Untitled - なの花薬局 Official Website

これは40年以上も前に薬剤師免許を取得した、
とある男の
ものがたり。男は独立し、故郷である北海道・小樽市内の
一角に、
ちいさな薬局をひらきました。薬剤師として、人間と
して、地域住民の幸せのために何ができるだろう。薬局が
お 花の先 生
と 呼 ば れて
〜「地 域 密 着」の 意 味 〜
昭和58年4月小樽市の入船十字街に、初めて眼科クリ
雑草を抜き、花を植え始めた。壁面を緑化し、花はオレンジ
ニックの門前薬局を開いた。近所には他に歯科・外科・
色をメインにした。求める方には、待合室で患者さまと一緒
内科・皮膚科のクリニックがあり、医師・歯科医師は皆、
に成長を見守った自家製の苗を差し上げた。商店街の
地域の方々から 先生 と呼ばれていた。同じ白衣を着て
青年部に誘われ、園芸部長として若旦那たちと環境改
いたが、薬局を開いたばかりの薬剤師の私を 先生 とは
善に貢献できた。新聞にも
「地獄横丁をフラワー通りに!」
と
誰も呼ばなかった。
報道され、
いろいろな賞を頂いた。
男の名は、秋野治郎。
深夜や明け方近くに、
クリニックの待合室が明るくなること
街角で花を植えていると 先生 と肩を叩く人がいた。
いつも
株式会社ファーマホールディング代表取締役社長の、
があった。泣き叫ぶ子どもが運び込まれ、
しばらくすると
薬 局 屋さん と呼びかける頑 固なお隣のおばあさん
穏やかになった子どもと感謝している家族のシルエットが
だった。
「えっ
!先生と呼んだ?」
と聞き返すと、
「あんたはお花
浮かび上がる。先生 たちは何時でも眠りを中断して求め
の先生でしょうや。知り合いに自宅を訪ねられると、周りが
に応じていた。
このような自分の命を削るような活動を長年
汚く恥ずかしい思いをしてきた。人生の最後に友達から
続け、地域に貢献している姿を目にして、先生 と呼ばれ
『良いところに住んでるね!』
と言われて幸せだよ。先生が
「まちの灯り」
になれると信じた男が地域の皆様と紡いだ、
温かくてせつないお話をあなたに贈ります。
若き日の出来事です。
ない自分に、残念ながら納得できる部分があった。
ここに薬局を開いてくれて本当に良かった」
と。それから
薬局の先生 や お花の先生 と呼ばれることが増えた。
1
薬局の周辺環境は市場の廃棄物の臭いが立ち込め、
自ら行動し積み重ねることで心がつながっていく。地域
地獄横丁と呼ばれるほど劣悪だった。私は薬局の周りの
密着の意味が少しずつ分かり始めた。
2
「 最 期の日は
わが 家で 」
∼多職種連携の力∼
して、存在価値が問われていると感じた。医療介護の勉強
会「小樽福祉の広場」で多職種の方々と対策を検討し、
不完全ながらさまざまな手配ができた。奥さまが看護師長
に報告すると、在宅医療には対応しない方針の大病院
だったが、主治医の先生が奥さまの愛情と努力に心動
かされ、次々と未解決の課題を解いてくれた。
定年後の 終の住処 を小樽港を望む高台に定めたM
退院当日、
ご主人は私にとびきりの笑顔で
「ありがとう」
と
日本薬剤師会で薬学6年制が決議された1983年、私は
探し出した木の杖を葬儀場に持ち帰る後ろ姿に、
スタッフと
さんご夫婦とは、薬局に飾った絵をきっかけに交流が始
おっしゃった。港を一望できる自宅に帰り、涼しげにお休み
高齢者が多い小樽市に薬局を開いた。眼科の処方箋が
二人で目頭を熱くした。悲しいことではあるが、
それ以上に
まった。残念なことにご主人は数年後に癌を発病、総合
になる姿に、大きな使命感とやりがいを感じたことを今でも
集まったが、処方薬を渡すだけの仕事に違和感を抱き、
人の優しさ、意志を貫く尊さに心が揺さぶられた。葬送の
病院で手術を受け、入退院を繰り返していた。
忘れない。翌々日、朝 一 番で奥さまが薬局にお見えに
悩みは大きかった。
時、
してあげたいことと、
してあげられたことのギャップに、
残された人は心を痛める。見送った人の立ち直りにお役に
なった。
「おかげさまで…、今朝4時過ぎに亡くなりました。
約束を守り良い看取りができました。
ありがとうございまし
目の不自由な方のために、薬局の待合室で杖を展示販売
したことの一つ目
「隠さず病気を告知し合う」は果たせた
た」。たった二日間の在宅療養だったが、約束を果たせ
して重宝された。
ある朝、開店と同時にご老人が入って
が、二つ目の「最期は自宅で迎えるよう最大の努力を」
は
たことに深く謝意を伝えられた。
きた。以前、障害者手帳をお持ちのご夫婦が支え合って
昔から眼鏡をかけていた故人には、天国で使えるように
来局し、
それぞれの杖を購入されたことがあり、
そのご主人
眼鏡を柩に入れて荼毘に付していた。杖はどうすれば
実現が難しいという。看護師長に自宅での看取りの希望を
伝えたが、数々の課題があり、病院で看取るのが一番との
「あなたに骨を拾ってもらうことを望んでいました」
とおっ
だった。
「燃やせる木の杖を…」。脳梗塞の後遺症で言葉
よいかを調べ、お年寄りから昔の方法を教えていただい
結論だった。
ご夫婦の生き方を知る私は地域薬剤師と
しゃられ、火葬場で地域薬剤師冥利に尽きる体験をさせて
は明瞭ではないが、状況は理解できた。胸に喪主のリボ
た。雑草の「あかざ」
に肥料を施し、根元を横にして石を
いただいた。小樽の火葬場の職員は、参列者の拾骨後も
ンが付いていた。奥さまが亡くなり、告別式の前に、天国に
置くと、秋には杖の形になる。
これを乾燥させ、紙やすりで
一片の遺骨も拾い損なわないよう丁寧に扱う。逝く人と
向かう妻の杖を求めにきたのだった。前の杖は金属製
磨いて杖に仕上げ、普段から用意していたとのこと。
残された人々に対する思いやり溢れる対応に、東京の親
だったため、燃やせる杖を柩に入れたかったのだ。倉庫で
戚が「Mさん!小樽を選んで良かったね!」
と声をかけた。
この地域では冬、普通の杖は深雪には埋まり、締まった
その地域で生きてきて良かったと思える人生を送るため
雪では滑って危険だった。握りは杖で、下部がスキーの
には医療介護のみではなく、上質な地域の力が問われ
ストックであれば最適だった。登山用品を簡素化して薬局
ている。地域の力としての薬局の在り方、地域における
多職種の連携の凄さに目覚めた瞬間だった。
旅 立ちは 、
燃 や せる木 の 杖と
∼地域のニーズに応えて∼
3
立てたと思えた。
終末期を迎え、奥さまが相談に来られた。
ご夫婦で約束
で発売した。積雪地域の薬局発の 転ばぬ先の杖 と報道
され、全国から注文をいただいた。地域の歴史と特性を
学ぶと、
その地域特有のニーズに応え、
お役に立つことが
できる。
このような時、薬局に携わる者として究極の幸福感
を感じる。
4
はじめての坐薬。
薬局は、子育てママの味方です
6歳と4歳の女の子を連れたお母さまが来局。調剤中、6歳の
お母さんとの再会。
お姉さんが急性中耳炎の痛みに耐えかねて泣き出し、4歳の
妹さんもつられて号泣。解熱・鎮痛剤の坐薬の処方だった
薬局を頼ってくれた、ちいさな来訪者
ため、すぐに使用してはどうかとお母さまに提案しました。
お母
さまは、
子どもに坐薬の使用経験がなくお困りのご様子。
そこで
夕方6時、閉局間際の薬局に、男の子が迷子になったと入って
私たちは店舗スタッフで協力しあい、「坐薬を使用している間、
きました。
どこに行きたいかと尋ねても、分からないと泣くばかり。
妹さんは見ているので安心してください」とご説明し、
お母さま
詳しく聞くと、体育館で遊んでいる時にお母さんが先に病院に
に坐薬投入のコツをお伝えしながら実践。初めての投薬に
行くので後からおいでと言われ、
いざ行こうとしたら病院の名
不安と焦りでお母さまは大変そうでしたが、
もう一人の薬剤師が
前が分からない。私は近隣の病院に電話確認をするため、
妹さんに絵本の読み聞かせをして対応。
お子さまの病気への
診療科だけでも聞き出せないかと思い、「お母さんはどこが
するとケガをしたのは、お姉さんでした。
さっそく近隣の整形
思いがけない言葉。
外科に連絡をしてみると、
お母さんもお姉さんも来院しており、
お線香をあげさせていただいた日
具合悪かった? 痛くしたところ分かる?」と聞いてみました。
私は男の子に付き添い、病院まで行くことに。「このお薬屋さん
なら助けてくれるかも」と頼って入店してくれた男の子を、
なん
とかお母さんに会わせたい一心だった私。会えた時は、
こちら
受け継がれる、
ものがたり。
まで嬉しさで胸いっぱいになりました。
なの花薬局 新札幌店 丸谷梨恵子
不安と育児の大変さ。そんな子育てママのお役に少しでも
立てたらと思い、全力でサポートしました。
なの花薬局 金剛坂店 冨川朝子・平井ゆかり
在宅訪問していた患者さまが、住み慣れたご自宅で終末期を
迎えられました。
ご家族が落ち着いた頃を見計らい、
使用しなく
なった調剤済みの麻薬・輸液を回収させていただくため、患者
さまのお宅へお伺いしました。私は、お悔やみの心を込めて
お花を持参し訪問。すると、
ご家族の皆様は私が単に薬剤
回収という業務で来ると思っていらしたようで、
お花を持った私
の姿に大変驚き、「ぜひお線香をあげてください」と言って感謝
薬局は、「まちの灯り」。その想いに共感し、
実現しようと集まった「なの花薬局」の薬剤師たち。
地域の皆様から必要とされ、信頼され、
少しでも皆様のお役に立てるように。
今日も全国のどこかで、一人ひとりの
「地域薬局ものがたり」が紡がれています。
5
の言葉を何度も述べられました。大切な人を亡くされたご家族
の気持ちを想うと、恐縮してしまいます。
その患者さまと在宅訪
問でかかわれた期間は約1か月と短かったのですが、
ご家族
の絆を感じながら看取りに携われたことを誇りに感じました。
なの花薬局 花川北店 妹尾大樹
さあ、つぎはあなたが
地域の皆様と
「ものがたり」を綴る番です。
6