ に 対 し 、 本 判 決
許さない旨の組合契約は、組合員わ自由を著しく制限するもの
﹁一般に、労働組合の 組 合 員 は 、 脱 退 の 口 由 、 す な わ ち 、 そ
の意思により組ム[貝とし て の 地 位 を 離 れ る 自 由 を 有 す る も の と
であり、公の秩序に反する﹂
は
やむを得ない事山があれば組ム‖員は常に脱退できることを﹁公
ことを挙げている。この判決は、
解される﹂
序﹂と認定しており、注Hに値するものである。
︵判旨川︶と し 、 労 働 組 合 か ら の 脱 退 の 自 由 を ﹂ 般
より﹁労働法判例﹂として 重 要 な 意 義 が 認 め ら れ る 。
退会が問題となった新座市県営住宅∩治会脱退事件
︵最三判平
第二の先例は、権利能力なき社団たる県営住宅R治会からの
的に認めたところに特徴が あ る 。 こ の こ と か ら 、 本 判 決 に は 何
についての判例として
他方で、労働納入〓が私 的 な 任 意 団 体 で あ る 点 に 着 R す る と 、
本判決を﹁任意川体からの 脱 退 の 白 山 ﹂
である、︺
この判決において日畢口同裁は、会員相互
判決﹂
成山七年四月二六日判時︰八九七号一〇百ハ、以卜﹁†成一七隼
の親ほくを図ること等を‖的とし、強制加入団体でもないH治
という︶
位吊づけることも可能であ る J
そして、この問題について判断
した先例として、次の二つ の 昂 高 裁 判 決 を 挙 げ る こ と が で き る 。
坑∵は、民法Lの糾合から の 任 意 脱 退 を 制 限 寸 る 約 定 の 有 効 性
ると判示した。﹁権利能力なき社団﹂は法律卜の根拠をもたない
会においては、会員はいつでも一方的意思表一小により退会でき
︵最二一判平成一∵隼
が問題となったヨットクラ ブ 組 合 脱 退 事 件
任意団体であるから、脱退の白山を定める規定も当然存在しな
である。民法六 七 八 条 一 項 は 、 組 合 契 約 に 組 合 の 存 続
いゎ
二月二三H民集五三巻二号 一 九 三 真 、 以 下 ﹁ 平 成 一 一 年 判 決 ﹂
という︶
の自由をより一般的なかたちで苓認したものと解することがで
その意味で、この平成一七年判決は、任意団体からの脱退
べきことが定められている 場 合 、 各 抽 含 貝 は い つ で も 脱 退 で き
期間の定めのない場合又は あ る 組 合 員 の 終 身 の 間 組 合 が 存 続 す
であるが、同法に組合員の脱退の白
り組合員としての地位を離れる白山を有する﹂
︵判旨〓︶と述
﹁労働組合の組合員は、脱退の白山、すなわち、その意思によ
巾を定める規定は置かれていない。にもかかわらず、本判決は、
︵労組二、二条︶
れた団体
を定めているいまた同条第一︰項は、
きる。他方、本判決で問題となった労働組合は労組法で規定さ
︵例外の例外 ︶
ること︵原則∴ただL、組 ︿ L l に 不 利 な 時 期 に 脱 退 す る こ と は で
できること
きないが﹁例外︶、その場 合 で も や む を 得 な い 事 由 が あ れ ば 脱 退
細ム‖の存続期間を定めた 場 合 で あ っ て も 、 客 観 合 員 は や む を 得
ない事由があるときは、脱 退 す る こ と が で き る と 規 定 L て い る =
277 労働組合からの脱退の自由と結札からの白山
これに対し、本判決は憲法上の根拠をホすことなく、﹁労働組
は、事案の解決に重点を置 い た も の で あ り 、 脱 退 の 自 由 の 理 論
今日判例上確立していると 言 え る で あ ろ う 。 た だ 、 従 来 の 判 例
旨㈲︶とし、労働組合の統制権とそれに対する組合員の服従義
組合からの脱退の白山を前提として初めて芥認される﹂
るなどの義務を免れない立場に置かれるものであるが、それは、
はこれに服し、組合の決完した活動に加わり、組合費を納付す
合は、組合員に対する統制権の保持を法律上認められ、組合員
的根拠や法的効力について は 、 必 ず し も 明 ら か に さ れ て い な い 。
務によって脱退の自山を根拠づけている。もっとも、労働組合
以上のように、労働組合 お よ び 任 意 団 体 か ら の 脱 退 の 自 由 は 、
ベており、この平成一七年 判 決 に 連 な る 側 面 を も っ て い る り
この点、本判決は、労働組 合 の 事 案 で あ る も の の 、 脱 退 の 自 由
このように、本判決によると、脱退の白山の法的枇拠は労働
範閃において柵△‖の統制に服すべきことは、当然である﹂と述
られていたり
白山も認められているのであるから、れ目的に即した合理的な
予荒してこれに加入するものであり、また、これから脱退する
合がその日的を達成するために行う団体捕動に参加することを
い。先の国労広島地本事件判決では、﹁労働組合の組合員は、組
︵判
の根拠と効力について述べ て お り 、 脱 退 の 自 由 に 法 的 位 置 づ け
の統制権と脱退のH由を関連づけたのは本判決が初めてではな
脱退の自由の理論的根 拠
を与えるものとして重要な 意 義 を 有 す る も の 思 わ れ る 。
三
二︰〇三頁︶、②脱
︵石井
︵憲
労働組合からの脱退の自 由 の 法 的 根 拠 に つ い て 、 従 来 、 労 働
︹新版、 弘 丈 茸 、 一 九 七 ∵ 坪 ︺
とつながるも の で あ る と す る 桟 棟 的 団 結 権 説
法学説では①脱退の自山は 組 合 選 択 を 通 じ て 積 極 的 団 結 権
法∴八条︶
照久﹃労働法﹄
組合の統制権と組人=員の服従義務に求められることになるが、
退の自由は憲法二八条で保 障 さ れ る 消 極 的 団 結 の 円 山 か ら 導 か
木酢釈にとって亜要なのは、こうした根拠の妥当範囲が労働組
敏﹃労働法﹄︹日本評論杜、
れるとする消極的団結権説 ︵ 西 谷
合に限られるかどうかである。というのも、この点の理解は、
﹁労
て位置づける見方︵水町■後掲一二三頁︶
働組合という法定の組織に内在する制約・要請のひとつ﹂とし
これについて、労働法学説では、本判決の脱退の白山を
意団体〓耀に及ぶかどうかに影響するからである。
本判決で示された脱退の白山法理の射程が労働租人=を超えて任
︵菅野和夫
四五人頁︶
二〇〇八年︺四六四貫以卜 ︺ 、 ③ 脱 退 の 自 由 は 労 働 組 合 が 自 発 的
結社であることから認めら れ る と す る 結 社 の 口 由 説
﹃労働法﹄︹第ヒ版補止 二 版 、 弘 文 堂 、 二 〇 〇 七 牛 ︺
の三つの立場が主張されて い る 。 こ れ ら の 説 は 何 れ も 脱 退 の 口
︵①②︶
や﹁続削権と服従義
とに分類す
由を憲法によって根拠づけ よ う と す る 点 で 共 通 す る が 、 仔 細 に
︵③︶
見ると、脱退の自由を労働 組 合 の 枠 組 み で 捉 え る も の
ることができる。両者の違 い は 、 前 者 が 憲 法 二 八 条 を 、 後 者 が
と、一般的な任意団体の枠 組 み で 捉 え る も の
が示されている。これらは、労
る見方
務という優れて労働組合固有の権利義務に関わる問題﹂と捉え
︵土田・後掲一九九頁︶
憲法二‖条をそれぞれ根拠 規 定 と す る 点 に も あ ら わ れ て い る 。
七七
べ
岡 法(59−2)278
働組人じが通常の任意川体とは異なるものであるとの﹂凡場から、
加入し、又は脱退できるからであるという趣旨の本判決の説示
統制権に服従する義務を負うのは、細入‖員が∩山意思で糾△‖に
すると、本判決についての理解としても、﹁組合員が労働糾ん‖の
七八
本判決があくまで﹁労働組合﹂に関するものであることを強調
︵憲法
﹁結社しない〓山﹂や
との見方のガが、説得力をもつように思われる。
もっとも、そうした法理の根拠として
柚一■川四年︶
は、任意団体一般の法理から演繹できる論理である﹂︵烏山・後
する。
しかし、統制権とそれへの服従義務が問題となるのは、ひと
り労働組合に限られない。本判決は脱退の自由の容認の前提と
して、組合員が統制権に服し、組合の決定した活動に加わり、
︵烏‖・同卜、晶二井・後掲
﹁消極的結社の白山﹂が挙げられ、憲法上の結社の〓山
あるりというのも、憲法上の権利としての結社の日出は、本来、
に言及されることがあるが
組合費を納付する義務があることを例示Lているが、同じこと
一七六頁、長屋・後指〓一八頁︶、それには∴疋の留保が必要で
二一条︶
︵最二﹂判平成八年二り.九じ民集五〇
は宗教団体︵憲法二〇条︶、政党︵憲法二一条︶あるいは他の川
て、南九州税理士会事件
体についても言えるであろう=その一例を示す口琴‖同裁判例とし
公権力との関係で保障されるものであって、私人聞の関係に直
︵ただL、艮集における参照条文として憲法一∴粂
それゆえ、本判決
接的に適用されるものではないからであるい
を挙げることができる。この事件では、税理
上会が政党に政治献金をするにあたり、構成員にその協力を義
巻三号六一五頁︶
とができる
が憲法仁の枇拠をホさなかつたことは、この限りで理解するこ
﹁実質的
務づけることができるかが問避となったが、]璽‖何故は、税理十
会が強制加入の団体であり、その余員である税理士に
脱退の自由の法的位畢づけに関する憲法学の対応は十分でな
が挙げられているごり
いが、従来、近代憲法の成﹂止史からすれば、﹁解釈論上の基本問
もっと
ことからして、政治献令
題への視角﹂として﹁結社の自由﹂対﹁結社からの自由﹂
への協力を義務づけることはできないと判断Lているぃ
には脱退の自由が保障されていない﹂
も、この判決では、団体の統制権そのものではなく構成員の協
点が克要であるとの立場が有力に唱えられてきた︵樋〓陽一冨心
の視
力義務との関係で脱退の自由がとらえられている。しかし、同
法﹄
︹第三版、創文社、二〇〇七牛︺︰五七頁以下︶。さらに近
に畢づいて活動し、その構成員である会員は、これに従い協力
判決は、税理十全が
時では、﹁憲法が結社の存在を認めており、それが個人に対する
﹁多数決原理により決定された団体の意思
する義務を負う﹂と述べており、団体意思とそれへの協力義務
から必然的に発生する﹂との問題意漉から、憲法二︰条が規定
脅威となる以上、個人と結社との緊張関係は、憲法規定の構造
ここでも、脱退の自
が表裏の関係にあることが示されている︹
る﹁個人の結社からの自由﹂が認められ、それには川体約拘束
する結社の自由原理には、団体内部における個人保護原理であ
由の根拠は、団体の統制権とそれへの構成員の協力義務に求め
のである以上、すべての団体にあてはまる論拠であろう。そう
られているが、これは、団体が団体としての意思を形成するも
279 労働組合からの脱退の自由と結社からの自由
として憲法上の根拠をどこに求めるのかの問題がなお残される
自由が憲法上の保護に値する内実を備えているか、そうである
︹有斐閣、二〇〇〇年︺一九三頁以下︺ハただこの場合、脱退の
結
−
本判決は、当該合意が公序良俗違反となる理由を、﹁脱退の自
ことになる。
︵この点について検討を加えた
からの離脱を最終的に担保する﹁脱退の口由﹂が含まれるとの
解釈を示す見解が出されている
拙稿として、井上武史﹁﹃結社からの自由﹄の憲法問題
社の自由原理のもうひとつの側而﹂本誌▲五八巻四号︹二〇〇九
いるもの﹂
由という亜要な権利を奪い、組合の統制への永続的な服従を強
年︺一頁以下参照︶。ただ、何れの見解も、﹁結社からの自由﹂
が憲法原理であることを認めつつも、具体的な紛争解決の場面
退事件に関する先の平成一一年判決は、やむを得ない事由があ
である点に求めている。また、ヨットクラブ組合脱
では、いわゆる私人間効力論を前提とせざるを得ない。そこで
問題となるのは、脱退の自由が私人間の法律関係においてどの
て調査官解説は、組ム.1員が組合から
﹁あ皐程度の人格的な支配
実と根拠をどのように捉えるかが問題となるが、この点につい
であることを理由としている。結局、ここでも脱退の臼由の内
るにあたって、それが﹁組合員の臼由を著しく制限するもの﹂
っても任意の脱退を許さない旨の組合契約を公序違反と判断す
脱退の自由と公序良俗
ような効力を有するかであるい
四
﹁公序良
︵判旨㈲︶。これは、当事
本判決では、脱退のn由を制約する本件付随合意が
を及ぼされる立場﹂
俗﹂に反L無効であるとされている
者の合意によって脱退のR山を制約することができないことを
を奪うからであると説明する
無効とされるのは
に置かれていることを考慮L、脱退制限が
意味L、私的自治・契約自由の原則への例外にあたる。しかし、
のであろうト
しかし、この間題の本質は、むしろ本判決も述べ
これは、脱退の白山の根拠として憲法∴二条を念頭に置いたも
︵長屋・後掲〓︰八∼∵一九百ハ︶。
﹁個人の活動の白山ないし自己決定の′H由﹂
脱退の自由の制約が、なぜ公序良俗違反にあたるのか。
この点、民法学説では、∵暇に公序良俗違反行為の類型とし
るように、そうした白山が奪われることにより、組合員が永続
︵州営
法的価値・公法的政策に違反する行為が挙げられている
に考えれば、本判決で示された脱退の自由の意義は、団体的拘
的な服従を強いられる点にあるのではないかし
て、㈱人倫に反する行為、㈲経済・取引秩序に反する行為、国憲
和夫=能見善久﹃民法総則﹄︹第七版、弘文堂、二〇〇五年︺⋮
そしてこのよう
三七頁以下︶。しかL、このような類型化に対しては、その理論
束から個人を解放する点にこそ認められ、その根拠は先に示し
︵井上武史︶
﹁結社からの自由﹂を保障する憲法二一条に求められるので
的な枠組みが明らかでないとの批判が向けられている。そこで、
はないかと思われる。
た
﹃公序良俗論の再構成﹄
近時では、国家の基本権保護義務論に立脚して、公序良俗規範
︵山本敬三
を﹁私人間において基本権を保護するための手段﹂と捉える学
説が有力に唱えられている
七九
岡 法(592)280
参考丈献
本文中に掲げたものの ほ か 、 本 判 決 の 評 釈 と し て 以 下 の も の が あ
へ二〇〇七隼︺
︵二〇C七年︶
肇■法律のひろば二 〇 〇 七 年 一 〇 月 号 人 ○ 貪 ︵ 二 〇 〇 ヒ 咋 ︶
るっ
小村
智・季刊労働法 二 一 八 号 二 四 〇 頁
水町勇一郎∴ンエリスト一 二 四 三 号 一 一 一 項
山田
洋・法律時報八〇巻 五 号
︹判時二〇〇八Uヱ一九六貞
︵∴0
︵平成一九年度重要判例解説︶
︵二〇〇八年︶
石橋
︵一一〇〇八牛︶
島田陽一∴ンエリスト一三 正 門 号
二四.一云只
〇八年︶
土田道夫・判例評論九九圧 ] ケ
長屋文裕∵∴ンユリスト∵ 一 元 一 二 ロ ケ 一 二 ヒ 賃 ︵ 二 〇 〇 八 年 ︶
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三井正伝∵別冊ジュリスト 一 九 七 号 ︵ 労 働 判 例 打 選 ︹ 第 八 版 ︺ ︶ 一
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