原生生物・寄生細菌間の DNA 分子フローの可視化と高精度定量

研究班紹介 ● A02
原生生物・寄生細菌間の DNA 分子フローの可視化と高精度定量
研究代表者:見坂武彦(大阪大谷大学薬学部・講師)
http://www3.osaka-ohtani.ac.jp/ph/11/
●公募研究の概要
クロファージ内で増殖し危害を及ぼすことが知られてお
ゲノム解析の進展に伴い、遺伝子伝播は多様な細菌の
り、アメーバでの増殖能は、細胞寄生性病原細菌の指標
新規形質の獲得、環境適応、進化に重要な役割を果たし
とされている。
ていることが明らかとなってきた。細菌はファージや原
本研究ではアメーバとその寄生細菌をモデルとして、
核生物だけではなく、捕食者や宿主などの真核生物との
以下の内容を検討する。
間でも遺伝子伝播を行っている。すなわち、栄養のみな
① DNA 分子を取り込んだ細菌をシングルセルレベルで
らず遺伝子という観点から相互に密接な関係を有してい
る(図 A)
。アメーバ寄生細菌は、細菌同士だけでなく
アメーバとの間でも遺伝子伝播を行った痕跡があり、寄
生関係の進化の過程においても、宿主と寄生体間の遺伝
可視化する技術を最適化する。
②アメーバと細胞寄生細菌との間の遺伝子伝播実験に必
要な供与体を作製する。
③マイクロコズムにおいて、アメーバと環境中の寄生細
子の伝播とその多様化が重要な役割を果たしていること
菌との間の DNA フローを新手法で可視化・定量し、
が認識されつつある。
既存の方法(培養やレポーター発現)を含めて総合的
我々の研究グループは、これまで細菌と溶存態 DNA
やファージとの間の遺伝子の流れを高精度に捉えるため
に遺伝子伝播を解析する。
我々の開発した細胞内遺伝子増幅法は、遺伝子伝播の
に、細胞内で特定遺伝子を増幅し蛍光顕微鏡下で可視化
第一段階である細胞内への DNA の移行を捉えることが
する細胞内遺伝子増幅法を独自に開発・改良してきた。
できることから、培養法や GFP 発現などの従来法と組
In situ loop-mediated isothermal amplification、In situ rolling
み合わせることで、細胞内への遺伝子の移行段階から、
circle amplification、Cycling primed in situ amplification な
細胞の増殖・遺伝子の保持、遺伝子の発現までの各段階
どの原理を利用して菌体内で特定の塩基配列をもつ
を総合的に解析可能となる。原生生物と細菌間の遺伝子
DNA を増幅することで、外来 DNA の細胞内への移行
の動きをより高精度に捉えることで、寄生機構の解明を
段階をシングルセルレベルで捉えることが可能となる。
深化させることを目指す。
独自の手法を用いて細菌間の遺伝子伝播の頻度や範囲を
検討したところ、培養やレポーター発現に依存した従来
法に比べて 100 倍以上高い頻度でかつ広い細菌種に、溶
存態 DNA やファージ粒子内の DNA が細菌に移行し、
ゲノムの多様化に寄与することを明らかにした。また
3 ファージ DNA が、本来の宿主以外にも伝播し細菌の
突然変異に対しても影響を与えることを明らかにした。
原生生物と細菌など寄生・共生関係にある異種生物間
の遺伝子伝播は、ゲノム解析によりその痕跡が確認され
ているが、実験的にどの程度の頻度で起こるかは方法論
的制約により未解明のままである。本研究課題では、申
請者らが開発した方法論を応用し、原生生物と細菌間の
DNA 分子のフローをシングルセルレベルで可視化する
ための技術開発・改良を行う。次に環境試料を含むマイ
クロコズムを作製し、寄生関係にある原生生物と未培養
の細菌との間の遺伝子伝播をシングルセルレベルで解析
する。本研究を通じて、DNA 分子フローの視点から寄
生機構の解明を進める道を切り拓く(図 B)
。
異種生物間の遺伝子伝播のモデルとして、アメーバと
環境中の細胞寄生細菌を用いる。環境中ではアメーバ体
内に寄生する細菌は、ヒトに侵入すると同様の機構でマ
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文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「マトリョーシカ型進化原理」News Letter Vol.2
宿主
(原生生物)
捕食者
標識ゲノム
DNA
GFP発現
プラスミドDNA
アメーバ
寄生細菌
寄生
捕食
遺伝子伝播
炭素の流れ
遺伝子伝播
細菌
遺伝子の流れ
遺伝子伝播/
遺伝子プール
遺伝子伝播
放出/取込み
溶存態DNA
研究内容:
寄生
ファージ
放出
遺伝子プール
① 特定DNA分子を取込んだ細菌を可視化する技術の最適化
② アメーバと細胞寄生細菌間の遺伝子伝播実験に必要な供与体の作製
③ マイクロコズムでのアメーバと寄生細菌間の遺伝子伝播の解析
A. 自然環境中の微生物間の相互作用
B. アメーバと寄生細菌間のDNAフローの
シングルセルレベルでの解析
■ 略歴
2000年
2000-2001年
2001-2002年
2002-2007年
2007年-現在
大阪大学大学院薬学研究科博士後期課程修了
マヒドン大学環境資源学部・客員研究員
大日本製薬株式会社
大阪大学大学院薬学研究科・特任研究員、特任助手等
大阪大谷大学薬学部・講師
■ 最近の主な論文
1. Kenzaka T, Tani K, Nasu M. High-frequency phage-mediated gene transfer in freshwater environments determined at single-cell
level. ISME J. 2010 May;4(5):648-59.
2. Kenzaka T, Nasu M, Tani K. Transfer of a phage T4 gene into Enterobacteriaceae, determined at the single-cell level. Appl Environ
Microbiol. 2010 Feb;76(4):1274-7.
3. Kenzaka T, Tani K, Sakotani A, Yamaguchi N, Nasu M. High-frequency phage-mediated gene transfer among Escherichia coli cells,
determined at the single-cell level. Appl Environ Microbiol. 2007 May;73(10):3291-9.
4. Kenzaka T, Tamaki S, Yamaguchi N, Tani K, Nasu M. Recognition of individual genes in diverse microorganisms by cycling primed
in situ amplification. Appl Environ Microbiol. 2005 Nov;71(11):7236-44.
5. Kenzaka T, Ishidoshiro A, Yamaguchi N, Tani K, Nasu M. rRNA sequence-based scanning electron microscopic detection of bacteria. Appl Environ Microbiol. 2005 Sep;71(9):5523-31.
文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「マトリョーシカ型進化原理」News Letter Vol.2
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