Vol65 - 小笠原野生生物研究会

小笠原野生生物研究会会報第65号
2015.2.27
OWRS News Letter Vol. 65
研
究
報
告
南島,オガサワラノスリの海鳥利用調査
(その7)
目次:
研究報告
南島のオガサワラノスリ
1
野生研活動報告1
オガサワラグワ育苗
2
野生研活動報告2
西島植生回復活動,他
3
野生研活動報告3
洲崎海岸清掃
4
野生研活動報告4
雑草の会に参加して
4
研究成果・出版物情報
5
ネズミに関する本の紹介
6
編集後記ほか
6
写真1:コガモの綿毛が大量に.
年末にオナガミズナギドリの巣立
ちも終息し、1月6日の南島上陸調
査。新しい海鳥食痕の数は、前の月
の半数ほどまでに減っていました。
オナガミズナギドリ雛の姿はもちろ
んありません。しかし、姿を消して
いたのは、海鳥だけではありません
でした。陰陽池に前月までは10羽ほ
どもいたコガモの群れや、オナガガ
モ、オオバンやムナグロなどの水鳥
類 が、1 羽 も い な く な っ て い ま し
た。水鳥たちは小笠原で越冬するは
ずなので(餌が足りず死ぬものも多
いと思われますが)、すべてが姿を
消 す に は、ま だ 早 い 時 期 で す。で
も、この現象は昨年も見られていま
した。2013年秋から年末まで多く
見られた水鳥類は、2014年1月の調
査時にはきれいに姿を消していたの
です。
ドリーネ西斜面で見つかった真新
しいコガモの食痕(写真1)が、こ
の現象の理由ではないかと思われま
した。陰陽池の水鳥類を狙う猛禽類
が現れたのです。陰陽池はすり鉢状
の地形の底にあり、岸辺に植生がほ
とんど無いため、空から狙いをつけ
られたら、逃げたり隠れたりするこ
とが難しい立地です。水鳥たちは、
より安全な他の島の水場へ、移住し
たのだと思われます。では、その猛
禽類とは何でしょうか?オガサワラ
ノスリは候補の筆頭でしたが、昨冬
も南島に現れたハヤブサがやはり気
になります。ハヤブサは、前にも書
い たよ うに、鳥 類を 補食 する プロ
フェッショナルだからです。南島で
はまだ見られていないようですが、
父島で、今年もハヤブサを見たとい
う情報を得ることができました。ノ
スリかハヤブサか、確定はできませ
んが、ハヤブサの可能性のほうが高
そうです。
南島で1月以降見つかっている食
痕には、とても珍しいものがありま
した。真新しいオオコウモリの食痕
が、ドリーネ内の芝生の上で見つか
りました(写真2)。まずは、オオ
コウモリが南島に飛んできていると
いうことに驚きますが(襲った猛禽
類が父島から重いオオコウモリをわ
ざわざ運んでくることは考えにくい
です)、猛禽類によるオオコウモリ
の食痕自体とても珍しく、まだ2例
目です。ヒドリガモも2体見つかり
ました。
南島の陰陽池は、疲れた渡り鳥た
Page 2
OWRS News Letter Vol. 65
ちの小さなパラダイスになりえます
が、たった1羽の猛禽類の出現で、
一転修羅場になってしまいます。南
島は、自然のダイナミズムを見るこ
とのできる不思議な島です。
千葉夕佳
写真2:珍しいオガサワラオオコウモ
リの捕食跡.
野
生
研
活
動
報
告
箱入り娘の苗作り ~オガサワラグワ
育苗・植林報告
オガサワラグワの苗作りがスター
ト し た の は、2014 年 7 月 か ら で し
た。現在まで計4回、ビン詰の無菌
状態で(独)森林総合研究所林木育
種センターより送られてきた苗を、
小笠原の空気にならした後、ポット
に植え、温度、湿度に気を遣いなが
らフード付きケースの中で育ててい
きます。この日から私達は、朝と夕
方、さらには時間のある日は、昼も
苗の様子を見に行くという奮闘の毎
日が始まりました。
夏になるにつれ、気温も日差しも
刻一刻と強くなり、2回目に送られ
て来た苗は、小笠原の真夏の洗礼を
いきなり受け、ダメージを負ってほ
とんどがしおれるというアクシデン
トもありました。スポットで直射日
光 が当 たったり、少しで も乾 いた
り、強風に吹かれてもダメになり、
写真:オガサワラグワの苗. 夏の育苗は大変苦労しました。
ここで自生している種でも、その
2014年7月3日撮影.
年の雨の恵み、芽吹きの時期やタイ
ミングが合わないと生き残っていけ
ないのだと改めて自然の厳しさを痛
感しました。それと同時に島に生き
ている大木を見てその偉大さに思い
を馳せるようになりました。
3回、4回目に送られてきた苗達
は、暑さや台風などから守るため、
新しくできた倉庫に避難させるな
ど、まるで箱入り娘のように育てま
した。
今 で は 約 100 本 の 苗 が 元 気 に 育
ち、少しずつ大きくなっています。
今年1月に、林木育種センターの
大谷氏が来島。ビジターセンターで
「オガサワラグワの復活を目指し
て」と いう講 演会 が開催 され まし
た。このプロジェクトは小笠原諸島
森林生態系保全センターの事業で、
父島のオガサワラグワの個体数を少
しでも増やし、保全と再生を目指す
というものです。
Page 3
小笠原野生生物研究会会報第65号
いよいよ山に、植え戻す日が決ま
り、今回は10本の苗をお嫁に出す日
が や っ て き ま し た。2015 年 1 月 15
日、とある国有林内の場所に、保全
センターの方と大谷氏、安井先生、
私達で丁寧に植林してきました。
翌日様子を見に行くと、何者かに
葉 を 食 べ ら れ た 跡 が…。更 に 数 日
後、何と2本の苗が丸坊主になって
しまったのです。これは大変!ヤギ
防止策や、苗の周りにビニールは設
置してあったのですが、さらに細か
いネットで覆ったり、木酢液を撒い
てみたりと原因が分かるまで、たく
さんの専門家の方々を尋ね、色々ア
ドバイスを頂き対策した結果、何と
か食い止めることが出来ています。
今日現在は、坊主になった苗も新芽
が少しずつ出て、お陰様で復活しつ
つあります。
写真:苗の防護柵.
センサーカメラには、夜、ネズミ
が来ている所が写り、その他にも何
種類かの生き物による食害の可能性
が分かりました。この場を借りて、
お忙しい中、親身になって教えて頂
いたり、対策を考え、機材を貸して
いただいた多くの方がたに感謝いた
します。ありがとうございました。
そして、一難去ってまた一難と、
箱入り娘の苗達の植林は続く予定で 写真:箱入り娘.オガサワラグ
ワの育苗.
すので、気づいた方は是非可愛がっ
てあげてください。今後も皆様の協
力なくしては、続けることもオガサ
ワラグワの復活も成し得ないと思っ
ていますので、どうかお力添えをよ
ろしくお願い致します。
横谷みどり、吉井嘉子
写真:センサーカメラの設置.
西島植生回復活動,小港植林
○西島植生回復活動(フジフィルム
助成)
2014年9月6日 タマナ3,000播種
あまり良い種子ではなかった。
2014年11月1日 タマナ3,000播
種,タコノキ苗45本植栽
2015 年 2 月 9 日 タ マ ナ 3,000 播
種,タ コ ノ キ 苗 28 本 植 栽,
モクマオウ稚樹約80本伐採
2015年1月28日現在の状況
9月6日播種のタマナ74本芽生
え 高さ20㎝前後 葉3~5枚
11月1日植栽タコノキ24本活着
1月28日西島の南を見廻る。モ
クマオウを枯殺した所は、ウラジ
ロエノキがパイオニアとして多数
生えている。樹林の中ではタコノ
キの芽生えの勢いがよく、母樹の
周辺でコロニーをつくりウラジロ
Page 4
OWRS News Letter Vol. 65
エノキに劣らぬ勢いである。
○小港植林(環境省委託)
小港西向き海岸
2014年10月4日 モクマオウ、ギ
ンネムの伐採
2014年11月15日 苗畑で数十㎝
に育てたモモタマナ82本を植
林
2014年12月6日 八ッ瀬川の八ッ
瀬橋付近モモタマナ苗52本植
栽。一部ネズミ食害あり。
西島、小港の活動では多数のボラ
ンティア参加有難うございます。
安井隆弥
洲崎海岸清掃ボランティア
写真:洲崎海岸清掃での大
きなロープの撤去.
洲崎での海岸
清掃はかなりつ
らいものでし
た。ゴミが散ら
ばっている範囲
が広く、風に吹
かれ林の中に
入った漂流ゴミ
もあったので、
普段の海岸清掃
よりも疲れまし
た。
細かいプラス
チックゴミか
ら、数人がかりでやっと持てる大き
なロープまでありました。
2時間程集めた結果、トラックに
乗りきれない量のゴミを集めること
が出来ました。
それをクリーンセンターに運び、
ロープや金属などと分けながらゴミ
を分別していきました。
昼食後、今度はクリーンセンター
近くの火薬庫跡の植樹後の雑草抜き
をしました。ホナガソウや地面を侵
食するように生える雑草などを中心
に抜きました。ホナガソウは根が強
く、軍手をしても手が真っ赤になる
ほど抜きにくかったです。皆さんそ
れぞれの場所で、植樹した植物を大
きく育てるために頑張っていまし
た。そこでも何時間か作業して、雑
草の山が出来ていました。
普段参加する機会の無いボラン
テ ィア に参加 できて、と ても 楽し
かったです。貴重な経験にもなった
ので、また機会があれば参加したい
と思います。
国分良太
雑草の会に参加して
写真:雑草の会の様子.
今回初めて雑草の会に参加しまし
た。中央山入口に車を停め、歩いて
山の中に入ります。
私のように植物に詳しくない人は
一つ一つ名前を教えてもらいなが
ら、何度も参加している方達は互い
に名前を言い合いながら歩いていき
ます。野生研の皆さんは、単に歩く
だけでなく、その都度見つけた外来
種を駆除していました。キバンジロ
ウなど食べられる実がなる良い木だ
と思っていましたが、実は駆除すべ
き種だったのに驚きました。
1人で歩いていたら単なる山道で
あろう道も、植物の名前が分かって
いくと魅力ある道になっていきま
す。これまで図鑑を見ても違いが分
からなかったシダ類も、見分け方を
教えてもらうことで別の形に見える
ようになりました。すぐには難しい
ですが、少しずつ名前を覚えていけ
たら、島の景色がもっと違って見え
るだろうなと思えました。これまで
外来種駆除や海岸清掃にしか参加し
たことがありませんでしたが、また
このような機会があればぜひ参加さ
せていただきたいです。
羽田野桃子
Page 5
小笠原野生生物研究会会報第65号
新入会員
佐藤 清
長井 知秀
写真:雑草の会の様子.
研 究 成 果・出 版 物 情 報
2014年に出た小笠原関連の自然科学系学術論文・書籍の情報を掲載します。(著者アルファベット順、スペース
の都合で掲載しきれないものは次号以降に回します)
安部哲人 (2014) ハナバチを中心とした送粉者多様性の機能に人為的撹乱が及ぼす影響.日本生態学会誌64: 17-25.
安部哲人 (2014) 小笠原諸島固有樹種シマホルトノキ植栽による外来雑草の抑制.九州森林研究67: 21-24.
Abe T, Yasui T, Yokoya M, Knapp M (2014) Regaining habitats from invasive weeds by planting limitedrecruitment endemic trees on an oceanic island: successes and failures 11 years later. Journal of Forest
Research (online first)
Amano M, Kourogi A, Aoki K, Yoshioka M, Mori K (2014) Differences in sperm whale codas between two waters off Japan: possible geographic separation of vocal clans. Journal of Mammalogy 95: 169-175.
Ando H, Emura N, Denda T, Nakahama N, Maruyama MI, Isagi Y (2014) Development of microsatellite markers for the coastal shrub Scaevola taccada (Goodeniaceae). Applications in Plant Sciences 2: 1300094.
Ando H, Ogawa H, Kaneko S, Takano H, Seki S, Suzuki H, Horikoshi K, Isagi Y (2014) Genetic structure of
the critically endangered red-headed wood pigeon Columba janthian nitens and its implications for the
management of threatened island populations. Ibis 156: 153-164.
Ando H, Young L, Naughton M, Suzuki H, Deguchi T, Isagi Y (2014) Predominance of unbalanced gene flow
from western to central North Pacific colonies of the black-footed albatross (Phoebastria nigripes). Pacific
Science 68: 309-319.
Chiang TY, Chen SF, Kato H, Hwang CC, Moore SJ, Hsu TW, Hung KH (2014) Temperate origin and diversification via southward colonization in Fatsia (Araliaceae), an insular endemic genus of the West Pacific
Rim. Tree Genetics and Genomes 10: 1317-1330.
千葉夕佳 (2014) オガサワラノスリによるグリーンアノール拡散リスク.小笠原研究年報37: 59-65.
千葉夕佳 (2014) 殺鼠剤散布期間におけるオガサワラノスリによる小属島の利用.小笠原研究年報37: 67-79.
De Ronde CEJ, Hein JR, Butterfield DA (2014) Metallogenesis and mineralization of intraoceanic arcs II: The
aeolian, Izu-Bonin, Mariana, and Kermadec Arcs, and the Manus Backarc Basin - Introduction. Economic
Geology 109: 2073-2077.
Emura N, Denda T, Sakai M, Ueda K (2014) Dimorphism of the seed-dispersing organ in a pantropical coastal
plant, Scaevola taccada: heterogeneous population structures across islands. Ecological Research 29: 733740.
Hata K, Kawakami K, Kachi N (2014) Temporal changes in soil water contents of forests dominated by Casuarina equisetifolia on Nishijima Island before and after their eradication. Ogasawara Research 40: 1-9.
Hata K, Kohri M, Morita S, Hiradate S, Kachi N (2014) Complex interrrelationships among aboveground biomass, soil chemical properties, and events caused by feral goats and their eradication in a grassland ecosystem of an island. Ecosystems 17: 1082-1094.
Page 6
OWRS News Letter Vol. 65
ネズミに関する本の紹介
小笠原では現在、ネズミ駆除に関
して色々な問題が起きている。下記
2冊は諸々のことを考えさせてくれ
る。
「ねずみに支配された島」文芸春
秋社
ウィリアム・ソウルゼンバーグ、
野中香方子訳
「ニュージーランドのカカポ、ア
リューシャン列島のウミスズメ、ハ
バ・カリフォルニアの海鳥。島の固
有種を救う唯一の方法、それはネズ
ミなど外来生物を1匹残らず殺戮す
編
集
父島は、まだ肌寒い日が続きます
が、寒緋桜が満開を過ぎ、ビーデの
花も咲き始め、春の息吹が聞こえて
きます。
兄島に新たな危機が惹起していま
す。グ リーン アノ ールだ けで はな
く、ネズミ被害の深刻化です。1度
は完全駆除されたはずのクマネズミ
が、一昨年より増え始め(残ってい
たのか、再侵入かは不明)、昨年、
兄島の固有陸産貝類に甚大な被害を
もたらしていることが、調査で判明
We Love Nature
小笠原野生生物研究会
Ogasawara Wildlife Research Society
http://www10.ocn.ne.jp/~yaseiken/
当会は小笠原の野生生物の研究を行なうと
ともに、自然を守るためのさまざまな活動を
行っているNPO法人です。イベント等の各種情
報はこの会誌を通じてお知らせします。年会費
は1000円です。
入会申込み、ご意見、お問い合わせは右の連
絡先まで。
ることだ」
生物多様性の意義を問うノンフィ
クション
「日本の家ねずみ問題」 地人書
館、矢部辰男著
「クマネズミ、ドブネズミ、ハツ
カネズミなど「家ネズミ」は人間の
家に居候する習性をもつ。ネズミに
よる各種被害は甚大で、けっして見
逃せるものではない。」 小笠原の
ネズミについても触れている。
安井隆弥
後
記
しました。本年1月に緊急対策とし
て、ヘリによる殺鼠剤散布が計画さ
れましたが、毒性の評価数値に誤り
があることが見つかり、中止されま
した。殺鼠剤散布に替え、かごわな
の設置により、対策を講じようとし
ている所ですが、その効果は未知数
です。まだまだ、大変な努力が必要
な最後の砦ともいえる兄島の外来種
対策です。
薮内良昌
連絡先
〒100-2101
東京都小笠原村父島字奥村
小笠原野生生物研究会
TEL
04998-2-2206
FAX
04998-2-2206
e-mail [email protected]
理事長
副理事長
編集委員長
編集委員
発行日
発行
安井隆弥
豊田武司,薮内良昌
安部哲人
打込みゆき,小林佳子,内藤恵美子
松林久美子,藪内良昌
2015年2月27日
小笠原野生生物研究会