CT検査が診断に有用であった犬の胃内異物穿孔例

CT検 査 が 診 断 に 有 用 で あ っ た 犬 の 胃 内 異 物 穿 孔 例
○ 小 出 和 欣 , 小 出 由 紀 子 (小 出 動 物 病 院 ・ 岡 山 県 )
犬の消化管内異物は,日常しばしば遭遇する疾患である。しかしながら,非閉塞性でX線不透過性の消
化管内異物は,その診断が必ずしも容易でない。今回,背中に再発を繰り返す膿瘍を主訴に来院した犬
においてその原因が胃内異物の穿孔であった症例に遭遇し,診断治療を行う機会を得たのでその概要を
報告する。
【症例】
ミニチュア・ダックスフント,去勢済雄,7歳5ヵ月齢,体重6.7kg。2カ月前に背中に腫れ物が認められ,他
院で治療を行い1カ月前には外科的な切開洗浄処置を行った。その後,一旦改善したが,処置後2週間で
再発したとのことで当院に転院した。
図1
患部のFNA(ライトギムザ染色標本,100倍)
図2 X線写真VD像(15病日)
図3 再発時の症例(15病日)
◎初診時臨床検査所見
体重6.7kg(BCS3/5),体温38.8℃,左側背側よりの脇腹部皮下に軽度腫脹あり。症例の一般状態は良好
で,発熱もなかったが,血液検査で軽度の好酸球増多とC反応性蛋白の中等度上昇を認めた(表1,2)。
腫脹部の細針吸引標本で好中球とマクロファージが主体の炎症像が認められ(図1),膿瘍の再発と診断し
た。微生物学的検査でE.coliが陽性で多くの抗生物質に感受性を示した。なお,嫌気性培養と真菌培養は
ともに陰性であった。
◎治療および経過
ホスホマイシンの内服により,腹壁皮下の腫脹はすみやかに消失したが,初診より15日後に同部位が再
び腫れてきたとのことで再来院した(図2,3:矢印)。再度問診を行ったところ最初の症状発現の数日前に
焼き鳥の竹串を食べ,5cmぐらいの長さの竹串が便と共に排泄されたとのことであった。竹串による胃穿孔
も視野にいれCT検査と必要により内視鏡検査を提案し,まずCT検査を実施したところ,胃内から先端が左
側腹壁に達する竹串様の陰影が確認された(図4~8)。外科的治療を行うこととし,翌々日に腹部正中切
開にて開腹した(図9)。左背側腹壁と癒着して肉芽形成の認められた胃体部を剥離し,肥厚した胃壁と周
囲の肉芽組織を切除した。胃内から全長115mm,太さ4mmの先端の尖った竹串を除去し,胃壁切除部は
モノフィラメント吸収糸にて縫合閉鎖した(図10,11)。腹腔内を洗浄し,常法にて閉腹した後,腹壁の腫脹
部を切開して壊死組織の除去と洗浄を行った。この際,竹串と共に胃内から押し出されていた被毛を除去
した。術後は極めて良好に推移した。
図4 単純CT・アキシャル像(15病日)
図5 単純CT・3D腹側観
図6 単純CT・3D左側観
【考 察】
再発性や難治性の皮下膿瘍では,異物混入,耐性菌や深部真菌の感染,腫瘍性,および免疫介在性疾
患などの鑑別が重要と思われる。本症例では,誤食した竹串が胃穿孔して先端が腹壁に刺入し,その部
位に肉芽と膿瘍を形成していた。問診の重要性を再確認すると共に,X線検査よりも感度の高いCT検査が
有用であった。
表1
初診時血液学検査所見
表2
図7 単純CT・3Dアキシャル像
図8 造影CT・3D腹側観
図9 手術時所見(左が頭側,右が尾側)
初診時血液化学検査所見
図10 手術時所見(胃切開により竹串摘出)
図11 胃内より摘出した竹串と左側脇腹皮下から摘出した犬の毛)