望ましい生活リズムの形成を促す支援の工夫

沖縄県立教育センター
研修報告集録
第30集
55−60 2001年9月
<健康教育>
望ましい生活リズムの形成を促す支援の工夫
−「睡眠リズム」の学習を通して−
豊見城村立伊良波小学校養護教諭
Ⅰ
テ−マ設定の理由
宮
城
克
枝
ましい生活リズムをつくる態度が育つであろう。
Ⅱ
本県の学校教育における指導の努力点に「基本的
研究内容
な生活習慣の形成 」があげられている 。その中では ,
本県の児童生徒にみられる不登校や学校不適応,い
1 望ましい生活リズムとは
じめ,深夜外出等の問題行動は,基本的生活習慣の
望ましい生活リズムとは,単に起床・食事・活動・就
形成と深く関わっており,特に規則正しい生活リズ
寝といった生活行動の時間的流れだけを示すのでは
ムの確立や時間のけじめと聞く態度を身につけるこ
なく体内に備わった生体リズムと社会的リズムがう
とが必要であるといわれている。
まく調和した生活行動のリズムのことをいう。生体
本校の教育においても基本的生活習慣の定着化を
リズムとは,自然の変化に適応する生理的機能のリ
掲げ実践しているが ,
「頭痛 」
「腹痛 」
「気分不良」等
ズムのことでありその中でも睡眠・覚醒リズムは,
を訴えて来室する児童が後を絶たない状況がある。
健康な生活を保つ上で大きな役目をしている。望ま
その原因の多くは,睡眠不足による「生活リズムの
しい生活リズムを図に表すと次のようになる。
乱れ」であることが,保健室利用状況やアンケート
望ましい生活リズム
の結果から推察できる。
生活リズムを整えることは,体の健康のみでなく
生体リズム
‖
心の健康にも影響を及ぼし,集中力・我慢する力・
自分で自分の時間を大事に使うという自己管理能力
が身につくのである。つまり,生活リズムを整え定
着化を図ることは,生涯にわたって健康な子どもを
社会的リズム
‖
(一日周期のリズム)
・ 睡 眠 ・ 覚 醒 の リ ズ ム
・体温のリズム
・ホルモン分泌のリズム
・自立神経のリズム
.・家庭生活のリズム
・学校生活のリズム
・社会生活のリズム
* 重なり部分が生活リズム
育てる上での基盤づくりになるのである。
図1 望ましい生活リズム
そのことは,日々の学校生活での学習効果にも影
夜型生活の現実社会において,上の図のような望
響し,生活リズムの乱れから生じる不登校を予防す
ましい生活リズムを実践していくことは,困難なと
ることにもなると考える。
そこで,本校の児童の実態を踏まえ,生活リズムの
ころもあるが,自然にそった規則正しい生活リズム
中の「睡眠リズム」に焦点をあて「睡眠リズムの学
が健康を維持することから意識して自然の変化に応
習」を実施することにした。さらに,生活の中で習
じた生活行動をとることが必要と考える。
慣化させるために,保護者への働きかけや「生活ふ
2 望ましい生活リズムの形成を促す支援
(1)
りかえりカード」の活用等の工夫を加えることによ
望ましい生活リズムの形成を促す支援とは
望ましい生活リズムについての知識を習得させ,
り,望ましい生活リズムの形成を促すことができる
知識を生活の中で活用していけるようにサポートす
のではないかと考え,本テーマを設定した。
ることであり,つまりそれは生活リズムを整えるこ
<研究仮説>
1 保健指導の場において,睡眠リズムの大切さと健
とができるようにすることである。
(2)
康課題に気づかせ,習得した知識を生活に生かして
①
いけるよう学習のあり方を工夫することにより,望
望ましい生活リズムの形成を促す支援の工夫
児童への支援
ア「自分の健康は自分で守る」という健康観を
ましい睡眠リズムをつくる意欲が育つであろう。
2 日常生活の場において ,
「生活ふりかえりカード 」
育て,自分で課題に気づき,考えて行動する実践力
を活用し,継続できるよう支援することにより,望
(自己管理能力)を培わせることをねらいに,睡眠
- 55 -
についての知識を習得できるような学習をつくる。
イ
3 睡眠リズムの学習
(1)
習慣化をめざして,各自の目標に合った日
課表が立てられるような「生活ふりかえりカード」
①
の教材を作成し,活用させる(図2)。
ウ
必要に応じて,個別指導を行い個々の課題
モン分泌の低下・精神的不安定・学習に対する意欲
保健室で捉えた児童の生活実態から課題を
明確にし,適切な情報を提供する。
イ
③
精神面・身体面の健康や学習面に与える影響が大き
い。睡眠不足をおこすと生体リズムが乱れ成長ホル
担任への支援・協力
ア
睡眠が児童の心身の健康に与える影響
発育・発達の途中にいる児童期において睡眠は
解決においてサポートする。
②
睡眠リズムの学習を行う意義
や集中力の低下・咄嗟の判断と行動の低下等を生じ
る。また,睡眠リズムの乱れからくる不登校をひき
担任と協力し,授業や講話を行う。
おこすことにもなる。
保護者への支援
②
睡眠が他の生活リズムに与える波及効果
習慣化のためには,子どもが行動を継続してい
睡眠のリズムが整うと,快眠が得られ自律起床
けるよう保護者の協力が必要であると考え,カード
ができ快食・快便が得られるといった,他の生活リ
の点検,励ましの声かけ,健康によい生活行動がと
ズムにもプラスの波及効果がもたらされる。
れるような環境づくり等のサポートを依頼する。そ
さらに, 決められた時刻に就寝・起床することの習慣
して ,保護者に主体的にサポートしてもらうために ,
化は,時間を有効に使おうとする自己管理能力につ
睡眠リズムや生活リズムを整えることが子どもにと
ながると考える。
って大切であることを講話や保健便りで伝え,意識
③
の高揚を図る。
睡眠リズムを整えていくと,食事のリズムが整
保護者への支援にあたっては,保護者の個々の生
活様式,生活の状況等を尊重し配慮する。
(3)
生活リズムが生活習慣病への予防
えられ,食事の影響が関係する生活習慣病の予防に
つながると考える。
生活リズムの形成を促す支援の計画
(2)
睡眠リズム学習を進める際の支援の工夫
児童の生活の場は ,家庭に占める割合が大きく ,
支援にあたっては,学習が深まるために児童の実
生活を共にしている家族の生活のあり方に左右され
態に即し,学習意欲が高まるよう児童の興味・関心
ることが多いので,家庭と学校と一貫した体制で支
を喚起するような教材を工夫し作成する。また,板
援にあたることが大切であると考え,次のような計
書計画・発問・学習活動等にも工夫する。具体的に
画を立てた。
は,次のような工夫を行う。
表1 支援計画表
①
○担任と保護者の意識の高揚と協力への理解を得る 6月
・児童の生活リズムの形成には保護者をはじめ担任
の力に負うところが多い。児童にとってはモデルに
なるので両者に健康に対する意識や健康によい生活
行動の啓発を図っていくことが重要である。
○児童に知識を習得させ実践意欲を高める
6月
・態度の変容を図るためには,児童に自ら健康行
動をとる必要性を実感させることが大切である。
○保護者へ再度理解と協力を得る
ア
深まる効果が得られるようにする。
イ
めざす子ども像:
望ましい生活リズムの整った子
(規則正しい起床・就寝の生活が基本)
・活動的で集中力があり,粘り強い。
・精神的安定があり,自己管理能力がある
脳の働きを説明する際には,興味・関心を
高めるために教材を立体的に作成し説明のフラッシ
ュカードが飛び出す仕掛けにする。
ウ
担任が掲示物を能率よく掲示するために掲
示物は,関連する内容別に色分けをする。
エ
教室の四方の座席からよく見えるかどうか
教材の大きさや色についても配慮をする。
②
目標:望ましい生活リズムの形成
‖
絵カードやフラッシュカード及びグラフ化
されたデーターを活用し視覚に訴え,児童の理解が
7月
・習慣化にもっていくには,長期的な取り組みが
必要になるので幾度となく働きかけをする。
自作教材の工夫
板書計画の工夫
ア
導入からまとめまで掲示物が学習内容にそ
って整理・掲示され,まとめの際には,児童が学習
をふりかえり確認することができるよう,授業の流
れがみえるようにする。
③
学習活動の工夫
ア
1時間目の学習に際しては,一斉指導によ
る講義を中心とした知識学習が主になるので発問の
- 56 -
受け答えにメリハリをもたせ,クイズ形式をとり入
④
発問の工夫
れたり,ワークシートを活用させたり等,児童参加
ねらいに迫り,発展的で,児童の能力に即し,児童
型の学習にする。
が自分の体験を手がかりに考えることができる発問
イ
2時間目の学習では,習慣化に向けて継続
等であることに気をつける。また,児童のつぶやき
の意欲を高めるための工夫をする。そのために各自
を大切にし,言葉かけをしたりして焦点がぼけない
で目標を立てさせ,それを基に日課表の中には,生
ようにする。疑問に対しては明確に答え,まとめに
活行動のイラストを貼ったり ,自分で書き込んだり ,
際しては大事なことを強調するために繰り返し説明
色塗りができる等の「生活ふりかえりカード」を活
する。
用して,児童中心の課題解決学習に取り組む。
4 指導の位置づけ
また「保護者からのメッセージ 」
「児童からの親へ
学習指導要領では,学校における健康に関する指
の協力願い 」
「担任からのメッセージ 」
「本人の反省 」
導は,学校の教育活動全体を通じて適切に行うとあ
に記入欄をもうけて継続への意欲を高めるようにす
る。また,3・4年の体育の保健領域や総合的な学
る。具体的には,下に示したカードを作成し活用す
習時間等でも健康に関する指導の場が設けられてい
る。
る。睡眠リズムの学習は,3年生の「毎日の生活と
健康」に位置づけるのが適切かと考えるが,本校の
取り組み状況を考慮して,学級活動の時間で実施す
る。
Ⅲ
指導の実際
1 題材名 「望ましい生活リズムをつくろう」
2 指導のねらい
(1)
毎日を健康に過ごすためには,食事・睡眠・
運動・排泄等生活のリズムの整った生活を続ける
必要があることを理解させる。
(2)
自分の生活をふりかえることで,問題に気づ
き健康によい生活の仕方を自分で考え,保護者の
協力のもと望ましい生活リズムをつくる。
図2 生活ふりかえりカード
3 指導計画
日
程
6月13日
テーマ
内
「子どもと生活リズム」
学校行事
を生理科学的に説明し,子どもの早寝早起きの習慣化に親のサポートが必要であること
授業参観
保護者会にて
(栄養士も)
6月28日
を伝え協力を得る。
・栄養士による朝食の大切さについてミニ講話をセットする。
「すいみんのひみつ」
・健康を守るホルモンが盛んに出る時間帯が睡眠時にあることを分かりやすく学習させ,
「リズムのある生活を
・児童が自分で継続できる起床・就寝時刻の目標を決めて,一日の生活表を作成し,親へ
睡眠の大切さの理解を深め,実践の意欲を高める。
学級活動本時
6月30日
容
・心身ともに発達段階にある児童にとって睡眠による影響は大きく大事なものである事
送ろう」
学級活動2時
7月3日
学級PTA
学校行事
の協力を得ながら実践する意欲を高める。
・子どもが健康によい生活行動を実践できるよう,カードの点検・励ましの声かけ・環境
づくり等保護者の協力を得る。
4 本時の展開
(1) 本時のねらい
・睡眠の働きについて興味,関心をもち意欲的に学習に取り組もうとする。
・睡眠について学習することで,睡眠にリズムがあることやリズムの乱れが,心と体の健康に影響を及ぼす
ことに気づく。
- 57 -
・睡眠リズムを整えることが,心と体との健康によい影響を及ぼすことを知り,生活をふり返ることでこれ
からの生活の仕方を考え見直すことができる。
(2)
本時の学習( 1/2)
学習内容(活動)
T1:養護教諭
T 2:担任
教 師 の 支 援
今日は,担任の先生と一緒にみなさが知っているようで知らない勉強をします。
何の勉強でしょう。では,お友達の○○君の作文を紹介します。(短く)
導
学習するテーマを考える
眠らない人っていないね。○○君と同じように睡眠時間が少なかった日の体や気持ちはどんな状態にな
入
ったかな?これまでに経験したことを思い出して発表してください。
・眠る時間が,少なかった時の体験 ・睡眠不足したときの学習面,運動面,精神面に及ぼす影響を引
を発表する。
き出させる。
睡眠をたっぷりとった場合は,どうですか。
T1
・睡眠をたっぷりとった時の体験を ・睡眠が十分とれた場合は心身ともに調子がよい(悩みや心配事
(T2)発表する。
がない場合)ことから睡眠には,元気になる秘密がありそうだと
気づかせる。
どうして睡眠をたっぷりとった時は,体も心も元気になるのでしょうか。
すいみんには,何か元気にさせるひみつがあるようですね。
今日の学習のめあては,「すいみのひみつを考えよう」
です。
・めあてを声にして読み学習の見通
・めあてを読み合わせて,学習の見通しをもたせる。
しをもつ。
開
体のどの部分に,この元気にさせる力があると思いますか。
・考えたことを発表する。
・発表させ,頭(脳)の中で起こることをおさえる。
みんなが眠っている間に頭(脳)の中でどんなことが,起こっているのでしょう。
・知っていることを発表する。
・知っていることを発表させる。
・「すいみんのひみつ」のふしぎな力 ・睡眠のひみつには,目には見えないふじぎな力(ホルモンによ
(ホルモン)について知る。
る)がありそれを科学的に説明していくことで睡眠の大切さにつ
いて理解を深めさせる。
T1
展
(T2)
体のつかれをとる力=元気が出る
身長をのばす力=成長を促す・筋肉をつくる
(成長ホルモン)食欲を促す・きれいな肌をつくる
頭をすっきりさせる力=勉強がみに入る
計算が速くなる・記憶する力がでる
病気にかつ力=強い体
幸せな気持ちにさせる力=優しい心・仲良く遊ぶ
さわやかな気分・学校へ行きたい気分
ふしぎな力が出てくる時間があります。何時ごろだと思いますか。
・予想する時間に挙手する。
・思いのまま出させる。
・ふしぎな力(身長を伸ばす力のグ ・体のなかの体内時計について軽くふれる。
ラフから)の出る時間帯を見つけ ・グラフより9時前後からの就寝時刻が成長ホルモンの分泌がよ
る。
い事に気づかせ,就寝時刻をおさえる
では,朝は,何時に起きるといいのかな?
・起きる時刻について予想して発表 ・脳の活動は起床後2∼3時間がいいことを知らせる。
(運動す
する。
る時のウォーミングアップするのと同じ)
・起床時刻を計算する。
・学校生活スタート時刻より逆算して起床時刻を導き出させる。
(睡眠時間平均9.5∼10時間)
・一日では効果がないことに気づく。 ・不思議な力は,毎日決まった時刻に出るので早寝早起きの規則
正 しい生活が健康によいことをおさえる。
備 考
子どものミニ作
文
フラッシュカード
すいみんぶそく
した時
フラッシュカード
すいみんをた
っぷりとった
時
フラッシュカード
すいみんのひ
みつ
フラッシュカード
左の質問文
横顔の教材
フラッシュカード
ふしぎな力
5つの力のフラッシュ
カードとそれに合
ったイラスト
睡眠中女の子の
イラスト
成長ホルモンの
グラフ
起床してる男の
子のイラスト
今日の勉強で知ったことわかったこと,またこれまでの自分の生活をふり返り,気づいたこと
感じたこと,そして今日からやりたいことを書きましよう。
ワークシート
・自分の生活をふりかえり課題に気
・ワークシートにこれまでの生活をふりかえり課題に気づいたこ
配布
づく。
と,自分が続けられる起床就寝の時刻を自分で考えて決めさせる。
・ワークシートに睡眠の大切さに気づき自分の生活をふりかえっ
T2 ・自分の思いを書く。
・自分の
て問題に気づいたことや感じたこと,反省をもとにこれからや
反 省 , 決 ってみたいことを書かせ,継続への意欲を持たせるようにする。
T1
意 を 発 表 ・仲間の前で発表させることで実践への意欲を高めさせる。
する。
・児童のそれぞれの考えや生活様式等を尊重する。
・教師の思いを伝え継続・実践できるよう促す。
・まとめに再度毎日規則正しく続けることの大切さを確認する。
ま
と
め
- 58 -
5 研究仮説の検証
(1)
② 検証の視点2:望ましい睡眠のリズムをつくろうと
研究仮説1の検証
する意欲が高まったか。
睡眠リズムの学習で児童が睡眠リズムの大切さ
学習後「これからの生活でやっていきたいこと」いう内
と健康課題に気づき,習得した知識を生活に生かし
容で書かせた感想と「生活ふりかえりカード」
の家族の人へ
ていけるように,教材・ワークシート・発問・板書
計画等支援の工夫を行った。学習の中で行った支援
のメッセージの中に,次のような児童の感想があった。
表 4 授業後の児童の感想(3)
が,望ましい睡眠リズムをつくる意欲を育むことが
睡眠リズム形成への意欲
できたかどうかについて検証を行う。検証にあたっ
・今日からやってみたいことは,すいみんをたっぷりとるため
に9時からから9時半までには眠り,毎日,健康な生活をし
て行きたい。 (E君)
・私は,これから9時30分まで寝て6時前に起きようと思
ういます。規則正しい生活ができるよう,おうえんしてくだ
さい。(F子)
ては ,「気づき」は ,
「意欲」へつながると考え「気
づき」と「意欲の高まり」に視点をあてることにす
る。
① 検証の視点1:睡眠リズムの大切さと自らの健康
課題に気づくことができたか。
睡眠リズムの大切さと自らの健康課題に気づいた
かどうかをみるために学習後,感想を書かせた。
睡眠の大切さについては,これまでの生活体験から ,
上記の児童の感想から,望ましい睡眠リズムを自
らつくっていこうとする意欲がうかがえる 。さらに ,
メモ日記にも「早寝早起き」の計画を自主的に立て
ていることが記され,そのことからも睡眠リズムを
つくろうとする意欲の高まりがうかがえる。
殆どの児童が気づいていたが,睡眠についての科学
以上のことから,学習の場において睡眠リズムの
的知識や就寝・起床の時刻を決めて規則正しく睡眠
大切さと,自らの健康課題に気づかせ,生活に生か
をとるという睡眠リズムを整えることが大切である
していけるような学習の工夫をすることによって望
ことについては気づいていなかった。しかし,学習
ましい睡眠リズムをつくる意欲が育まれてきたと捉
後の感想や「ふりかえりカード」に記されたメッセ
える。
ージをみると表2の文中「リズム感のある生活をし
(2)
研究仮説2の検証
ていると元気が出てくる 」
「この計画で一日一日を過
学習で育まれた意欲を行動化へとつなぎ,習慣化
ごしていきたい 」
「寝る時間,起きる時間をきちんと
をめざして,児童は,目標をたてて「生活ふりかえ
守る」という文に,就寝・起床の時刻を規則正しく
りカード」を1週間活用した。活用にあたっては,
守っていくことが睡眠リズムであり,そのリズムを
保護者と担任に,講話を行い,子どもへの励ましの
整えると,健康によいことや大切であることに気づ
声かけや子どもが健康によい生活行動がとれるよう
いていることが,読みとれる。
な環境づくり等の協力を得た。児童が活用したふり
表2 学習後の児童の感想(1)
かえりカードの足跡と実践前後のアンケート結果か
睡眠リズムの大切さ
ら,望ましい生活リズムを形成する態度の変容が見
・リズムのある生活をしたいです。なぜかと言うとリズム感の
ある生活をしていると元気が出てくるからです。次からは,こ
の計画で一日一日を過ごしていきたいと思います。(A君)
られたかどうかについて検証をした。
①
起床時刻についてのアンケート結果から
60 %
40
16
20
3
0
6:00
・
寝る時間・
起きる時間をきちんと守りたいです (B子)
健康課題の気づきについては,殆どの児童が生活
をふり返り課題に気づいていた。表3の児童の感想
の「就寝・起床時刻がバラバラであった 」
「就寝時刻
が遅かった」という文からも自らの健康課題に気づ
図3
いていることが,うかがえる。
50
31
6:30
前
44
28
7:00
19
6
7:30
後
3
0
8:00時 刻
起床時刻の変容
起床時刻の変容をみると6時半までに起床した児
表3 学習後の児童の感想(2)
童が,実践前は, 34%(11人)であったのに比べ実践
健康課題の気づき
後は,66 %(21人)へと2倍近くの児童が早起する状
・
ねる時間,起きる時間が,ばらばらでした。次からは,ねる時間・
起きる時間を守りたいです。 (C君)
・
ねむる時間は,いつも10時半ぐらいです。だから朝,おそく起きて
しまい朝食を食べなかったりして体がだるくなっていまうので夜は,
9時くらいに寝たいです。 ( D子)
態に変わっていた。さらに7時半から 8時 までに起
床していた児童が実践後は,0%(0人)になった。
このことから,起床の時刻が早まり,起床時刻を守ると
いった態度の変容がうかがえる。
- 59 -
②
就寝時刻についてのアンケート結果から
60
%
40
50
16
20
前
25
16
13
9 9
0
9:30
後
22
19
9
9:00
と推測される。睡眠リズムを整えたことで,授業態
度にも良い結果をもたらし,さらに,ふりかえりカ
ードの保護者のメッセージからは ,一部の児童に「身
の回りの整理整頓が上手になった 」
「部活や塾,おけ
いのある日でも時間を大切に使っている」といった
自己管理能力の現れがみられた。また睡眠リズムを
整えることで朝,昼,夜3度の食事のリズムが整え
られたという効果も出た。
10:00
10:30
11:00
13
0
11:30時刻
図4就寝時刻の変容
以上のことから,習慣化のために保護者・担任の
実践前,就寝時刻9時半以降の者が,68%(22人)
もいてその中の13% (4人)は, 11時 半までの就寝で
あった。2時間目の学習における生活プラン作成時
では,32人中,29人の児童が就寝時刻の目標を9時
協力を得て「生活ふりかえりカード」を活用したこ
とによって,望ましい生活リズムをつくる態度が育
ちつつあると考える。
半に立てていた。目標に向かっての実践状況につい
Ⅳ
まとめと今後の課題
ては,図4に示す通りで実践後は,9時から9時半
までの就寝者が ,実践前32% (10人)から実践後63% (2
睡眠リズムの学習に焦点を絞り,保護者と担任の
0人)へと,かなり増えていた。このことから,就寝
協力のもと,望ましい生活リズムの形成を図るため
時刻が早まり,就寝時刻を守るといった態度の変容
の支援を行ってきた。その結果,次のような成果が
がうかがえる。そのことは,生活の中で活用してい
あった。
た「生活ふりかえりカード」からも実践していた様
1 睡眠リズムの大切さに気づき,生活をふり返ることで
子がみられた。
児童各自が課題を見つけ「規則正しい早寝早起きの
③
生活」を目標に望ましい睡眠リズムをつくる意欲が
起床方法と学校生活での眠気の状況について
高まり,その意欲が生活態度の変容につながった。
のアンケート結果から
60
60%
%
前
50
41
40
後
44
30
50
50
31
25
20
2 一部の児童には,「身の回りの整理整頓が上手にな
前
後
53 50
40
30
切に使う」といった自己管理能力のあらわれと睡眠リズム
28
10
10
0
を整えたことで「さっさと勉強や食事をすませる」といった
19
20
9
った」「部活や塾,お稽古のある日でも,自分の時間を大
47
時間を決めて食事を摂るという他の生活リズム(食事のリ
3
0
自分で
目覚まし
家族に
図5起床方法
よくある
時々ある
ズム)
への波及効果がみられた。
殆どない
このように睡眠リズムを整えることで,意欲・態
図6学校生活でのねむけ
図5の起床方法は,実践前50% (16人)の児童が家族
に起こされていたが,実践後は、31 %(10人)に 減っ
た。全体的に実践後は,自律起床の方法と目覚まし時
計を使っての起床方法が増えている。このような自
分で起床しようと努力している姿勢に自己管理の意
欲がみられた。
図6の学校生活での眠気の状況では,授業中に居
眠りする児童が少なくなっている。実践後「殆ど眠
度に変容がみられた。このことから睡眠リズムを整
えることが ,生活リズムを形成することにつながり ,
そのことは,生活リズムの乱れから生じる不登校を
解決する糸口にもなると考える。心身の成長過程に
いる児童にとって望ましい生活リズムを形成するこ
とは,大きな意義があるが,習慣化に向けての成果
は,すぐにあらわれるものではないので,支援にあ
たっては,根気よく地道に行っていく必要があるこ
とを実感した。
気は起こらない」と答えた児童が実践前の2倍以上
今後は,この研究の成果を踏まえ,保護者・担任
に増え ,
「眠気がよくある 」と答えた児童は28 %(9人)
と連携を密にし,児童の健康課題解決に向けて取り
から3 %(1人)に減った。これは,遅寝遅起きのリズ
ムから早寝早起きのリズムに変わったことの現れだ
組んでいきたい。
<主な参考文献>
服部淳彦 1996 『生体リズムを整える注目のホルモン 脳内物質メラトニン』
川添邦俊 1994 『子どもの発達と生活リズム』 ささら書房
宮本直和 1994 『奇跡の生活リズム教育法』 PHP研究所
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朝日出版社