海事衛星通信における海面反射フェージングの相関特性

(597)
〔
論 文〕
UDC 621.396.932: 621.396.946: 621.391.81
海事 衛 星通信 に おける海面反射 フ ェー ジ ング の相 関特性
好
孝
塩
沢 川
唐
男
泰
Correlation Characteristics Of
ネ
*ネ
ⅣIultipath Fading due to Sea
Surface Renection in ⅣIaritilne Satellite COrl11■ unicatiOns
By
Yoshio KARASAWA,Takayasu SHIOKAWA:Radio TransmissiOn
LaboratOry, KDID Research and Development Laboratories
NIultipath fading due to sea surface renection v711l be a signiflcant ploblem in maritime satellite
communications, particularly for a system operating with low G/T ship earth stations at low elevation
angles. This paper presents correlation characteristics of multipath fading as to tilne,space and frequency
domains, based on the theoretical model previously presented by the authors. As for the poMァ
which is one expression of tiine‐
comparison
、
vith
er spectruln,
(or autO‐ )correlation,the validity of estimated values is also examined by
experiinental data obtained by coast and onboard experiments Nloreover, the applicability
of space and frequency diversity to the maritilne satellite communications as a probable fading reduction
technique is discussed,based on the caluculation of space and frequency correlation characteristics.Finally,
the possibility of fading reduction for up‐ link is also considered.
まえ が き
インマル サ ッ トシステムに よる海 事衛星通信 では ,現
れ る)で は,特 に重要な検討課題 となってい る.こ のた
め筆者 らは文献 (1)に おいて,仰 角 ,ア ンテナ利得 ,海 面
以上の海域 に ある船舶 を対象 と して通
状態等 に対する フェー ジングの大 きさを求 めるための理
論 モ デル とその計算結果 を示 し,海 面反射 フェージング
信 サービスの提供 が行われている。 この よ うな海事衛星
に よる受信強度 の劣化特性 について定量的な検討 を行 っ
通信 の場合 ,船 舶 が電波 をよ く反射す る海で囲 まれてい
るとい う特殊性 か ら,仰 角 が 5D∼ 10° の低仰角運用 の際
た
には ,海 面 か らの反射波 によって信号強度 が変動す るIIL
検討 を行 う際 には,フ ェージ ングの大 きさとと もに時間
空間 および周波数 をスケール とする相関的な性質 も把握
在 ,衛 星仰角
5つ
象 ,い わゆるマル チバ スフェージ ングが発 生する。 この
マル チパ スフェー ジング(以 下,海 面反射 フェー ジングと
呼ぶ)は ,ビ ー ム幅 の広 い小型 の アンテナほど大 きな も
の となるため,将 来 システム と して検討 が進 め られてい
る低
*
**
G/T船 舶地球局 システム
研究所 無線伝送研究室主査
″ 無線伝送研究室主任研究員
(Oθ ′.
1985)
(小 型 アンテナが用 い ら
.
一 方 ,通 信方式 の検討 ,あ るいは フェージ ング軽減 の
,
してお くことが重要である.こ こで い う時間的な相関特
性 とは ,変 動 の速 さに関する情報 を与えるもの と して
また空間相関特性 はスペースダ イバ ーシチを検 討す る際
,
に, また周波数相関特性 は, フェージングの帯域内周波
数選択性 ,周 波数 ダイバ ーシチ,送 受両 リンクでの フェ
ージングの相関等 を検討する うえでそれぞれ重 要な量で
49
(598)
ある
.
本 論文 で は , まず相 関 の概念 を述 べ ,次 に文 献 (1)に 示
した モ デ ル を基 に相 関 持性 を得 るため の理 論 的 取扱 い l
│き
│■
つ
つ い て検討 し,時 間 ,空 間 ,Fl波 数 に 関 す る相 関特性 の
解 析結 果 を示 す 。 また, この結 果を基 に ,海 事衛 星通信
シス テ ム の設 計 や , フ ェー ジ ングの 軽減 対 策 を検討 す る
際 の問 題 点 を考察 す る
.
2.相
関 の 概 念 と理 論 モ デ ル
X/
2.1 相関 の概念
図2
海面 か らの反射波 は,直 接波 に対 して振幅 と位相 が一
定な関係 に あるコヒー レン ト成分 (ま たは正規 反射波成
分 )Cお よび,波 の動 きに伴 って振幅 や位相 が絶 えず不
規則な変動 を繰 り返す インコヒー レン ト成 分 か ら成 る
海面からの反射波と座標系
3地 点で同時 に測定 された もので あるな らば,そ の場合
の相関持性 とは受信点 の位 置 によって異な るフ ェージ ン
グパ ター ンの相似性 (空 間相関特性 )を 示す ことにな る。
コヒー レン ト成分 は波高 の低 い穏 やかな海面で卓越 し
,
同様 に図 1の i吉 果 が周波数 の異 な る電波 を同一 地点 ,同
波高 の増加 とと もに減少す る一方 , インコヒー レン ト成
分 は,波 高 とともに増加 し,や がて飽和値 に達す る.1.5
一 時 刻に観測 した もので あるな らば,周 波数 に関す る相
GHzの 電波 の仰角5° 以 Lで は,波 高が lmを 超 える海面
関特性 を,更 に,同 一 地点 ,同 一周波数 の電波 の受信記
状態 にな るとインコヒー レン ト成分 はほぼ飽和値 に達 し
,
コヒー レン ト成分 は,無 視で きる程 度 に小 さくなる.文
献 (1)で も述べ たように, この インコヒー レン ト成 分 が主
録 を時間 をず ら して比較 してい るよ うな場合 には,時 間
的 な相 関特性 (自 己相関特性 )を それぞれ調べ てい る こ
とにな る
.
体 となる海面状態 は,発 │ヒ す る頻度が 高 く,か つ フェー
ジ ングその もの も大 きな もの となることか ら,フ ェージ
一 例 と して, フェージングの空間領域 での相関特性 に
ついて述 べ る.図 2で 基準 となるアンテナAの 位置 ベ グ
ング を検討す る際 に重要である
トルを rOと し,″ 0と 微少量 rだ け離れ た rO+rに あ
るアンテナ Bの 間 で,直 接波 (Ё D)で 正規化 された反
.
図 1は フェージングによ り信号強度 が変動す る様子 3
種類 を概念的 に示 した ものである.図 で実線 のカーブ
_ca
を基 準 に考 えると,破 線⑥ とはかな り形状 が似 てお り
,
射波
(Ё
R/Ё D)の
を次式で定義す る
∝鍵
ス耗
ilT疑、
誓〕
はTめ ]
0
=・ JQ轟
響
身 ら90
=ι
は相関 がない とい う・ 相関 の強 さの程度 は 1∼ -1の 間
の値 で表わ され,相 関係数 と呼 ばれる。 この場合,1(波
相似 )が 基準 となる.と ころで,図 1が 空間的 に異 なる
C(r)
.
点線◎ とは,あ まり共通性 がない ように見える.こ のよ
うな場合 ,Oと 0に は強 い相関 が あるといい,① と◎ に
形 が完全 に相似形),0(関 連性な し),-1(波 形が反転
パ ラメータ ″に対す る相関関数
[マ
ここで く 〉は アンサ ンブル平均 ,*は 共役複素量 を
,
また
Rι
[ ]│ま 複素量 の実数部 を表わす。 また,Ccoh,
Cincは 反射波 の コヒ,レ ン ト成分 , インコヒー レン ト
成分 に着 日 した相関関数 , 島 。
h,PIncは 両成分 の平均
.式
″
である
電力
(1)は ある点
0で 観測 してい るときの直
接波 と反射波 の関係(振 幅 および位相 )が , 位置 が ″ だ
けずれる ことに よって変化 し, この変化 の程度 に応 じて
相関係数が小 さくなる ことを意味 してい る。式(1)中 の空
間 ス ケール,rO,rを 周波数 ス ケールに置 き換 える こと
に よって周波数相関特性 を,ま た時間 スケールに置 き換
える ことに よって時間相関持性 を得 ることがで きる
.
式(1)中 の Pcoh,鳥 ncは 文献 (1),(2)に よって
,
持
図
50
1
■
フ ェー ジングに よる信 号強度 の 変動 (概 念図)
Pcoh=「 2G2ι ―″
2
国際通信 の研究
Ⅳθ。12δ
(599)
鳥
“
=J全
菊yウ Gね nへ の 4
輌
0
と方向,Fl「・舶 の航行 に伴 うアンテナ位置 の移動 ,船 舶 の
ロー リングおよび ビ ッチ ングによって生 じる アンテナの
¬
で与え られる.こ こで ′ は海面 の反射係数 ,Gは 反身│
波到来方向 の アンテナ利得 (電 界 の次元 ), ″ は海 の荒
動揺等である.波 の動 きの定式化 に際 しては次 の性質 を
利用す る③ すなわ ち,o波 の速度 は波 の波長 の平方根
れ具合 を表わすパ ラメータ,σ Oは 海面 を完全導体粗面 と
に1ヒ Flす る (重 力波 の性質),② 波高 と波長 の 間 には あ
みな した ときの 単位面積 当 りの散乱断面積 ,は S散 舌L波
に対す る海 の波 による遮 へい係数 である
る一 定 の比例関 係が ある,③ 風 に よって生 じる波浪 (風
.
一 方 ,コ ヒー レン ト成 分 の相関係数 は,空 間 ,時 間
,
,
周波数 の それぞれ の変化量 ″,′ ,Fに 対 して
C¨ Kの =“
)
運)船 の航行 に伴 うアンテナの一定方向へ の移動 ,⑤ 船舶
0
S(+Cい ら
″
な
Ccoh(′ )=1
浪 )で は , 波 の動 く方向 は, 風 の方向 を 中央値 と す る
■90Jの 範囲 にはぼ 11規 分布す る.更 にスペ ク トルには
の動揺 に よる アンテナの水平お よび上下方向へ の動 きが
反映 され る.
.
(5)
Ccoh(F)=COS(夕
ぢ
`F COSθ
′
)
)
(〃 α:ア ンテナの/1面 か らの高 さ,r:光 速 )
“
2.3 空間相関特性
一般 に インコ ヒー レン ト成分 が主体 となるフ ェー ジン
白Wこ
なるに従 って小 さくなるが,そ れ には大ガ1し て三 つの要
,
l lNが
θ
r
S
r′F
σ
面
海
L為 θ
n
一π a
〓
″ノF
C
全
∬
︰“
とな る。 また インコ ヒー レン ト成 分 の相 関係数 は ,概 念
グでは,あ る位置 ″0と ″ だけ離れた ″0+″ の 21也 点
での フェー ジングの 相関は 21也 点間 の距離 ″ が大 きく
挙げ られる.す なわ ち, li直 接波 と反射波 の相対位
相 が変 わること,② 種 々の方向か い反射波 が到来 してい
るため反射波相互の位相関係が変 わること,③ 距離 が大
きくなるに従 って フェー ジ ングに寄与す る反射波 の到来
と表わせる.こ こで σ Oま 相関散舌L断 面積 と呼 ばれ る量
である。以下の節 では,時 間 ,空 間 ,周 波数 に関す る相
領域 その ものが異な ってい くことで ある.① に関 しては
関散乱断面積 σ を定式化す るための前提 条件等 につい
て述 べ る。式 の導出については,文 献 0),に )に 記述 され
テナを z軸 に沿 って上げてい くと直接波の位相 が進 み
ているので, ここでは式の記述 は割愛す る
図 2に おける Z軸 の相関特性 に強 く影響 し,夕 1え ば アン
,
反 l波 の位相 が遅 れるので立相関 際の変化 が大 きく, Z
ll・
颯h方 向 の相関長(本 目関係数 が 最初 に 1ル となる距離)が
.
X,y軸 方向に比べ て短い ことは 容易に推定で きる。 ②
2.2 自己相関特性
に関 しては,相 関長は反射波 の到来方向の広が りに依存
時間 に関す る相関特性 は 自己相関特性 と呼 ば れ る。信
し,こ の広が りが大 きいほ ど(す なわち反射 波到来領域 が
号強度 が緩慢 に変化す るよ うな フェー ジングでは ,同 一
広 いほ ど)本 目関長 は小 さくな る.③ に関 しては,伊 1え ば x
状態 が比較的長 い時間維持 され ることになるため ,相 関
軸 方向 に十分大 きな距離 をとれば, 2点 では全 く別 の海
は 自然対数 の底 :2.718)と な
面 を見 ることになるので,① ,② の理 由 とは別 に インコ
ヒー レン ト成分 に関す る相関関数 Cincは oに なる。低
時間 〔相関係数 が 1ル
(ι
る時間〕 も比較的長い もの とな る.逆 に急峻な変化 をす
るフ ェージ ングでは,相 関時間 は短 い 。 この よ うな相関
仰角 にお ける フェー ジングでは, インコヒー レン ト成分
時間 の長短 は,変 動周波数成 分 の大小 (パ ワースペ ク ト
ル)と してとらえることがで きる.す なわち相関時間 が
要因③ の影響 が現われる
『E離 は,① ,② の影響 が現われ
長 い変動 は ,低 い周波数成分 が主体 であ り,逆 に相関時
る距離 に比較 して十分長 い。 そのため,本 論文 では,比
間 が短 い変動 では高 い周波数成 分 が強 い ことを意味 して
い る。 自己相関関数 とパ ワースペ ク トル は表裏一 体 の関
較的短 い1711離 の相関特性 に対 して支配的な要因である上
記① と② のみを考慮す る
の大部分 は十分遠方 に ある広 い領域 か ら到来するので
,
.
係 に あ り, Wiener― Khintchineの 関係式 を用 い れば
一 方 を他方 に変換す ることがで きる。通常 ,信 号強度変
2.4 周波数相関特性
動 の時間的なふ るまいについては,パ ワースペ ク トルに
次 に周波数領域 での フェージ ングの4Fl関 特性 を考える
よって表現 され ることが多 いので,本 論文 で も後述す る
解析結果 の節 では パ ワー スベ ク トルの形で結果 を示す 。
海面 の反射係数 その ものの周波数依存性 は小 さく,こ こ
、
で考 えてい る 1.5GHz帯 を中′
とする 100MHz程 度 の
と
スペ ク トルを決定す る要 因には,時 間的 に変化す る も
範囲 では,水 平お よび垂直偏波 に対する周波数 による反
射係数 の違 いは無視で きる。 また,ア ンテナ主 ビー ム内
,
のすべ てが含 まれ る.す なわ ち,個 々の波 の流れの速度
.
(Oθ ′
ゴθ85)
.
51
(600)
では
での放射 パ ター ンおよび位 相特性 も上記 周波数帯
フェー
とみな し得 るため,周 波数 の違いに よる
ほぼ同 ‐
,
ジ ングパ タ ン の違いは,専 ら直接波 と反射波 の通路差
に よる もの とな る
.
アン
い ま,図 2の 一つの アンテナにおいて,衛 星 から
″S(任 意 の
テ ナに直接到来 する電波 と ぃ ったん海面
の を″L(θ ゎ
微小領域 )で 反射 して くる電波 との通路長 差
Fだ け離
θ
関数 )と す ると,あ る周波数 /か ら
,
s,φ sの
れた ノ と /十
Fの 二つの電波 に ついて見 た直接波 と反
F∠ L/6(単 位 ラ
射波 の間 の電気的位相 差 の変化量 は 2π
ジアン,θ :光 速 )と な る
この ように周波数差 Fが 大 きくな るほど,直 接波 と反
ことか ら相関 も
射波 との間 の位 相差 の変化量 が増 加す る
。
周波数 の差 Fを 関数 と して変化 する ことになる
.
3.フ
卜,,■
図 3
執
│‖
ア
│
ス ペ ク トルの仰角特性 (理 論値 )
ェー ジ ン グ の 相 関 特 性
ム
し
以下 の解析 で は, インマル サ ットシステ を想定
について考
周波数 1.5GHz,円 偏波 の電波 を受信す る場合
は 12dBiと
える。またその際 の船舶局用 アンテナの利得
には,結
している。一般 に,反 射波 の強 さを求 める場合
,
の場
果 は アンテナ利得 に強 く依存 す る0)が , 相関的性質
の性
る
に
合 には,反 射波 の時間 ,空 間 ,周 波数 対す 変化
ナ
アンテ
る
に
質 を表わす ものであるため,解 析結 呆 対す
果は
利得依存性 は小 さい 。 このため,以 下 に示す解 析結
G/T船 舶局 シ
利得 15dBi程 度以下 と想定 され る各種 低
ステ ムで発生す る フェー ジ ングに対 し広 く有効 である
,
.
図4
3.1 パ ワース` ク トル
前述 の とお り,時 間 に関 す る相関特性 ,す なわち自己
に よってパワ
相関特性 は Wiener―Khintchineの 関係 式
つ
ー スペ ク トルに変換 で き,か つ時間的な変動 の性質 に
い
いては パ ワー スペ ク トルに よって議論 され る ことが多
ス ペ ク トルの形 で結果 を示す。
ので, ここではパ ワ
フェー ジング
まず ,海 面反射波 その ものの変動 に よる
スペ グ トル を求 めるため,受 信 アンテナが水平面 に対 し
ル リグ
て静上 してい る プラ ットホー ム上 ('1え ばオ イ
海岸等 )に 設置 され てい る場合 を考 える・
*)が 3mの 場合 の仰角 と
図 3は 波高 ″1ハ (有 義波高
ス
スペ ク トルの関係 を,図 4は 仰角 10° における波高 と
ペ ク トルの関 係を示 してい る.同 図 か ら他 の条件 が同 じ
スペ グ トル
な らば仰角 が高いほど, また波高が高いほ ど
の広が りが大 きくな る ことが分 かる.図 4に は 海 岸 実
,
peak値 )
の定fi法 の一つ 波の山と谷の差 (peak― tO―
でよく
海洋学
した値
いて平均
3を
用
1′
の上位
を長時間測定 し,測 定値
ている
用いられ,人 間の日視感覚に最も近いといわれ
*有 義波高 :波
52
1高
スペタトルの波高特性
70∼
験 (ア ンテナ位 置 :固 定)に よって 浪1定 した 波高
80Cm,1.5∼ 2.Omの 場合 の 実測 スペ ク トル も併 せて示
一 し
してあ る.同 図 か ら理論値 と実測値 は比較的 よく 致
てい る ことが分 かる
.
の さで
実際 の海事衛 星通信 の環境下 では,船 は一定 速
ので フ エ
てい
る
動 いてお り,ま た,波 に よる動揺 も受け
ー ジングに よる信号強度 の変動 に もこれ らの影響 が反映
4の 結果
され,静 止 プラ ットホー ムを想定 した図 3,図
.図
5は 一 例
よりは ,一 般的 に スペ ク トル幅 は広 くなる
ペ
ル151と , これ
と して,船 舶実験 で得 られた実測 ス ク ト
に相当す る理論値 を併 せて示 してい る。高 い周波数 部分
でゃや不一 致 はあるものの,船 舶 の航行 ,動 揺を考慮す
る
る ことによって, 見 複雑 とも思 える環境 下で発生 す
フェー ジングの スペ ク トルについて も,実 測値 と理論値
で
は比較的 よ く一 致す る ことが分 かる。なお,図 5の 例
は,船 舶 の進行 方向 と風 の向 き (す なわち波 の向 き)の
国際 通信 の研究 Nο 。 12δ
(601)
いは それ以上にな り得 ることが分 かる。
逆 に変動 の周期 が長 くな リスペ ク トルの幅 が狭 くなる
場 合は,上 述 と反対 の場合 を考 えれば よい ことにな る。
ただ し非常 に緩や かな周期 の変動 は, ここで解析 を行 っ
た インコ ヒー レン ト成分 に よる フェージ ングよりもむ し
ろ コヒー レン ト成分 が卓越す る波高の低 い海面状態 で
,
船 の上下動 に起因す るハ イ トパ ター ン的な フェージング
が存在す るときに見 られ る。海洋実験 の実濃1夕 1で は,仰
20ノ サ│
■ 1三 を考 :│し
角
1=│■
:理
1直
,こ
■:
5.5°
,波 高約 30Cmの 鏡面状態 に近 い海面上 を船が
わず かに動揺 しなが ら進 んだ際 に生 じたフェージングの
,
`青
-10dB幅 0.3Hzが 得 られてい る0.以 上 の解
-10dBは ,仰 角 5° ∼ 10つ では0.3
∼5Hz程 度 に広 く分布す ることが分 かる。
場合で
析 か らスペ ク トルの
図
5
船舶 の航行,動 揺 を考慮 した スペ タ トル
3.2 空間相関特性
2の 座標 系におい て, コ ヒー レン ト成分 に関す る X,
1図
・‐
″`i10・
.=5m
y軸 方向 の相関係数 は,式 に)か ら両IIB方 向 の変位 に対 し
て直接波 と反射波 の位相関係 が変化 しない ため,共 に 1
の まま変化 しないのは自明 である.一 方 z軸 方向 に対 し
m3・
一一一 一 一
■ いI ・
〓
Ccoh(2)=COS(2カ
て は
bl″
Z COS
θ′
)(た
:自
由 空 間 に お け る
電波 の波数 )と な り, zに 対 して正弦的な変化 がある
.
1
0
05
02
波
月
1
〓も 涌 彗 g 響
01
数 (Hz
● :ア ンテナが静止フラ・ トホ ーム上にある場 さ
│● :0こ 鳴が注られ に1lliし て20ノ ント(進 t'場 合
達│:り )の 1ヽ 態 こ更に大きな勤好が加わ った場合
06
04
02
00
-02
-04
-06
08
-10
XI皓「キ│
'こ
図
6
!0
スペ ク トルの広 が りが大 きい例 (理 論値 )
るが, 同一 波高 , 同一仰角 の場合 ,角 度差 が 180つ の と
き最 もスペ ク トル幅 が広 くな る0).
ピも ギ L 歴 響
角度差 が約 60° であ り, これ を考慮 して理 論値 を得 てい
08
06
04
02
00
02
‐04
-1 0
10
も広 い もの となる。速 い変動 の生 じる一 夕1と して,仰 角
08
-10dB幅 に着 目すると,ア ンテナが静 止 し
てい る場合 で 2Hz以 内 , 船舶 の動 きを考慮 して も3 Hz
以内であるが, 大 きな 動揺 を 伴 う場合 には,5HZあ る
ペ ク トルの
.コ
(Oθ ′
985)
06
とも 幡 堅 肛 習
対向 して20ノ ッ トで進む場合 ,0か な り大 きな動揺 を伴
う場合 の スペ ク トルの帯域幅 を図 6に 示す .同 図 か ら ス
\
― ―一 y rn
ヽ
メ́て
、
、、_二 lL´ ′′
ヽ
_´ ´
‐
08
が ら波の進行方向 と反対方向 に船舶 が航行す る場合 に最
, 波高 5mを 考 え,0ア ンテナが静 lLブ ラ ッ トホー
ム上 に ある場合 ,① 船舶上 に あって,船 舶 が波 の流れ に
ヽ
06
上述の検討結果か ら, フェー ジングスペ ク トルの帯域
幅 は,仰 角 および波高 が高 く,か つ大 きな動揺 を伴 いな
10つ
`
ヽ
ミや
`
04
02
00
-02
-04
-06
-08
-1 0
Y千 由1告
1生
z軸 相関係数 が最初 に -1に な る距離 は仰角 5つ と 10う
に対 して,そ れぞれ 57Cm,29Cmで ある.こ の正弦変
動 の ビ ッチ (仰 角 5Dで 1.15m)は アンテナの ハ イ トパ
1つ ぶ ヽ E 雷
ター ンの ビ ッチとす 致 してい る
.
図 7は インコヒー レン ト成 分 が主体 とな る海面状態 に
おける同成分 の空間相関関数 で,(め ∼(C)は それ ぞれ X,
y,z軸 方向 の変位 に対す る ものである.同 図 において
z llb相 関特性 にハ イ トパ ター ン性 の変動 が比較的強
10
08
06
04
02
00
02
-04
-06
-08
-1
く見
られるのは, 2.3節 で述べ た要 因① の影響 が,要 因② の
影響 に比較 して強 く働 いてい る ことに よるもので, イン
10卜 ……
コヒー レン ト成分 とい えども,そ の到来領域 の広が りが
角度的 に あまり大 き くない ことを意味 してい る また
08
06
04
02
,
〓も 幡 彗 肛 軍
インコヒー レン ト成 分 が主体 とな る荒 れた海面状態 での
反射波 の主な到来領域 が海面 の正規反射点 より,や や遠
方 (す なわち水平線方向)に ずれ ているOXの こと か ら
,
y軸 相関特性 に対 して も,要 因つ の影響 による長 い ピッ
チの周期変動 がわず かに重畳 してい る。一 方,X軸 相関
特性 は 専 ら要因② に よるため,正 規分布形 の相関特性 と
0
-0
-04
-06
-08
-1
(b'
な ってい る.相 関長 を 相関 が 1ル とな る距離で定義す
ると,イ ンコヒー レン ト成分 に対す る相関長は,X,y,
図
8
1́ン
I]11 1ン ■1'
仰角
での周波数相関特 IJ
5°
Z軸 方向 に対 して仰角 5つ でそれぞれ 7.5m,14m,o.2
m,仰 角 10う で 4m,3.6m,o.lm程 度 とな り,2.3節
で述 べ た とお り,z軸 方向 に対 して短 い相関長 が得 られ
てい る。
更 に 各軸方向 に対 して 十分 に無相関 (ICIく 0.2)
と して取 り扱 える長 さは, それぞれ
10m(x軸 ),18m
(y軸 ), lm(z軸 )以 Lと な ってい る
Lバ ン ド電波 の空間相関特性 を測定 した仰│と して,仰
角 9Dで Z lll方 向 に 60Cm離 した場合 の報告がある③
それに よると波高 1∼ 1.5m, すなわ ち インコ ヒー レン
■ ︺ 憾 一市一
翌
一
.
.
)れ てお り
ト成分 が主体 とな る状態 で相関係数 0.3が 得 ら
図 7(C)の E′ =lo° ,z=60Cmの 値 とよく一致 してい る
,
.
3.3 周波数相関特性
図 8は 仰角
5°
における アンテナ高 をパ ラ メー タ と し
た周波数相関特性 で(a)は コヒー レン ト成分 を,(り は イン
コ ヒー レン ト成分 を示 してい る.図 9は 仰角 10つ の場合
生 0二 ■一
r 響・
拝
(602)
である.こ れ らの図 か らインコヒー レン ト成分 の相関特
性 もかな りは っきりした周期性 が見 られる こと,相 関係
こなる 周波数 (相 関周波数 )は コヒー レン ト
数 が 1/ι ク
成分 に比較 して インコヒー レン ト成分 の方 がやや小 さい
こと,相 関係数 は アンテナ高 に対す る依存性 が強 い こと
が分 かる。一 夕1と して アンテナ高 15mの 場合 では,相
関周波数 は仰角 5° で コヒー レン ト成 分 に対 して 22MHZ,
18MHZ, また仰角 10°
1lMHZ, インコヒー レン
インコヒー レン ト成分 に対 して
で コ ヒー レン ト成分 に対 して
ト成分 に対 して
54
9.2MHZと な ってい る。
b
図
9
仰角
l´
10°
_● 1
′
・ ´│・ ・
での周 波数相関特性
20MHZ以 上では,相 関係数 の アンテ
ナ高依存性 が非常 に顕著にな り, 仰│え ば 100MHZ付 近
なお,周 波数差
で考えてみ ると, アンテナの
lm程 度 の 上 下動 で も相
関が大きく変わって しまうため,海 事街星通信の船舶地
球局のように,常 に船舶の上 下動が伴 うようなフェージ
ングについては,実 際上無相関とみなす ことができる
.
国際通信 の研究
Ⅳο
・ ヱ2δ
(603)
4.考
ら,周 波数 ダイパーシチを行 って も,フ ェージングの軽
察
減 があまり期待 で きない ことが分 かる
一 方 ,航 空機 。衛星間通信 の場合 には直接波 と反射波
.
まず ,空 間相関 の解析結果 に基 づ き,空 間 ダイバーシ
チ方式 に関す る若干の検討 を行 う。空間 ダイバ ー シチで
は,二 つの アンテナ を フェー ジングに よる受信 レベ ル変
の通路長差が大 き くなるので,通 信波 1波 に対 して も
,
周波数選択性 フェー ジングとなる可 能性 が生 じる・
最後 に,各 種 フェー ジ ング軽減方式 の送信側 (上 り回
動 が空間的 に相関 が小 さい ,あ るいは負 の相関 を有す る
地点 に配置で きれば良好 な フェー ジング軽減効 果 を得 る
線 )に 対す る フェー ジング軽減 について考察す る.電 波
ことが期待 で きる.3.2節 で示 した結果を見 るとアンテ
伝搬 の可逆性 の原理 か ら下 り回線 に発生す る フェー ジン
グとほぼ 同 じ大 きさの フェー ジ ングが上 り回線 に対 して
ナ を近接 して配 置す る場合 には, z軸 方向 (上 下方向)
に並べ ると よい ことが 分 かる。 一″1と して z軸 方向 に
40Cm程 度離す と仰角 5° ∼ 10・ のすべ ての海面状態 に対
も発生す ると考え ら れ る カミ
, 上述 の議論 に より, 100
MHZ程 度離 れた 二つ の電波 に対す る信号強度 の変動 の
関 が得 られることか 0), この程度 の間隔 が望 ま しい こと
が分 かる.ま た インコヒー レン ト成分 に着 目すれ ば, z
瞬時値 は無相関である。 この ため,受 信信 号強度 の リア
、の情報 を基 に,ア ンテナ特性 (放 射 パ ター ン,llil
ル タィ′
波特性等)を アダプテ ィブに制御す る ことによってフェ
軸方向 に対 して lm,水 平方向 (X― y面 上)に 対 して 20m
以 Lの 距離 をとれ ば,お 互 いに無相関な二つの信号 を得
ー ジングを軽減す る方法 では ,送 信 に対 しては,フ ェー
ジング軽減 が図れない ことが分 かる。一´
方 ,ア ンテナ特
ることがで き, この場合 に もダイバーシチ効 果が期待 で
性 を,反 射波 を受 けに くぃ よ うに,あ らか じめ整形 して
きる
受信す る方法 では,100MHz程 度 の周波数差 に対 してほ
ぼ等 しい アンテナ特性 ,海 面 の反射特性 が得 られるので
して コヒー レン ト,イ ンコヒー レン ト両成 分 とも負 の相
.
次 に,周 波数相関特性 の解析結果について考察す る
図10は , コヒー レン ト成分 および インコヒー レン ト成分
.
,
送信電波 に対 して も受信電波 と同 じよ うな効果 が期待 で
きる.い ままでに報告 されてい る各種 フェー ジング軽減
方式 )∼ い)は , 上記 いず れかのタ イプに 分類で き, かつ
“
の特徴 を有 しているため,フ ェージング軽
それぞれ固有
の相関周波数 を ア ンテナ高 に対 して示 した もので, イン
マル サ ッ トシステ ムにおける通信波 1波 の帯域幅 (約 30
kHz),受 信 (ま たは送信 )総 合帯域幅 (15MHZ),お よ
び ,送 受 の周波数間隔 (100MHz)も 併 せて示 してい る。
図 か ら海 1事 衛星通信 ∈物 :5∼ 30m)の 場合 , 受信帯域
減 方式 の適用 に際 しては,そ の通信 が,送 信電波 に対 し
て も,フ ェー ジング軽減 を必要 とす るか否 かが重点 とな
全域 にわたって フェージ ングの相関 が比較的強 い ことか
ろ う。
TI
I
Щ剤
﹁
︱
上
, 1985)
相関周波数 とアンテナ高度 の関係
到
(0`′
10
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司
図
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朝・
・
﹁
10
高度 励
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上︱︲
≡百i籠一
︲
︱︲上
〓〓一
一﹁
一
一●〓声
T一
一
r﹂
こ事 4百 星通 信
(604)
(送 受信号間)で の フェー ジングパ タ
5。
む
す
び
(あ るいは不定 )で ある こと・
い
散乱理論 に基 づ く海面反射 フェージ ングモデルを用
て,海 事衛 星通信 にお ける 1.5GHz帯 フェー ジングの相
④
関的性質 すなわちパ ワー スペ ク トル,空 間 および周波数
相関特性 について解析結 果を示 した・
等 が明 らかにな った。
本研 究 の機会 を与え られた KDD研 究所鍛 治所
ニ
長 ,野 坂 il所 長 ,小 川元次長 (現 シ ド ー事務所長)に
,
②
上記③ の理 由によって,受 信 レベルの変動 に応 じ
て, アンテナ特性 を アダプテ ィブに帝1御 す るフェー
ジング軽減方式 では送信側 (上 り回線 )に 対す る フ
ェー ジ ング軽減 が難 しい こと・
その結果
(1)ス ペ グ トルに関 しては
①
ン は無相関
謝
スペ ク トルの広 が りは仰角 1波 高 が 高いほ ど, ま
た船舶 の航行速度 が速 く,動 揺 が激 しいほ ど大 きく
辞
E‐
な る こと・
謹 んで感謝す る.ま た本研究 を進 め るに 当た り,御 指導
御鞭撻 いただいた山田無線伝送研究室長 に深 く感謝す る
ペ
仰角 5つ ∼ 10つ で発生 す る フェージングの ス ク ト
ルの -10dB幅 は 0.3-5HZと なる こと
更に本研 究 について有益 な御討論 をいただいた京都大学
池 上文大教授 に謝意 を表す る
,
.
,
空間相関特性 に関 しては
① 仰角 5° ∼ 10° で衛星電波 が入射する状況 において
z軸 方向 に 40Cn■ 程度離す と,コ ヒー レン ト, イン
.
(a
コヒー レン ト両成分 とも負 の相関 にな る こと,ま た
インコ ヒー レン ト成 分 が空間的 に無相関 と して扱 え
,
る距離 は,垂 直方向 で
lm以 _L,
水平方向 で 20m
考
文
献
(2)Karasawa,Y.,and Shiokawa,T.:CharacteriStiCS Of L―
band multioath fading due to sea surface renectiOn,
IEEE Trans.Antennas Propagat.,AP-32,6,618-623(1984)
(3)店 沢,塩 川 :海 面反射フ ェージングの周波数 スペ タ トラム,信 学論(B)・
」67B,2,171178(1984)
以上 となる こと・
② そのため,空 間 ダイバー シチ方式を適用 して フエ
ー ジング軽減 を図 る際 には,垂 直方 向 に lm以 上 の
距離 をとる とよい効果 が期待 で きる こと。
(3)周 波数相関特性 に関 しては
①
参
││:海 事衛星通信 における海面反身
│フ ェージング, 国際通信
(1)唐 沢,塩 サ
の研究,No_122,62伊 633(OCt.1984)
(4)唐 沢,塩 川 :Lバ ン ドにおける海面反射フ ェージン/の 空間および周
波数 lE関 特性,信 学論 (B),J67-B.12,13471354(1984).
(5)塩 川,唐 沢, 結城 :海 面反身子フエー ジ ン グ軽減方式の海洋実験報告
(1),信 学技報
A・
P83-10(1983)
ーシチ効果,信 学論
10MHZ程 度の幅 を 有す る受信帯域内の任意 の二
つの周波数 での フェージングパ タ ン は,ほ ぼ 同一
とみな し得 る こと・
バ
② 上記① の理 由に よって周波数 ダ イ ー シチ方式で
イパ
画信における SwitCh and Stayダ
(6)4園 ,吉 川 :船 舶移動衛星〕
(7) Shiokふ Wa,
(B),J64-B,5,461462(1981).
T, and Karasawa, TF :Shipborne antenna
suppresgng multipath fadlng il mantime satdllte com_
munication,IEEE AP― S Symp"New MexiC。 (1982)
(8)Ohmori,S,ind Miura,s.:A fading reduction method
for maritime satellite communications, IEIEE Trans.
Antcnnas Propagat。 ,AP-31 , 1, 184-187(1983)
は フェー ジングの軽減 は困難 な こと・
③
100MHZ程 度 ,周 波数 が異 な
る _Lり 下り回 線 間
‐)=・ +。 。(=■ ‐
―
一
国際通信 の研究
Arο
, 126