人工ナノコンテナシステム

人工コンテナ輸送システム
~ナノの世界の汎用的物流システム~
様々なナノ材料をラッピングできる天然多糖
「シゾフィラン」
自然界における汎用的物質輸送システム
キノコ(スエヒロタケ)由来
小胞(生理活性物質を内包)
Denature
DMSO or NaOH
A. Goel et al., Nat. Nanotech., 2008, 3, 465.
分子モーター
細胞内ではタンパク質や細胞分泌物などの生理活
性物質を小胞に包み、ATPを駆動エネルギーとする
分子モーターを用いてレールタンパク質に沿って運
搬している。これを、積荷をコンテナに詰めて運搬す
る様子に喩えて、コンテナ輸送システムと呼ぶ。
細胞内のレールタンパク質にはいくつかの種類が
存在し、アクチンフ ィラメントはミオシ ン、マイクロ
チューブルはキネシンやダイニンなど、分子モーター
との組み合わせは決まっている。
レールタンパク質
シゾフィラン(SPG)
Renature
H2O or HCl
三重らせん構造
ランダム構造
SPG/DNA
複合体
DNA
カーボンナノ
チューブ(SWNT)
SPG/SWNT
複合体
M. Numata et al., J. Am. Chem. Soc., 2005, 127, 5875.
様々なナノ材料をコンテナのように梱包することができる多糖「シゾフィ
ラン」をナノ材料のコンテナとして利用することで自己組織的にコンテナ輸
送を行うナノマシンを構築することができる。
人工コンテナ輸送システム
分子モーター
(ミオシン6)
コンテナ分子:
y
金属配位子を修飾したSPG(TPySPG)
金属イオン
(コバルトイオン)
カーボンナノチューブ(SWNT)
TPySPG/SWNT 複合体
コンテナ複合体
(His Tagged Myosin VI/Co/TPySPG/SWNT)
Co/TPySPG/SWNT 複合体
コンテナ列車の機能を持つナノマシン
コンテナ
赤: レールタンパク質
(アクチンフィラメント)
緑: コンテナ複合体
1 m
コンテナ複合体はアクチンフィラメントに沿って30 秒間 で 約 5 m の
距離を安定して移動する。複数のレールタンパク質をループ状に敷設
すると、コンテナ分子はレールを乗りかえて動き続ける。
コンテナ複合体の動く速度は人間の縮尺に換算*すると時速 340 km
で、新幹線並みのスピードで動いている。
2 m
(* コンテナ複合体の大きさを300nmno列車の大きさを300mとして計算)
(
コンテナ複合体(輝点)が移動する様子
積荷
SWNT
DNA
etc…
レール
(アクチンフィラメント)
車輪
(ミオシン)
本研究は、人工的に汎用性のある物質輸送システムの構築に成
功した初めての例である。コンテナ分子で梱包できるナノ材料は何
でも運搬することができ、既にカーボンナノチューブの他、DNAの
輸送にも成功している。将来的に、 薬物輸送や分子情報通信など、
ナノスケールで物質を輸送する基盤技術として期待される。
ナノスケ ルで物質を輸送する基盤技術として期待される
Y. Tsuchiya et al., Angew. Chem. Int. Ed., 49, 724-727 (2010). Newsworthy Paper
人工コンテナ輸送システムの動作制御を目指して・・・
熱感応性ポリマーを修飾したコンテナ分子(Cur-pNIPAM)を用いてSWNT複合体の熱・光感応性をテスト
25 C
40 C
Heating
Cooling
Cur-pNIPAMをコンテナ分子に用
いた場合、熱を加えるとSWNT複合
体は凝集し、冷やすと元に戻る。近
赤外光を照射すると光が当たった
場所のみ凝集する。これは、
SWNTに照射された近赤外光のエ
ネルギーが熱エネルギーに変換さ
れ、複合体周辺の温度を上昇させ
た結果である。また、温度制御に
よって色素(荷物)をコンテナに積み
Nd:YAG laser 1064 nm, 240 mW, 15 min, r.t. 込むことができることもわかった。
NIR
laser
熱応答性の
40 C
25 C
h
h’
Heating
g
Cur-pNIPAM
Cur
pNIPAM
Cooling
SWNT/Cur-pNIPAM 複合体と蛍光色素の混
合溶液。加熱によって蛍光色素が複合体に
取り込まれ、蛍光が消失する。冷却すると蛍
光色素は複合体から放出される。
 or hNIR
Energy Transfer
into SWNT
SWNT
T. Shiraki et al., Chem. Commun., 45, 7065-7067 (2011).
これらの結果は将来的に人工コンテナ輸送システムの動作制御が
可能であることを示している。系全体を低温にしておくと、酵素である
分子モーターは機能しないため、コンテナ複合体は動かない。近赤外
光の照射によって複合体周辺の温度を上昇させると、色素や薬物など
の「荷物」をコンテナに積み込むことができる。さらに燃料であるATPを
添加することで、複合体はレールに沿って移動する。近赤外光の照射
をやめると複合体の周辺温度が下がり、複合体が停止するとともに、
積荷の放出がはじまる。