安倍首相靖國参拝訴訟で大阪地裁が請求棄却

安倍首相靖國参拝訴訟で大阪地裁が請求棄却
R&R
No329
去る一月二十八日、大阪地裁は、安倍晋三首相が平成二十五年十二月に靖國神社を参拝
したことをめぐって、それが憲法の定める政教分離原則に違反し、信教の自由や前文に謳
われているとされる平和的生存権などを侵害したとして、戦没者の遺族ら七六五人が安倍
首相と国および靖國神社に損害賠償などを請求した訴訟の判決を言い渡しました。
本訴訟は、参拝の翌年、平成二十六年の四月(第一次訴訟)と九月(第二次訴訟)の二
度にわたって提訴されたのですが、後に併合審理となったものです。同旨訴訟は東京地裁
にも起こされ、現在同地裁で審理中です(こちらも第一次・第二次訴訟を併合)
。
首相の靖國神社参拝に関する訴訟は古くは大阪・愛媛・福岡で提訴された中曽根康弘首
相時代にも遡(さかのぼ)りますが、近くは平成十三年の小泉純一郎首相の参拝に対して、東
京・千葉・大阪・愛媛・福岡・沖縄の六都府県で相次いで提訴されたのが記憶に新しい。
中曽根参拝訴訟は三件とも高裁段階で終了し、いずれも原告の敗訴でした。小泉参拝訴
訟でも最終的にはすべて原告敗訴で確定したのですが、福岡では地裁、大阪(台湾人訴訟)
では高裁でそれぞれ傍論による違憲の見解(判例としての拘束力はなし)が付せられたの
で、原告側は“実質勝訴”と揚言して上訴しなかったため、いわゆる“ねじれ判決”が出
来(しゅったい)するという面妖な結果となったのです(R&R No218、234参照)
。
最高裁は、最初の事案である大阪訴訟において、首相の参拝で「自己の心情ないし宗教
上の感情が害されたとしても、これを被侵害利益として、直ちに損害賠償を求めることは
できない」と判示し、政教分離に踏み込むことなく原告の請求を却けました。後続する愛
媛・千葉・東京・沖縄訴訟の審理でも最高裁はことごとく原告敗訴の判決ないし決定を下
し、一連の小泉参拝訴訟は終了したのです(R&R
No241、251参照)
。
こうした流れからすれば、このたびの安倍参拝訴訟は敢えて“濫訴”と呼んでもおかし
くない代物(しろもの)ですから、提訴から判決まで僅か八回の口頭弁論で結審し、一年九か
月というスピード審理で終わったのも当然と言えば当然のことでしょう。
本判決は、これらの最高裁判決・決定に忠実に則(のっと)って原告らの主張する損害賠償
の請求を棄却し、また、平和的生存権なるものも「現時点で具体的権利性を帯びているか
は疑問」と判断、将来にわたる参拝の差し止めの請求も「理由がない」と却けました。
さらに、判決は、先に少し触れたことですが、小泉参拝訴訟において福岡と大阪で示され
た傍論による違憲見解を踏まえた原告の主張にも言及し、「その後の社会、経済の情勢の変
動や、国民の権利意識の変化で裁判所の判断が変わることもあり得る」とまで言い切りま
した。
まさに原告側の完敗です。途端に原告やその支持者からの怒号が飛び交い、騒然とした
空気に包まれましたが、裁判官は判決要旨の読了後すぐに退出することなく、騒ぎが収ま
るまで静かに判事席で立ち続けていたのがとりわけ印象的でした。
(二月五日)