地域における看取りのセミナーテキスト

日本ホスピス・在宅ケア研究会
平成27年度 第2回教育セミナー
地域で看取るため必要なこと
日本ホスピス・在宅ケア研究会
理事長 蘆野吉和
2015年11月15日(土)
福岡市
地域で看取るため必要なこと
1. 看取りとは(看取りの意義)
2.
3.
4.
5.
6.
7.
覚悟を決めてすまいを確保する(意思決定支援)
家族のケア
苦痛・苦悩の緩和
24時間365日の応需体制
病状の経過予測についての説明
死亡確認の方法
看取りとは
• 病人の傍にいて世話をし、死期まで見守る、看病する(大辞林)
死亡確認ではない
• 人が亡くなっていく過程、亡くなったことを受け入れる過程、を
傍に寄り添いケアし経験すること
(二人称の死を体感すること)
• 看取りの経験知が、生き方を変える
(一人称の死を体感する)
• 看取りの経験知が、死生観の醸成につながる
在宅死を経験して感じること・学んだこと
• 一人ひとりの死の過程が違う
それまでの生き方や社会・家族との関係性、看取りの環境、看取る人との関係性などが
死の過程を変えてゆく
• 地域や家庭における関係性や役割が保たれる
(スピリチュアリティーが失われない)
• 人間の尊厳が大切にされている
• 静かな環境、生活の場で迎える死の大切さ
• 地域や家族に「いのち」が引き継がれる
(いのちのバトン)
• 家族の「悲嘆のケア」として亡くなった直後の時間は非常に大切な時
間であること
(家族のグリーフケア:悲嘆からの回復が早い)
• 医療費は1/3(がん疾患の場合)
(家族の満足度が高く、費用対効果は非常によい)
看取りの場で学べること
人は死ぬ存在であること
メメント・モリ( memento mori):「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」
人の死に至る過程
看取られる人の「ものがたり」
看取られる人の「ものがたり」のエピローグ(終章)がつづられ完成する
自分の「ものがたり(生き方)」の振り返り
その人と一緒に生きてきた時間を振り返る
人の死を通して自分の生きてきた時間を振り返る
看取る人の「ものがたり」に看取られる人の「ものがたり」が引き継がれる
地域で看取るため必要なこと
1. 看取りとは(看取りの意義)
2.
3.
4.
5.
6.
7.
覚悟を決めてすまいを確保する(意思決定支援)
家族のケア
苦痛・苦悩の緩和
24時間365日の応需体制
病状の経過予測についての説明
死亡確認の方法
主な死因別にみた死亡率の年次推移
加齢に伴う遺伝子異常の結
果のがんの発生
悪性新生物
生活習慣病および加齢によ
る臓器障害
心疾患
脳血管障害や認知症、加齢
に伴う嚥下機能障害
肺炎
平成25年 死因統計(慢性疾患)
死
因
死亡総数
死亡数
死亡率
(%)
1268436
100
悪性新生物
364872
28.7
循環器系の疾患(急性心筋梗塞・不整脈伝導障害を除く)
277056
21.8
199914
15.7
老衰
69720
5.5
神経系の疾患(髄膜炎を除く)
26600
2.0
21484
1.7
慢性腎不全
15621
1.2
精神および行動の障害(認知症を含む)
11934
0.9
肝硬変症
7953
0.6
以上の合計
995154
78.4
*自殺
26063
2.0
*不慮の事故
39572
3.1
呼吸器系の疾患(インフルエンザ、急性気管支炎・喘息を除
く)
内分泌・栄養・代謝疾患(糖尿病を含む)
人生(いのち)のライフサイクルの新しいとら
え方
(柳田邦男)演者改変
治すための医療
生物学的いのち
死
生活・いのちを支えるための
医療
精神性のいのち
熟成
長
・
成
死は人生の
一部である
「死後
生」
<人生の集大成の時
期・人生の最終段階>
この時期をど
こでどのよう
に過ごすかを
考える
乳幼児期
児童
期
青年期
中年期
壮年期
老年期
看取り看取ら
れる関係性を
作ることが重
要
?
死にゆく過程の軌跡(dying trajectory)
意思決定支援
がん疾患
健
康
状
態
療養の場の選択
高齢者
重篤な慢性疾患
時間の経過→
死
・在宅緩和ケアに関する情報提供
・今後の見通しに関する情報提供
・家族のニーズへの対応
・本人/家族の意思決定支援
包括的評価
治
ホ
ス
ピ
ス
ケ
ア
療
グ
リ
ー
フ
ケ
ア
緩和ケア
・治療効果・病状経過に関する情
・病状・病状経過・治療・緩和ケア 報提供
に関する情報提供
・緩和ケアに関する情報提供
・様々な不安・疑問への対応
・様々な不安・疑問への対応
・様々なニーズへの対応
・本人/家族のニーズへの対応
・意思決定支援
・意思決定支援
死
亡
意思決定のプロセス(情報共有ー合意モデル)
物語としてのいのち
生物学的生命
説明
本人
ケアチーム
医療者・介護者
説明
最善についての一
般的判断
最善についての個
別化した判断
家族
価値観・人生計画・選
好の理由
合意
Informed consent
Informed will の形成
地域で看取るため必要なこと
1. 看取りとは(看取りの意義)
2.
3.
4.
5.
6.
7.
覚悟を決めてすまいを確保する(意思決定支援)
家族のケア
苦痛・苦悩の緩和
24時間365日の応需体制
病状の経過予測についての説明
死亡確認の方法
進行したがん疾患における家族へのケアの配分
利用者のケア
グ
リ
ー
フ
ケ
ア
家族のケア
病気の進行
死
亡
家族のケア
1)家族に対する病状等の説明
2)家族の苦悩やニーズの把握
3)家族の基本的生活の援助
4)意思決定支援
5)家族の死を受容するための援助
臨終期のケア、看取りの指導、予期悲嘆
6)悲嘆からの離脱の支援
グリーフケア
家族を理解するためのポイント
•
•
•
•
•
•
家族構成
発達段階
役割、勢力関係
人間関係、情緒的関係
コミュニケーション
•
対処方法
•
•
•
•
•
適応力、問題解決能力
資源(リソース)
価値観
希望、期待
日常生活、セルフケア
死生観、これまでの死別体験
家族関係の調査
家族のケアを行うに際しては、家族関係につい
ての調査を行なうことも必要であり、その調査の
中で、家族のそれぞれの思い、ニーズなどを直接
聴きながら、それぞれの家族の満足度を上げるよ
うな援助の仕方を模索することが望ましい
と同時に、家族親族間のいざこざに巻き込まれ
ないような体制を作る
エコマップ
・主たる介護者をしっかり支援
・家族で意思統一されていなければ
て方向性を統一する
一同に集め
地域で看取るため必要なこと
1. 看取りとは(看取りの意義)
2.
3.
4.
5.
6.
7.
覚悟を決めてすまいを確保する(意思決定支援)
家族のケア
苦痛・苦悩の緩和
24時間365日の応需体制
病状の経過予測についての説明
死亡確認の方法
進行した病態における症状の出現頻度(%)
症状
がん
AIDS
心疾患
慢性閉塞性肺疾患
腎疾患
痛み
35-96(N=10379)
63-80(N=942)
41-77(N=882)
34-77(N=372)
47-50(N=370)
うつ
3-77(N=4378)
10-82(N=616)
9-36(N=80)
37-71(N=150)
5-60(N=956)
不安
13-79(N=3274)
8-34(N=346)
49(N=80)
51-75(N=1008)
39-70(N=72)
せん妄
6-93(N=9154)
30-65(N ?)
18-32(N=345)
18-33(N=309)
-
全身倦怠感
32-90(N=2888)
54-85(N=1435)
69-82(N=409)
68-80(N=285)
73-87(N=116)
息切れ
10-70(N=10029)
11-62(N=504)
60-88(N=948)
90-95(N=372)
11-62(N=334)
不眠
9-69(N=5606)
74(N=504)
36-48(N=146)
55-65(N=150)
31-71(N=351)
嘔気
6-68(N=9140)
43-49(N=689)
17-48(N=80)
-
30-43(N=362)
便秘
23-65(N=7602)
34-35(N=689)
38-42(N=80)
27-44(N=150)
29-70(N=483)
下痢
3-29(N=3392)
30-90(N=504)
12(N=80)
-
21(N=19)
食欲不振
30-92(N=9113)
51(N=504)
21-41(N=146)
35-67(N=150)
26-64(N=395)
死亡前1週間における症状
全人的苦悩(total suffering or pain)の概念
身体的苦悩
がんによる症状
がん治療による症状
併存疾患による症状
日常生活動作の障害
心理・精神
的苦悩
不安
恐れ
孤独感
悲しみ
うつ状態
怒り
本人および家族の持つ苦悩
を多様な視点で多職種協働で
包括的に評価し、症状や苦悩
を緩和することが重要
障害や進行し
た病気をもつ
人の苦悩
生きる意味への問い
信念や価値感の変化
罪悪感
役割の喪失
未来の喪失
スピリチュアル
な苦悩
仕事上の問題
経済的問題
家庭内の問題
介護の問題
将来への悩み
社会的苦悩
在宅緩和ケアにおける地域ネットワークの必要性
*対象者および家族の生き方や生活を支えるためには、
医療の視点だけでは無理、多様な視点が必要である
*対象者および家族の生き方や生活を支えるためには、
医療支援だけでは無理、生活支援が必要不可欠(最も
重要)
*24時間365日のケアであるため、医師一人、看護師一
人では対応が困難である
生活支援
地域における看取りに関わる職種
医療支援
ケアマネージャー
病院スタッフ
ホームヘルパー
緩和ケア病棟
スタッフ
訪問入浴スタッフ
包括支援センター
スタッフ
診療所医師
自宅
居宅・介護施設
歯科医師
行政職員
患者/家族
福祉用具貸与事業所
職員
歯科衛生士
それぞれの職種の役割と限界
を認識し、足りないところは補完
訪問看護師
しあうことが重要
リハビリテーション技師
ボランティア
薬剤師
管理栄養士
地域で看取るため必要なこと
1. 看取りとは(看取りの意義)
2.
3.
4.
5.
6.
7.
覚悟を決めてすまいを確保する(意思決定支援)
家族のケア
苦痛・苦悩の緩和
24時間365日(24/7)の応需体制
病状の経過予測についての説明
死亡確認の方法
24時間365日の応需体制(24/7
)
1. 24時間応需の電話連絡網
– 不安な時や病状が変化した時はいつでも連絡してもよいことを説明する
2. 緊急時の訪問体制
– 死亡確認のための医師・看護師の緊急訪問について打ち合わせておく
3. 救急車を呼んだらどうなるか理解を深める
4. 後方ベッドの確保
– 希望に応じていつでも入院できることを保証する
救急車を呼ぶということ
死亡していない場合には、「助けてくれ」という意思表示となる
→ 急性期病院の救急部で積極的延命治療(心肺蘇生を含む)が
行われる
→ 病院で死を迎える可能性が高くなる
すでに死亡している場合には、警察に連絡され警察の事情聴取が行
われる
→ 本人は裸にされて死体検案が行われる
→ 家族は容疑者となり取り調べが行われる
自然の経過として死を迎える人が(急性期)病院に救急患者として搬送さ
れた場合の問題点
• 救急現場の医療スタッフの困惑
- 蘇生していいの? 蘇生を続けていいの!
- 担当診療科はどこにするの? 誰が診てくれるの!
- これまでどのような生活をしていたの?
• 病棟の医療スタッフの困惑
- 無駄な業務が増える!(治らない病態に治す治療を行うことで)
- どこに帰るの?
・家族はこんな状態では家ではみれないと言っている!
・これまで暮らしていた施設では治療や処置があるので受け取れない
と言っている!
• 医療経済的な問題
– 自然の経過として死を迎える人に対して、「余計」な医療的介入が行われる
ことによる 医療資源の浪費 医療費の浪費
• 社会的な問題
– 家族だけで過ごす大切な時間の浪費
– 死の医療化 死の隔離
救急車を呼ばない工夫
■電話機の前に大きな字で、
「決して救急車を呼ばないこと!!」
あわてずに 訪問看護ステーション ○○ー○○○○ー○○○○にまず電話を
してください。
と掲示
■救急車を呼ぶことがどのような意思表示になるかを事前に話してお
く
地域で看取るため必要なこと
1. 看取りとは(看取りの意義)
2.
3.
4.
5.
6.
7.
覚悟を決めてすまいを確保する(意思決定支援)
家族のケア
苦痛・苦悩の緩和
24時間365日の応需体制
病状の経過予測についての説明
死亡確認の方法
覚悟を決める(予期悲嘆)
• 今後おこること(死を迎えること)について情報を提供し
、その時に備える
• 医療従事者、介護従事者ともに早目に意思統一し、誰もが
ただし、人によって覚悟を決めるの
説明できる体制を確保する
に必要な時間は異なっているので、
覚悟を押し付けない
• 家族への指導
– 予測される病状と対応方法についての説明
– 臨終期の過ごし方についての説明
– 死亡確認の方法についての説明
– 死後の対応方法についての説明
すべての人は死を迎えようとするとき、自
分自身の独自性を保ちながら、最後の経験
をしていきます。このパンフレットは、ガイ
ドラインや地図を示しているにすぎません。
どのような地図でも、同じ目的地に至るには
多くの道があり、同じ町にたどりつくには多
くの方法があります。
非常に個人差があり、断定できることは何
もないということを心にとめながら、このパ
ンフレットを使用してください。このパンフ
レットにある兆候のすべてがみられたり、一
部がみられたり、全然みられなかったりする
かもしれません。また、兆候によっては死の
数力月前にみられるものから、数分前にみ
られるものまであります。
Gone From My Sight:The Dying
Experience”(1986年)
死はしかるべきときに、しかるべき方法で
訪れてきます。死を迎えようとしている人に
とって、死にかたは一人ひとり異なるのです。
地域で看取るため必要なこと
1. 看取りとは(看取りの意義)
2.
3.
4.
5.
6.
7.
覚悟を決めてすまいを確保する(意思決定支援)
家族のケア
苦痛・苦悩の緩和
24時間365日の応需体制
病状の経過予測についての説明
死亡確認の方法
在宅看取りの実際
• 家族から訪問看護師への電話連絡
• 訪問看護師が訪問
• 訪問看護師から医師に死亡の連絡
• 医師が多少時間をおいて(約30分~60分)訪問、死亡診断書
を作成
*死亡時間は家族が看取った時間を記載
• 訪問看護師と家族でエンゼルケア
死亡診断書と死体検案書の使い分け
死亡者は診療継続中で
あった患者ですか?
はい
いいえ
死亡の原因は、診療に係る傷
病と関連したものですか?
あらかじめ死因が予測される疾患で、かかりつけ医
いいえ
や在宅医が関係している場合には、自宅や居宅で死
死体を検案して、異常が
はい
あると認められますか?
亡しても、警察を呼ばなくてもいい。医師が死亡確
認した上で死亡診断書が発行される。
いいえ
はい
ただし、死亡前24時間以内に診察を受けていれば、
医師は死亡確認せずに死亡診断書を発行できる。
交付の求めに応じて、
交付の求めに応じて、死
24時間以内に所轄警察
死亡診断書を発行しま
す。
署に届け出ます。
医師(監察医等)が死体
検案書を発行します。
体検案書を発行します。
地域包括ケアシステム
地域包括ケアシステム構築の中核は看取りを伴う在宅医療体制の
構築
看取りに学ぶ
「看取り」は看取りに参加している人の
大いなる学びの場である